東方嫉妬姫   作:桔梗楓

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というわけでパルスィとの同棲生活が始まりました。


36話 二人の生活の始まり

 

朝―――

 

自分とは違う体温を感じて目が覚めていく……―――

 

(ぷにぷに…)

 

んぅ……(ぷにぷに)…なんだろう?……さっきから、ほっぺたに何かが当たる…―――

 

うっすらと目を開けてみると……―――

 

「ふふっ♪可愛い寝顔ねぇ…ほっぺたも、子供みたいに柔らかいし♪」

 

パルスィさんがとても可愛らしい笑顔で、僕のほっぺたを突いていた……そっか、昨日は一緒に寝たんだ。

 

「これから毎日、碧の顔を見ながら起きれるなんて……幸せね…♪」

 

そう言われると、こっちも照れてくる…それに、いつまでもぷにぷにされるのも恥ずかしいし……よし、反撃するか。

 

そして、僕は油断していたパルスィさんを抱き寄せてキスをする。

 

「きゃっ?!……んむっ?!……んっ…ぅん………」

 

最初は驚いていたパルスィさんも、僕の悪戯と気が付き、それに乗ってくる。

 

「んむっ…んはぁ………んちゅっ……れろっ……」

 

?!……仕返しだとばかりに舌を絡めてくる……。自分からしておいてだけど……自制心が持たない…。

 

 

 

 

そして、そんなやり取りをした後、お互いに我に返った僕達は、いそいそと服を整え、少し遅めの朝食を作ることにした……―――これからは気を付けないとなぁ…。

 

「……えっと、昼も近いし…軽めにトーストとスープでいいかな?」

 

「え?!…えぇ。私はコーヒーを用意しておくから…頼めるかしら?」

 

少し、照れくささの残る僕達のやり取り……。でも、こういうのって…何だかいいなぁ。

 

そして、ソファーに並んで座り、二人っきりの朝食を取り始める……。

 

「こうして、二人で並んで食べる朝食って…格別ね♪」

 

「そうだね。でも、朝からあれはちょっとやりすぎたかな…///」

 

すると、隣でトーストを頬張っていたパルスィさんも赤くなる…。

 

「うぅ…///…だってしかたないじゃない…あんなにも無防備な碧がすぐ側で眠ってたら、悪戯の五つや六つくらいしたくなるわよ…///」

 

多いよ?!……というか、起きるまで何をされてたんだろう…?

 

「なら、僕が先に目を覚ましたら、パルスィさんに悪戯しても良いってことだよね?何をしようかな~?」

 

これで、少しは自重してくれるかな?

 

「―――~~~///……その、いくらでもして良いわよ…///」

 

自重するどころか、頬を染めて期待する目をしてこっちを見てきた……。

 

これは……色々な意味で、試されているのだろうか?

 

 

 

朝食も食べ、片付けも終わり……昼にはまだ時間があるということで、二人っきりでまったりとした時間を過ごす。

 

「そうだわ、碧。久しぶりに耳かきをしてあげましょうか?」

 

二人暮らしの始まりと、魅力的な誘い……それに抗う術も無く……。

 

「お願いします」

 

すると、笑顔でパルスィさんが……―――

 

「じゃあ、こっちに来て頂戴♪」

 

そして、ゆっくりと、パルスィさんの膝の上に頭を乗せる。

 

うん……何度かしてもらったけど……むにゅってしてて、柔らかい。

 

それでいて、適度に反発もあるから…このまま寝てしまいそうになる……それに―――

 

「―――相変わらず、良い匂いだね」

 

「?!~~~///…もう、急に変なこと言わないでよね!」

 

だって…パルスィさん、今まで出会った誰よりも良い匂いがするもん。

 

それを言うなって方が無理な話だよ。

 

「まったく…じゃあ、始めるわよ?」

 

 

かりかりと耳かきが動く……うあ~…気持ち良いなぁ…。

 

「この前してあげたから、割と綺麗なままね…お風呂上りとかもキチンと掃除してるのかしら?」

 

「うん、なるべくするようにしてるよ」

 

「えらいえらい♪……んっ…少し固まったのがあるわね。動かないでね?」

 

少しだけくすぐったいけど、我慢をする。

 

「……うん、ばっちり取れたわ。じゃあ、反対側もするから…向きを変えて頂戴?」

 

向きを変える……つまりパルスィさんのお腹の方を向くことになる。

 

体勢を変え、上を向くと、こちらを見下ろすパルスィさんと目が合う…。

 

「くすっ♪……じゃあ始めるわよ?」

 

「うん。お願い」

 

正直、こんなに密着していると照れくさいものがある……でも、それだけパルスィさんを身近に感じられる幸せもある。

 

そして、幸せな時間が続き……―――

 

「それじゃあこっちも終わるわね…最期に…ふぅっ…」

 

パルスィさんの優しい吐息が耳を駆け抜ける……ぞくっとするけど…でも気持ちいんだよね。

 

「いつもありがとう。今度はお礼に僕がしてあげたいんだけど……?」

 

すると、照れた表情で……――

 

「もう、前も言ったけど、それは恥ずかしいからダメよ///……でも、他の事でなら何かして欲しいかもね♪」

 

 

 

 

そうして、二人の時間……初めての同棲生活が進んで行く……しかし、楽しい時間というものは過ぎるのも早い物で……―――。

 

「あら?もう、こんな時間なのね?……碧、そろそろ準備をして翡翠に向かわないと」

 

そう、今日から料亭『翡翠』の従業員として、働くことになった……初日から遅刻はしていられない。

 

「うん、とりあえず必要な物はあっちで用意してくれてるみたいだから、持っていくものは特にないみたい」

 

「そう、なら送っていくわね」

 

そして、玄関に……あ、そうだ。

 

「ねぇ、パルスィさん…お願いがあるんだけど…」

 

「?……何かしら?」

 

「えっとね……僕が行ってきますって言うから…その…」

 

「くすっ♪…そういうことね…分かったわ」

 

流石出来た彼女…分かってくれたみたいだ。

 

「じゃあ、パルスィさん。行ってきます」

 

すると、少し恥ずかしそうにしながら……―――

 

「えぇ……行ってらっしゃい……あなた///」

 

このやり取り…憧れていたとはいえ、実際にやってみると恥ずかしいなぁ…―――でも。

 

「うん!それから……ちゅっ…「~~~?!」…これもやっとかないとね♪」

 

男の憧れ……うん、良い物だ。

 

「ふぇ…///…こ、今度からは私がするからね?…いい?(これじゃ年上の面目が丸潰れじゃない…)」

 

「期待してるよ♪じゃあ時間もおしてるから、行ってくるね」

 

「えぇ…気を付けてね?」

 

そして、パルスィさんに見送られながら旧都へと向かった。

 

 

 

パルスィさんの家から、翡翠までは大体、徒歩二十分程度…少し遠いけど、運動には良いかな?

 

「さて、女将さんからは裏口から入ってくれって言われたけど……ここかな?」

 

そこには従業員専用と書かれた扉があり、一応ノックをしてから中に入る。

 

「こんにちは~。失礼します、大神碧です」

 

すると、奥の方から女将さんと板長さんがやってくる。

 

「あらあら、碧さん。ようこそおいで下さいました。本日からよろしくお願いしますね」

 

「時間前行動…いい心がけですね。大変だと思いますが、共に精進致しましょう」

 

「はい!至らぬ所は多々あると思いますので、ご迷惑をおかけしますが…よろしくお願いします!」

 

そして、僕の初めての本格的な仕事が始まる。

 

「それでは…まず仕事の説明からさせて頂きますね。本日から暫くの間、碧さんにして頂く仕事は、私と共にお客様への挨拶回り、調理場での皿洗い…それから、手の空いたときはお客様へのお酌等もしていただきたいのです」

 

なるほど……まずは、出来る範囲で…それから挨拶回りも大切な事だ……うん、頑張ろう!

 

こうして、夕方の開店に合わせ、僕の初めての仕事が始まった。

 

店が開店してから、しばらくはお客様が入ってくることは無かった。

 

というのも、この翡翠は知る人ぞ知る名店、そして立地も路地裏にあるので普通に辿り着くのは難しい。

 

なので来るのは自然と常連さんが多くなる。

 

そして、第一号のお客様が入ってくる。

 

「いらっしゃいませ…あら、八百屋の店主さん…今日は早いですねぇ」

 

八百屋の店主さん…前にパルスィさんと買い物をしていた時に、声を掛けてくれた気の良い鬼のオジサンだったかな?

 

「おぉ、女将さん。今日は客の入りが少なくてねぇ。早めに切り上げたのさ……ん?そっちの坊主は確か…」

 

「い、いらっしゃいませ!本日からここで働かせて貰う大神碧と言います。この前はお野菜をおまけしてくれて、ありがとうございました」

 

すると、思い出した店主さんが……―――

 

「おぉ!パルスィ嬢ちゃんの旦那さんかい!(まだ、違うんだけどなぁ…)そうか、ここで働くことにしたのか…そいつはいい事だ!女将さん、あんまり旦那さんを虐めてくれるなよ?」

 

背中をバシバシと叩いてくる店主さん…――痛いけど、ありがたいな。

 

「くすくす…大切な従業員に、そんなことはしませんよ?それで、ご注文はどうされますか?」

 

そうして、女将さんが注文を取り、その間に僕がお通しを用意する。

 

注文を聞き終えた女将さんは厨房へ向かい、入れ替わる形で僕がお通しを持って、お客様の元に向かう。

 

そして、空いたお皿や酒瓶があれば、お下げして良いかを確認して、そのまま厨房に持っていき、洗浄する。

 

 

最初はお客さんが少なかったので、何とか回せていたのだが、九時を過ぎた頃からお客さんの量が一気に増える……なるほど、これがあるから人を雇ったのかな?

 

とはいえ、その忙しさの中…それを全く顔に出さず、かつ完璧に対応していく女将さん…百人力という言葉はこの人の為にあるんじゃないかと思ってしまう。

 

そして、女将さんから手招きされ、同時に板長から料理を渡される……運んで挨拶をしろってことかな?

 

襖越しに挨拶をし、料理を女将さんへと渡す。

 

配膳に関しても、見て学んでいってほしいと言われたので、女将さんの手元や、配膳の仕方を見る。

 

無駄な所作がなく、料理の並べ方もその美しさを損なわないように…そして、お客様が食べやすいように、さりげない気遣いがされているのが分かる。

 

「相変わらず、女将さんの配膳は見事なものだねぇ……それにしても、女将さんが従業員を雇うなんて珍しいじゃないですか?」

 

お客様の一人からそう言われる……そうなの?

 

「うちも、そろそろ人手が欲しくなりまして……そんな時、丁度彼が紹介されたんですよ…。良い子ですので、今後ともよろしくお願いいたしますね♪」

 

女将さんの言葉に、その場にいたお客様は……―――

 

「ははっ、女将さんが認めた子だ、大事にしてやらんとな。それに、君はパルスィちゃんの旦那様だろ?なら、尚更さ」

 

「あの…パルスィさんをご存じなのですか?」

 

「あぁ、あの子がここに…地底に来たときから知っているさ。まぁ……親心にも近い感情も…多少はあるなぁ」

 

そうだったんだ…。

 

「あの子は最初……この地底の誰とも、話そうとはしなかった…今でこそ、仲の良い友人はいるが、ずっと昔の失恋を引きずって…いつ消えるか分からない、危うい状態だったんだ」

 

妖怪でも、例外なく消える……それは世界に絶望した時…って紫さんも言ってたっけ?

 

「……さとり様を始め、勇儀さん、ヤマメちゃん、キスメちゃん…色々な人達の協力があって、今のパルスィちゃんがいる…」

 

感慨深そうに語るお客様…女将さんも、静かにお酌をしてあげている。

 

「そんな時だよ、君と出会って…明るくなったパルスィちゃんを見たときは……本当に涙が止まらなくなったよ……だから、パルスィちゃんの事…頼んだよ?大丈夫、君ならできるさ」

 

そう言いながら酒を飲みほし、からからと笑うお客様……良かった。パルスィさんの事を思ってくれている人も沢山いるんだ……。

 

 

 

そして、閉店時間になり……―――

 

「ふぅ……最期のお客様もお帰りになりましたねぇ」

 

「えぇ。碧さん…本日働いてみてどうでしたか?」

 

うん、正直に答えよう。

 

「正直……かなり疲れました……―――でも」

 

女将さんが普段、どれだけ気を使って接客していたか、食事ペースの違うお客様に合わせて調理をするのがどれだけ大変な事か……、今まで良く二人で切り盛りできていたなと感心すると共に……―――

 

「でも、こうして…この料亭の一員として働けることが…嬉しいんです」

 

「なるほど…やはり、私の目に狂いは無かった…ということです…ね?板長さん?」

 

すると、後ろから板長さんが……―――

 

「そうですね。正直こちらも驚かされましたよ…皿洗いの手際も良かったですし、状況に合わせて動いてくれて…初日にしては十二分ですよ?もしかして…以前、どこかでこういった仕事をされていたのですか?」

 

仕事の経験は無いけど……あ!

 

「えっと…多分、八雲家でお世話になっていた時に、家事をしていた事と、偶にですが…映姫さんのお手伝いで裁判所で働いていたので……それですかね?」

 

「なるほど……良い環境に恵まれて…いえ、それもあなたの努力の成果なのでしょう…ね?女将さん?」

 

「そうですね。さて、それでは今日の分のお給料です……こちらになりますのでご確認下さい」

 

この料亭では、月給ではなく日払いの歩合制の給料体系が取られている……まぁありがたいのだけど…。

 

そして、袋の中を確認すると……え?!…うそ?!こんなに?!

 

「あ、あの?!…こんなに頂いても良いのですか?」

 

すると、女将さんは……―――

 

「えぇ…あなたが働いた…正当な報酬です。きちんと受け取って下さい。もっとも…本日は、夜だけでしたので、半額程ではありますが…」

 

半額でこれって……うん、がんばろう!

 

我ながら現金だとは思ったけど、やはり嬉しいものは嬉しい。

 

「さ、じゃあ今日は片付けは良いので、明日はお昼の営業からお願いしますね?」

 

折角だから、お言葉に甘えさせてもらおう

 

「すみません、ではお先に失礼します…明日からもよろしくお願いします!」

 

そして、女将さんから見送られ裏口に出ると……―――

 

「あ!碧、お仕事終わったのね?」

 

え?…パルスィさん?……女将さんの方を見てみると……―――あ、この顔は知ってた顔だ。

 

「パルスィさん、こんばんは。相変わらず仲が良さそうで何よりです」

 

女将さんからからかわれながらも、パルスィさんの隣に行く……―――

 

「えっと…迎えに来てくれたんだね…ありがとう///」

 

「勘違いしないでよね?碧の初仕事が気になっただけなんだからね?」

 

そう言いながらも顔を赤くして、そっぽを向く……うん、相変わらず可愛いなぁ…。

 

「女将さん…今日は、碧は上手く仕事は出来ていましたか?」

 

まぁ…心配になるよね…。

 

「えぇ。碧さんなら、この料亭で十二分に働いてくれますよ。さて、だいぶ寒くなりましたので、風邪を引かれる前にご帰宅を……良かったですね碧さん…こんなに彼女から思われていて♪」

 

女将さん……―――

 

「えぇ…自慢の彼女ですから」

 

「碧…も、もう…///…行くわよ」

 

そして、パルスィさんに手を引かれながら翡翠を後にした。

 

 

 

 

「ねぇ碧…お疲れ様…初仕事…大変だったでしょ?」

 

腕を組みながら、こちらに顔を向け、心配そうに聞いてくるパルスィさん……―――。

 

「まぁ…正直、かなり疲れたけど……でもね…―――」

 

「……でも?」

 

「とっても充実感があったんだ…。それに…こうして、パルスィさんが迎えに来てくれたから…疲れなんて吹き飛んじゃったよ」

 

すると、照れくさそうにそっぽを向く…――

 

「も、もう!…それにしても…こうして、あなたと一緒に家に帰れるなんて…何だか不思議な感じね…」

 

「そうだね……くしゅん?!…「大丈夫?」…うん。誰か噂でもしてるのかな?」

 

すると…パルスィさんが息を吐く……。

 

「はぁ…うん。息が白い…もう、秋も終わって…冬になるのね……。ねぇ?寒くなったから…もっとくっ付いても……いいかしら?」

 

そんな事…言わなくても……。

 

パルスィさんをぐいっっと抱き寄せる「きゃっ?!み、碧?」

 

「こうすれば、寒くないよね?これから…もっと寒くなる…でもさ…こうして二人でくっ付いてたら…温かいよね?」

 

「そ、そうね…///……くすっ♪…なら、帰ったら…もっと温まりましょうか?」

 

???……それって?

 

「こ、こほん……~~~///…えっと、ご飯にする?それとも…私と一緒にお風呂にする?///」

 

あぁもう…こういう事を誰から教わるんだ?!(※だいたい紫とさとりです)

 

「えっと……じゃあ…お風呂で……///」

 

そして、冷たい風が吹く中…顔を赤くした二人は、早足で家へと帰っていった。

 

 

 





とりあえず、同棲の日常と仕事の初日の話でした。
如何でしたでしょうか?
次からは冬の話を書きたいと思います。

ご意見、ご感想、アドバイスなど、よろしければお待ちしております。

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