流星の標   作:-eto-

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第2話

 

 

 ここは県立コダマ中学校。

  時刻は9時過ぎ。

  始業式が終わり、教室では各々が同じ小学校上がりの仲間と顔を合わせていた。

 

  「オッス!元気だったかスバル!?」

 

  スバルの名を呼んだのは《牛島ゴン太》

  仲間思いの男気と、それに負けないドテン!と出たお腹の存在感が特徴。

  牛丼が大好物で朝昼晩、毎日食べるくらいの牛丼中毒者。

 

  「お久しぶりね。中学でもお願いするわ、スバル君」

 

  そして次に声を掛けてきたのが、お金持ちのお嬢様《白金ルナ》

  巻き髪のツインテールが印象的な女の子。

  彼女は小学校の頃に委員長をしていた為、皆から《委員長》と呼ばれ親しまれている。

  責任感が強く、真面目で面倒見がいい。

  しかし、心配性であるが故に強引な時が多く、良くも悪くもお節介焼き。

 

  「どうもです、スバル君。皆同じクラスですね!」

 

  そして最後に《最小院キザマロ》

  彼は身長が低い事がコンプレックスでいて、頭脳明晰ではあるが、それも委員長こと白金ルナには劣る為、少しネガティブな性格。

  ちなみに、あらゆる情報を網羅すると豪語する都合の良すぎる《マロ事典》を持っていて、情報に長ける。

 

  彼等は白金ルナを筆頭に、よく3人で行動している。

  というか、ゴン太、キザマロ共に、白金ルナの従者みたいな感じだ。

  最近はスバルもその枠組みに入りかけている。

 

  ス「良かったよ。皆またと同じクラスで勉強出来るんだね」

 

  ゴ「おうよ!また皆で遊べるな!早速今日、学校終ったら遊び行こうぜ!」

 

  心の通じた仲間との学園生活は、人生を華やかにするもの。

  素直に喜ぶスバル達だが、その場の空気に溺れるゴン太は既に浮かれまくっている。

  あまり良い成績ではないゴン太にキザマロは釘を刺す。

 

  キ「ゴン太君?遊びもいいですけど、たまには勉強に力を入れては?ただでさえ痛い頭をしてるんですから。色んな意味で」

 

  端的だが、一言多い忠告。

  (言いすぎなんじゃ…)と思ったキザマロ含め、スバルとルナ。

  これは怒り出すとおもったら…

 

  ゴ「ん?ど―ゆう意味だ?ムズカシイことは分かんねぇな」

 

  (…ウソでしょ)と呆れる3人。

  ゴン太の知能は予想以上に壊滅的だった。

 

  ル「そんな事より!係を決める時には委員長に立候補するから!あなた達、私に投票しなさいよ!?」

 

  ルナの目は熱く燃えていた。

 

  ス「委員長、また委員長やるんだ…」

 

  キ「当たり前です!委員長は常に委員長でなくては!それが、委員長たる所以!もし委員長が委員長じゃあなくなったら委員長じゃありませんよ!…あれ?委員長じゃあなくなったら委員長じゃない…?あれ?」

 

  委員長委員長言い過ぎて、自分でも何を言ってるのか分からなくなるキザマロ。

  ブツブツと、こんがらがった言葉を1人整理していると、背後から殺気が。

 

  ル「…アンタ、私の事バカにしてるの?」

 

  白金ルナは怒り出すと物凄い殺気を放つ。

  前世で2,3人殺していそうな…スバル達は、ルナが怒り出すと手がつけられないのは身に余るほど知っている。

 3人は無言で咄嗟に土下座。

 

 ル「アンタ達私にどんなイメージ持ってんのよ!!

 

 逆効果だった。

 そこへ、助け舟を出すようにタイミングよく教室の戸を開け、教壇へ立つ。

 それと同時に始業チャイムもなる。

 皆一斉に自分の席へ着席すると、先生は手に持った出席簿やプリントを教卓に置き、明るく声で挨拶を始めた。

 

「おはよう皆、初めまして!」

 

 クラス一同緊張した面持ちの中で、クラスの半分程度が挨拶に応じる。

 その中で、ルナだけは違った。

 背筋を伸ばし、今からでも委員長に立候補せんと言わんばかりの気迫に良くも悪くも1人浮いていた。

 

((さすが委員長だ…))

 

 スバルとゴン太、キザマロは常に堂々といられるルナの胆力に恐怖を感じ取った。

 先生は自己紹介を済ませた後、クラス一人ひとりの顔を見ながら出席を取り、保護者向けのプリントや教科書を配り、1日目の中学校生活は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 大都会のとある高セキュリティマンション―――

 高度な警備システムで守られた誰もが羨む高級マンションの3LDKの1室。

 外界との繋がりを断つように閉め切られた窓。

 そして太陽の日差しを遮る茶色のカーテン。

 洗礼されたインテリアや観葉植物には埃が積もり、間接照明の蛍光色が、床に散らかる紙切れや脱ぎ捨てられた服を闇から照らす。

 キッチンからは立ち上る煙と共にヤカンが悲鳴を上げている。

そしてこの部屋の主であろう人が、のそのそヤカンに近付く。

 火を止め、熱々に沸騰したお湯をカップに注いでスプーンで掻き回し作り上げたココアを口を付けながらソファに腰を下ろす。

 そして、リモコンを握ってテレビをつけると溜め息が零れた。

 

「はぁ…」

 

『ポロロン…どうしたの?ミソラ』

 

 《響ミソラ》

 彼女はわずか12歳ながら、歌手から始まり、CM、ドラマ、バラエティなど、様々なジャンルにTV出演し、知らない人がいない程の知名度を誇る国民的アイドル、大スターだ。

 富と名声に溢れ、これ以上無い幸福を手にした彼女の心は事もあろうに殺伐としていた。

 1人住む、この部屋の様に。

 

 ミ「暇ぁ…テレビもつまんないなぁ…」

 

『じゃあこの部屋片付けたら?引越しの準備もしないと』

 

 ミ「イヤだ。せっかくしばらく休みなんだもん。ハープが片付けてよぉ」

 

 《ハープ》

 弦楽器の琴の様な姿をしていて、ウォーロック同様、彼女もFM星から来た宇宙人である。

 現在はミソラの生活のパートナー、ウィザードとして一緒に生活している。

 

 ハ『甘えるんじゃありません』

 

 ミ「じゃぁお腹すいたぁ…」

 

 ハ『じゃあって何よ!使い方がおかしいでしょうが!』

 

 ミ「お腹すいたァァ~!」

 

 駄々をこねるミソラに、諦めたようにキッチンへ向かうハープ。

 四角い電子レンジの様な家電製品にお皿を入れて、ちょっとした操作の後にスイッチを押すと、みるみる料理が出来上がっていく。

 完成したのはナポリタンスパゲッティ。

 ハープは料理の乗った皿をミソラの前へ運ぶ。

 

 ハ『召し上がれ』

 

 ミ「ハープぅ~…」

 

 ハ『なぁ~に?』

 

 ミ「アイス取って来て」

 

 ハ『―――は?

 

 スパゲッティを運んできた矢先にアイスを要求されて

 ハープは口を開いて呆然とする。

 

 ハ『アイスなんかどうすんのよ…』

 

 ミ「食べるに決まってるじゃん」

 

 ミソラは湯気の立つ熱々出来たてのスパゲッティを前に知れっと言ってのける。

 

 ハ『ナポリタンと一緒に食べるのかしら?』

 

 ミ「まさかぁ~」

 

 ハープのトンチンカンな問いかけに対して、ミソラは茶化すように笑って答える。

 

 ハ『だよねぇ~』

 

 ハープはミソラと顔を見合わせ、確かめ合うように一緒になって笑う。

 そして少し間、沈黙が部屋を覆い―――

 

 ハ『それを食べてからにしなさいよ!!

 

 ハープは激怒した。

 

 ミ「フードサスペンサーは美味しくないんだもん…イヤ」

 

 頬を膨らませてぶうぶう言い、ミソラはスパゲッティの皿の淵をフォークの先で突っついてちょっとずつ奥へ奥へと追いやる。

 

 ハ『我が儘言わないの!勿体ないでしょうが!』

 

 ハープはそれを元の位置に押し戻す。

 

 ミ「じゃあハープが食べれば?」

 

 そしてミソラは再び奥へ追いやった。

 

 ハ『お腹空いたんでしょう!?』

 

 ミ「美味しくなくっちゃお腹が膨れないもぉ~ん」

 

 ハ『アイスだって同じでしょうが!まったくもう…!アンタって子は―――――』

 

 ハープは止むを得ず、溜め息混じりにスパゲッティを口いっぱいに頬張りながらブツブツ説教を垂れる。

 口の中の物が滑舌を悪くし、ミソラの耳には届いてはいない様子だが。

 

 ハ〔…ミソラったら……しょうがない子ね〕

 

 母親を2年前に亡くし、父親は生きているのか死んでいるのか、父親の話は生まれて此の方耳にすら入った事はなかった。

 母親と住んだ家を離れ、だだっ広いこの部屋で自分1人とウィザード1体の生活にミソラの顔に影が覆い、喉を通る食べ物の味気なさが増して、食が細くなるこの頃。

 滲み出るどうしようもない孤独感に染られたミソラの心中を察する。

 ハープは空気を変えようと、ミソラに明るい提案をする。

 

 ハ『ミソラさぁ、暇ならもうすぐ午後だし、スバルくんに会いに行けば?下見も兼ねて(・・・・・・)

 

 すると案の定、身を乗り出す様に食いついてきた。

 

 ミ「…え?まだ学校じゃないのぉ?」

 

 ハ『終わってるでしょ。初日は主に入学式だけよ』

 

 流石ミソラのウィザードだけあって、元気になれるツボを心得ているもので、一気にミソラの表情は晴れやかになった。

 

 ミ「行くっ!!

 

 ミソラはハンターVGを手に取って、早速スバルへ電話をかけた。

 それをハープは意味深にニヤケ顔で眺めていた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、スバルにルナとゴン太、キザマロは小学校の時の様に4人一緒に下校していた。

 

 ス「なんか、小学校とは通学路が違うから新鮮だね」

 

 キ「それに距離も前に比べてありますね。」

 

 馴染みのない通学路に並ぶコンビニやレストランにスーパー。

 脇に入ればカフェや住宅街等、スバル達4人は着実に成長している実感に溢れていた。

 

 ゴ「おお!あっちに牛丼屋があるぞ!?毎日食って帰れるな!」

 

 キ「勘弁して下さい。毎日牛丼なんて食べてたら皆ゴン太くんみたいに太っちゃいますよ」

 

 ゴ「ん?」

 

 ゴン太は頭の中でキザマロの言ったことを想像する。

 

(土手っ腹のスバルに華奢な身体のルナは太鼓腹。

 そしてキザマロは―――あ?

 どういう訳かキザマロは小さなまま。

 ゴン太の頭の中では、どうしたってキザマロが大きくなるイメージが湧かなかった。

 

 ゴ「お前は大丈夫だろ?ちっちぇんだからよ」

 

 キ「グフゥッ…!」

 

 1番気にして止まないコンプレックスをゴン太に一突きされたキザマロは狼狽える。

 マロ事典の情報を駆使して身長を伸ばす為にあらゆる努力をしてきたキザマロには辛い一撃だった。

 

 キ「そ、それは…言ってはならない言葉ですよ…!」

 

 ル「そんな事より

 

 キ「―――え、そんな事?

 

 反撃に転じようとしたキザマロだったが啖呵を切った矢先、ルナに遮られる。

 蔑ろにされた様な横槍に納得がいかず、気が付けば咄嗟に聞き返していた。

 それ程までにキザマロにとって無視出来ない事柄だが、無残にもルナは意に介さず話を続けた。

 

 ル「今日は中学初日ですわよね?」

 

 ス「そうだけど?」

 

 ル「健全じゃあないわね…」

 

 何を言いたいのかと首を傾げるスバル達3人は、ルナの倒置法にまんまと乗っかる。

 

 ゴ「どうしたんだ委員長」

 

 ル「ゴン太。今日の出席で2人も休んでたのよ?おかしいと思わなかったわけ?」

 

 ス「そう言えば…」

 

 キ「確かに…」

 

 ルナの指摘に3人共心当たりはあったが、正直どうでもよくて気にしていなかった。

 しかし生真面目な性格のルナは、中学初日に2人も欠席だなんて到底許せるものではなかった。

 興味の無い3人と、許せないルナとの相反する2つの考え。

 通常なら3対1でスバル達の勝ちでこれ以上掘り下げられる事はないのだが、ルナは3人にとって短い導火線の付けられたデリケートすぎる核兵器。

 怒りの炎でロケットが発射されれば、スバル達に回避する術はない。

 3人はルナとの和平交渉(ご機嫌取り)に手段は選ばなかった。

 話題を切り換えて、なるべく導火線を火の元から引き離す作戦にでる。

 

 キ「い、委員長!今から皆でお昼食べに行きましょう!」

 

 ス「そ、そうだね!新たなスタートを祝ってさ…!」

 

 ゴ「お?牛丼か!?」

 

 ご飯と言えば牛丼一筋のゴン太。

 だかもちろん、提案は誰1人取り合わずに流される。

 

 ゴ「おい、牛丼は?無視すんなよ」

 

 ル「イイわね、皆でお食事!この件に関してゆっくり話も煮詰められるし!牛丼以外で何処か行きましょうか」

 

「「―――!!」」

 

 男達3人は予想外の展開で目を見開いた。

 ゴン太に関しては牛丼という選択肢が省かれた事による驚きだが、スバルとキザマロは違い、恐怖で顔を引き攣らせていた。

 何故なら、食事という目の前に広がる話題性によってこの件に関する深追いを避ける為に提案したにも関わらず、それを逆手に取られしまい、ちょとした風で導火線に火がついてしまう位置にまで火種を近付けてしまう大失態を犯したのだ。

 頭を抱えて次の策を模索するスバルとキザマロ。

 そこへ、絶妙なタイミングでスバルのハンターVGに着信が。

 

 キ「はッ―――!!」

(ハンターに着信…!!)

 

 ス「も、もしもしィィィィッ!!

 

 藁にも縋る思いで、着信相手も確認せずにハンターVGからディスプレイが展開されテレビ電話に出るスバル。

 その余りにも必死な形相に、ディスプレイに映る電話相手は驚きを隠せずにいた。

 

「だ…大丈夫…かな……?」

 

 ス「ん?…あ!」

 

 落ち着きを取り戻して電話の相手を理解したスバルは素っ頓狂な声を上げる。

 相手は響ミソラ。

 スバルとは友達以上恋人未満の男女の友情を証明してみせる程の大親友。

 ミソラの芸能活動の忙しさから普段なかなか会うことが出来なかった為、スバルは身体の奥の方から湧き上がる感情に表情が綻びる。

 今日1番の表情だ。

 

 ス「どうしたの!?」

 

 ミ「今から時間ある?そっちに遊び行きたいなぁ~!」

 

 ス「え?仕ご―――「是非ッ!!」」

 

 スバルの舞い上がった声に興味を示し、ハンターVGのディスプレイを勝手に覗いていたルナ達3人。

 スバルを介してミソラとの面識があったルナ達。

 特に、ゴン太とキザマロはミソラと関わりを持つ前からずっと大ファンだった為に、嬉々としてミソラとの会話にスバルの言葉を遮る形で割り込む。

 

 ミ「うおぉ!皆お揃いだったんだね」

 

 画面一杯に湧いて映るルナ達3人に、相変わらずといった表情を見せる。

 一方でスバルは久しぶりの会話を邪魔された様で戸惑った表情をしている。

 

 ス「いや、何で委員長達が応えるのさ…

 

 しかしそんな事はお構い無し。

 ルナはスバルには目もくれず、ディスプレイを展開する腕に装着されたハンターVGを自分の前に引っ張って来て勝手に話を進めた。

 

 ル「何時に来れるのかしら?」

 

 ミ「すぐ行けるよぉ~!」

 

 ス「いや、あの~……」

 

 ル「じゃあコダマ公園で待ち合わせという事でいいかしら?」

 

 ミ「了解ッ!!」

 

 ス「え?ちょっ―――

 

 スバルは会話に入ろうとするも、ミソラすら取り合ってはくれずディスプレイは無情に閉じてしまった。

 そして、それに誰が何を思うでもなく、ルナ達3人は張り切って待ち合わせ場所のコダマ公園に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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