キーンコーン、カーンコーン…
ホームルームを終えて放課後、各々が嬉々として帰る支度を急ぐ中、笑い声に混じり窓の外から騒然と尋常ならざる奇声が耳につく。
ス「なんか、騒がしい…な」
ミ「イヤな予感が…」
ミソラは苦虫を噛み潰したような顔をして恐る恐る窓の外を除く。
「ここに響ミソラさんが登校していると言うのは本当ですか!?」
「何故こんな田舎に!?どういった経緯があったのでしょうか!?」
早朝にバレたのが災いして、学校の誰かが情報を漏らしたようで18人程のマスコミがコダマ中学校に押し掛けて来ており、侵入を阻む教師達と校門の前で押し問答を繰り広げていた。
そして、響ミソラ見たさにその周りを屯う生徒達が校庭を埋め尽くしていた。
ミ「やっぱり…」
案の定、想定した展開だったのかミソラの顔からサッと表情が失われる。
ス「うわぁ~どうやって帰ろうか…あの変装通じるかな?………いや、ムリだな」
あの校庭に何の策略も無しに突っ込めばどうなるか…容易に脳裏に浮かんでしまう地獄絵図を回避する為、額に汗を滲ませながら手段を模索するスバル。
火照った体に汗が流れる。
その汗を拭おうとした時、潮が引くようにスーっと引っ込んでいく。
そしてどういった訳か、冷たい風に吹き付けられた様に身体が冷えていく感覚に襲われ、震えていく。
ハッと何かに気付いたスバルは、迷う事なく、その原因であろうモノに振り向く。
そこには口角を吊り上げたミソラがいて、その周囲をフツフツと沸き起こる恐怖が侵していた。
そう、スバルは気付いたのだ。
この身震いはミソラの殺気によるものだと。
ルナの放つ殺気で植え付けられた恐怖が、理解するよりも早くに身体が察知して震えていたのだと。
この殺気にいち早く気付いたのはスバルだけではなく、同様に毎日毎日ルナを怒らせては殺気を向けられていたキザマロもまただった。
キ「ゴン太君」
ゴ「お?なんだ?」
キ「…逃げた方がいいですよ?」
キザマロの忠告に疑問を示すゴン太だが、行動に移すよりも早く、ミソラにその目で捉えられる。
そして、ゆらゆらと千鳥足で確実に距離を詰めて迫ってくるミソラと、危機感に駆られて友を見捨てて逃げ出すキザマロ。
迫る危機を前に、尚もゴン太は状況を呑み込めないでいる。
スバルやキザマロ以上にルナの殺気に浴びてきた筈のゴン太が見せる済まし顔に、ルナは呆れ顔。
ミ「フッ…フフフッ…!ゴン太君…」
ゴ「お!?どうしたんだ!?」
臭い息を吐く怪物のように、ドス黒く低い声のミソラとは対照的に、憧れのアイドルに声を掛けられた事に、嬉しさの余り声が上擦るゴン太。
ミ「私…知ってるんだからね?フフッ…」
ゴ「ん?何をだ?」
ミ「フフフフフフッ…どうしてくれるの?私の壮大な計画が…パアじゃない…」
ゴ「計ガ―――グヴゥッ!??」
胃酸が逆流して口に苦味が広がる。
ゴン太の言葉も待たず、ミソラは腹部に重い一撃を御見舞した。
そしてこれを機に、後に語り継がれる奇声と罵声が入り混じる暗黒の30分間が始まりを告げた―――
―――30分後。
ミ「ハァ…ハァ…!」
ゴ(…ナンデ…コンナコトニ……)
肩を揺らすミソラの足下に倒伏すゴン太。
その頬には、ミソラの握りしめた拳から流れる汗が滴り落ちる。
その汗に塗れた手は彼の血を連想させ、その滴る水滴はゴン太の涙を思わせる。
暗黒の30分間、必死になって止めに入ったスバル達は、この光景を前に悔しさを滲ませる。
キ「この悲劇を事前に止めることは出来なかったのか…!?クソ!ボクにもっと力があれば…!!」
ス「ちょっとカッコ良く言ってるけど逃げてたよね?逃げてたのね!?」
薄情にも、30分間外野からガヤガヤと口を挟むだけで、逃げ回っていたキザマロ。
本当に、口だけでなく力もつけてもらいたいと切実にスバルは願う。
ル「やれやれ…今回はどちらも加害者であり被害者なだけに喧嘩両成敗と言ったところね」
ス「いや、清々しい程に一方的なんですけど!?」
この惨劇はゴン太の浅慮が招いたとも言えるが、ミソラが口止めしていなかった為に起きた事とも言える。
しかし経過から結末まで、両成敗と言うにはあまりにも一方的だった。
今もまだ、暴れ足りずに咆哮を上げている。
ミ「どうやって帰ればいいのよぉぉぉぉぉぉ―――――ッ!!」
その咆哮は外にまで響渡り、彼女目当てで校庭に群がるマスコミや生徒達が、そのお目当ての声に耳を傾け静まり返る。
その沈黙の中で唯一、彼女に一切の興味がないと言っても過言ではないジャックが、容赦なくツッコミを入れる。
ジ「いや、電波変換でいいだろ」
ミ「あ…」
失念していたミソラは間抜けた声を出す。
ジ「んな事よりスバル」
ジャックは目の前の大物有名人を脇に置き、スバルへ話題を振る。
その行為がクラスメイトの中でホモ疑惑に拍車をかける。
ジ「時間ある時にWAXAに顔出せよ。新長官様が話したいってよ」
ス「新長官様?」
ジ「おう。新しく赴任して来たイケ好かねぇ上司だよ」
ジャックの言い草から、新たに赴任して来た長官、オリオンは、WAXAに来て早々に職員達を敵に回しているらしい。
彼の態度に新長官の人柄を早くも疑い、引け目を感じるスバルだが、この後、特に用がある訳でもない彼は、面倒事を優先して片付ける事に。
ス「ふーん…じゃあこのまま寄るよ。放課後に用事もないし」
ジ「そうか、話が早くて助かるぜ!じゃあ一緒に帰るか?オレWAXAに住んでっからよ」
ス「うん」
スバルはジャックに同意すると、鞄を背負い込む。
すると、脇に置かれていたミソラが、まるで今迄何事も無かったかの様にスバルの顔を元気よく覗く。
ミ「私も行く!面白そうな予感がするからさ!」
ミソラも鞄を背負い、軽快に遊び感覚で出口に向かって歩き出す。
その軽すぎる態度が癇に障ったジャックはその背中に向かって怒りを吐き出す。
ジ「面白い事なんかある訳ねぇだろ!!」
―――屋上
ミソラにボコボコにされたゴン太を、ルナとキザマロに任せ、電波変換をする為に人目に付かない学校の屋上へ移動したスバル、ミソラ、ジャック。
ジ「この辺でいいだろ」
電波変換は、世界規模でその名前すら知られていない特別な手段で、その秘技は国家機密に相当する。
故に、電波変換を使う場合は細心の注意が必要になる。
ミ「それじゃそろそろお披露目だね。いい加減電波変換の一つもしないと、このお話の売りがねぇ~…」
ス「…売り?何の話してるの?」
ミ「神のみぞ知る話だよ…フッフッフッ」
まるで自分が神のように語るミソラ。
神でなければ、キリストの生まれ変わりとでも言うのか。
理解の範疇を超える彼女の発言にスバルとジャックは難色を示す。
ジ「ま、バカはほっとけ」
ミ「バカァ…!!?」
ジャックの台詞がミソラの心に深く刺さるが、特にその刺傷を埋めるでもなく、スバルは気にせずに電波変換を始めた。
ス「トランスコード003!シューティングスターロックマン!」
ミ「え!?庇ってくれないの…!?」
―――WAXA日本支部
学校からWAXAまで、ウェーブライナーで約2時間の所、電波変換から軽い無駄話も含め20秒もせずに到着したスバル達。
電波変換によって電波化された身体は、肉眼では捉えられない世界中に溢れる電波世界を視覚化し、往来する電波の道《ウェーブロード》を渡る事で、宇宙ですら容易く短時間で移動する事が可能になる。
ジ「着いたな。やっぱ速くて楽だぜ」
スバル達3人は、ジャックを先頭にWAXAのゲートを潜ると、広々とした正面玄関の奥に置かれた受け付けカウンターへ向かう。
「お帰りなさいジャック君」
ジ「おう」
帰宅したジャックに受付嬢が親しそうに挨拶をする。
その後、ジャックの後ろにいるスバルとミソラに向き直り深くお辞儀する。
ジ「お偉いオリオン長官はいるか?星河スバルが来って伝えてくれよ」
「え!?えッ!!?」
ジャックは皮肉を交えて要件を告げると、星河スバルという名前に反応した受付嬢は目を丸くして飛び上がる。
「君ロックマン!?ロックマン来た!?ロックマン来ちゃった!?本物のロックマン!?」
ス「えッ…」
(あれ!?なんかバレてる…!必死に隠して来た筈なのになんかバレてる…!!)
ミ「………」
その受付嬢の食い付き様に、スバルはジリジリ後退る。
スバルはロックマンの正体が自分である事を必死に隠して来た。
しかし、3度目の危機ではWAXAと協力して事に当たった為に、一部の職員には認知されていた。
だが、まさか受付嬢まで知っていようとは。
苦笑いすら浮かべられないスバルと、その横でロックマンを前に顔も指されず形無しのミソラ。
ジ「おい、機密だぞ!?分かってんのかネェちゃん…!つか何で知ってんだよ!?」
「………」
ジ「………」
「今ご案内致します♪」
ジ「知れっと話を逸らすなッ!!」
ジャックの問い詰めで失言に気付いた受付嬢は、沈黙の後に満面の笑みで業務に戻る。
そして受付嬢の取り次ぎで、スバルは1人オリオンのいる部屋へと招かれる事になり、その間ジャックはサテラポリスの仕事に取り掛かり、ミソラは受付嬢に弄ばれる事に。
―――とある一室
誘導されるままにオリオンの居る場所へ訪れたスバル。
ス(オリオンって…変わった名前だな―…どういう人なんだろう…偉そうな人なのかな?)
案内人に促されて部屋に踏み込む。
陽光はブラインドで遮られ、天井の照明は弱々しく薄暗い。
机を囲むようにソファが配置され、その奥には大きな木製のオフィスディスクが置かれた、TVなどでよく見る配色で、その一つ一つが飾り気のないものばかり。
高級嗜好を思い描いていた彼は、なにか言い知れぬ不安を覚えながら部屋を見渡していると、ディスクの前に鎮座する厳かな空気を纏った人物と目が合う。
オ「初めまして、星河スバル君。私はサテラポリス長官のオリオンだ」
ス「は、はめまして…」
オ「楽にしていい。掛けたまえスバル君」
楽にとの言葉とは裏腹に、外見に加えて低く重い、飾り気のない声質に緊張が走るスバル。
強ばる体で着座する彼の心境を察する訳でもなく、淡々としてスバルの前に腰掛けるオリオン。
オ「何か飲むかね?」
ス「い、いえ…!大丈夫です…」
(水なんか喉に通らないよ…)
オ「ふむ…」
オリオンは何かを一考する。
オ「オレンジジュースは飲めるか?」
ス「え?あ、はい…」
オ「では、彼にオレンジジュースを」
彼はスバルを案内した人物に指示を出し、雑用を与えられた彼女は軽くお辞儀して部屋を後にする。
暫くして、届けられたオレンジジュースを一口含む。
そして、一つ引っ掛かっていた事柄に背を押されて口を開く。
ス「あの~…」
オ「なんだね?」
ス「前WAXA長官はどうされたのでしょうか…?」
オ「前…?ああ、彼の事か」
スバルとの間に誤解が生じている事にオリオンは軽く笑みを浮べると、彼の言葉を訂正する。
オ「私は、
ス「……え?」
言葉の意味を理解出来ずにいるスバルに、オリオンは更に言葉を並べる。
オ「これ迄、二つの組織をWAXA長官1人で指揮して来た…だが今、電波犯罪は高度化し続けている。その為、対応を更に迅速且つ、的確に処理していけるように、私が呼ばれたのだよ」
心配した面持ちで視線を外さないスバルに、ソレを取り除く様にオリオンは1〜10まで順に説明した。
オ「私の赴任に合わせ、サテラポリスとWAXAの指揮系統を分割し、対テロ組織としての拍車を掛けようという事だ。もちろん、WAXAとの協力関係はより密に行うものとしてね」
ス「と言うことは、WAXA長官は健在なんですね!?」
オ「そうとも。なんら心配する必要はない。WAXAとサテラポリスが別々になったと思いなさい」
学校からここに至るまで、ジャックの発言で新長官が新たに据えられた事を知り、お世話になったWAXA長官はどうなったのか気掛かりだったスバルは、安堵に顔が綻ぶ。
そして、その表情に感慨深くオリオン頷く。
オ「君は…父親にとても良く似ている…」
ス「父さんをご存じなんですか!?」
オ「勿論。大吾君の武勇伝は耳にしている。」
誉れ高い父親に、胸が熱くなるスバル。
オ「そして君もまた、その正義感を受け継いだようだね?」
しかし、大吾を引き合いに出すオリオンの言葉は、胸の熱を冷まし、鉛の様に重い劣等感となってスバルを襲った。
ス「いえ…ボクは…父さんに憧れてはいますが…父さん程立派ではありません…」
オ「その謙遜する所もそっくりだな…少しは胸を張りなさい。君は、地球を救うという、口にするだけで漠然とした偉業を成し得たのだ。君の父親がソレを達成した事があったかね?」
憧れた人の背を追い、そして超えた事を事実として認識するよう激励の言葉をかける。
だがスバルは、自身の態度を改める事はしなかった。
ス「父さんも地球の皆の為に命を張りました。そして、ボクが頑張れたのも皆の助けがあったからです。ボク1人で出来た事は一つもありませんでした…」
12歳の少年なら自身の成功を鼻に掛けて余りある所、彼はこの手柄を独占しなかった。
キッパリと未練なく手柄を配分する度量を垣間見て、オリオンには疑念が生まれる。
星河スバルは、一体何を誉れとするのかと。
オ「スバル君…私も正義の為に、その偉業を明瞭に成したい…力を貸してはくれまいか?ロックマンの力を…」
ス「ボクなんかで良ければ協力します」
スバルは一考する迄もなく、オリオンの申し出を快く受託する。
彼はソレを受けて、今後の計画を先んじて語る。
オ「先の戦い…ディーラとの抗争で、暁君がゲリラ的に組織したサテラポリス遊撃隊…これを対テロ特殊部隊として正式に発足したいと思う」
サテラポリス遊撃隊は電波変換を用いる人間で構成された部隊。
電波変換の機動力を活用して、ディーラの仕掛けた同時多発テロを阻止した功績がある。
オ「まだ幼い君を戦場へ駆り出すの心許無いが…卑劣なテロリスト共は、道徳を遵守させてはくれないのだ…すまないスバル君」
ス「いえ…戦場の非情さは理解しているつもりです」
戦場に深く触れてきたスバルは、その過酷な日々を脳裏に描き、苦笑いしながら理解を示す。
すると、オリオンはここで初めて微笑を見せた。
オ「今日は君と実のある話が出来て良かった。今後の活躍に期待しているよ」
スバルはオリオンに軽く会釈し部屋を後にする。
そして彼を、偉そうなイメージから一心して理解ある大人であると、好感を持ってミソラのもとへ向かった。
同時にオリオンは、スバルに対する懸念をより深くする事に。
―――WAXA正面玄関
ここを訪れる者は皆、広間に満ちた静粛と威厳に裏付けされた安心感をその身に感じる。
白を基調とする広々とした正面玄関はWAXAの顔と呼ぶべき場所だ。
その場所で、その顔に泥を塗りたくる騒音が響き渡る。
ミ「も、もぉ~放してぇ~…!!」
「もうちょっとイイじゃない~!ファンサービスしてよぉ~ん!」
ミ「ここまでサービスしたのはお姉さんが初めてです!」
「あら光栄!もっともっと記録を伸ばしましょっ!?」
ミ「イヤァァァ~!!」
世に名を馳せ、芸能界を登り詰めた響ミソラが、公然の場で受付嬢のオモチャと成り果てていた。
その異様な光景に、ミソラの顔を指す来訪者達も、視線を逸らして素知らぬ顔をする惨事となっていた。
ス「…何…やってんの……?」
処理しきれない程の膨大なボケを前に、突っ込む事も忘れ、ただただ答えを求めるスバル。
ミ「助けてぇぇぇ――――!!」
膝に泣き付くミソラに、とち狂った殺人鬼の様に嬉々とした瞳を向ける受付嬢が迫り来る珍事に、白旗を上げるスバル。
ガシッ!
受付嬢は獲物を捕え、抵抗を物ともせず力一杯引き寄せる。
そして、余りの怪力に思わず膝を付く獲物。
ス「うわ!………あれ?」
(ボクの体に外から強烈な力が…?)
状況を理解するよりも速く、答えはその外から知らされる。
「待ってたわよロックマン!さぁファンサービスしなさい!!」
ス「ボクかいィィィィィッ!!」
今度はスバルが受付嬢の餌食となった。
彼は必死に抗うが叶わず、この身の危険を経験し、誰よりも理解しているミソラに助け船を求める。
ミ「頑張ってねぇ~」
だが非情にも、ミソラは涙一つ浮べる事もなく満面の笑みでひらひらと手を振った。
見捨てられたのだ。
殺人鬼が住む孤島へ漂流したスバルに助け船も出さず、安全な場所で今生の別れを告げる無情なミソラ。
必死に手を伸ばすも、余りに遠く離れたミソラに血の涙を流すスバル。
ス「ナンデダァァァァァ――――…――……―………」
WAXA中に轟くスバルの心の叫び。
だが、その叫びが人の心を動かす事はなかった。
ジ「何やってんだアイツ等…」
仕事に勤しんでいた親友ジャックの心も。
当然といえば当然だが。
そこへ、後光が差すように強烈な光が差し込む。
「おや?スバル君じゃないか!!」
救いの神のように、颯爽と現れたのは《天地まもる》
スバルの父、大吾の後輩で、優れた電波技術と心根の優しさで満ち満ちたお腹の持ち主。
ロックマンとしてのスバルを知り、落ち込んだりした時には相談に乗ったりと、まさに彼にとっては救いの神だ。
今回も、救いの手を期待したいスバル。
ミ「そんな神々しい登場しちゃっていいの!?重要なキャラとか思われちゃうよ!?」
ス「サラッとひどい事言うなぁミソラちゃん…」
ま「ハッハッハ!どうしたんだい?救いの神様が相談に乗ろうじゃないか!」
小さな事など気にしない。
救いの神と自ら言ってしまう茶目っ気たっぷりの天地に、スバルは地を這ってしがみつく。
ス「助けて!」
スバルは先のミソラみたいに、天地の膝に泣き付く。
ま「もちろん!まぁまず立って話をしてご覧?」
加害者を前に被害を訴えれば、抵抗に遭うのは目に見えた必然。
だが、スバルら命を晒し、意を決して告げる。
ス「ボク…襲われてるんです!!」
ま「一体誰がロックマンを襲うと言うんだい?」
天地の問いかけを、まさにその加害者が答える。
「ファンです!!」
ま「ああ、成程!」
ス「神ィィィィィィ!」
提示された答えに納得してしまった天地。
神が納得したのなら、これ以上の法はないだろう。
スバルは神の加護の下、受付嬢へのファンサービスを強要される事になった。
ま「あ、ところで、オリオン長官は居られますか?」
「え?ええ、居りますよ。我が社のオリオンにどういったご用件でしょうか?」
今の今迄、我欲のままに一路邁進して来た受付嬢が、唐突に大人の対応を振る舞う緩急の強さに、戸惑うスバルとミソラ。
ミ「どゆこと…?」
ス「全く付いていけないよ…!って言うか、天地さんはどうしてWAXAに!?冷やかしですか!」
救いの神のように現れた癖に、神足りえなかった天地が、一体他に何の用があるのか。
ま「ああ、今一般公募で科学者を募集していてね。人手を必要としている見たいだったから、それに応募したんだ」
ス「え…そうなんですか?人手不足には見えないですけど…」
常日頃から雑務に、事故や事件の解決。
そして事前のテロ対策など、有事に備えているWAXAなだけあって、皆忙しなく動き回っているが、それでも見て取れる範囲では別段人手不足には見えない。
ま「まぁ、公募をするという事は、人を必要としているって事に他ならない!困っているなら日の中水の中!誰かの力になれるならお易い御用ってね!」
天地がドヤ顔でスバルに語り聞かせていると、受付嬢が案内を申し出た。
「天地さん、どうぞこちらへ。オリオンの下へご案内致します」
ま「じゃあな!スバル君、ミソラちゃん!時間があったらまた、ボクの研究所に遊びおいでよ!」
先導する受付嬢の後に続き、背を向けて別れを告げる天地に、スバルとミソラは手を振って見送る。
ス「またね、天地さん」
ミ「私たちも帰ろぉスバル君!」
スバルはミソラに同意して、帰路についた。
ス「なんだかんだと救いの神だったな…」