流星の標   作:-eto-

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プロローグ

 

 

 

 

 ―――立たなきゃ…

 ―――…こんな 所で…負ける訳には…

 

父さんと………… 一緒に…

 

地球に…か…え…――――

 

  黒く、暗く、重い、纏わり付く様に踊り舞う砂嵐の耳障りなノイズ。

 その中心で奇声を上げる巨躯な異形のモノと、その足元に転がる小さく非力な男の子。

 酷く不快な空間の中で、彼の未来と、そして可能性が今、白く染まる様に虚ろへ帰ろうとしている。

 その染まる白を前に、色彩を取り戻そうと必死に彼の名を叫ぶが1人。

 

スバル!!スバル―――!!

 

 

 

 ――――メテオGのノイズが急激に増大している!!一体何が起こっているんだ!?」

 

「メテオGの強力なノイズで…ロケットがコントロール不能に…!!」

 

「ちょ、ちょっと待って!!ロケットがなかったらスバルくんはどうやって戻ってくるのよ!!」

 

「スバル…!!」

 

 天才的な技術者達に流れる汗と、冴えない言動は地球の危機を煽り、周りの者は絶望に支配される。

 

「私、信じてる…スバルくんはメテオGを破壊して、お父さんと一緒に帰って来るって…」

 

「そうだ!!アイツは今までどんなピンチも乗り越えてきたんだ!!」

 

「メテオGだろうが、ノイズだろうが、そんなものにスバルくんは負けません!!」

 

「そう…そうよね!!スバルくん…無敵のロックマン様が、たかが流星の1つや2つに負けるもんですか!!」

 

 祈るしかない。

 賭けるしかない。

 力を持たない傍観者でしかいられない者達の抵抗は、唯一、託すしかない。

 託された者が、折れない様に、ただ声を上げ叫ぶしかない。

 

「星河スバル…貴方こそ、最後の希望…」

 

「頑張れ、スバル…!!」

 

「シドウちゃん…あの子を守ってあげて…!」

 

 地球に接近する謎の巨大流星《メテオG》

 人類存亡の危機に立ち上がった男の子《星河スバル》

 彼は1人、揺り籠を離れて宇宙で這いつくばっている。

 

「ロックマン…ここで諦めるのか?俺の思いを引き継いで戦ってくれるんじゃなかったのか?」

 

 あか…つ…き…さん…

 

 自分をヒーローと名乗り、そして語り、その信念の下に生きたて来た男《暁シドウ》

 彼の果たせなかった思いが、それを背負って立ったスバルの前に現れる。

 霞んだ視界の先にユラユラと佇む幻―――

 

「立ち上がるんだ、ロックマン。地球にはお前の帰りを待っている仲間達がいる。」

 

 軋む体。

 重たい瞼。

 体から心がダダ漏れて、家族や友達、学校の先生や先輩の顔が託されたモノと一緒に流れていく。

 

「信じるんだ…自分の力を…ホントは俺だって、まだ終わったつもりはないんだぞ?…それなのに、お前がこんな所で倒れてて、どうすんだよ…お前ならやれる―――何たってお前は…俺が見込んだヒーローなんだからな!

 

 幻から注がれるものが、ひび割れた器に満たされていく。

 

 ―――…はは、そうですよね

 そのまま殺られちゃったら暁さんに合わせる顔がないや…

 ボク、まだ、やれます…

 やれますよ、暁さん…――――

 

 それは溢れ、身体を巡り、脈打ち始める。

 

この命―――まだ、燃やし尽くしていない…!」

 

 内から込み上げる流動。

 

「戦い抜けるだけ、戦っていない!

 

 身体を伝わる熱量。

 

倒れるには早すぎるんだ!!

 

 沸沸と漏れ零れる力。

 それは瞳に映り、揺らめく決意が空気を震わせ、固めた覚悟に同調し、彼に今までにない力を贈る。

 

ゥオオオォオオォォオオオオオオ―――――――

――――――ファイナライズ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  20XX年、地球の危機から数ヶ月後―――世界は電波を使った技術で発展を遂げた。

  人々の生活を助力する、人格を持った電波生命体《ウィザード》

  電波で造られた電波物質《リアルウェーブ》

  ネットや、テレビ電話にメール、そして身分証明など、生活には欠かせない携帯電波端末《ハンターVG》

  そして、人と人との絆を視覚化した《ブラザーハンド》

 

  電波に溢れ、更なる生活の利便性を求め進化するこの電波世界を守り抜いた、この小説の主人公《星河スバル》この度、中学生へと新たなる一歩を踏み出す。

 

  彼の微笑ましい未来を祝福するかのように、スズメは唄い、爽やかな朝日の光が彼の部屋に差し込む。

 

「ふぁぁ……」

 

  現在、4月1日の6時42分。

  新たに、中学校への緊張の為か、7時にセットした目覚ましよりも早く目の覚めた《星河スバル》

  後頭部の髪がツンツンしていて、父《星河大吾》から譲り受けた《ビジライザー》というサングラスを頭に掛けて、流星のマークをしたネックレスをしている。

  黒く澄んだ瞳は、落ち着きが無くそわそわしている。

  この浮つく気持ちを落ち着ける術を知らないスバルは仕方無く、歯を磨き、顔を洗って学校へ持っていく物をチェックし、制服へ袖を通す。

 

「…よし!」

 

  制服の生地や、黒くズッシリした重量感は、不思議と気分を高揚させ、スバルの背筋を伸ばした。

 

  支度を終え、二階の自室から一階のリビングへ。

  扉開けると、食欲のそそる香りが鼻腔をくすぐる。

  香りのする方を向くと、母の《星河あかね》が朝食の用意をしていた。

 

  「おはよう、母さん」

 

  「おはよう、スバル。ご飯の用意出来てるから食べちゃいなさい」

 

  スバルはあかねに促されて席に着き、朝食を頬張る。

  すると、スバルの前に腰を掛けるあかねだが、その顔は悪戯っぽくニコニコしている。

  (あ、なんかあるぞ…)と警戒するスバル。

  あのニコニコ顔で近づく時は、大抵碌でもない事が待っている時だ。

 

  「…どうしたの?ニコニコして」

 

  (取り敢えず、音沙汰ない事で探ってみて、変な事言い出すようなら早々に家を出よう…)と思うスバル。

 

  「いよいよスバルも中学生ね~…」

 

  「…そうだね…」

  (何だ…?この言いしれぬ不安は…ただただ自分が中学生になって喜んでるだけ…?ホントにそれだけか…!?)

 

  目を細めてあかねを警戒しながら食を進める。

  中学へ上がる事に対しての喜びの笑顔ならうれしいけど…と。

  けれども、あかねは甘くない。

 

  「彼女紹介してね?

 

  「グブゥッ…!!」

 

  ド直球のあかねの言葉に驚くスバルは口に含んだ物を吹き出す。

 

  (な、なな、何言ってるんだ母さんは…!?彼女なんていないし!僕まだ12歳だよ…!?)

 

  地球を救ったヒーローも母の前では形無しで、頭の中はあかねへのツッコミでグルグル回る。

  星河あかねは髪を後ろで束ねたポニーテールで、明るく気丈な女性だ。

  スバルの良き母親ではあるのだが、突然に突拍子の無いことを言ったりする中々油断の出来ない人だった。

  そして、もう1人…

 

  『そうよぉんスバルゥ!中学生にもなったらねぇ、何が起きてもおかしくないんだからぁん!』

 

  ス「なんでオカマのマネ…?」

 

  ウ『オカマじゃねぇよ!』

 

  あかねの話に乗っかってきたのは《ウォーロック》

  ウィザードである。

  スバルと共に死闘を潜り抜いた相棒で、彼は電波生命体が住む星《FM星》から来た宇宙人である。

  ライオンの様な風貌で幽霊の様に脚が無く、体中が青1色。

  粗暴な面が目立つが熱い男で、現在は地球の事を周りの人間やTVなどで学んでいる。

  その為、誰かのモノマネをするのが最近のマイブーム。

  現在はTVタレントの女性のマネしているみたいだが、

 完全にオカマ一色。

 

  ウ『安心してちょうだぁい!彼女が出来たら、すぐに私が報告するわぁん!』

 

  あ「あら!頼もしいわロック君!よろしく頼むわね!」

 

  ス(まずい雰囲気だな…よし、もう家を出よう…!)

  「い、行ってきます…!」

 

  「え…!?スバル…!?」

 

  あかねはスバルを呼び止めるが、スバルは構うことなく駆け足で家を出ていった。

 

  「まだ7時30分前なのに…」

 

  家を出て数歩、春の冷たく吹く風がスバルの頬を伝う。

 

  (寒いな~…!)

 

  陽気な日差しの暖かさと、チクチクと頬を刺す風の冷たさが中学生生活への不安と、そして何より期待を煽る。

  風を背を押されて自然と足が早った。

 

 

 

 

 

 


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