テレビアニメも第十二話で一旦終了したので、この話もこの“Act.3”でとりあえず完結です。
ばらばらになって行動していた宗介、三葉達、テッサ達がここにようやく集結します。
かなめとは結局また離れ離れになりますが、宗介とかなめは最後にお互いの気持ちを通い合わせます。
その時、三葉は……
宗介がほぼ本来の戦闘力を取り戻した頃、レモンの組織がメキシコのレナード達が滞在する邸宅を突き止めた。
衛星写真による解析では、それ相応の戦力がありコダールタイプと思われるASも三機配備されていると予想された。攻略は難しい思われたが、コートニーはASが動き出す前に奇襲を掛ける事を提案する。宗介は、それには第二世代型以上が必要だと提言するが、コートニーは第二世代型M6の最新のA3型を手配して来た。これにより、奇襲作戦が実行されることとなった。
宗介が単身M6で地上から接近し、AS部隊を起動前に撃破する。その後、レモン達がヘリで邸宅を強襲し制圧する作戦だ。
ところが、宗介がM6で接近中に先に戦闘が勃発してしまう。丁度そのタイミングで、米軍のM9がその拠点を襲撃して来たのだ。レモンは作戦中止を訴えるが……
『待機していろ!俺は強襲をかける!』
“ここで千鳥を見失えば、もう手掛かりが無くなる”と考えて、宗介は作戦を強行した。
「引き返せ、ソースケ!無茶だ!」
『心配するな。無理そうなら引き返す。』
そう言って、宗介は通信を切ってしまった。
その時、レモン達が待機している寒村のはずれに、突然一台のトレーラーが駆け込んで来た。慌てて銃を向けるレモン達の前に、丸腰で無防備のレイスが降りて来る。
「撃つな!相良宗介は居るか?」
「?!……何者だ?」
「奴に渡したいものがあって来た!我々は敵では無い!」
そう言われても“はいそうですか”という訳にはいかない。少しの間睨み合いになるが、トレーラーからは更に二名人が降りて来た。
「信じて下さい!私達は貴方達の味方……いえ、相良宗介の味方です。」
「俺達はミスリルの残党だよ!」
三葉と瀧が、レモンを説得する。
それでも半信半疑なレモンは、レイス達に質問をする。
「どうして、ここにソースケが居ることが判ったんだ?」
「私にも判らん!“アル”がここだと言ったのだ!」
「アル?」
その名を聞いて、レモンは思い出した。以前自分達の隠れ家がアマルガムに襲われた時に、宗介が言った言葉を……アマルガムは“アル”と自分を狙っていると……
トレーラーの中のASも見せられ、ようやくレモンはレイス達を信じる。だが、既に宗介はM6で敵陣に乗り込んでしまっっている。
その事を告げると、瀧が切り出して来た。
「お前達のヘリを貸せ!相良んとこにこいつを届ける!」
「何だって?」
敵ASが米軍に気を取られている隙に接近できればと考えたが、結局宗介のM6はコダールに発見されてしまう。ラムダ・ドライバ搭載のコダールとM6では戦いになる筈も無く、宗介は窮地に陥ってしまう。
そこに、突如二機のM9が現れ連携でコダールを撃破する。そのM9から、宗介に通信が入る。
『酷い戦いっぷりだったけど、M6にしてはいい動きね?……何にせよ、生きてて嬉しいわ宗介!』
「マオ?!」
『やっぱおめおめ生きてやがったか、このネクラ男!』
「クルツまで……何故ここに?」
レナードを捕獲するため、テッサ達もこの拠点を襲撃して来ていた。
ここに、マオ、宗介、クルツの最強トリオが復活する。
三機の連携でコダールを更に二機撃破し、レナードの拠点に迫る。残りの敵はマオ達に任せて、宗介は単身でレナードの拠点に乗り込んで行く。
待機中のレモンにも通信を入れその旨伝えると、レモンからは自分達もそちらに向かっているとの通信が入るが……
『……ついさっきコンタクトしてきた人物がいて、一緒にそちらに……』
無線に激しいノイズが入り、聞き取り難くなる。
「こちらに、何だ?」
『……テインとかいう……予備の……』
「聞こえない!何の話だ?」
『……だから、どんな機……無いよりはマシだと……』
「レモン?」
そこで、殆ど通信は聞き取れなくなる。更に、敷地内に飛び込んだため戦闘状態に突入する。
もうコダールは居ないためASに乗っている宗介が有利と思われたが、巧みな罠に嵌められ
M6を撃破され、宗介は丸裸にされてしまう。その罠を張った人物が、勝ち誇ったように宗介の前に現れる。
「また私の勝ちだな、相良宗介。」
「な?!……少佐?どうして?」
それは、レナード側に寝返ったカリーニン少佐だった。
衝撃を受ける宗介。カリーニンは、宗介に
“降伏しなければ射殺する”
と告げる。彼をよく知る宗介は、その言葉に嘘が無い事を感じ取り、真に彼が敵に寝返った事を認識する。
更にはレナードもその場に現れ、宗介に質問をして来る。だが宗介は一切取り合わず、
“千鳥はどこだ?”
だけを連呼する。
ところが、そこにレナードに敵対する一派の横槍が入る。三機のベヘモスが、レナードの邸宅に迫って来ていた。
アマルガムは、ピラミッド型の組織では無い。
絶対的な支配者は存在せず、ある程度の権力を持った幹部が複数いて、それなりに協調し牽制もし合っている。そのため、幹部を少しばかり潰しても組織は中々弱体化しないという利点を持つが、完全な統制が取れないという欠点も持つ。このような足の引っ張り合いは、日常茶飯事であった。
レナードは、その対応のために姿を消す。そしてカリーニンは、躊躇する事無く宗介の射殺命令を下す。
宗介と分かれた後、クルーゾーと合流したマオ達も窮地に陥っていた。
突如、ファウラーが率いる新型のラムダ・ドライバ搭載機“エリゴール”三機が、マオ達に襲い掛かって来た。その性能もさることながら、ファウラー達はASの操縦技術にも長けており、マオ達はどんどん追い詰められていった。
だが、ファウラー達もレナード達に敵対する一派への対応のため、直ぐに引き上げて行ってしまう。これにより、マオ達は何とか救われるのだった。
一方、宗介の元に向かうヘリの中では、レモンが悲鳴を上げていた。
「こんな無茶な飛び方をして大丈夫なんですか?!」
「わしの知ったことか!」
レモンの言葉に、同乗しているコートニーが怒鳴り返す。
その輸送ヘリは、超低空飛行で山間を縫って飛んでいた。それでいて、速度はほぼ全速に近い。激しい騒音と振動で、大声でも会話がし辛いくらいだ。
「悪いな!……確かに操縦も粗すぎるが、のんびり上を飛んでいたら撃ち落されるのも事実だ!」
流石にこの粗い運転には応えて、吐き気を抑えながらレイスが言う。
「あ~っ、もう!どうなっても知りませんよ?!」
「構わない……どうせこいつは、あの男にしか扱えないのだ!」
「じゃあ、ソースケが死んでいたら、この機体はどうするんです?」
「捨てるなり壊すなり好きにすればいい!……それでいいんだったな?」
レイスは、格納庫の奥の機体に話し掛ける。
『肯定です。』
その機体のAIが、レイスにそう答える。
宗介は、邸宅の中に飛び込んで攻撃を躱す。そんな宗介を、カリーニンの部隊は容赦無く攻撃して来る。時折、ベヘモスからの攻撃が邸宅を直撃する。それに乗じて逃げ回りながら、宗介はかなめを探していた。
かなめは、宗介がとうとうここまで来た事を知り、レナードに反抗の意思を示す。
そんなかなめを試すように、レナードは賭けに出る。自らの銃をかなめに渡し、どうしても宗介の元に帰りたいのなら自分を撃てとかなめに迫る。
だが、やはりかなめには撃てなかった。そんなかなめに、レナードは冷たく言い放つ。
「僕なら撃った。彼は君に会うために戦い、人を殺めることさえいとわない。なのに君は、僕のような“キザ野郎”一人撃つことさえできない。君の覚悟は、その程度って事なんだよ。」
レナードの言葉に、衝撃を受けるかなめ。動揺する彼女から、レナードは拳銃を奪おうとする。その時に、事故が起こる。
錯乱したかなめは、つい銃の引き金を引いてしまい、その銃弾がレナードの頭部を撃ったのだ。
放心するかなめ。レナードは死んではいなかったが、意識不明の重体だった。完全に逃げ出すチャンスであったにも関わらず、彼女は倒れたレナードを放って逃げ出す事は出来なかった。そこに駆け付けたカリーニン達によって、かなめは脱出用のヘリの中に連れ込まれてしまう。
離陸するヘリの中で、自分の覚悟の弱さに落ち込むかなめ。そんな彼女の目に、突如、必死にヘリを追って地面を掛ける男の姿が飛び込む。
「千鳥!千鳥いいいいっ!」
宗介が、ヘリを追って叫びながら走っていた。
「そ……そんな……宗介!」
その姿を見て、かなめは再び覚悟を決める。
ヘリを追って外に駆け出したために、宗介は完全に敵兵に包囲されてしまう。
またも絶体絶命の宗介。
だが、そこに一機の輸送ヘリが現れ、包囲した敵兵を一掃する。
「レモンか?作戦は失敗だ!逃げろ!そこではベヘモスの的になる!」
『相良くん!』
ヘリからの通信が、宗介の受信機に飛び込む。
「この声……三葉か?何故君がここに?」
『話は後でするわ!今から、レーバテインを投下するから乗り込んで!』
「レーバテイン?何だそれは?」
『本人がそう名付けたんだよ!』
そこに、別な声が割り込む。
「な……瀧か?お前まで居るのか?」
ヘリの操縦をしているのは、瀧であった。
『三葉が言っただろ!説明は後だ!とにかく、手前の相棒だ!受け取れっ!』
「相棒?」
ヘリから、一機のASが投下される。だが次の瞬間、ヘリは銃撃を受けて火を噴いた。
「三葉!……瀧!」
AS投下のために旋回したところを、狙い撃たれたのだ。
煙を噴いて、ヘリは失速していく。
「きゃああああああっ!」
助手席で、悲鳴を上げる三葉。
「声を出すな!舌を噛むぞ!」
操縦席で瀧が吼える。
「だ……だって、このままじゃ墜落……」
「そんな事は絶対にさせねえ!お前が乗っていて、俺が操縦してんだ!絶対に死なせねえから、黙ってどっかに捕まってろっ!」
ヘリは大きく傾きながらも、大破する事無く敷地内の庭園に不時着した。
それを確認した宗介は、瀧達が投下した機体に向かって行く。それは、アーバレストに良く似た、白を基調として所々の部位が赤いASだった。
その機体の前に立ち、宗介は呟く。
「この機体は……まさか……」
『お久しぶりです。軍曹殿。』
機体のAIが、宗介に語り掛けて来る。
「アル……なのか?」
『肯定です。但し、本機の名称はARX-8“レーバテイン”。相良軍曹、貴方の戦争への復帰を許可願います。』
「相変わらずだな……」
そういう、宗介の口元は笑っていた。
「いいだろう……許可する!」
『光栄です。まずはご搭乗を。』
レーバテインに乗り込む宗介。すかさずアルが、状況を報告する。
『警告!敵AS接近!コダールタイプ三機、ベヘモスタイプ三機。』
「普通のASなら、敵わない戦力差だな?」
『ええ、ですが……我々は普通ではありません。』
「肯定だ。三分で奴らを血祭りにあげるぞ。」
『了解です。軍曹。』
そうしてレーバテインは起動するが……
「うっ……おおっ……」
そのGの凄まじさに、一瞬意識を失いそうになる宗介。
「……アル……出力の設定を……」
『今のが80%です。お楽しみ頂けましたか?』
「おまえ……」
『実はこの機体、秘密裏に建造されたため、ろくな試運転も実施されていないのです。』
「なんだと?!」
『ラムダ・ドライバの作動は確認されていますが、標準装備の試用はされていませんので、まともに使えるかどうかは不明です。』
驚きを通り越して、呆れかえってしまう宗介。
「もう知らん!ぶっつけで試すぞ!」
目前に迫るコダールの攻撃を、力場を発生させて受け止める。更に、そのままコダールの機体を引き裂いた。
『強制冷却を開始。』
レーバテインの後頭部が展開し、コダールのように髪の毛状の放熱索が飛び出す。
そこに、二機のコダールが左右から襲い掛かって来る。
「アル!武装を!」
『それでは、これを。』
両膝の装甲から、二基の単分子カッターが取り出される。宗介は、それで左右のコダールの攻撃を受け止めた。しかし、これでレーバテインの両手は塞がれてしまう。
その時、本来武装ラックと思われる箇所から二本の腕が現れる。
“隠し腕?!”
宗介の意思とは別に、その隠し腕が手榴弾で左右のコダールを攻撃する。それで敵機が怯んだ隙に、宗介は一気に二機のコダールを撃破した。
「何だ?この腕は?」
『補助腕です。攻撃補助、弾倉交換、精密作業などにお役立て下さい。制御は私が行います。』
「四本腕か……気持ち悪いな……」
『私は気に入っています。この際、貴方の好みは度外視して下さい。』
そんなやり取りをしている間に、背後にベヘモスが迫る。
激しい銃撃が浴びせられるが、巧みに躱して接近する。すると、ベヘモスはその巨体に物をいわせてレーバテインを踏み潰そうとする。しかし、レーバテインは力場を発生させてそれを受け止め、何とその巨体を転ばせてしまう。そこを、単分子カッターで急所部を直撃し破壊する。
「あと二機……」
『次は、三時方向です。』
不時着した三葉達は窮地に立たされていた。
ヘリは大破も炎上もしなかったが、降りたところは敵陣のど真ん中。周囲を完全に包囲され、銃撃に晒されていた。
「このままじゃ弄り殺しだ!……死ぬ!これは絶対に死ぬ!」
泣き言を言うレモンに、瀧が吼える。
「やかましい!こんな程度で死ぬわきゃねえだろ!俺は、もっと絶望的な戦場で何度も生き残って来たんだぜ!」
そう言って、機関銃を撃ちまくっている。
しかし、目の前の敵が対戦車ロケット砲を用意し出した。ヘリごと、瀧達を吹き飛ばすつもりだ。
「やべえ!おいレイス、援護しろ!」
瀧は、敵陣に向かって駆け出した。
「な……待て!馬鹿っ!」
「瀧くん!無茶やよっ!」
レイスと三葉の制止も聞かず、瀧は銃撃の中を突進して行く。
「ええい!仕方無い!」
瀧は、銃を乱射しながら進み、ある程度の敵を撃ち倒す。レイスは、瀧が撃ち漏らした敵を撃って援護する。多少銃弾が体を掠めても、瀧は止まらない。一気に敵陣内に飛び込んだ。例によって倒された兵士を盾にして、その銃を奪って乱射する。何とかその場の敵を一掃すると、今度は倒した兵士の対戦車ロケット砲を奪い取り、別の一角に陣取る敵を砲撃する。
「喰らいやがれっ!」
次々と敵陣が崩壊していく。
「す……凄い……何者なんだ?彼は……」
呆然とその攻防を見詰めて、レモンが呟く。
「唯の戦争馬鹿だ……」
レイスが、ボソッと答える。
再び、ベヘモスの銃撃に晒されるレーバテイン。
「銃火器は無いのか?」
『では、デモリッション・ガンをどうぞ。』
だがそれは、165mmの破砕砲だった。その反動はASでは到底耐えきれるものでは無く、ラムダ・ドライバ無しではとても使用できる代物では無かった。
「こいつは……撃てるのか?」
『判りません。試射さえしていませんので。』
無責任なアルの回答にも慣れたのか、構わず宗介は至近距離でそれを放つ。
凄まじい反動でレーバティンは後方に倒れ込むが、ベヘモスは一撃で撃破される。
『残り一機が戦域を離脱するようです……追撃を?』
「無理だ。この短砲身では狙える距離じゃない。」
『いいえ、可能です?』
「何?」
アルは、補助腕でデモリッション・ガンに砲身延長用の装備を接続する。これによりデモリッション・ガンは“ガン・ハウザーモード”に移行し、最大射程が30kmとなる。
「……もう、驚くのも馬鹿馬鹿しくなってきた。」
『お褒めの言葉と受け取らせて頂きます。』
宗介は狙いを定め、撤退するベヘモスを撃つ。見事一射で、ベヘモスを撃破した。
「アル、何分かかった?」
『五分五十二秒です。』
「……」
『これだけの相手に三分とは、大きく出過ぎましたね?』
「お前は、相変わらず鬱陶しいな……だがまあ、無事で良かった。」
『はい。軍曹殿、私もです。それだけは、本心からお伝えしておきます。』
「ふん……機械のくせに、本心とはな……」
そう言いながら宗介は、心の底から戦友との再会を喜んでいた。
宗介が奮闘する一方で、かなめも戦っていた。
隙を見て兵士の銃を奪い、その兵士を盾にヘリを戻すように命令する。
だが、カリーニンがかなめの前に立ちはだかる。かなめに人を撃つ事が出来ないことを知っている彼は、臆する事無く彼女の前に立ち、銃を返すように命じる。
兵士を人質にとっても意味の無いことを悟ったかなめは、その銃口を自分の頭に当てる。
「何もかも……もう、たくさん……」
もう、何の希望も無い。このまま彼らの言いなりになるしかないのなら、もう生きていても仕方がない……死にたい……
そう思わせる、かなめの最後の手段だった。
これには、流石のカリーニンも動揺する。
「やめろ……できる限りのことはする……」
かなめはヘリを戻すことを要求するが、レナードの命が掛かっているためこれは受け入れられなかった。そこで、無線機で宗介に別れを言うことを認めさせる。
瀧の活躍で、レナードの邸宅に残った敵兵はほぼ壊滅状態になった。
更にそこにマオ達のM9も駆け付けて来たため、敵勢力は完全に制圧された。
宗介より一足先に、三葉と瀧はマオ達と久しぶりに顔を合わせる。
「三葉……無事で良かった……」
「マオさん……」
涙ぐむ三葉。マオも、少し目が潤んでいる。
「よう、やっぱり生きてたな瀧。」
「あったりめえだろ!相良より先に俺が死ぬかよ!」
クルツと瀧も、相変わらずの会話を交わす。
そこに、敵ASを一掃したレーバテインが戻って来る。
クルーゾーが機体をECSで隠すように指摘してくるが、レーバテインにはECSが搭載されていなかった。アルは、異常なまでの戦闘力を実現するため、ECSを搭載する余裕が無かったと言う。
その件で宗介とアルが口論を始めたところに、かなめからの通信が入って来る。
『……宗介……聞こえる?……』
「千鳥!」
『宗介?』
「ああ、俺だ!何処にいる?今すぐ迎えに行く!」
『宗介……落ち着いて……』
「俺は落ち着いてる!問題無い!」
『宗介、やめて……』
「側に敵が居るのか?だったら……」
『そうじゃないの……もう、あたしを追うのはやめて!』
かなめは、自分と宗介が逢おうとすることで大勢の人が巻き込まれ、命を落とすかもしれないことを告げる。その気持ちは、ナミを死なせてしまったことで、宗介にも判りかけてはいた。
『もう……あたしのことは忘れて……』
しかし、宗介はそれでも前に進むことしかできない。かなめの居ない世界など、彼には意味が無かった。宗介が黙り込んでいると……
『や……やっぱり、そんなの絶対やだ……』
「え?」
かなめの口調が、急に変わった。
『宗介、まだ聞こえてる?』
「あ……ああ……」
『前生徒会副会長として、あんたに命令するわよ。いい?』
「……」
『あたしを迎えに来なさい!もうそのためなら、どんな犠牲を払ったって構わない!いつまででも待ってるから、あんたのその非常識で迷惑きわまりない兵隊の技能を総動員して、どんなヤバイ相手でもギッタギタにやっつけて、あたしを抱きしめに来なさいっ!あんたなら出来るでしょ?』
「ああ、出来る!必ず行く!待ってろ!」
拳を握りしめ、宗介は即答する。
その言葉に、涙を流してかなめは言う。
『宗介……大好きだよ!』
「俺もだ!愛してる!」
『次に逢った時、必ずキスしよ。思いっきり……いい?約束だよ?』
「ああ、約束する……必ずだ!」
オープン回線で、周りを一切無視しての愛の告白。
皆があっけに取られている中、三葉は、涙を流してこのやり取りを聞いていた。
これで、私の失恋は確定した。
そんな事、ずっと前から判っていた事だった。でも、自分の中ではどうしても認めたくなかった。
だけど、これが自然なんだ……相良くんにはかなめが必要で、かなめにも相良くんが必要だ。この二人は、絶対に切っても切れない二人なんだ……
「……おれぼだ!あいじてる!……とか、オープン回線でお前っ!もう死ね、死んでしまえ!」
「ほぼ半年振りに顔を合わせて、いきなりそれか?」
デ・ダナンに帰還し、レーバテインから降りて来た相良くんを、クルツさんが早々に冷やかす。
と……そこに瀧くんが歩み寄って行った。それに気付いた、相良くんが声を掛ける。
「……瀧、色々世話になったな……助かった。」
「ああ、そんな事は気にすんな……それより、一発殴らせろ!相良っ!」
瀧くんは、いきなり相良くんの左の頬を思いっきり殴り飛ばした。
「ぐぅはあっ!」
不意の全力パンチに、相良くんは派手に吹き飛ばされる。
「た……瀧くん!」
私は、思わず叫んでしまう。
周りの皆も、瀧くんの突然の行為に騒然となる。
「……っ、な……何をする……」
「やかましいっ!」
体を起こして理由を問おうとする相良くんの言葉を、遮って瀧くんは叫ぶ。
「本当なら何十発とぶち込んでやりてえところだが、これから手前には命を掛けてやり遂げなきゃならねえ使命があるから、これでチャラにしといてやる!」
「な……何を言って……」
「黙って聞けっ!」
相良くんの反論を許さず、瀧くんは続ける。
「いいか!どんな事をしてでもかなめを連れ戻せ!失敗は許さねえ!
三葉みたいな最高にいい女を振ってまで選んだ女だ!死んでも連れ戻して一緒にならねえと、承知しねえぞっ!」
「た……瀧くん……」
また、涙が出て来てしまう。
最初は呆気に取られていた皆も、瀧くんの真意を理解したのか、少し目が潤んでいる。
そして、相良くんも……
「ああ……判った、瀧……必ず千鳥を連れ戻す!約束する!」
「けっ!」
その言葉を聞いて、瀧くんはその場を去って行く。
入れ違いで、テッサが格納庫に入って来る。
「相良さん……」
「大佐殿……」
「お久しぶりです。」
あの大告白はテッサも聞いていた筈だが、テッサは何事も無かったかのように笑顔で相良くんに対している。
「はい。大佐殿もよくご無事で。」
「ええ。あれから色々ありましたが、相良さんこそ無事で良かったです。で……私の隊へ復帰を?」
皆沈黙し、相良くんの答えを待つ。
「……はい!原隊復帰を、許可願います!」
「勿論です!トゥアハー・デ・ダナンは、貴方を歓迎します!」
『歓迎というのは、私もでしょうか?テスタロッサ大佐?』
そこに、レーバテイン……いや、アルが割り込んで来る。
「もちろんよアル!あなたも無事で良かったです。」
『ありがとうございます。大佐殿。』
本当に、アルは相良くんそっくりだ。
他の隊員達の前で、ちょっと躊躇いがちの相良くんに、マオさんが声を掛ける。
「な~に、しんみりしちゃってんのよ?」
しかし、相良くんは直ぐにいつもの調子に戻り、言葉を返す。
「いや、問題無い。」
「はいはい……お帰り、宗介。」
マオさんは相良くんの肩を抱いて、皆の中に彼を連れて行く。
そんな相良くんを見送った後、私は瀧くんを追った。
瀧くんは、誰も居ない甲板に一人で立っていた。
私は、ゆっくりと瀧くんに近付いて行き、声を掛ける。
「た……瀧くん……さっきは……」
「ん?……いや……悪かったな、余計な事しちまって……」
「ううん……嬉しかった……ありが……と……」
そう言いながら、言葉に詰まる。失恋したという実感が湧いて来て、また涙が溢れ出して来てしまった。
必死に涙を堪える私を見て、瀧くんは言う。
「あ……あのよお、泣きたい時は、我慢しないで思いっきり泣いた方がいいぜ……い……嫌じゃなけりゃ、お……俺の胸貸すからよ……」
女たらしの癖に、ムードの無いぶっきらぼうな言い方しかできない人……
でも、だから余計に暖かさを感じる。
この人は、私だけを見てくれる。どんな時でも、ずっと……
私は、瀧くんの胸に飛び込んで、思いっきり声を出して泣いた。そんな私の肩を、瀧くんは優しく抱いてくれた。
さようなら……相良くん……
宗介とかなめがお互いの本心を告げる、感動のラスト。
でもそれは、三葉が失恋をする悲しみのラストでもあります。
そんな三葉を支えられるのは、瀧くんしかいません!
私は原作を最初に漫画を読んで、次に小説、最後にアニメの順で見ました。
ただ、それぞれ微妙に演出や台詞が違っていました。
本来小説が真の原作なんでしょうけど、私の話は最初に見た漫画の影響を強く受けています。結局は全部ごちゃ混ぜになってますが……
一応アニメ四期も終了しちゃったんで、このシリーズも一旦完結です。
ただ、その後の続きも考えてあるので、アニメ五期が始まったら続きを投稿します。
もし、五期があんまりにも遅いようだったら、ネタバレになるけどフライングするかもしれません。