流星の標   作:-eto-

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第5話

 コダマ中学校―――

 

 学校生活2日目。

 スバルが眠気眼で教室の扉を潜ると、怒声にも近い声でゴン太とキザマロが駆けてくる。

 その表情は酷く慌てた様子だ。

 

 ス「…どうしたの?朝から…」

 

 スバルの緩い表情が、急く2人の感情を掻き立てる。

 

 キ「どうしたじゃないですよ!そんなマヌケな顔して全くもう!」

 

 ゴ「アイツが来てんだよ、アイツがさ!」

 

 ス「…マヌケは余計じゃない?」

 

 朝から頭の痛そうな顔で強張るスバルの手を、問答無用で引っ張るゴン太とキザマロ。

 だがその先で待ち受けた光景に、2人が慌てた理由を理解した。

 

「オッス!久しぶりじゃねぇか…星河スバル」

 

 ス「ジ……ジ…ジャック!!?」

 

 《ジャック》と呼ばれた男は、黙ってスバルの前に手を差し伸ばす。

 スバルもそれに応え、ジャックの手を握る。

 しばらく互いの顔を見つめた後、久しぶりの再会に言葉もなく互いの体を寄せ抱き合う2人。

 

 ス「ジャック…!!」

 

 ジ「スバル…!!」

 

 ゴ、キ(…エッ!?)

 

 唐突に起こった2人の抱擁は、ゴン太とキザマロに色んな意味でその絆の強さを見せ付ける。

 特に、スバルのはしゃぎ様は尋常じゃない。

 

 ス「なんでここに!?」

 

 ジ「オレもこの学校に通う事になったんだよ!…その、アレだ…前みたいに仲良くして…くれるか…?」

 

 ス「もちろんだよ!仲良くするさ!こんなに嬉しい事はないよ!」

 

 抱擁しながら続く会話に、周囲から奇怪な視線が集中する。

 だが2人は完全に自分達の世界に入っている。

 そこへ、割って入る不粋な輩が1人。

 

 ル「アンタ達、いい加減離れたらどうなの?……ホモセクシュアル…?」

 

 ハッと2人は距離を取る。

 その顔はお互い紅潮している。

 ジャックは恥ずかしさを紛らわす為にルナに茶々を入れる。

 

 ジ「うるせぇよ…このドリル女!ホモセクシュアルなのが悪いのか!?///」

 

 ル「誰がドリル女よ!これはカールよカール!!」

 

 売り言葉に買い言葉。

 唯一ルナに、抵抗という無駄な努力を怠らないジャック対、圧倒的な覇気を纏ったルナの口喧嘩が始まろうとする。

 だが、スバルがジャックの前に立ちはだかり、一言を告げる。

 

 ス「ジャック…悪いけどボクは、女の子が好きなんだ…」

 

 ル・ゴ・キ「―――は?」

 

 スバルの言葉でクラス中が沈黙する。

 この沈黙には、ジャックに対する言葉にならない憐れみや同情が込められているのを感じとると、ジャックはそれを払拭する様に声を荒らげる。

 

 ジ「ったりめぇだろうがッ!何かオレ振られた見たいじゃんかよ!?告ってもねぇのによ、おい!!///」

 

 ス「そっか…よかった…君を傷つけなくて済んで…!」

 

 スバルはホッと胸を撫で下ろす。

 

 ジ「ホッとすなッ!オレだって女が大好きだから!!ただホモセクシュアルに対する理解もありますってだけだから!!」

 

 スバルの誤解から始まったコントの様な顛末に、ジャックの必死なツッコミ(弁解)っぷりも相俟って、クラス中でバカにした笑いが起こる。

 

 ジ「笑うなァァアアアッ!!

 

 ジャックの最後のツッコミが学校のチャイムに被さる。

 合わせて教室に入ってくる先生も、クラスの笑いを煽る様に言葉を投げかける。

 

「諦めなさいジャック。星河スバルは貴方と付き合う気はないそうよ」

 

 ジ「やかましいわッ!!しつこいんだよテメェ!!」

 

 ツッコミと同時にジャックは先生に視線を向ける。

 クラスの皆も同様、動きに習うように視線を先生へ向けると、一斉に笑いが静まりだす。

 そこには昨日いた男性の先生ではなく、若い女性の先生が立っていた。

 それも、恐ろしい迄に放たれる殺気にみんなの顔が一斉に青ざめる。

 

「ジャック…誰に向かってそんな口をきいているのかしら…?」

 

 ジ「ね、ねね…姉ちゃん!!」

 

「「姉ちゃん!?」」

 

 ジャックは弁明や謝罪よりもまず、言葉もなく真っ先に頭を擦り付け、床を舐める勢いで土下座した。

 ルナに逆らおうとする程の度胸を持つあのジャックが、一方的に負けを認めるは、姉《クインティア》18歳。

 彼女は常に無表情で、感情を表に出す事が少ない。

 弟のジャックは熱くなりやすく、粗暴な面がある。

 そして、姉にしか心を開く事はなかったが、スバル達と関わりを持った事で、周囲を受け入れ始めている。

 ジャックが人と関わり、どう成長して行くか、楽しみなクインティアだ。

 

 ク「早く席に着きなさい」

 

 ジ「はいッ…!」

 

 ジャックは電光石火の速さで自分の席であろう、空いた2つの席の内、スバルの隣の席に着く。

 

 ク「…貴方の席はそこじゃないわよ」

 

 ジ「なぬッ!?」

 

 今度は光速で、ルナの隣のもう一つの席へ着く。

 ジャックが席に着いたので、クインティアは出席簿を開き、名前を読み上げようとする。

 すると、まだ呼ばれてもいないのに手を上げるルナの姿が。

 

 ク「何?」

 

 同じ、殺気を纏える者同士、ルナは物怖じせずに堂々と疑問を問う。

 

 ル「昨日の先生はどうされたんですの?」

 

 ク「ああ…彼は私の為に担任を降りてもらったわ。今は副担任」

 

「「え…?」」

 

 返ってきた答えに、一層疑問が深まる。

 特に、私の為にと言う台詞に並々ならぬ深い闇を感じずにはいられないルナ達。

 脅迫か?権力か?賄賂か?情事か?

 無表情なクインティアが醸し出すミステリアスな雰囲気もあって、様々な憶測が飛び交う。

 大きな謎を残し、今日の終業のチャイムがなる。

 

 

 

 

 

 

 展望台―――

 

 ここは、スバルのお気に入りのスポット。

 星や宇宙、天体観測などが趣味のため、人気が少ないここはいつもスバルの貸し切りである。

 故に、誰が会話を聞くでもなく、スバルはハンターVGのテレビ電話で、アイドルとの会話を大いに楽しんでいた。

 

 ミ「へ~、ジャック君もコダマ中学校に通うんだぁ~」

 

 ス「ビックリしちゃったよ。朝来たら、ゴン太とキザマロもうるさいのなんのでさ…」

 

 スバルは朝の出来事を、今日も登校しなかったミソラと共有していた。

 だがもちろん、ジャックとの珍事だけは胸の中にしまっておく。

 変な誤解をされない為に。

 だが一部始終を見ていたウィザードのウォーロックという、首に爆弾を下げた犬が一匹。

 

 ウ『スバルの方がうるさかったろ?ジャックとイチャイチャ―「ああああああああ!!」――』

 

 ミ「ん?イチャイチャ?」

 

 ス「なんでもないッ!!なんでもないよッ!!」

 

 ウ『ぐぎゃ…ッ!!』

 

 首を傾げるミソラを他所に、スバルは凄い形相でウォーロックの首根っこを掴み、自分へ手繰り寄せる。

 

 ス「ウォーロックは黙ってて…!いい!?」

 

 ウ『ば…ばい…!!』

 

 スバルは首根っこから手を離し、ウォーロックは距離を取って噎せながら息継ぎに全神経を集中する。

 スバルはウォーロックの失言から意識を逸らすために、彼にはお構い無しで話題を戻す。

 宇宙人のウォーロックに呼吸は必要もないし…

 

 ス「し、しかもさ、ジャックと一緒にクインティア先生まで担任として現れちゃってさ…!」

 

 ミ「え!?そうなんだ!」

 

 ス「それで委員長が、昨日の担任はどうしたんだ?って聞いたら、私の為に降りてもらっただって…!」

 

 スバルの話しを聞いて、ここでも例に漏れず、クインティアの件に対して憶測をするミソラ。

 

 ミ「それはきっと、WAXAの権力っぽいね…」

 

 ス「…だね……」

 

 クインティアについてよく知る2人の憶測は、確信の域にあり、そしてまた核心をついていた。

 クインティアとジャックは、スバルが小学6年性の頃、Mr.キング率いる犯罪組織ディーラの配下で、スバルを探る為、そのクラスに転校してきた事があった。

 ジャックは生徒として、クインティアは教育実習生として。

 そして今はWAXA日本支部に所属している。

 

 ミ「どうして学校に来たんだろぉ…?先生になるのが夢だったりしたのかなぁ~?」

 

 常に無表情で感情の起伏が分からないので断言は出来ないが、今日1日担任として、生徒に笑顔を見せる事がなかったクインティアが、先生を夢見ていたとはとても思えない。

 

 ス「んー…何か違う気がする…」

 

 ミ「じゃぁまた仕事かなぁ~?」

 

 きっとそうであろう。

 どちらかと言えば嫌そうな表情に見えたし、スバルは深く何度も頷くき、そうだろうと主張した。

 話題が尽きたところで、新しい話題を探してミソラの顔を見ると、後ろでハープが、ディスプレイの端から端を行ったり来たりしているのに気付く。

 

 ス「なんか…さっきからハープが忙しそうだけど何してるの?」

 

 ミ「ん?引越し準備だよ?」

 

 何故今頃、引越しの準備をしているのだろうか。しかもハープ1人で凄く忙しそうだ。

 電波生命体は汗を掻くことはないのだが、気の毒にも汗が流れて見える。

 

 ス「ボクも手伝いに行こうか?」

 

 ディスプレイの背景で、水をやった花が活力を取り戻すかの様な表情で、ハープは嬉しそうにこちら見る。

 しかし、

 

 ミ「だめ!汚い部屋だから見せられない!!」

 

 と、ミソラの一言で淡い希望は打ち砕かれる。

 ハープは手に持っていたミソラの楽譜を投げつけて抗議する。

 

 ハ『何でよ!?猫の手も借りたいくらいなのに!!』

 

 投げつけられた(楽譜)の束が、ミソラの後頭部を直撃する。

 ミソラは纏わり付く楽譜を蹴り払うと、床から抱える程の服を拾い上げハープに投げ返す。

 

 ミ「だってしょうがないじゃん!仕事で忙しかったんだもん!!」

 

 部屋中に飛び交う、セーターやスカートなどの衣類。

 中には下着までもが宙を舞っている。

 

 ハ『いっつもアナタが散らかしっ放しなのがいけないんでしょうが!!脱げば脱ぎっぱなし、やればやりっ放し!』

 

 ス(パ、パンツが…///あれは便宜じゃなくて本当に散らかってたんだ…)

 

 ディスプレイ越しに思いがけず遭遇した修羅場。

 スバルそっちのけで繰り広げられる光景から、引越し関係なしにミソラの部屋が如何に散らかっていたが伺えた。

 それから3分間、ミソラとハープのやり取りが一段落した所で、スバルに観られている事に気付く。

 ミソラは今まで自分が投げた物の数々を思い出し、顔が一瞬にして紅潮する。

 

 ミ「、今日中には荷物をまとめて明日は私も学校行くから…!よろしくお願いします…!///」

 

 ス「そっか、楽しみに待ってるよ!」

 

 真っ赤にした顔で取り繕うミソラに、不覚にも可愛らしく思うスバル。

 緩む表情と格闘していると、ミソラが遠慮した面持ちで相談を持ちかける。

 

 ミ「それで、お願いがあるんだけどさぁ~…」

 

 ス「どうしたの?」

 

 ミ「明日一緒に登校してくれない…?ちょっと不安なんだぁ~1人で行くって…みんなに顔指されるの嫌だし…」

 

 ミソラは国民的アイドルとい名声に決して自惚れている訳ではない。

 テレビ局やライブ終わりの出待ちから、ストーカー被害。

 変装しないで街中を歩く時はもちろん、変装していても気付かれる事が多々ある。

 久しぶりに学校へ登校すれば、1日中みんなに追われ

 て窮屈な生活を送っていた。

 スバル自身も、ミソラが突然に変装もせず現れて街中がパニックに陥るなど、色々と巻き込まれた事が何度かある被害者で、事の重大さは身に染みて分かっている。

 ミソラの為に、そして自分の為に、二つ返事で快諾する。

 

 ス「うん、いいよ」

 

 ミ「じゃぁ明日の朝スバル君家いくね!」

 

 ミソラは笑顔を取り戻し、ハンターVGをディスプレイを閉じようとした時、スバルに呼び止められる。

 

 ス「ミソラちゃん…」

 

 ミ「なぁに?」

 

 ミソラは寸でのところで手を止め、耳を傾ける。

 

 ス「気が変わったら連絡して…ボクも手伝いに行くよ」

 

 スバルに部屋の散らかり様を知られた以上、拒む理由はなくなったのだ。

 

 ミ「…あ…ありがとぅ……///」

 

 だが実は、更に深い闇が眠っている事をスバルはまだ知らない。

 それ故に、ミソラがスバルを呼ぶ事はないだろう。

 ハープの願いも虚しく。

 

 ハ『早く来てぇ――!スバル君ん―――!!

 

 

 

 

 

 


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