流星の標   作:-eto-

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第4話

 

 

星河家―――

 

 ミ「お世話になります!」

 

 あ「自分のお家と思って遠慮はしなくていいからね!」

 

 ミ「はい!」

 

 あ「あぁ~ん、もう!敬語もいらないわよ?」

 

 どういう訳だろう。

 あかねとミソラが何やら、自らの頭のキャパシティでは処理出来ない会話を繰り広げている。

 学校が終わり、家に着いて、学校生活への緊張感を拭う至福の場所で、今日1番の緊張感がスバルを襲う。

 

 ス「…あの…え?何の話?」

 

 ウ『スバル、深呼吸しろ…』

 

 ウォーロックは スバルの肩に手を置き、仏の様な悟った顔で深く深く何度も頷いた。

 ウォーロックのこんな顔など見た事がない。

 言い知れぬ雰囲気をウォーロックから感じ取るスバル。

 

 ス「そ、それで…?」

 

 スバルは意を決して問う。

(フッ、フフ!大丈夫大丈夫…何を言われても受け入れる覚悟は出来たさ。だって、ウォーロックのこんな顔、見た事ないものさ…)

 だが、あかねの一言でその甘い覚悟は足元から瓦解する。

 

 あ「我が家の新しい家族よ!」

 

 ミ「ヨロシクお願いします…!」

 

 ス「――――」

 

 後にハープは語る。

 その時のスバルは、ウォーロックと同じ表情をしていたと…

 

 ス「どゆこと…?」

 

 あ「そゆこと」

 

 ス「は?」

 

 正当な理由を求めるスバルに対し、無情にも受け流すあかね。

 

 ミ「じゃあ私、そろそろ帰ります。荷物も纏めるないといけないですし」

 

 あ「そ?じゃあまた、楽しみに待ってるからね!送ってあげなスバル」

 

 ミソラを送る事はいいとして、どうしてこう誰も取り合ってくれないのか。

 訳も分からずにこき使われ腑に落ちないスバルだが、取り敢えずミソラを送るため玄関のドアを開ける。

 

 ス「じゃあ行こうか、ミソラちゃん。あ、ご飯は要らないから。お腹一杯だし…」

 

 昼間の件を思い出して再び吐き気襲われるスバルに、ミソラはクスクス笑う。

 そのまま2人は笑顔で見送るあかねを背に家を後にする。

 闇夜に飾られた星々の照らす道を歩くスバルとミソラ。

 4月の冷たい風に頬を赤くし身を縮める2人の表情は寒さに負けない明るい顔をしている。

 

 ミ「突然ゴメンね。スバルくんに相談もせず…」

 

 ス「さっきの話?いいよ別に。まぁ、色々問題はあるとは思うけど…」

 

 それもその筈。

 中学生の男女が一つ屋根の下で暮らすというのは余りにも非常識だ。

 しかも相手は国民的スーパーアイドルという大き過ぎるブランドの魅力と誘惑に、間違いでは済まない間違いを犯してしまう可能性が大いにある。

 お互いに人生を180度変えてしまう分岐点に立つことになる。

 

 ミ「私はスバルくんを信じてるから大丈夫!」

 

 ス「は、はい…頑張ります」

 

 事の重大さを理解しているのか否か、軽すぎるやり取りに第三者からしたら不安を覚えざるを得ないが、真面目で硬派なスバルと、それを信じるミソラとの絆の強さが故なのか。

 

 ス「ところでさ、どうせ転校してくるなら今日の入学式に合わせて来れば良かったのに、何かあったの?」

 

 ミ「いやぁ~実はさ、もう入学手続きは済んでてね、私も立派なコダマ中学校の生徒として今日から学校に通う予定だったんだけど…今日の始業式に出ちゃうと騒ぎになるからってハープに止められたんだぁ~…」

 

 確かに、アイドルが入学式に混ざっていたら騒ぎになりかねない。

 校長先生のたじろぐ姿が用意に浮かぶスバル。

 ハープの判断は間違ってはいないが、頬を膨らませて不貞腐れた様子を見せるミソラを気の毒に思うスバルは苦笑いするしかなかった。

 

 ス「…あれ?」

 

 話題に触発され、朝の事を思い出していると、ふと自分のクラスに欠席がいた事を思い出す。

 

 ス「…あ!もしかして、欠席した2人の内の1人ってミソラちゃん?」

 

 ミ「そうだよぉ!ルナちゃん達も同じクラス?」

 

 ス「うん。びっくりする程みんな一緒だよ」

 

 嬉しくはあるが、あまりに出来すぎた偶然にスバルは少し戸惑う。

 

 ミ「へぇ~、良かったね!もしかして、ルナちゃんが賄賂でも渡してたりして…!」

 

 コダマ中学校の1年生は3クラスあるが、仲のいいメンバーが見事に集まる偶然に、ミソラは冗談を交えて喜ぶ。

 だが、スバルにはとても笑って聞き流せる冗談にはなかった。

 何故なら、ルナの行動力の恐ろしさには心当たりがあるからだ。

 

 ス「………なんか、冗談に聞こえないんですけど…」

 

 悲しいかな、校長先生に札束でパンパンの封筒を投げ付けて、手なずけているルナの姿が脳裏に浮かぶ。

 スバルは笑えない程、想像に難くない事に顔を引き攣っていると、ある疑問が頭を過ぎった。

 

 ス「…あれ?ちょっと待って…なんでミソラちゃん、ボクと同じクラスだって断言出来るの?」

 

 ミ「え…?…そのぉ~…ね!」

 

 笑って誤魔化したミソラ。

 それでもスバルは、拭えぬ疑問を見つめる様にミソラから視線を逸らさない。

 ミソラはスバルの視線に耐えられず、モジモジと答える。

 

 ミ「校長先生にサイン書いてあげたらさぁ~……」

 

 ス「賄賂じゃん!!

 

 スバルは突っ込まずにはいられなかった。

 ミソラは開き直って続ける。

 

 ミ「いやぁ~簡単でよかったよ!サインでダメだったら、紐を緩める最終手段に出るとこだったよ…!」

 

 ス「…ん?え?紐!?

 

 紐に過剰な反応を見せるスバル。

 まさかとは思いつつ…そこまで思い切ったことはしないだろうとは思いつつ…そんな慎みに欠けることはしないと信じつつも…それでも、紐を緩めるという意味を問いただすにはいられないスバル。

 それ顔は鬼気迫るものがあった。

 

 ス「紐って何!?どっちのですかッ!?

 

 荒くなる吐息に、額の尋常ならない汗。

 スバルを慌てように、ミソラは首を傾げながら答える。

 

 ミ「え?サイフの紐しかないよね…?」

 

 ミソラは他に意味あるっけ?といった表情でスバルの顔をのぞき込む。

 

 ス「あ…だよね―……ははは………」

 

 その無垢な瞳に、スバルは自分1人、考え及んでしまったその疑問に恥ずかしくなり、間抜けた声で必死に取り繕った。

 そして次第に、この先の生活に不安を覚えるのだった。

 

 ス(やっぱり、1つ屋根の下に自身をなくしてきたよ……)

 

 そうこうしている内に駅へと到着する。

 そして右の視界から強い光が射し込むと同時に鉄の擦れた音が近付いてきた。

 

 ミ「早いなぁ~もう電車が来ちゃった…もうちょっと話したかったのになぁ」

 

 電車は所定の位置で停車すると、幾つものドアが一斉に開き、次々と人を掃き出し、飲み込んでいく。

 あっという間だった、今日という1日に別れを惜しむミソラに、スバルは前向きな言葉を贈る。

 

 ス「…またすぐに好きなだけ話せる日がくるよ」

 

 ミ「うん!じゃあまたねぇ~!」

 

 ミソラは満面の笑みでスバルに手を振り、電車へ乗り込む。

 そして電車はドアを閉めて出発する。

 スバルはミソラを乗せた電車が見えなくなるまで見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――全員、お集まり頂けましたかな?」

 

 大きなテーブルを中心に四方八方、壁一面に数字の羅列やグラフ、地形など膨大な情報量を映しだすディスプレイが備えられた指令室。

 ここは宇宙科学を研究する国際機関《WAXA》と、電波犯罪を取り締まる組織《サテラポリス》の拠点である《WAXA日本支部》

 WAXA長官やスバルの父、星河大吾など各部署の代表達がテーブルを囲い、その中心人物であろう威厳をもった50過ぎの人物が、一人ひとりの顔を確認するように見渡す。

 そこへ、招集に対して遅れて現れた人物が1人。

 

「君には社会人としての自覚がないのかな?暁シドウ君…」

 

 若干20でサテラポリスのエースとして活躍し、星河スバルを筆頭に《電波変換》という、ウォーロックなどの特定の電波体との融合による電波化で、人外の力を得た者を集めた遊撃隊を指揮し、功績を残している《暁シドウ》

 統率力と陽気な性格で、皆からの信頼も厚いが、普段は肩の力を抜いて適当に行動している暁。

 

 シ「あ―――…どちら様で?見ない顔ですけど…」

 

「初めまして、暁くん。全員揃ったようなので、自己紹介させて頂こう」

 

 咳払いで間を置くと、その男は飄々とした態度で言葉を繋げる。

 

「アメリカやヨーロッパ諸国など、現場でテロを取り締まってきた、オリオンと言う。コードネームだ。本日よりサテラポリス長官として指揮を執る事となった。WAXA長官には快い協力をお願いしたい」

 

 シ「そんな話、聞いていませんが?」

 

 突然現れたオリオンとふざけたコードネームを名乗る自分の上司にあたる存在に、暁は目くじらを立てて食いつく。

 長官はそれを諌める様に、オリオンの立場に立って口を開く。

 

 長官「すまない。急遽、話が決まって連絡する暇もなかった。だが、電波犯罪におけるスペシャリストだ。その手腕は本物だから安心したまえ」

 

 納得がいかないと眉間にシワを寄せ、拗ねた態度を見せるが、お世話になっている局長の手前、渋々口を噤む。

 オリオンは、そんな暁の態度を鼻で笑い話を続ける。

 

 オ「では、早速仕事の話で申し訳ないのだが…私は今、とてもとても大きな懸念を抱いてきる…」

 

 指令室をピリピリとした緊張感が包む。

 彼の懸念は当然、テロ犯罪に対するものだという事を経歴が語っていた。

 メテオGによる地球の危機からまだ数ヶ月。

 新たな事件の予感に、面々が頭を重たそうに抱える。

 沈黙が支配する中で、暁は眉を顰めて問うた。

 

 シ「懸念って…なんです?」

 

 オリオンの次の言葉に暁達は驚愕の余りに席を立つ。

 必死に言葉の意味を模索するが、その答えが見つかる事はなく呆然と立ち尽くす。

 

 オ「―――星河スバルの件だ…」

 

 だ「な、何故…息子が懸念なんて…!」

 

 シ「自分が何言ってるか分かって言ってます…?彼は3回も地球上を救った、1番の功労者だ」

 

 1度目は今から5年前のスバルが小学2年生の時、WAXAが地球外生命体を見つけ、スバルの父《星河大吾》が地球外生命体との交流を図って宇宙ステーション《絆》を打ち上げる。

 そして友好の証、ブラザーバンドを結ぼうとするが、それを敵意と誤認してウォーロック率いるFM星人から襲撃に遭う。

 後に負い目に感じたウォーロックは3年後、FM星を裏切り大吾の息子、スバルの下へ現れる。

 そしてFM星は裏切り者の始末の為に地球への攻撃を始めるが、スバルとウォーロックの抵抗に戦いは肥大化し、地球を危険視したFM星は地球を破壊する為に戦争を仕掛ける。

 スバルは人知れず戦い続け、遂にFM星の王《ケフェウス》と和解するに至った。

 2度目は、FM星との戦いから2ヶ月後、地球の支配を企む科学者《オリヒメ》が、遥か昔に栄えた古代文明の遺産《オーパーツ》の秘めた強大な力を利用し、《ムー大陸》を復活させようとした。

 それを阻止する為の戦いを繰り広げ、地球をオリヒメの野望を打ち砕いた。

 これを機に、ロックマンの存在が世界で認知されるようになる。

 そして3度目は、表向きはキング財団の天才科学者キング博士として、多額の寄付で社会に貢献し、多くの孤児を育てていた男《Mr.キング》だが、裏では犯罪組織《ディーラー》を率い、メテオGの力を利用することで地球の支配をもくろんでいた。

 暁シドウはスバル達の集まる遊撃隊を指揮し、ディーラと全面対決。

 追い詰められたディーラはヤケを起こし、メテオGを地球に衝突させようとするが、スバルは世界中の人達の応援を背に受け1人メテオGへ突入し、これを阻止した。

 

 オ「彼は偉大な功績を残した。国家の枠を越え、世界中の人間が称賛した。3度の危機を乗り越えたその力…奇跡や偶然で片付けるには余りにお粗末だ」

 

 スバルを疑いながら、それでも称賛してみせるオリオン。

 これから国を挙げて星河スバルを表彰すべきとでも言い出しそうな雰囲気だ。

 勿体付けた言い方に、苛立ちを隠せないでいる暁に代わり、WAXA長官は彼の言葉の意味を探る。

 

 長官「つまり?貴方の言い方ではスバル君を褒めているように聞こえますが?彼の力は本物だと…」

 

 オ「そうだとも。だからこそ、彼の存在は隠しとくべきだった…」

 

 シ「は…?」

 

 皆が戸惑いを見せる中で、オリオンはここで更に、話の本題である大きな問題を突き付ける。

 

 オ「つまり…彼の気分で振るうには余りに過ぎた代物だと言うことだよ。中学1年生の純粋で、これからどう成長するかも分からない子供が、世界を掌握し得る力を持つなど危険過ぎるとは思わないのか?誰が星河スバルの将来の人格を保証する?組織という組織は彼に目を付け、狙っている。綺麗な水が、邪な輩に濁されてからでは遅いと考えないかね?」

 

 スバルの力を裏付ける根拠として、その活躍と実績は充分すぎる。

 そして、その力が幼い少年の手に収まる程のものならば、利用価値が多岐に渡るだろう。

 様々な思惑を持った人間が、その力の根源に注目するのは必然だ。

 

 だ「なら俺達大人が、濾過してやればいいじゃないですか!息子の為ならなんだってする!」

 

 だが、スバルの人柄を良く知っている暁達からしたら、不快以外の何物でもない。

 当然、スバルを擁護する立場を示すが、オリオンに直ぐさま切り返される。

 

 オ「出来るのか?君1人でか?相手は巨万といるんだぞ?(スバル)がドス黒く汚れきってからでは遅いと言ったろう?人格形成とは十色の()に塗れて出来上がるものだ。清くいられるモノなど無い。ならば濾過等と後手に回らずとも、事前に我々が色を付ければいい」

 

 中学生となれば、以前にも増して視野が広がり、様々な世界を垣間見る事にもなる。

 お金持ちの親を持つ者。

 友達が沢山いるクラスのムードメーカー。

 頭脳明晰で進路が保証されている者。

 皆が羨む彼女を連れている者。

 スポーツ秀でている者。

 周囲と自分を重ねては、嫉妬にイライラしたり、俯いたり、それは自己を確立する土台を建てる期間で、不安定な精神状態が続く。

 金をぶら下げ、女を抱えて近づき、イライラと傾いた感情を助長する者。

 俯き凹んで生まれた隙間を埋める者。

 そんな輩が近付けば、欲を優先する歳頃の彼等に正論は煙たくもなる。

 スバルがどう転ぶのか不確定要素に尽きない事に懸念を覚えるのは当然の事だ。

 それは暁達も同様で、彼の真っ直ぐな成長を保証出来るの者は誰もいない。

 反論しようにも反論材料が無く、指令室の時間が止まるなか、大吾はゆっくりと口を開く。

 

 だ「それで貴方は…息子をどうしたいんです…?人目に触れないように(スバル)を隠しますか?それとも…火にでも掛けるつもりで……?」

 

 悔しそうに眉間を寄せる大吾。

 オリオンは彼の言葉に微笑を浮かべる。

 

 オ「隠してはいずれ、水が腐る…火に掛けるのは最後の手段……今は彼を監視下に置く。方法については既に準備を進めている」

(そして最終的には…その水を真っ赤に染めるつもりだ…星河大吾よ)

 

 オリオンは頭で描く思惑に、意地悪な笑みがこぼれる。

 

 オ「実は日本へ戻る前に、民間から技術者を募っていたのだが…なかなか優秀な人材が揃ってきたのでね。そろそろ事に移ろうと思う」

 

 シ「なぜ民間の技術者を…?技術に富んだWAXAを使えばいいじゃないですか」

 

 オ「それはまた、後程…君にも快い協力をお願いするよ?暁君」

 

 オリオンは用が済んだと言わんばかりにスタスタ指令室から立ち去り、暁はその後ろ姿を、歯軋りを立て睨みつける。

 WAXA長官は陽気な暁の荒れように、オリオンの懸念を嫌でも理解せざるを得ないのだった。

 

 長官「やれやれ…どうやら、彼と暁君は恐ろしく馬が合わないようだ…これはしばらく荒れるな…」

 

 

 

 

 

 

 


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