東方嫉妬姫   作:桔梗楓

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前回、紅魔館に挨拶に行った紫と碧、領主レミリアに挨拶をし次なる目的地へ。
今回は白玉楼編です。


08話 挨拶回り~白玉楼編~

白玉楼…。

 

幻想郷の異界、冥界の中にその建物は存在している。

 

西行妖…そう呼ばれる巨大な桜の木の麓に…。

 

その冥界の管理者…西行寺幽々子。

 

妖怪とも違う、亡霊…”死を操る程度の能力”は全ての生きとし生ける者に対して、天敵とも言える能力。

 

ある日、書架にあった古い記録から「何者かが西行妖に封印されている」ことを知った彼女は、興味本位でその封印を解こうと試みる。

 

西行妖は春になっても絶対に満開にならない。

 

だが、逆に考えれば、満開になれば封印が解けるのではないか?

 

そう考えた幽々子は、幻想郷の春を集めて無理矢理西行妖を満開にさせようとする。

 

季節は春先、次第に春の香りが訪れる頃、その異変は起こった。

 

いつもなら、幻想郷は白い吹雪から桜色の吹雪に変わるはずだった。

 

だが、幽々子の従者が幻想郷中の春を冥界に集め、冥界へと送っていった。

 

訪れるはずの春を奪われる形となった幻想郷は、冬が去ることができぬまま、長い長い寒さに凍える事となってしまった。

 

幻想郷の生き物たちは、明けぬ冬にただただ震えていたのである。

 

「と、まあこれが後に『春雪異変』と呼ばれることになる異変。博麗大結界が機能して、初めて私が公の場に出た異変よ」

 

「なら、紫さんは本当はまだ、公の場に出るつもりはなかったんですか?」

 

「そうね。私はただ、愛する幻想郷と友人が幸せに暮らしてくれれば良かったのだけれどね…」

 

やっぱり、この人はいい人だ…

 

「でも、この果てしなく続く様な階段…今は飛んで移動してますけど、本当に長いですね」

 

そう、僕は今、白玉楼への階段を紫さんにお姫様抱っこされて運ばれている。

 

(まぁ紫さん身長170cmはあるみたいだから、僕より全然高いんだけど…)

 

「あの…他の移動手段って無かったんでしょうか?流石にこの格好は恥ずかしくて…///」

 

「ふふっ♪照れちゃって…。確かにスキマを使えば直ぐに着くけれど、この階段も含めて冥界…白玉楼なの。あなたにはそれを知っていて貰いたかったのよ?」

 

「お気遣い感謝します…。でも、やっぱりこの格好は…男としては…」

 

「そうね、碧君も男の子だもんね~。でも、今は我慢して頂戴?それに、私としては役得なんですから…ね?」

 

あぁもう…そんなに綺麗な笑顔で言われたら、何にも言えないじゃないですか!

 

そうして、暫く階段を進んでいると…。

 

「何者ですか!?って紫様じゃないですか?それと…抱えてる子は…?」

 

白銀色のボブカットのヘアスタイルに黒いリボンを着けた女の子が出てきた。

 

「あら妖夢。出迎えが遅いわよ?今日は、この子を幽々子に紹介しようと思ってね…二人共、自己紹介して貰えるかしら?」

 

「あ、はい。僕は大神碧です。つい最近幻想郷に入ってきて、今は紫さんの家でお世話になってます。よろしくお願いします」

 

「ご丁寧にどうも。私は『魂魄妖夢』…半人半霊の庭師で、幽々子様に仕える者です。よろしくお願いします」

 

「さて、自己紹介も済んだことですし、幽々子の所に行きましょうか?あの子…また、寝てるのかしら?」

 

「今日は、良いことがありそうって言って、部屋で書物を読んでおります。さぁ…こちらへどうぞ」

 

そうして、妖夢さんに案内された先には一本の巨大な桜とお屋敷があった。

 

「あの…ところで妖夢さんのその横に居る?人魂みたいなのって…何なんですか?」

 

「碧さんは最近こちらに来られたんですよね?…これは、私の魂です。先程も言ったとおり、私は半人半霊…なので、霊体の部分がこうして、可視化しているのですよ」

 

「えっと…なら、さっきから漂ってる、この淡く光ってるのも…?」

 

「えぇ…此処は冥界、死者の都ですから、ご想像通りだと思います」

 

「私達は見慣れているけれど、外の世界だと限られた人しか見えないですからね…。まぁ、魂の在り方は人其々…。あまり、じっと見ているのも失礼よ?」

 

「ごめんなさい…。以後気を付けます…」

 

「気になさらないで下さい…。外来人なら珍しいのも仕方ありませんし…。さて、ここが白玉楼です。ようこそおいで下さいました、歓迎します」

 

そう言って門を開けてくれる妖夢さん…態々気を使ってくれて…ありがたいです。

 

「ありがとうございます。それで、此処の主…西行寺幽々子さんは…?」

 

すると、奥の方から…。

 

「あらあら、紫じゃない?久しぶりね~。今日は何か、良い事がありそうな気がしたのだけれど…。その子の事だったのかしらね?」

 

青い着物と帽子?の様な物を身に着けた、ピンク色の髪の女性が、フワフワと浮かびながらこちらにやってきた。

 

「久しぶりね幽々子。感の良いあなたの事だから分かっているのでしょ?碧、この人が”西行寺幽々子”…亡霊の姫、冥界の管理人よ」

 

「は、初めまして。大神碧と言います。この前幻想郷に来てから紫さんにお世話になってます。今後とも、よろしくお願いします」

 

「そうだったのね~。改めまして、私は『西行寺幽々子』…気軽に幽々子って呼んでね♪それで、紫?此処に連れて来たって事は、私に頼みたい事があるんでしょう?」

 

「えぇ、流石は親友ね。単刀直入に言うと、この子の事を守って欲しいの。もちろん常時って訳じゃないし、あなたの目の届く範囲で構わないから」

 

紫さん…。本当に迷惑を掛けっぱなしだな…。

 

「すみませんが、お願いします…。僕には何の力も無い、普通の人間です…。もちろん自衛できる為に努力はしますから…それまではお願いします。僕を…守って下さい!」

 

―――――――――――――――――――――

 

「前に、あなたの魂が狙われやすいって言ったわよね?」

 

紅魔館を後にした僕は、紫さんからそう言われる。

 

「えぇ。その…なんで僕の魂は狙われやすいんですか?」

 

―――すると紫さんは説明してくれた。

 

「そうね…人と妖怪を形作る魂は大きく、四つに分類されるの。それは四魂といって…それぞれ”荒魂(あらみたま)”、”和魂(にぎみたま)”、”幸魂(さきみたま)”、”奇魂(くしみたま)”…これら四つのモノが一つになったもの…それが”魂”」

 

外の世界に居た時、何となく聞いたことはある…けど…本当にあったんだ…

 

「そして、それぞれの特性が強いほど…魂はその味を大きく変えるの。例えば荒魂…この特性が強い魂はとても濃い味……そうね、言わば熟成させたステーキを食べているかんじかしらね?」

 

それは…確かに人に…いや、妖怪によっては食べたくなる味なのだろう…だとしたら僕は?

 

「続けるわね。碧君…あなたの魂はこの中でも幸魂の輝きが最も強い…いいえ、むしろ強すぎると言ってもいいわ」

 

「幸魂?…どんな特性があるんですか?」

 

「幸魂の特性は「愛」…人を愛し育てる力。思いやりや感情を大切にし、相互理解を計ろうとする人は幸魂が強い人なのだけど…心当たりはあるわね?」

 

確かに…愛と言われると分からないけど…思いやりはいつも心がけていた…。

 

「そして…重要なのはここから…。幸魂の味はね…他の魂の追随を許さないくらい甘い味……言い方を変えるなら毒蜜…それくらい恐ろしく中毒性のある味なの…」

 

――それを聞いて、ぞっとした…もし、自分が悪い妖怪に襲われていたら…?

 

もし、あのまま現実から何も知らないまま幻想郷に来ていたら…?

 

「あなたの考えている通りよ。だから私が保護したの……家に居る限り、よほどの干渉が無ければ碧君の無事は保障される。でも、いつまでも家に閉じ込めている訳にもいけない……ごめんなさい…もっと早く、話をしておけば良かったわね…」

 

すまなさそうに…目を伏せる紫さん…――違う!

 

「それは違います!紫さんが居たから…藍さんや橙ちゃんが居たから、僕は今まで無事でいられたんです…。それを僕の我儘で………」

 

するとホッとした笑顔で……―――

 

「―――ありがとうね。碧君…その為にも、今は一人でも多くの協力者…いいえ『守護者』が欲しいの。これはその為の挨拶回りなの……覚えていてちょうだい?」

 

―――――――――――――――――――――

 

そう…情けない話だけど、今の僕が一人で行動したら、悪い妖怪の格好の獲物だろう。

 

せっかく幻想郷に来たのに、それで死んでしまったら…あいつらに申し訳が立たない。

 

だから…生きる為なら、どんなに惨めでも…たとえ女の人に守られても…それで生き残れるなら…。

 

そう言って幽々子さんを見る…呆れられてるだろうか?

 

「いいわよ。あなたの思い…願い、確かに感じたわ…。妖夢「はっ!」分かったわね?…冥界の管理人…西行寺幽々子の名において命ずるわ。この子の護衛と自衛の指南をしてあげなさい。いいわね?」

 

「はっ!了解いたしました幽々子様!」

 

「ありがとう、幽々子。楽園の管理者として…この子の保護者として、感謝するわ。…それから妖夢も…この子の為に、暫くは稽古を付けてあげてね?」

 

「えぇ、そうと決まれば早速稽古の予定を立てます。びしばし行きますので覚悟しておいて下さいね碧さん!」

 

「はい!よろしくお願いします!幽々子さんも…本当にありがとうございます」

 

「いいのよ?紫の…親友の身内は私の身内…。それに、あなたみたいな可愛い子を野放しになんて出来ないわ♪」

 

そう言いながら、悪戯っぽい笑顔を浮かべ僕に抱きついてくる幽々子さん…。

 

「むぐっ?!んー?!」

 

「ほらほら…じっとしていなさい?暴れられると、お姉さん困っちゃうわ♪」

 

身長も紫さんと同じくらいだから、自然と僕の顔は幽々子さんの胸に埋もれてしまう。

 

幽々子さんの胸は今まで会った誰よりも大きい。僕も男だし、流石にこれはマズイ…。

 

「幽々子…それくらいにしておきなさい?そろそろ私も怒るわよ?」

 

すると後ろから紫さんの声が…ぞっとするくらい怖いけど…。

 

「あらあら?いいでしょ?あなたの物って訳じゃないんだし…そ・れ・に…こんなに可愛い反応してくれてお姉さん嬉しいわ♪」

 

全く意に介していない幽々子さんの声が…すごい大物だよこの人…。

 

「はぁ…こうなるのが目に見えたから、連れて来たくなかったのだけれどね…。幽々子、私達はこの後も回る場所があるの。時間も惜しいからそろそろ離しなさい」

 

「仕方がないわね~。はい「ぷはぁ…死ぬかと思った…」あらあら…死んでも此処に来るだけだから心配はいらないわよ?」

 

「幽~々~子~…?」

 

「はいはい。妖夢の指南については追って連絡するわ。碧くん、いつでも遊びにいらっしゃい。歓迎するわ」

 

「はい、その時はゆっくりお茶でもしましょうね。なら、紫さん次の場所へ行きましょうか?」

 

「えぇ。なら幽々子…くれぐれもお願いね」

 

そうして、僕達は、次の目的地に向けてスキマを潜って行くのでした。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「妖夢…。あの子の魂、見えたかしら?」

 

「えぇ…とても優しくて、儚くて…綺麗な色をした魂です…妖怪からしたら何よりも欲する様な魂…。確かに彼は狙われるでしょうね」

 

「碧くんに触れて分かったわ…。魂の危うさに…外の世界での存在の希薄さに。だからこそ、守ってあげないといけないわね…」

 

「はい…彼には生きて…幸せを掴んで欲しい。私もそう思いました」

 

「いっそ妖夢と結婚しちゃえばいいんじゃないかしら?そうすれば彼も守れるし、私も碧くんと居られるし…一石二鳥ね♪」

 

「ゆ、幽々子様…からかわないで下さい///」

 

「あらあら、だったら私が貰っちゃおうかしらね?うふふ♪」

 

「幽々子様ー!」

 

後日、碧の特訓の為におめかしをした妖夢と、それに着いて来た幽々子の姿があったが、それはまた別のお話。




人数が増えると口調での書き分けが難しくなるんですね。
東方キャラは人数が多い分口調の把握も難しいです。
四魂の設定に関しては『一霊四魂』の思想を元にしています。

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