東方嫉妬姫   作:桔梗楓

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あなたが選んだのは?
→無縁塚へ向かう。
本当によろしいですか?
→YES
という訳で映姫ルートです。
最初と最後の文書は他のルートの使い回しですがご了承下さい。



番外編 バレンタインデー~四季映姫編~

 

僕は―――

 

「無縁塚に…映姫さんに会いに行こうと思います」

 

すると紫さんから―――

 

「……あら?四季映姫に?それは何故かしら?」

 

怪訝そうな顔でこちらを見てくる紫さん。

 

「理由ですか……なんでしょうか?…あえて言うなら…何というか…ほっとけない感じがして…」

 

すると顎に指を当てて考える紫……何かをブツブツと言いながら……―――

 

「なるほどね……もしかしたら…でもあの閻魔に限って……」

 

そして紫さんは部屋へと帰っていく……うーん、どうしたんだろう?

 

 

 

そして紫は……―――

 

「もし碧が、本能的に気が付いて向かうのだとしたら……任せるしかないのね……」

 

暗い表情を浮かべ、そのまま一人…スキマの中に消えていく―――

 

 

 

さて、準備も出来たし…あまり待たせる訳にはいかないから行こう。

 

そして、スキマを潜り無縁塚へと向かう―――

 

 

 

無縁塚に着くと、そこには映姫さんが立っていた。

 

そして、僕が来た事に気が付いた映姫さんが手を振ってくる……のだけど…。

 

「碧さん、こちらです。良かったきて頂けて……碧さん?」

 

あ、いけない思わずフリーズしてた。

 

それもそのはず、今日の映姫さんの服装はいつもの仕事用の服ではなく―――

 

白のアルパカニットワンピースという、背が高くスタイルの良い映姫さんの魅力を、さらに引き立てる服装。

 

それに加え、同じく白のニット帽子を、少しだけ斜めに被っているのもまた、アンバランスでとても可愛らしい。

 

ワンピースの下から覗く、ダークブラウンのロングブーツも、大人らしさを醸し出している。

 

肩からかけられた、ブラウンの小さなバッグは、全体的に白いコーデをより一層引き立たせている。

 

 

 

そう、恥ずかしながら普段とは全く姿の違う映姫さんの大人の魅力に、思わず見惚れていたのだ。

 

「す、すみません。思わず見とれてしまって……。その…とっても良く似合ってます」

 

すると、照れくさそうに俯く映姫さん。

 

「あ、ありがとうございます。お洒落なんてしたのが久しぶりでしたので、少々悩んだのですが……そう言って頂けて良かったです♪」

 

何だかこっちまで照れてくるな……///

 

 

 

「えっと…それで、映姫さん…今日は、どうしたんですか?」

 

何となく…予想はしているが…―――

 

恥ずかしそうに、言葉を紡ぐ映姫さん…―――

 

「そ、その…今日はバレンタインデーですよね?……ですので、残りの半日…私とデートして貰えませんでしょうか?」

 

あまりの単刀直入な要件に、思わずあっけにとられてしまった。

 

これは、何て答えたらいいんだろう?

 

早く返事をしないと……映姫さんも顔を真っ赤にしたまま待ってるんだから。

 

しかし、その表情は長くは続かなかった。

 

僕が返事を決めかねている様子を見て、映姫さんの表情がどんどん曇っていき、とても寂し気な表情になってしまった。

 

いつも、整然としている映姫さんの、そんな表情を……

 

こんな弱々しい姿を見せられたら、断れるはずも無く…―――

 

「分かりました。残りの半日……僕で良ければ…その、お相手させて頂きます」

 

すると、一転して花が咲いたような笑顔になる映姫さん……その笑顔は卑怯だ。

 

 

 

とはいえ、今から…しかもこの季節にデートなんてどこに行くんだろう?

 

すると、映姫さんから―――

 

「あの……デートの場所なのですが、ここから少し歩いた場所に、私のお勧めのスポットがあるので……その一緒に来てほしいのです…」

 

なるほど、この近くならそんなに問題も無いか。

 

「えっと…じゃあそこまでの案内をお願いします」

 

「任せて下さい……あと…その、折角のデートなのですから……手を、繋いでも良いでしょうか?」

 

おずおずと確かめてくる映姫さん……。

 

こちらは付き合うと決めたんだ――――なら、答えは一つ。

 

「どうぞ?足元は石が多いので気を付けて下さいね?」

 

そして、映姫さんと手を繋ぐ。

 

映姫さんの手は冷たく……この寒空の下、どれだけ待たせてしまったのかと心が痛んだ。

 

それでも映姫さんは、笑顔で―――

 

「さぁ、行きましょう…碧さん♪」

 

うん、とりあえず行こうか。

 

 

 

しばらく三途の川のほとりを歩き進んだ先にあったもの……それは―――

 

「うわぁ……綺麗な花が沢山……凄い…」

 

川のほとりから、見渡す限り一面に咲き誇る色とりどりの花々…なんて綺麗なんだろう。

 

すると、映姫さんから―――

 

「ふふっ…驚いて貰って何よりです。ここが私のお気に入りのスポットで…偶に休憩に来る場所なんです」

 

なるほど…確かにこれはすごい……あれ?そういえば前に花の異変があったって言ってたけど…?

 

「大丈夫ですよ。ここにある花は全て自然の物…人の魂で咲いたものではなく、純粋にこの河原に生えている物ですから」

 

こちらの考えを見透かしたかのようなやり取り……やっぱりこの人も紫さんみたいに頭が良いんだ。

 

「ここにある花はですね、様々な種類があるんですけど…特に私の気に入った花があるんですよ」

 

映姫さんの気に入った花?

 

「あの、それって?」

 

すると、映姫さんはしゃがんで一輪の花を摘む。

 

「この花はガーベラ様々な色を持ち…そして、その色によって花言葉を変える不思議な花なのよ?」

 

そして、また一輪…花を摘む。

 

「赤は“神秘”、ピンクは“愛情”、白は“希望”、黄色は“親しみ”、オレンジは“我慢強さ”…とそれぞれの花言葉があるんだけど……私が特に好きなのは白とピンクかしらね?」

 

そう言いながら、映姫さんは一輪、また一輪と花を摘んでいく……???…何をしているんだろう?

 

「ふぅ…これで十二本ですね。碧さんはダズンフラワーというものをご存知ですか?」

 

ダズンフラワー…?…聞いたことも無いけど…―――

 

「いいえ、その…どういったものなんですか?」

 

すると映姫さんは嬉しそうに語り始める。

 

「ダズンフラワーはね、個人が見繕った十二本の花に”感謝・誠実・幸福・信頼・希望・愛情・情熱・真実・尊敬・栄光・努力・永遠”という意味を込めた特別な花束の事なの…そして、これらを束ねたもう一つの意味…『すべてをあなたに誓う』」

 

そして、それまでの饒舌が嘘のように沈黙する映姫さん……?

 

 

 

 

「ねぇ…碧さん。今日はバレンタイン…本来であれば、私にはまったくと言っていいほど無縁の日なのです」

 

確かに映姫さんのそう言った話は聞いたことが無いけど……。

 

「それどころか、バレンタインで浮かれる女性にお小言を言う、まぁ所謂空気の読めない者でした……」

 

自虐気味に苦笑する映姫さん―――

 

「でも、今年は違いました」

 

そして、こちらを振り向く……(ぞくっ)?!…なんだろう今の感覚は…?

 

「最初は、普段から仕事を手伝ってくれているお礼でも…と思い、渡そうと作りました」

 

その表情が暗くなる―――

 

「でもですね…そう思いながら作ったチョコレートは…どれも美味しくなかったんです…何度作っても…何度も…何度も…数えきれないくらい作っても…」

 

俯いている映姫さんの表情は分からない…―――そして、言葉が続く。

 

「何故だろう?と考えたんです…考えて考えて考えて考えて……そして、やっと…たどり着いたんです、その答えに……」

 

そして、顔を上げた映姫さん……っ?!

 

「あの日……碧さんが初めて私の手伝いに来てくれた日…。あなたに抱きしめられた時から、私の身も心も……全てあなたの“モノ”なんだ……」

 

 

 

 

そして、一呼吸置き……―――

 

「碧さん……私はあなたに惚れています」

 

「あなたの事を想いながら作ったチョコレートは…とても甘く…とても満足のいくものになっていきました」

 

「作っていて充実した気持ちになりました」

 

「ですが、私はお菓子など、殆ど作った事が無いので不格好になってしまいましたが……」

 

「碧さん。あなたの事を考えながら作ったチョコレートと……このダズンフラワーを…受け取って頂けませんか?」

 

 

 

矢継ぎ早に飛んでくる言葉に、僕は正直驚きを隠せなかった。

 

自分の知る限り、幻想郷で一番毅然とした彼女から告白されたこともそうだったのだが、それ以上に、彼女の異常性についてだ。

 

映姫は自分の憧れの一人であり、自分に指標を示してくれた大切な人。

 

その気高い心の在りように、幾度となく助けられた……。

 

だからこそ感じた、この異質さに……。

 

「映姫さんの気持ちは嬉しいです…ですが…僕には……っ?!」

 

断ろうと思った。

 

でもできなかった……。

 

目の前の彼女は…大粒の涙を流し…そして…―――

 

「ふふっ……やはり、碧さんは優しいですね。そして、私はあなたのその優しさを利用しようとしている…汚い女なんです……」

 

 

 

 

普段なら目の前で知り合いが泣いていたら、大慌てで慰めに行くだろう。

 

でも、この時だけは違った―――

 

そして、気が付いてしまった。映姫さんの心の歪さに…。

 

 

 

映姫さんの心は強いんじゃない……とうの昔に壊れていたんだ……。

 

いくらここが幻想郷で、どんな不思議な力があったとしても。

 

自身に干渉を受けない力なんて、本来ならば“ありえない”のだから。

 

そして、そんな状態が長く続けば、例え妖怪であろうと…その心は自然と壊れてしまう。

 

 

 

あぁ、そうか……だからこの花が好きなんだ……―――

 

白いガーベラは希望を表す―――

 

ピンクのガーベラは愛情を表す―――

 

そして、自分の壊れた全ての心を表す…ダズンフラワー……

 

何故、映姫さんがこれを選んだのか……今ならその意味が分かる。

 

もし……もし、僕が……僕の行動で、壊れていた映姫さんの心を守れるなら……―――

 

……―――ごめんねパルスィさん…。

 

僕は、差し出された花束とチョコレートを受け取る…。

 

それが意外だったのか……映姫さんは僕を、驚いた顔で見つめてくる…。

 

 

うん、ここからだ……覚悟を決めろ…大神碧!

 

そして、自分よりも背の高い映姫さんを抱き締める。

 

そして、その大きいのに、小さな背中を…優しく優しく…ぽんぽんと叩いてあげる。

 

 

僕は…結局自分の理想を押し付けるあまり、本当の映姫さんを見ていなかったんだ…。

 

前の一件で、一番辛いのは映姫さんだと理解していたのに……気づくことが出来なかった…―――だから!

 

「……映姫さん」

 

「……み、碧さん?」

 

驚いた様子の映姫さん―――そして、僕も言葉を伝える。

 

「こんな僕で良いなら…いくらでも支えにしてください」

 

 

 

すると、映姫さんから返ってきたのは―――

 

「で、でも…碧さんにはパルスィさんが居ます…今更私の入る隙なんて……」

 

僕はその言葉を断ち切るように―――

 

「今、この場には…僕と映姫さんだけしか居ません……だから大丈夫です」

 

(それに…パルスィさんも分かってくれる…僕の信じた彼女なら…同じ苦しみを見た、彼女なら…)

 

 

「碧さん……」

 

まるで、小さな子供がすがりつくように―――

 

映姫さんが僕を、ぎゅっと抱き締め…そして静かに目を瞑る…。

 

 

 

「……分かっています。分かっているんです」

 

 

 

それは自分に言い聞かせるように―――

 

「碧さんが、とても優しいから……」

 

 

 

それはまるで言い訳のように―――

 

「私を、こんなにも優しく…甘やかしてくれている……」

 

 

 

声を震わせ……力なく、首を振って嘆く…。

 

「……それでも」

 

 

 

とめどなく溢れ出す涙―――

 

「分かっているから……苦しいんです……!」

 

 

今にも嗄れそうな声で―――

 

「こんな弱くて、どうしようもない私の事を……」

 

 

自嘲気味に泣き、笑いながら―――

 

「碧さんが……私の否定したその優しさで、赦して、受け入れてくれているのが分かるから……!」

 

 

 

 

そして紡がれる言葉―――

 

「……だから、お願いです……」

 

 

その声に感情は無く―――

 

「今日だけで良いから……」

 

 

 

その瞳に光は無かった―――

 

「私の恋人になってください……」

 

 

 

僕を抱き締めていた手が、徐々に解けていく―――

 

「映姫さん……」

 

僕はその手を―――

 

 

これ以上…心が壊れないように…優しく握って、ゆっくり…そして小さく囁く―――

 

「……映姫さん」

 

 

 

びくっと体が動く―――

 

「…………そんなこと、言わないで下さい」

 

 

彼女は今、何を思うのか―――

 

「僕は、そんな薄っぺらい優しさで、映姫さんを助けたい……求めたいなんて思いません」

 

 

 

今にも消えてしまいそうな映姫さん―――

 

その存在を呼び戻すためにはっきりと言葉にする。

 

「僕はあなたを……映姫さんを守ります」

 

 

たとえ他の人に何を言われても―――

 

「……映姫さんが不安なら、僕がずっと傍にいます」

 

 

たとえそれが茨の道になろうとも―――

 

「映姫さんが求めてくれるなら…僕はあなたの為に生涯を尽くします」

 

 

 

そしてもう一度言う…

 

強く、自身へと…映姫さんへと言い聞かせるように―――

 

「僕と…映姫さんの約束です」

 

 

 

映姫さんの瞳に光が戻る―――

 

 

そして少しずつ……言葉が紡がれる―――

 

 

「私は…その…融通も利かないし、頭も固いです…そして何より心が壊れています……かなりめんどくさい女だと自覚しています……」

 

 

 

そんな事…しかし、それを言おうとする前に―――

 

「でもですね…。その分、愛情は倍に…いいえ、それ以上にして返しますから……」

 

 

 

そして照れた…でもどこか、晴れやかな美しい笑顔で―――

 

「………大事に、してくれると嬉しいです///」

 

 

 

そんな少し不器用な彼女を―――

 

愛おしさを込めて―――

 

そっと、抱き締める。

 

 

 

「もちろん、大事にします…約束です」

 

返ってきた彼女の言葉は―――

 

 

 

「はい♪碧さんのこと…信じます♪」

 

二人の間に流れる風は……どこまでも幸せに満ち溢れていた――――。

 

 

 

 

 

 

 

これからどんな物語が紡がれていくのか―――

 

それはIF……有り得たかもしれない話―――。

 

歴史に埋もれた一端の出来事。

 

 





という訳でちょっと長くなりましたが映姫編でした。
IFのお話…いかがでしたでしょうか?
実はヤンデレ属性を持っていたのは映姫だったという設定です。
書いていて、映姫がヒロインの作品を書けるのではないだろうか?と一瞬だけ思ってしまいました。

ご意見、ご感想、アドバイスなど、よろしければお待ちしております。

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