向日葵と言えば、この人。
ということで書いてみました。
幻想郷には色々な名所がある。
今、僕が向かっている『太陽の畑』は夏になると、凄まじい数の向日葵の花が咲き誇る場所らしい。
折角なのでのんびり歩いて行こうと思い、紫さんから人里の出口まで送ってもらい、そのまま南の方に向かう。
他の人に聞かずとも、丁寧に標識が出ているのはこの幻想郷の良い所なのかな?
――……しかし、僕は甘く見ていた
そう、この道のり…かなり長いのだ…。
季節は夏真っ盛り。幻想郷も例に洩れず、猛暑に見舞われていた。
そんな中、日陰一つ無い平野を延々と歩き続けると…流石に気が滅入ってくる訳だ…――
「念の為、水筒と帽子を被ってきて…ホント正解だったなぁ…」
被っているのは、ツバの広いブラウンの帽子。紫さんのお下がりだったのを貰ったのだけど…
『あら?予想以上に似合っているわねぇ。それなら服も合わせないといけないわね~』
と、再び一日掛かりでコーデされたのである。
今の服装は、白いシャツに、黒いハーフパンツ――その上から白い薄手のロングコート(前を止めたら普通にワンピースに見える)を着ている。
うん…見る人が見たら…女性の服装だよね……?
「紫さん…絶対楽しんでるよ…はぁ…」
笑いを堪える家族の顔を浮かべつつ、ため息をついた僕は再び道を歩き始めた。
何故、太陽の畑に行こうと思ったのか?
それは、単純にパルスィさんとのデートの下見である。
折角、幻想郷に来たのだし、今の季節でしか楽しめない場所は無いか?と紫さんに聞いたところ、『太陽の畑』にある向日葵を勧められたのだ。
どうせなら、下見をキチンとして…パルスィさんを案内できるようになっておきたい。
まぁ、早い話がちょっとした男の意地?甲斐性?なのである――だって、いつもパルスィさんに案内されてるから…偶にはね?
そう思って歩いて来たのだが……本当に長いし暑い…。
そうして、猛暑の中を二時間くらい歩いただろうか?…少し小高い、丘の様な物が見えてきた――もしかして、あの先に…?
期待を込めて、少しだけ早足になり…僕はその丘へと向かう。
―――そして、その丘から見えた光景……それはまさに圧巻と言える光景だった。
地上に咲き誇る……いや、狂い咲くと言っても過言ではない量の向日葵。
例えるなら、”地上の太陽”。黄色の花弁に彩られた世界は、今まで見た事が無い……そして、どんな絵画よりも芸術的に感じられた。
「―――……すごい…」
それしか声に出ない…いや、出すことが出来ない。
それから、暫くの間、僕はその光景を目に焼き付ける様に…ずっと見ていた。
どれくらい見ていたのだろうか…多少、景色を楽しめる余裕の出来てきた僕は――
――あの場所に行って見たい…という好奇心に駆られ、向日葵畑に降りて行った。
しかし、猛暑の中……延々と歩き続け、さらにはずっと景色を見ていた僕は、そこで意識を失ったのだった……―――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「――…ん?何かしら?」
太陽の畑の管理者…普通の妖怪ながらにして、その力は大妖怪クラスの持ち主…名を『風見幽香』と言う。
「あら?どうしたの幽香?」
そして、彼女の旧知の仲であり、偶々遊びに来ていた友人…魔法使いにして人形使いの『アリス・マーガトロイド』
二人が雑談をしていると、幽香は何かを感じ取ったかの様に反応する。
「……花が教えてくれているの…。…?…人間が…自分の目の前で倒れている?…っ?!この猛暑の中で!?」
自分のいる家は、幸い魔法で、過ごしやすい温度にしてあるが、外はそうはいかない。
しかも、今日はここ数日で一番暑い……そんな中、人間を放置していたらどうなるか…――
そう思った彼女は、愛用の日傘を持ち、すぐさま家を飛び出していった。
「ちょ、ちょっと幽香?!何があったのよ?!」
慌てふためく友人を置いて……―――。
―――――――――――――――――――――
私に知らせてくれた向日葵の元に向かうと、そこには少し変わった格好をした、一人の少女が倒れていた…――齢は…十二~十三くらいだろうか?
まだ、あどけなさの残るその顔は暑さにやられ、苦悶の表情が浮かんでいた。
すらっとした首筋に手を当てる…
「軽い熱中症ね……急いで家に連れて行かないと!?……それにしても――」
幽香は不謹慎ながら思ってしまった…――なんて可愛いのだろうか?…まるで人形の様に…。
陶磁器を思わせる白い肌…。
それとは対照的に艶のある漆黒の髪の毛。
中性的ではあるが、綺麗な顔立ちと長い睫毛…。
か細い手足と小柄な体躯…。
それにこの甘い甘い”匂い”…。
このまま目を覚まさないのなら…――いっそ自分の物に…ってそうじゃない!?
ブンブンと首を振り、邪念を追い払いつつ、そのまま家に向かった……。
家に入るとアリスが慌てふためいていた。
「ちょっと幽香!いきなり飛び出て…って、その子はどうしたの?!大丈夫なの?!」
この子を見てさらに慌てるアリス…あぁもう!
「落ち着きなさい!説明は後でするから、先にこの子の看病を!軽い熱中症みたいなの、アリスは氷水と濡らしたタオル…それから食塩水の用意をして頂戴!」
少し冷静になったアリスは……
「わ、分かったわ!直ぐに用意するから……その子の処置は任せるわよ!」
当然よ!先ずは、衣類を緩めてあげて…それから、足を少しだけ高くして寝かせて……。うん、よし!
次は少しずつ冷やして上げないと…部屋の魔法を彼女に圧縮して……これで少しはマシになったと思う…。
「幽香!持ってきたわよ!」
流石アリスね、こういう時の行動は早いわ!
「ありがとう!なら、用意した濡れタオルで彼女の身体を拭くわよ。私は腋の下と首を拭くから、アリスは足元をお願い!」
「分かったわ!…んしょ…この子…大丈夫かしら…?」
心配そうな声が聞こえてくる……―――そうよね。
「見た所軽い熱中症みたいだから…処置はこれで大丈夫だと思うわ。後は、この子が目を覚ましてくれるのを待ちましょう?」
そうして、私達は汗だくになりながら…彼女の看病を続けたの―――
でも、彼女…珍しい格好をしてるわね…それに、どうして一人でこんな所に来たのかしら?
「ねぇ…幽香?この子って人里の子供じゃないわよね?それに…着ている服も変わっているし…」
アリスも同じことを思ったみたいね……
「そうね…人里の子供にしては格好が違うし…かと言って旅人って訳でもなさそうだし…まぁ、詳しくはこの子が目覚めてくれるのを待ちましょう?」
「えぇ。……でも、こんな時に不謹慎なのだけど…この子…とっても綺麗ね……」
友人も同様の思考になったようで、少しだけ安心した自分がいる……。
苦悶の表情は無くなり、今は落ち着いた寝息を立てて眠っている……なんだろう…この感情は?
さっきも思ったけど…この子をずっと自分の元に置いていたくなる。そして、無条件で守ってあげたくなる……あぁ…これって――
「保護欲…いえ…母性本能って、こういう感情なのかしら?」
友人も同じ考えに至ったらしい…――そうね、自分は子供なんて居ないから、もしかしたらこの感情が、そうなのかしらね?
私達二人は…しばらく彼女の顔を眺め続けた…――
すると、彼女が少し身動きし…目を覚ました!
「あれ…?…此処は…?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
なんだろう……涼しくて気持ちが良い…――
さっきまでの暑さがない…苦しさも…。
うっすらと目を開けると…見知らぬ天井で、二人の女性が僕の顔を覗き込んでいた……?
「あれ…?…此処は…?」
「よかったぁ…目を覚ましたのね…」
緑色のウェーブ掛かったボブヘアーの女性がそう言ってくる…
「えぇ…、全く…心配させてくれちゃって…でも、安心したわ…」
もう一人の…パルスィさんを思わせる金髪の髪を赤いヘアバンドで止めた女性も、安堵の表情を浮かべていた…――?
「あの……すみません…。此処は?…っ?!ゴホッ!コホッ!…??」
なんだろう?上手く声が出せない…?
「少し待ってね…これを、少しずつ飲んで頂戴?」
すると緑髪の女性がスプーンに水を入れて、僕の口に運んでくれる……。あ、ちょっとだけ楽になってきた。
「あなたは、軽い熱中症で向日葵畑に倒れていたのよ…覚えてるかしら?」
向日葵畑…?そうだ…思い出した、綺麗な向日葵を近くで見ようと思って…それから…?
「此処は向日葵畑の中にある、私の家。倒れていたあなたを運んで看病させてもらったの…――それで…もう話はできるかしら?」
ゆっくりと、そしてこちらを安心させるように笑顔を浮かべる女性……見ると、汗びっしょりになっている…そっか…僕の為に必死で…。
「…っ…はい…、ありがとうございます。…僕は、大神碧…です。春頃に、幻想郷に来て…今は…八雲紫さんの元で、お世話になってます…」
すると金髪の女性が…
「思い出したわ!確か霊夢から、話には聞いていたの。紫さんの元で保護されている人間がいるって事を…あなただったのね」
…みんなと、知り合いなのかな?
「アリス…そういう事は早く言いなさい…。「だって、会った事が無かったから…」…まぁそれもそうね…。それで、どうして此処に来たのかしら?」
そして、僕は此処に来たいきさつを話した。
幻想郷の名所を見て回りたいと言った事
紫さんから『太陽の畑』について聞いた事
そこまでの道のりを歩いて来た事
景色に見惚れて、暫く立ち尽くしてしまった事
……―――そりゃ熱中症にもなるよね…。
すると、緑髪の女性は呆れたような…でも心配そうな顔をして…
「はぁ…此処の景色に見惚れてくれた事については感謝するわ。でもね、それで肝心のあなたが倒れてしまっては意味がないでしょう?」
返す言葉も無い…
「ごめんなさい……。それに、僕のせいで二人にもご迷惑をお掛けしたみたいで…本当にすみませんでした…」
それを見た金髪の女性が…
「もういいでしょ幽香?あんまり責めても、この子がかわいそうよ?「…そうね」…それと、私の名前は『アリス・マーガトロイド』、名字は長いからアリスって呼んでね?幽香も…ほら!」
アリスさんに言われながら、緑髪の女性も…
「私の名前は『風見幽香』…この花畑の管理者よ。幽香でいいわ」
緑髪の女性…幽香さんはちょっとぶっきらぼうにな感じに言ってくる…この感じ…出会った頃のパルスィさんに似てる…?
「幽香さん…アリスさん…二人ともありがとうございました…。僕はもう、お暇させていただきますので…「待って」…え?」
すると幽香さんが心配そうな顔でこちらを向く…
「あなた、まだ体力が戻ってないでしょ?それに…その汗でべったりの服のまま帰るつもりなの?」
そして、自分の服を見てみると、汗でシャツが軽く透ける位にベトベトになっていた…これ、ずっと見られてたんだ…///
「す、すみません…。あの…服が渇くまでで良いので、こちらで休ませて貰えませんか…?」
「ふぅ…最初からそう言いなさい。良いわよ。それから、少し温めにお風呂を入れるから、ついでに汗も流して行きなさい…いいわね?」
幽香さんはそう言ってくれた…ありがたいけど…
「…その…いいんですか…?迷惑を掛けた上に、そこまでして貰って…?」
「えぇ…構わないわよ。さて、それじゃあ私はお風呂を入れてくるから、その間はアリスと会話でもしてなさい」
そう言って部屋を出て行く幽香さん…親切な人だなぁ…
「ふふっ…。幽香ったら、照れちゃって♪」
そう言いながら笑顔を浮かべるアリスさん。
「??…照れてる?幽香さんがですか?」
「えぇ。碧君を怒った事と、碧君が自分の育てた花畑で感動してくれた事…その両方に照れてるのよ」
???……ますます分からない…―――
「あぁそうね、碧君は知らないのよね。幽香は確かに親切だけど、自分の関心の無い人に対しては怒ったりしないのよ?でもね、あなたは幽香の育てた花畑に感動して、そのあまり熱中症になってしまった。だから、あなたに関心を持ってしまった…だから怒ったの。まぁ、後悔半分、嬉しさ半分って所かしらね?」
そう言いながらクスクスと楽しそうに笑うアリスさん…。益々悪いことをしちゃったなぁ…。
「そう言えば…お二人は友達なんですか?随分と親しい感じですけど…?「碧、お風呂沸いたわよ」…あ、幽香さん」
「二人とも…随分と楽しそうだけど…何を話していたのかしら?」
「えっと…「気にしなくて良いわよ。クスクス♪」…です…」
「……???」
ちょっと困惑気味な幽香さん…。本当に…親切な人だ…。
「まぁいいわ。お風呂場は、廊下に出て一番奥にあるから…風邪を引かない内に入ってらっしゃい?」
「はい…分かりました。重ね重ねありがとうございます…」
「気にしなくて良いのよ?さぁ…さっさと入って汗を流してきなさいな?」
そうして、幽香さんに促されるまま、僕はお風呂場に向かった……―――あの後、まさかあんな事になるとはつゆ知らず…
―――…続く
ドSのSは親切のSですね。
続けたのはちょっと長くなりそうだったからです。
まぁ展開としては皆さんの予想している通りだと思いますが…。
ご意見、ご感想、アドバイスなど、よろしければお待ちしております。