流星の標   作:-eto-

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第3話

 

 コダマ公園―――

 

 ミソラとの待ち合わせ場所では、何処で食事をするか相談していた。

 ゴン太の牛丼と、ルナの高級レストランに、2つ案に苦い顔をしているキザマロの3人で議論を繰り広げている。

 スバルは少し距離を置いてその様子を眺めていたいた。

 

動くな…」

 

 ス「…え?」

 

 スバルの背後から何かが突き付けられている感覚と共に高い声が聞こえた。

 そして更に、声の主は言葉を続ける。

 

騒がずに私の言う事を聞かないと、お前のハートを撃ち抜くぞ?

 

 抵抗も見せず、固まった様にただ立ち尽くすスバル。

 緊張に打ちひしがれ、大量の汗を掻いて震えているのだろう。

 声の主は後ろからチラッとスバルの表情を覗く。

 すると驚く程に緩い表情をしていた。

 聞き方次第では口説いている様な脅迫に、恐怖など微塵も感じてはいなかった。

 

 ス「どうやら悪役は向いてない見たいだね、ミソラちゃん」

 

 ミ「えぇ~!何で分かったのぉ!?」

 

 スバルは振り返って、久しぶりに顔を見合わせた。

 だが、互いに想像していた再会とはちょっと違っていた。

 驚かせてやろうと迫真の演技で迫ったミソラだったが、見合わせたスバルの顔は意に反していた為、頬を膨らます。

 スバルはシンプルに笑顔で再会するものと思っていたが、何やらミソラは機嫌が悪そうな顔だ。

 

 ス「あれ…怒ってますか……?」

 

 ミ「怒ってると思う?

 

 問われずとも、ミソラが纏う殺気にスバルは恐る恐る頷く。

 するとミソラは満面の笑みで返した。

 

 ミ「怒ってませんでしたぁ~!まぁちょっとだけショックだったけどねぇ」

 

 悪役が嵌らなかった為、今度は怒った演技でスバルを驚かせて見せたのだった。

 だがそんな事より、ルナが怒った時に放つ殺気を垣間見て、余りの臨場感にスバルは頭が上がらなかった。

 

 ス「さ、さすが大女優だね…委員長を見た気分だったよ

 

 この時スバルは思った。

 ミソラもルナと同じ、決して怒らせてはならない人種なんだと。

 予定通りミソラも合流し、問題の昼食。

 その前に、ミソラは無謀にも変装をしないで来ていた為、騒ぎになりかねないとルナがハンターVGからリアルウェーブで洋服のデータを取り出し、オシャレに着せ替えた。

 その後、各自家に連絡を入れ、ゴン太の牛丼とルナの高級レストランが候補に上がっていたが、ミソラの一言で両案共に却下され、ファミリーレストランへ行くことが決まった。

 

 

 

 

 

 

 ―――――

 

 お店に入り、店員に席を案内される。

 ミソラは真っ先に奥の席へ腰を下ろす。

 そしてスバルを隣へ手招きして、スバルもそれに従う。

 更にルナもスバルの隣へ座り、両手に花の状態になる。

 必然的に取り残されたゴン太とキザマロは、スバル達の向かいに目くじらを立てながら席に着いた。

 机に並べられたらメニューを各々手に取り、食べたい物を選ぶ。

 

 ミ「う~ん…どうしよっかなぁ~」

 

 ゴ「オレ決まったぜ!」

 

 キ「僕も決めました!」

 

 ル「結構色々あるのね…迷うわ」

 

 ス「僕も決めた」

 

 男子の面々は次々とメニューを決めるなか、女子はなかなか決まらずにいた。

 男子と違い食べられる量も限られる為、お腹と相談しながらメニューと睨めっこしていると、ゴン太が助け船をだした。

 

 ゴ「ミソラちゃん!残った分はオレが食べてやるぜ?」

 

 ミ「ホント!?」

 

 ゴン太にとってミソラは憧れの存在。

 男らしさをアピールするには絶好のチャンスだ。

 だが、このアピールポイントに気が付いたのはゴン太だけではない。

 キザマロもまたミソラは憧れ。

 負けじとゴン太に被せてきた。

 

 キ「ミソラちゃん!僕も全然手伝いますよ!いや、手伝わせて下さい!」

 

 ゴン太とキザマロは睨み合う。

 互いの対になる視線は線香花火の様に散り、男の醜い争いが始まろうとしている。

 そして、2人が散らす線香花火が、短い導火線に飛び火した。

 導火線の燃える音が、徐々に消えて行くと同時に2人の血色が引いていく。

 導火線の先には線香花火とは比較にすらならない打ち上げ花火が用意されていたのだ。

 

 ル「わたし(・・・)は…?」

 

 ゴ・キ「も、もちろん手伝わせて頂きますゥゥッ!!

 

 2人は額に大量の汗を流し、机を舐めるように顔を擦り付けて頭を下げた。

 

 ル「だったら迷うことはないわ。ね?スバルくん」

 

 ス「え?何で僕?」

 

 唐突に呼ばれて素っ頓狂な声を発するスバルの肩に手を置き、ルナは一言。

 

 ル「連帯責任よ」

 

 意味も分からぬまま責任を問われ、しかもルナの放つオーラに息苦しくて言葉が詰まるスバル。

 みるみる顔から血の気が引いていく。

 

 ミ「いいのかなぁ…?」

 

 ル「彼らに遠慮なんか要らないわ。」

 

 戸惑いを見せるミソラに対し、ルナは情け容赦なく店員を呼んで注文を促す。

 

 ル「アナタ達、先頼みなさい。私達時間かかるから」

 

 嫌な予感しかしない男子達は、ルナの威圧に負けて否応なく料理を注文する。

 ゴン太はハンバーグとライス大盛りのセットに、ソーセージグリル。

 キザマロはミートスパゲティ。

 スバルはホッケの塩焼き和膳。

 そして、いよいよ女性陣の番が。

 

 ミ「じゃぁ~私カルボナーラ!あと黒酢の酢豚和膳とシーザーサラダに、若鶏のグリルチキンとガーリックトーストで!」

 

 スラスラと並ぶ料理名に男子達は呆然。

 戸惑っては見せたものの、好奇心には負けるミソラは遠慮がなかった。

 キザマロはブツブツと料理名を反復し、ゴン太は頬を引き攣らせて窓の外に広がる平和を眺めて現実逃避。

 そしてスバルは両手のひらを合わせ、天を仰ぎ見て念仏をひたすら唱える。

 男3人が思う事はたった1つ。

((許して下さい委員長…!どうか!どうか情け容赦を…!!))

 

 ル「私わね…リブステーキに生ハムのサラダ、ピザとオニオンスープにペペロンチーノ」

 

((うんうん。OKィOKィ…もうストップ。もうストップだッ!!))

 

 ル「それから山盛りポテトにビーフシチューオムライス」

 

((終わりだ!終わりだよ!もう終わってくれよ…!!))

 

 ル「あ!あとミートドリアと目玉焼きハンバーグにほうれん草のグラタンをお願いしますわ」

 

「「ちょっとォォォッ!!」」

 

 怒り出したルナに慈悲など皆無。

 ミソラの倍の数もの料理を澄ました顔をして注文して見せるルナに店員も空いた口が塞がらない。

 

 キ「そんなに食べられるんですか!?」

 

 ル「それは自分に問うた方が早いんじゃなくて?」

 

 問うまでもない。

 これだけの料理、例え育ち盛りの男3人であろうとこれだけの量を食べ切れる訳がない。

 男3人は静かに頷く。

 

((うん、残そう…!!))

 

 だが鋭い五感の持ち主ルナは、スバル達の考えをすぐに察知し、一言釘を刺した。

 

 ル「残したら承知しないわ…!!」

 

((読心術を心得てらっしゃるゥゥッ…!!))

 

 スバル達の地獄が幕を開けた。

 次々に運ばれて来る料理に備え、各自ドリンクを用意しに男達は席を立つ。

 最低限1人コップ3つは持ち、なるべく量を確保すべく氷は入れずにドリンクを汲む。

 手の大きなゴン太は加えてルナ、ミソラのドリンクも確保して席に戻る。

 途中店員とすれ違い、同時に見えたのは丁度すれ違った店員が運んだであろう料理が並べられたテーブル。

 そして、ルナとミソラは届いた料理に次々と手をつけいく。

 その様子を見ながらスバル達はドリンクを置き席に着く

 。

 と、さっきまで不規則に並べられていた料理が、男達3人の前に綺麗に配列られていた。

 しかも、どの料理も殆ど2口3口分程度しか減っていない物ばかりだ。

 戸惑う3人にルナは鋭い眼光で威圧し、食を煽る。

 仕方なく目の前の料理を口に運んでいくが、その間にも雪崩の様に次々と並べられる料理。

 それをルナとミソラは、気に入った物はそれなりに食べるものの、それ以外は味見程度にしか食べない為、目の前の料理が一向に減る気配を見せない。

 

 ゴ「うぷッ…気持ち悪いぜ…」

 

 キ「ゴ、ゴン太くんが…頼り…なんですから…弱音…吐かないでください…ゲプッ!」

 

 ス「は、吐かないでよッ…!?ヒクッ!――やば…」

 

 もう既に限界が近い3人の必死な形相にミソラはニコニコしながら人事の様に眺めている。

 

 ス「何で笑ってるの…?」

 

 ミ「なんか平和だなぁ~って!」

 

 ス「ゎ―――げふッ!?」

 

 耳を疑う台詞に言葉が喉で詰まり、代わりに腹の中の物が出そうになる。

 そこへ追い打ちを掛ける様に追加の料理が運ばれて来た。

 

 ル「さぁ早くお皿を空けなさい。店員さんが置く場所なくて困ってるでしょう?」

 

 ゴ「委員長も手伝ってくれよ…」

 

 ル「やかましい」

 

 ゴン太の切実な願いも虚しく、ルナはあくまでも自分の食べたい物を自分のペースで食べ進める。

 男3人は仕方なく無理やり腹に料理を突っ込み、なんとかしてお皿を空け、そしてまた料理が運ばれお皿を空けるを繰り返す。

 一通り注文した料理が到着し、2時間後。

 重たい顎を動かし、味のない異物をドリンクで喉の奥に流し込み続け、とうとう完食を迎えることが出来た。

 

「「やっ―――たァァァァッ!!ぅ、ウップ…!」」

 

 男3人勢いよく立ち上がり歓喜に震える。

 そして吐き気にも震える。

 そんな3人をミソラも拍手で賞賛するが、今にも吐きそうな3人を見て物理的にかなり距離を取っている。

 ルナは微笑み何度も頷いて、とても共感している様に見える。

 たが、直後に店員が現れ水を指すようにルナはメニューを覗いて注文を始める。

 キザマロは慌ててルナを呼び止める。

 

 キ「ちょっと!何してるんですか!?」

 

 ル「ん?デザートよ」

 

 当然だと言わんばかりの表情で、首をひねる。

 

 キ「何でデザート頼んでるんですか!?」

 

 ル「食べたいから」

 

 キ「あ―――そりゃ…そうですね…」

 

 人が料理を注文する理由はたった一つ。

 聞きたい事はそんな事ではないが、ルナの一言に納得をせざるを得ないキザマロ。

 ルナは間を置いて注文に戻る。

 ニ品、三品と数が増すにつれ、さっきまでの地獄が脳裏に過ぎる。

 

 キ「ちょっと待って下さい!…1人で食べるんですか…?」

 

 ル「まさか

 

 キ「ですよね~…」

 

 即答された事に涙するしかないキザマロ。

 スバルとゴン太も第一次大戦(料理を食べ終わった)の矢先に、意気消沈で白目を向いている。

 しばらく俯いていると、やっとルナの注文が終わりを迎える。

 だが、店員が去っていく雰囲気が全くない。

 頭に?マークが浮かぶよりも早く、スバルの隣から、日本中が聞き惚れた可愛らしい黄色い声が響く。

 その黄色い声が鼓膜を震わす度、世の人達は元気を貰ったものだが、3人は逆に元気を失う。

 犯人は当然ミソラだ。

 ルナ以上に、スラスラと教科書を朗読する様にデザートを注文していく。

 

 キ「ど、どうか…!お許しください…ミソラちゃん……!お願いします……!!」

 

 震えた声で許しを乞うギザマロに、ミソラは思い掛けない発言をする。

 

 ミ「あ、これ全部私が食べるから大丈夫!」

 

「「………え?」」

 

 満面の笑みを見せるミソラに、被害者3人組だけでなくルナと店員も間抜けた声をだす。

 ミソラいわく、デザートは別腹、片道切符でブラックホール行きらしい。

 いくらでも食べられるミソラは、第二次大戦(デザートを手伝って)でスバル達の英雄として祭り上げられたとか…

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――

 

 地獄の昼食を終えて。

 太陽が地平線に被り、空に星達が顔を覗かせる夕方。

 月に見守られながら帰路につくスバル達。

 話題はミソラの入学先ついて、重大発表がされていた。

 

 ミ「実は私、近々みんなの学校に通う事になったから、ヨロシクね!」

 

「「え!?」」

 

 男達は驚き、そして舞い上がる。

 特に、ゴン太とキザマロは憧れのアイドルとの学園生活に妄想が膨らんで止めどなく、緩みきった表情を見せる2人には目も当てられない。

 そんな男達とは対照的に、ルナは冷静に1つの疑問を投げかける。

 

  ル「どういう事なの?何でミソラちゃんがうちの中学校に?」

 

  ミソラは、ここ《コダマタウン》からかなりの距離がある《ベイサイドシティ》という場所に住んでいて、小学校も当然ミソラだけ違う。

  ルナの疑問は最もだった。

 

  ミ「え―っとぉ…こっちにはスバルくんがいるからぁ―――」

 

  ミソラから躊躇なく出た一言「スバルくんがいるから」

  この言葉が皆の(特にルナの)逆鱗に触れる。

 

  ル「ス·バ·ル·く·ん…がァッ!?

 

  慌ててミソラは補足を入れる。

 

  ミ「あ、もちろん皆もね!あっちには仕事が忙しくて友達とかいなかったしさ…へへへ」

 

  ミソラはヘラっと笑ってみせるが、どこか寂しそうな表情が伺えたスバル達。

  一瞬気まずくなる空気に、空かさずキザマロは明るく話題を切り替える。

 

  キ「僕は感激です!憧れのアイドルと同じ学舎に通えるなんて!」

 

  キザマロは、低い頭を更に低くしてミソラに手を合わせて拝みはじめる。

 

  ミ「キザマロくんったらぁ…恥ずかしいから止めてよぉ~…\\\!」

 

  キ「いえいえ!誰が女神様を前に顔を上げられましょうか!」

 

  キザマロのその腰の低過ぎる姿勢にスバル達は笑い合う。

  そして、それを上空から微笑ましく眺める3人がいた。

 

  ウ『ケッ!平和ボケしてやがるなスバルの奴』

 

  『ポロロン…いい事じゃないの』

 

  ウォーロックと、その隣にいるのは《ハープ》と言うミソラのウィザード。

  弦楽器の琴の様な姿をしていて、ウォーロック同様、彼女もFM星から来た宇宙人である。

  そして、

 

  『ブロロロ!平和ボケは許さん!何故ならオレがヒマになるからだ!ブロロロ!いざ、オレを楽しませろっ!』

 

  彼は『オックス』

  同じく、彼もFM星から来た宇宙人。

  現在はゴン太のウィザードで、台詞の通り血の気が多くて猪突猛進。

  姿も頭の中も牛の様な男。

 

  ウ『お?やるかオックス!オレも退屈してたところだぜ!』

 

  オ『お?やるかウォーロック!オレ達だけでも危機感を持って行動しなくてはな!』

 

  主張が一致した2人。

  ウォーロックは、人間の真似をして無い裾をまくり、オックスは牛の様に前屈みになり、前足で何度も地面をかく。

 

  『『いざ!』』

 

  ゴツン!!

 

  周囲に響く鈍い音。

  互いの掛け声で勢い良く駆け出した。

  そして、待っていたのは相手の拳や角ではなく…

 

  ハ『ウッさいわね!近所迷惑でしょがバカ2人ッ!』

 

  ハープのゲンコツだった。

 

  ウ『アアアァァアァァアアッ!!

 

  ウォーロックは痛みの余り奇声をあげ、オックスはダウン。

  その場で倒れ込んだ。

 

  ウ『テメェ!何すんだコノヤロウ!』

 

  ハ『アン?

 

  ウ『…な、何でもないです…』

 

  星は違えど、男と女の力関係は変わらないようだ…

 

  ウ(やっぱりオレ、コイツ苦手だ…!これからコイツと毎日顔を合わすのか…!)

 

  頭を抱えて、明日以降の学校生活に絶望を感じているウォーロック。

  しかしハープは、更に下の地獄へとウォーロックを叩き落とす一言を発する。

 

  ハ『あ!そういえば、しばらくお世話になるからヨロシク頼むわね』

 

  ウ『…ン?』

 

  何の事かさっぱりのウォーロック。

 当然、冴えない表情で目をパチパチさせている。

 それを見て、ハープはニコッと微笑みかけて一言。

 

  ハ『ミソラの転校に合わせてスバルくんのお宅に住まわせて貰うから』

 

  ウ『…っ―――!!??』

 

  その時、ウォーロックはムンクの叫びの様な形相をしていたと言う…

 

 

 

 




ベイサイドシティについて、流星のロックマン本作では、ミソラが住んでいる場所という以外の事は語られて居ないので、コダマタウンからどれ程の距離があるのか実際は分かりません…汗

ベイサイドシティの街並みや、地理的な事は一切分からないので、「そんな街があるという」軽い認識でお願いしますm(_ _)m

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