流星の標   作:-eto-

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初めての小説が馴れないのに加え、忙しくて更新が遅くなってしまいました。
申し訳ございません。


第8話

 ―――教室

 

 ミソラとスバルは気配を殺し、人目に付かないように行動して目的地の教室まで辿り着く。

 教室の戸を開けると、ガラガラとなるドアの音に反応して全員が一斉に注目する。

 その過剰な反応の速さから、響ミソラに対する期待が伺わずとも感じ取れる。

 

(ドキドキ…)

 

 34人、クラス全員の視線がスケバン姿のミソラに集まり、緊張で胸が高鳴る彼女はその場で固まって動けなくなってしまう。

 それは、1人にでも気付かれてしまえば、感染症にも負けないスピードで広がるラブコールの嵐に対する恐怖が刻まれているが故だ。

 だが、ミソラの心配とは裏腹に、1人2人と彼女に背を向ける。

 これだけの人数が居れば1人や2人、ミソラの変装を見破る者が現れてもおかしくはないが、皆、興が冷めた様に大した反応も見せず、各々が再び響ミソラの話題に花を咲かせる。

 

 ミ「……あれ?助かっ…た…?のかな??」

 

 ス「変装が功を奏したのかな…?怖い格好してるしね」

 

 皆の興味が削がれた理由は変装も1つではあるが、それ以上に、隣にスバルが男が立っていた事が大きな要因だ。

 何でもない平凡な男の子が、まさか響ミソラと面識があるだなんて思いもしないからだ。

 

 ス「とりあえず席に着きましょう…(かしら)

 

 ミ「頭ッ!?」

 

 突然、恭しく席まで先導を始めるスバル。

 

 ミ「どうしちゃったの…?頭って何?」

 

 頭という発言も含め、徹底的に響ミソラという存在を臭わせない様に、彼女の変装に併せて擬態を始めるスバル。

 彼女は訳が分からずに立ち尽くしていると、ルナとその愉快な仲間達が2人を囲うようにして現れる。

 

 キ「おはようございます!コチラの方は誰ですか?」

 

 ゴ「おっかなそうな奴だな…」

 

 ミソラの存在を忘れているジャックは論外として、彼女の崇拝者であるキザマロとゴン太は、まるで変装を見破れないでいるようだ。

 ゴン太に関しては、格好からくる威圧感で軽い身震いを起こしている。

 ファンが聞いて呆れる2人にルナが物申す。

 

 ル「ちょっと…誰ってミソラちゃ「ストォォォップ!!」」

 

 当たり前の様に変装を見破るルナの口を、途端に手で抑えて遮るミソラ。

 

 ミ「ダメ!今日はダメ!!今日はダメだから…!!」

 

 耳元で何度も何度も念を押すミソラの異常な慌てように、何かを察したルナは黙って口を噤み、何度も頷き理解を示す。

 ミソラは理解を得られるとそっと手を離し、何かを耳打ちした。

 ルナは目を見開いて驚いた表情を見せるが、咳払いをし一変、顔を整えて呟く。

 

 ル「………頭よ」

 

 キ・ゴ「頭ッ!??

(あ、あの委員長を従えるお人がいようとは…!!)

 

 ミソラはスバルの呼び方に習い、ルナにもそれを強要した。

 頭という響きに2人は恐れおののき、舎弟に加わろうと手を捏ねてミソラに媚びへつらう。

 

 キ「頭様ぁ~…!お席の方はどちらでございまするか!?この私めがご案内致しますです…!!」

 

 あのルナ以上に恐ろしい存在の出現に、緊張から滑舌が悪くなり、敬語の使い方も可笑しくなっているキザマロ。

 その額は脂汗で顔がテカり、目に入る水滴が染みて瞼をシバシバさせている。

 ルナは目の前の光景にただただ思う。

 ミソラのファンと豪語していた者が何故、本人を目の前にして気付かないのだろうか…と。

 ミソラもミソラで彼等の慌て様に恍惚として、悪戯な微笑みでキザマロの問に答え、下手な演技で頭に興じる。

 

 ミ「私の席は星河スバルの隣だ!案内したまえ!」

 

 キ「ははぁ―ッ!!」

 

 ス・ル・ジ(したまえ…?)

 

 ジャックは稚拙な即興コントに「何処の上流貴族だよ」と呆れた様にツッコミを入れる。

 それは鋭くミソラの胸を突き刺し、抉ったようで、遇の音も出ずにプライドはひび割れ、そして崩れ落ちた。

 

(じょ…上流貴族…!?スケバンの…真似…だったのに…!!)

 

 女優で培ったキャリアを否定されたと思い込み、雷で打たれたように硬直して白目を向いているミソラに、先程のやり取りである疑問が湧いたスバルは彼女にそっと耳打ちをする。

 

 ミ「…上流…貴族…じょ、う流…貴族……キゾク…

 

 ス「あのさ…さっきの席の話なんだけど…」

 

 ミ「―――はへ…?ああ~……スバル君の隣って話し……?」

 

 ス「そうそう…!何でボクの隣って分かるの?と言うかボクの隣なの?」

 

 スバルの疑問は最もで、今日初登校のミソラが何故自分の席の詳細を知っているのか。

 しかも、席の配列などでの把握ではなく、星河スバルの隣という理解の仕方がまた奇妙な話だ。

 この問題にある程度の予想は付いている彼ではあるが、この推理の真相を本人の口から答えてもらう必要を感じるスバルは、ジッとミソラに視線を据える。

 スバルの指摘で自分の失言に気付いたミソラは、我に返ると皆の納得のいく言い訳を求めて脳内を彷徨う。

 何故言い訳を考えるのか、理由はただ一つ。

 

 ミ「え~っとねぇ………」

(どうしよう…なんて言おうかなぁ~……)

 

 ス「………」

 

 ミ「………」

(見てる見てる…見てるよぉ~…ジッ見てますよぉ~……)

 

 ス「………」

 

 ミ「………」

(ってちょっと見すぎだから~!!そんなに見つめられたら困っちゃうよぉ……///)

 

 スバルの熱い視線に、言い訳を考える所か1人勝手にドギマギして顔を紅潮させる。

 そして、緩んだ表情を整えて、どう告げるべきか間を置いて十数秒…

 

 ミ「…。•ω<。てへ♪♪」

 

 戯けて見せた。

 その、カメラの前のモデルが如く、自分がもつ最大限の技術で可愛く見せて誤魔化そうとするミソラの行動で、スバルは「やはり」と深く頷く。

 

 ス「賄賂か…」

 

 ミ「うん賄賂!」

 

 ス「いや、もうちょっと隠す努力しようよ!

 

 もう誤魔化す事も諦めた彼女の堂々とした開き直り方に、ツッコミまざるを得ないスバル。

 ハンターVGから一部始終を見ていたハープは彼にひどく同情を示し泣きじゃくっていた。

 

 ジ「陰謀に塗れてんな―この学校…気の毒な校長だ」

 

 ジャックは利己的なミソラやWAXAの権力に振り回される校長先生の身を考えると、いたたまれない気持ちになるのは何故だろう。

 この学校ではジャックとクインティアのみぞ知る事だが、スバル達一同が揃いも揃って同じクラスなのはWAXAの要請である。

 電波犯罪が起きたとき、クインティアを筆頭に電波変換を用いる事の出来るスバル達に協力を仰げるようにする為だ。

 実は、ミソラがこの学校へ入学したのも、WAXAからの提案が切っ掛けである。

 ただ、当人はWAXAの意に介さず、ただ友達との学園生活への憧れを刺激されて来たに過ぎない。

 だがしかし、そんな憧れに憧れた学園生活初日で、まさか頭と呼ばれてスケバンを演じる事になろうとは誰が想像しただろうか。

 ミソラの正体に気付いているスバルとルナは心配で気が気でない様子だが、一変してミソラは、頭が妙に気に入ったようでキザマロを顎で指示して席まで案内させて、完全に鼻を伸ばしている。

 案内された席に座ると、チャイムが学校中に響き渡り、スバルを含め皆が後を追うように着席していく。

 そしてクインティアがカツカツとヒールを鳴らしながら教室に入って来て、出席を取っていく。

 

 ス「ミソラちゃん…あんまり調子乗ると、後で名乗り出ずらくなっちゃうよ?」

 

 ミ「大丈夫大丈夫!今日1日だけだからさぁ~!それに、ゴン太君には罰を受けてもらわないとねぇ~…フフフッ!」

 

 顔に影が差し策謀を巡らす様はまさに、頭と呼ぶにふさわしい形相であった。

 

 ス(悪い顔してるな―……)

 

 今迄見た事もないミソラの表情にスバルは遠い目になっていると、クインティアの点呼で挙手を求められる。

 

 ク「星河スバル」

 

 ス「はい」

 

 クインティアは出席簿にチェックを入れると、次の名前を呼ぶ。

 その名前は意図せずして教室を混乱に陥れる。

 

 ク「響ミソラ」

 

「「…ッ!??」」

 

 驚きを隠せずに各々が響ミソラを探して教室中を物色する。

 そしてミソラも一驚して机にうつ伏せる。

 その時、机にだけ晒した顔は、極めてアイドルとは思えぬ形相で、決して人目に触れてはならぬものであった。

 暫く、彼女の点呼に返答する者も現れず、本人はスケバンに変装しているため、当然該当する人物が見つかる筈もなく、皆がクインティアに不信感を向ける。

 クインティアは溜息をつき、間を置いてもう1度点呼を取る。

 

 ク「…響ミソラ」

 

 しかし、やはり返答は無く教室が静まり返る。

 机にしがみ付く様にうつ伏せていたミソラは、奇妙に思い恐る恐る教卓を覗き見る。

 すると、クインティアの視線を確りと独り占めにしていた。

 その力強く、確信に満ちた彼女の瞳に彼女は悟る。

 

 ミ(あ、バレてる…)

 

 喪失感に襲われているミソラに追い討ちを掛けるクインティア。

 

 ク「響ミソラ!」

 

 彼女の視線に誘われ、クラス中が自然とスケバン姿のミソラを視界に捉える。

 彼女はその視線に心が揺れた。

 ここで名乗り出るべきか否か、この状況に思案する。

 

 ミ(ここで返事を返せば、私が響ミソラと認めちゃう事になる…理想の学園生活を送るには、この知名度が邪魔になるのは分かってる…小学校でもそうだつたし…どうしようかなぁ…)

 

 だからこそ、平穏に暮らせるように考えた彼女渾身の壮大な計画を、ゴン太の思慮の浅さがせいで足並み乱されて只で転んでなるものか。

 ミソラは並々ならぬ決意の炎を瞳に灯す。

 

 ミ(今日をなんとかやり過ごせば、また明日改めて計画を進められる…今日だけはバレる訳にはいかない!

 スバル君に私の腹黒さを晒すのとは訳が違うんだ…)

 

 ミ「私、響ミソラじゃないんだけど…?」

 

 ミソラは低い声でスケバンのもつ威圧感を演出して否定する。

 そしてアヒル口で口笛を吹いて、クインティアに余裕を見せてみる。

 だが、それが逆に、余裕なさを露呈する結果になりジャックに突っ込まれる。

 

 ミ「フ…フヒュ…~………ヒュッ…!」

 

 ジ「吹けてねぇし…」

 

 実際は余裕など皆無であって、緊張で頬は引き攣り、原因不明の震えに見舞われていた。

 

 ク「アナタが響ミソラじゃないのなら誰なの?」

 

 ミ「え…?それはぁ~…か、頭です………あ!じ、じゃなくて頭だッ…!!文句あるか…!?ああ…!??………あ???」

 

 ク「アナタ大丈夫?」

 

 ハ『主に(あたま)!主に(あたま)ね!(かしら)だけに!!

 

 ミ「上手くないわよ!!

 

 咄嗟に返した答えは頭という不名誉な仇名で、しかも敬語を使ってしまった事を大慌てで訂正するが、その全面惰弱さに塗れた上擦った声の迫力のなさに、憐れにも同情と(主にハープからの)罵声が反響する。

 精神的ダメージが集り疲労困憊で、膝が笑っている彼女。

 たが心はまだ折れておらず、(相手に悟らせてはいけない…!これは心理戦なんだ!!)と決意を新たに、ミソラは皆に満面の笑顔を振りまく。

 ただ無言で、ひたすら無言で、固まった笑顔と貫く沈黙。

 自分がスケバン姿なのも忘れ、魅せる満面の笑顔が残念な事に、相手に全てを伝える結果に繋がった。

 と言うか、スケバン姿で満面の笑みが何故、通用すると思ったのだろうか。

 

 ミ「………」

 

 口を開かず、笑みも崩さず、クインティアに微笑み続けるミソラと、頭上に?を幾つも浮かべて彼女を見つめるクインティア。

 一向に変化しない無言の攻防に、ミソラの隣で脂汗を流すスバル。

 

 ス(これ…何やってるの?話が全然進まないんだけど…)

 

 教室がクインティア含め、スバルと同じ感想に辿り着く。

 そこで、この茶番を一刻も早く終わらせるべく、クインティアは強烈な一撃を言い放つ。

 

 ク「アナタが響ミソラじゃないなら出て行きなさい。そこは響ミソラの席よ?」

 

 ミ「うッ…!」

 

 アビリティ、アンダーシャツでHPを1だけ残して耐えるミソラ。

 だがクインティアはここで、最上の反則的な止めの一撃を浴びせる。

 

 ク「それと、室内での帽子とサングラスは校則違反よ?取りなさい」

 

 ミ「グハァ…ッ!!」

 

 ミソラは校則という絶対的力を前に、膝から崩れ落ちる。

 そして、ゆっくりと帽子に手を伸ばし、クシャクシャに握り込むが、覚悟決まらず、それを取ることに躊躇する。

 横目でスバルが冷めた視線を送っている事には気付いてはいない。

 数秒の葛藤の末、悔しさで歯軋りを立てながも、負けを認めて素直に帽子とサングラスを取った。

 同時に、歓声が教室から溢れ出す。

 それはクインティアの勝利を喜んでか、ミソラの存在に歓喜してかは分からないが。

 思い浮かべたものとは裏腹に、騒然として始まってしまった学園生活だが、友達に囲まれて期待が膨らむミソラは、この必然もまた、甘んじて受け入れるのだった。

 

 

 


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