過去から未来、そして久遠に   作:タコのスパイ

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 2021年11月13日執筆。
 書けば出る!出るはずだ!…という勢いで書き上げた、個人的な最推しフレンズ・ディアトリマさんの3への実装祈願(兼園長の動向妄想)SSです。こちらも統合してしまおうかと。

 アプリ版3のメインストーリーシーズン1直後~セーバルぶらり旅の幕間という設定です。


肉食の鳥と猫(ディアトリマ実装祈願)

 ジャパリパーク保安調査隊・通称「探検隊」による巨大セルリアンの討伐。

 その報せを聞いた時、現園長たるクオンを含めたパークスタッフ全員が安堵のため息を漏らしたのは記憶に新しい。「一山越えた」と言ったところであろうか。

 女王事件解決後もパークを悩ませ続けているセルリアンの出現は依然として収まっていないものの、少なくとも二度もパークセントラルを占領されるような事態は避けられたわけだ。

 加えてマイルカやシロナガスクジラ達からの報告によれば、件の巨大セルリアンは海底を自在に歩行する事まで可能だったという。通常のセルリアンであれば、水圧やエネルギーの関係上そうした移動は不可能だ。もし倒せないままパークの外……最悪本土までの進出をも許してしまっていたら、完全に打つ手が無くなっていただろう。

 

「自衛隊がセルリアンを相手取るのは危険すぎるか」

 

 園長用執務室でクオンは「隊長」の報告書に目を通しつつ、マンモスが淹れてくれたジャム入りの紅茶を啜りながら呟いた。

 セルリアン全てに共通する模倣能力は、調べれば調べる程に空恐ろしくなるものだ。パーク内に当たり前に存在する日用品や玩具の輝きを模倣したセルリアンですらあれ程に手古摺るのに、もしその対象が銃や戦車などだったらどうなるか。そんなif(もしも)など、想像だってしたくない。

 そんなセルリアンに対してアニマルガールが有利に戦う事が出来るのは、彼女らの能力が全て「自前」であるからだ。だが彼女らはサンドスターの無い場所では長く活動する事が出来ない。事実、それが原因で探検隊は一度瓦解しかかっている。

 新しく嘱託研究員として迎えたカレンダ、というよりCARSCの「セルリアン及び、その構成物質・セルリウムの存在を正式に公表すべき」という提案に、パーク責任者として簡単に頷く事が出来ない大きな理由はそこにある。

 

「ナナさんが『思い付き』だと言っていたサンドスター瓶の開発、実際に検討するべきかな」

「良いねそれ、私もヒトの世界を見てみたいもの! どうせなら飛べる子も誘ったりしてね」

「本土まで飛んでいくのか。まあ渡り鳥達なら出来そうではある」

 

 ところで、と椅子を回す。

 

「なあに?」

「どうしてここに居る」

 

 クオンの視線の先には、黒檀のデスクに両肘を付く長身のアニマルガール。燃えるような真紅に青の混ざった髪と尾羽は一度見たら忘れられないほどの存在感を有し、こちらを見つめる瞳はカチューシャの飾り石と同じ黄金色。6千万年前に地上を席巻したという恐鳥類、ディアトリマだ。

 

「どうしてだなんて冷たいなあ。お姉さんの事嫌いになっちゃったの?」

「そんな筈はない。だけどデータ整理しているところなんて、見ていてもつまらないだろうに」

「あら、そんな事ないわよ? お姉さん的にはトリ大好きなクオン君の顔も声も、一日中見ていたって飽きないわ!」

「トリ好きなのは確かとはいえ、流石に気恥ずかしい」

 

 湧き上がってきた気恥ずかしさを誤魔化すようにディアトリマから視線を外し、再び資料に目を向ける。

 そういえば子供の頃、病院の近所で巣を作っていたカラスやツバメ(と子供を連れた野良ネコ)を一羽一羽識別を試みては心中で名付けていたのを、入院中の暇潰しとしていた事を不意に思い出した。最初全て同じなように見えても、毎日観察するうちに少しずつ個性が分かるようになって来るのが面白かったのだ。トリ、ひいては動物そのものへの興味は当時に培われていたものだったのかも知れない。

 確か「ディアトリマ」というトリの存在を初めて知ったのも、同じ頃だった筈だ。古生物図鑑で目にした全身骨格の写真と復元図の挿絵。こんなにも強そうなトリが実在するのかと胸を躍らせ、そして次のページを捲って既に絶滅していると知って落胆したものだった。

 だからジャパリパークでディアトリマのアニマルガールと対面した時、積年の夢が一つ叶ったような、何処か不思議な高揚感を感じたのを覚えている。

 それもあってか、今でもディアトリマと居ると少し気分が落ち着かない。表情には出していないつもりでいたが、サーバルはもしかしたら気付いているかも知れないが。そういえばバードガーデンで初めて出会った時も、彼女は何処かそわそわしていたような……?

 

 とその時、目の前のパソコンからメールの着信音が鳴る。差出人は研究室のカコ。中身を開封すると、それは彼女が現在生態データ復元中の絶滅動物に関する論文だった。研究内容はセンター内で情報共有する必要があるので、発表する前に目を通しておいて欲しいとの事である。

 圧縮されていた添付ファイルに目を走らせつつ、クオンはふと隣にいるディアトリマにある疑問をぶつけてみた。

 

「前から気になっていたんだが、君らは肉食なのか草食なのか」

 

 何時だったかカコが話していた事を思い出す。

 ディアトリマを含む恐鳥類はそれまで哺乳類すら捕食する地上最強の捕食者……というのが定説であったが、近年はそれとは異なる説が浮上し、学会を沸かせてているらしい。最大の特徴である大きな[[rb:嘴 > くちばし]]は動物の骨よりむしろ木の実を砕くのに適した形なのではないか、という説だ。

 となれば、いっその事本人に直接聞いてみるのが早いだろう。元々パークではアニマルガールのお陰で動物の研究が進んでいるのだから。

 

「ふむふむ……つまりお姉さんが肉食系か草食系か知りたいって事だね?」

「ああ」

「なら……」

 

 言いながらディアトリマが突然ずいっと距離を詰めてくる。彼女は頬杖を解いて立ち上がると、背中をクオンに預けるような体勢で身体を寄せる。豊かな尾羽のこそばゆさと体温がベスト越しに伝わった。

 

「確かめてみる?」

 

 どんな風に、と問いかけたところで、がしゃーんと戸口のほうから何かを落とす音がした。

 見てみると、いつの間にか執務室の戸口に立っていたサーバルがジャパリまんじゅうとカラフルラムネの入った紙袋を床に落とした音だと分かった。袋の中で瓶が割れたのか、しゅわしゅわと泡立てながら緑やピンクのラムネが絨毯の染みへと姿を変えてゆく。

 

「ク、クオンに一体何しようとしてたの……?」

 

 自慢の大きな耳をひくつかせ、わなわなと震えながらサーバルはこちらに指を差す。

 

「私だって……私だって……私だって、そんな大胆な事したこと無いのに!」

 

 室内に駆け込み、ディアトリマを引き剝がすようにクオンの胸にしがみつく。ネコ科のけもの特有の柔らかくて暖かい感触が胴を包むが、首回りに腕が回されたせいで少し息苦しい。

 

「前に言ってたじゃない! クオンは取らないよーって!」

「確かに言ったね。でも、クオン君がお姉さんの事を知りたいだなんて言うんだもの……ね?」

「に゛ゃ゛あ゛!?」

「確かに言ったが何か違う気がする」

 

 脱線しているのかしていないのか、今のクオンには判別が付きかねた。

 

 ジャパリパークの新たな脅威・ルーラーセルの存在が報告される一週間前の出来事であった。




 タコのスパイは園サバを主に推してします。

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