パルスィさんが二人に別れ…そして、再び一つになって一ヶ月――…季節は初夏へとなっていた
「それで…今日は何でこんな所に来てるのかしら?」
隣に居るのはパルスィさん。いつもと違い今日は髪をポニーテールにしてる。降ろしてるのも好きだけど――
「さっきも言ったけど、その髪型…良く似合ってて可愛いね」
すると顔を少しだけ赤くしたパルスィさんが…
「そんなに何度も言わなくてもいいわよ…///…――まぁ…言ってくれるのは嬉しいけど…///――…ってそうじゃなくて!なんで妖怪の山に来たのかよ!」
うん、やっぱり可愛いなぁ。
「ごめんね。可愛いパルスィさんが見たくてつい…。此処に来たのは、天狗の…射命丸さんに用事があったんだ」
そう、天狗で唯一の知り合い…新聞屋の射命丸さんに、お願いがあって来たのだ。
「射命丸って…あのパパラッチ天狗って言われてる妖怪よね?…何を考えてるの…?」
顔を強張らせたパルスィさんから聞かれる…――まぁそりゃそうだよね。
「大丈夫だよ。危ない事とか、変な事じゃないから」
「どうかしら?あなた…色々と人気だから…その…天狗とも…」
「だから、そんなんじゃないって!今日は射命丸さんに、使ってないカメラを貰えないか聞きたくてね」
すると訝しげな顔で…
「カメラ?何でそんな物を…?」
まぁ、そう思うよね。
「えっと…――まぁ、個人的な事なんだけど…折角だから、パルスィさんとの思い出を、写真で残して…時間が経ったときに、二人で見たいな――って思って…ってパルスィさん!?何でちょっと涙ぐんでるの?!」
目の前の彼女は、少しだけ瞳に涙を潤ませていた――なんで?何か悪いことしたのかな…?
「違うの…――。私嬉しくて…妖怪だから、写真で残すなんて考えも無かったし…。それに、改めて碧が私の事を想ってくれてるのが嬉しくて…ぐすっ…」
「あぁもう!これくらいの事で泣かないでよ…。パルスィさん、ホントにあれから涙もろくなったよねぇ…」
そう、融合したパルスィさんは、妖怪としての力が上がった……――のだが、同時に何故か涙もろくなってしまった。本人曰く…――
『仕方がないでしょう?!あれから、碧の想いが、より一層強く感じられるようになったんだから!…その…責任はちゃんと取りなさいよね/////』
との事だった。まぁ…言われなくても責任はきちんと取るけど…――ってそうじゃなくて!
「これから、もっと幸せになるんだから。これ位で喜んで貰ったら涙が無くなっちゃうよ?」
「碧…///――…ふぇ…「だから泣いちゃダメだって!?」…――そ、そうね。ごめんなさい///」
そうして、彼女を慰めながら山を進んで行く。
「それにしても…こうして、二人で山に来るのもいいわね。いつも、旧都でのデートばっかりだったから…こういうのも新鮮で素敵ね♪」
そっか…僕は、紫さんから連れられて色々な場所を巡ってるけど…パルスィさんはいつも地底で暮らしてるから…――
「ねぇ。もし良かったらなんだけど…「貴様達!この妖怪の山に何の用だ!」…――え?何?」
すると目の前…いや、いつの間にか周囲にはカラス天狗の集団が居た。この人達に聞けば分かるかな…?…でも、なんだか妙に殺気立ってる様な…?
「何の用だと聞いている!返答によっては…「ま、待ってください!」む?」
「えっとですね。今日は射命丸さんに用事があって来たんです…それで、射命丸さんは?」
しかし、目の前の天狗は…。
「射命丸なら今、仕事で山の外に出ている!……貴様…怪しいな…?」
すると横から別の天狗が来て…
「隊長!人間はともかく…こいつ、地底の妖怪です!」
”地底の妖怪”その言葉に、周囲を取り囲んでいた天狗の警戒心は一層増した。
そして、運悪く、此処でさらに天狗の増援が来る…。
「忌み嫌われた、地底の…薄汚い妖怪風情が、何の用だ!返答によっては、この場で処罰させて貰うぞ!」
――?!ちょっと!どういう事なの!?
「やっぱり…面倒な事になったわね…!」
さらに増え続ける増援部隊…――
「パルスィさん!面倒な事って?!」
「碧はあまり詳しくは知らないと思うけど…元々、地上と地底は不可侵条約が結ばれていたの!最近になってそれが無くなったのだけど…それでも地底の妖怪に対しての偏見は弱くならないのが現状なの…」
悲しそうな瞳で語るパルスィさん…。ふざけるな!
「地上だから…地底だから…そんな小さな事で差別をする…あなた達は、自分のしている事が恥ずかしくないのですか!?」
自分が言われる事には慣れてる…でも、彼女…パルスィさんについて言われるのは別だ。
「はっ!たかが人間に何ができる?……そうだな?ここは人間を殺して今日は鍋にでもさせて貰うか!」
こいつら!
「―――あら?面白いことを言うのね?」
…しかし、そんな硬直状態を破ったのは、とても…とても、それこそ、その場に居た、全ての生き物を委縮させるには十分なプレッシャー…
――…これは…紫さんの声…?
顔を上げるとそこには、いつもの余裕の紫さん…ではなく、目の前の敵全てを消し去ると言わんばかりに、殺意に溢れた目をした紫さんが…。
――そして、どこから現れたのか分からないけど、幽々子さん、さとりさん、永琳さん。咲夜さん。諏訪子さん。そして何より…居てはいけない人物…地獄の閻魔…映姫さんが天狗を取り囲んでいた。これって…?
幻想郷の有力者…?
「ごめんね碧君。現在妖怪の山は警戒中だって事を伝え忘れていたの…何かされていないかしら?」
「えぇ…みなさんのおかげで何とか!それと、何でこんな事に?前もって連絡はいってる筈なのに…」
「多分、末端の方にまで情報が来てなかったのかしらね。でももう安心して頂戴?……此処から先は…地獄なのですから…ね?」
其々から膨大な妖気、魔力、神気などの力が噴き出すが…はっきり言ってそれだけで気絶してる天狗が多数…。
「私の家族に手を出そうとした事…死んでも後悔させてあげますわよ?」
「あらあら…自分の子供とお嫁さんに手を出されるなんてね…流石の私も怒るわよ?――死してなお、愉しく。覚悟の出来た者からいらっしゃい?」
数多の死霊を纏い、背には巨大な扇の様な紋様が出現した。その顔にはとても冷酷な笑みを浮かべる幽々子さん…。これが…死霊の姫…幽々子さんの本気…?
「大切な親友二人を襲うとはいい度胸ですね?…私も能力を使わせて貰いましょう…そのトラウマに怯えなさい!」
普段の眠たげな目は、形を潜め…僕達の為に能力を使ってくれるさとりさん。
「私はもう…あの子を…失いたくない…例え自分の物にできなくても…。あの子の幸せ…邪魔はさせない!!!」
弓を構え…妖気でも神気でもない、純然たる力を纏う永琳さん。
「早苗の恩人、守らせて貰うよ!とはいえ私は、戦闘は苦手だからねぇ…後ろからじわじわと呪わせて貰うよ!」
外の世界でも語り継がれる諏訪の神…その神の力を解放した諏訪子さん。戦闘は苦手って…嘘でしょ?!
「私の恩人に…大切な人に手を出した。――…そう、あなた達は私の逆鱗に触れました!それだけで万死に値します!」
紫さん以上の、圧倒的な力…。そして、初めて垣間見る、映姫さんの明らかな”怒り”の感情。
「――お嬢様に代わり来ましたが…この面子だと、私…浮いてますね…。まぁ…言われた分の仕事はさせてもらいますよ…ふっ!」
紅魔館の主の代わりに来ていた咲夜さん…。それでもただの人間が、できる動きじゃない…歴戦の暗殺者…そんな雰囲気に近い…。
妖怪としての紫さん…何度か見慣れているけど、それでもゾッとする表情……。それから、幽々子様も…問答無用に相手を亡霊にしてるし…、さとりさんに至っては相手のトラウマを刺激しまくってる。
あまり戦力としては役に立たないと言っていた諏訪子さんも…
「土着神の呪い…その身に受けるがいいさね!…自分の判断力の無さ…それを恨むんだねぇ!」
永琳さんも、恍惚とした表情で敵を倒していく。
「さぁ…次に撃ち抜かれたい相手は誰かしら?…――くすくす♪」
映姫さんに至ってはひたすら、悔悟の棒(かいごのぼう)で相手を撲殺していた。(厳密には殺されては無いのだけれど)ってか映姫さん…どれだけ力が強いんですか?!天狗の人、地面に埋まってますよ?!
そして、最後に…其々の弾幕奥義を放つ…――
「美しく…そして残酷に散れ!”深弾幕結界 -夢幻泡影-”!」
「自らの罪を悔い改めよ!”審判『ラストジャッジメント』”」
「その魂すら消して上げましょう…”西行寺無余涅槃”…」
「この天狗は鬼が苦手な様ですね?食らいなさい!”想起『濛々迷霧』”」
「あなた達には過ぎた技だけど…これも罪ね…”天網蜘網捕蝶の法”!」
「高々呪い…されど呪いってね!”祟符『ミシャグジさま』”」
「やれやれ…本当にこの面子だと見劣りしますが…”デフレーションワールド”」
その日…妖怪の山は、弾幕の嵐に包まれた…――
そして、カラス天狗部隊の全てを沈黙させた後、紫さんが…――
「見ているんでしょう!天魔!返答次第では…天狗という種族は、今日と言う日で、終わりを告げるのだけれど…お祈りは出来たかしら?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方の天魔は焦っていた…部下の部隊が人間と妖怪に接触したのは聞いていた…しかし、その二人が寄りにもよってあの二人だったなんて…。
人間の男の子の方は、各勢力の者達から保護を受けている。
八雲紫、四季映姫、西行寺幽々子、八意永琳、古明地さとり、守矢諏訪子…この幻想郷で相手にしてはいけない実力者…それが、寄りにもよって六人も…地底の妖怪も同妖怪の保護を受けていると聞き、天魔は目の前が真っ暗になった……――。
あぁ…天狗の種族も此処で終わりだな…と思いながら…――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
しばらくすると大天狗様が目を覚まし…――只ひたすらに土下座をしてきた。起き上がってきた他の天狗も同様にしてきた。
流石にバツが悪そうにしていると…紫さんから、立場を分からせるには良いのよ?と言われたので僕は何も言えなかった。
そして、落ち着いて来たころに…大天狗様が…――
「今回の件…本当にすまなかった…何度謝っても許される事ではないが…申し訳ない!」
まぁ、いきなり来た僕達にも非はあるので…
「顔をあげて下さい、大天狗様「天魔だ」…天魔様。不用意に僕達が入って来たのも問題があったので、此処は、どうか痛み分けという事には成りませんでしょうか?」
すると、天魔様は少し驚いた顔をして…
「良いのか?」
「えぇ…今後はこんな事の無いようにしてくれれば。それと、射命丸さんに頼みがあったのですが…」
「あ奴にか?…何?カメラ…?それに、必要に応じて現像…?ふむ…それくらいなら、わらわが用意しようぞ」
「え?!良いのですか?!」
これは渡りに船だけど…いいのかな?
「なに、気にするでない。こちらは危うく天狗の種族、其の物が無くなりかけておったのじゃかなのう…(冷や汗)」
「えっと…すみませんでした…?」
「いや…それに地底の姫も…。不快な思いをさせてすまなんだ…許してくれ…」
「私は良いですが…。そうですね、代わりにこの山の、名所等を教えてくれたらそれで…」
「それについてはお安い御用じゃ。そうじゃのう…季節も夏になるし、河童の里で水遊びなぞどうかの?」
それは…ひょっとしてパルスィさんの水着姿が見れるって事なんじゃ…?
「碧…目がやらしーわよ…」
ジト目をしたパルスィさんから言われる…。
ばれてた…でも仕方がないじゃない。大切な彼女の…それも水着姿とか!……もちろん、その中身も知ってるんだけど…///
やっぱり可愛い姿は見てみたいからね。こんな姿でも、年頃の男なんだし…///
「ふむ…では話は決まりじゃな。河童の里にはきちんと私自ら伝えておくし…それと、保険としてこいつを持っていくと良い」
何か木で出来た手形を渡された…これは?
「これはこの、妖怪の山全てで使える交通手形じゃ。――今日の様に絡まれても、これを出せば問題なかろうて。それから、この手形は河童の里でも有効に使えるから、是非使ってやってくれ」
「色々とありがとうございます。天魔様」
「なに、こちらこそ、里を滅ぼさずに済んだ…。そうだ、カメラは今から取ってくる故、少々待っておれ!」
そうして、黒翼を羽ばたかせ凄まじいスピードでその場を後にする天魔様…何だか…ごめんなさい…。
それから、カメラを持った天魔様が神速で帰って来たけど…。
持ってきてくれたのは超高性能のデジカメ(充電器付)だった。…こんな良さそうな物を貰って本当に良かったのかな?
心配になって、天魔様に目線を送ると…
「なぁに、わらわの昔使っておった物じゃ。気にするでない」
と、言ってくれた。それから撮った写真の現像もしてくれると言うので、こちらとしては大助かりだけど。
その後、再び、デートをしようと思ったのだけど…その前に…――
「あの…みなさん、来てくれたのは非常に助かったんですが、何故此処に?」
すると紫さんが答えてくれる。
「あら?言ってなかったかしら?前みたいに襲われても大丈夫なように、碧君とパルスィちゃんの陰陽玉には発信機の様な物を付けさせて貰ってたのよ」
さらっと爆弾発言しましたね…紫さん…。
「で、今回、妖怪の山に行くって聞いたから、少し心配でね。来れる人達に集まって貰ったのよ…何故か閻魔もいますけど(キッ!)」
「今日は偶々休暇でしたので…(二人のデートが羨ましくて見て見たかったなんて言えません///)」
パルスィさんも、さとりさんに…
「さとり…ありがとう…。あなたも地霊殿の仕事があったでしょうに?」
「いえ、お気になさらず…(少しでも碧さんに会いたかったからなんですけどね…///)」
そして、僕も…
「幽々子さん、永琳さん、それから咲夜さんも…忙しい中わざわざありがとうございます」
「気にしないでね~。大切な子供とお嫁さんの一大事ですもの~。それに前にも言ったでしょう?碧くんには幸せになって貰いたかったんだって…ね♪」
「私も気にしないで下さい(あ、何気に会話したの初めてだ)碧さんは、輝夜が認めた数少ない人間…でしたらそれを守るのが従者の役目ですから」
「それでも…ありがとうございます、永琳さん♪」
その無垢な笑顔に永琳はその場で悶絶する…(何あの笑顔!反則でしょ!可愛すぎる!お持ち帰りしたい!)無論…表には出していないが。
「咲夜さんも…すみません…。それと、また今度、紅茶を頂きに行っても良いですか?…もちろん…彼女と一緒に?「ふぇっ?」」
そうして、パルスィさんをグイッと引き寄せる(軽く抱き合った形になったけど)
すると、少し呆れた顔の…でも、優しい顔をした咲夜さんは…――
「――もちろん、その時は最上級の紅茶を用意いたしておきますね」
「ありがとうございます」
「さぁ…これで妖怪の山での問題も解決したことですし、二人のお邪魔にならない内に帰りますわよ」
そして、紫さんの一声によりその場は解散となる。
「ほんと…みんなには助けて貰ってばっかりだな…。何か恩返しが出来ればいいんだけど…」
すると隣に居たパルスィさんが…
「何言ってるのよ?あれだけみんな、あなたを慕ってくれているのよ(妬ましいくらいにね)、これ以上碧が何かしたら暴走しちゃうわよ?」
「そんなものなのかな?…――それよりもさ、えい!」
パシャ!
「きゃっ?!ちょっと、いきなり何するのよ!」
「ふふっ♪記念すべき一枚目♪油断して可愛い顔をしてるパルスィさんの顔ゲットしたよ♪」
「ちょっと?!いきなり撮らないでよ!…――それに、始めては、碧と二人で写った写真が良かったわ…」
シュンとなるパルスィさん…――うーん、ちょっと悪いことしちゃったな…
「じゃあこれは、消して…さぁ…二人で撮ろう?記念すべき一枚目を…ね?」
「碧…うん♪じゃあ…」
「「ハイチーズ♪」」
こうして記念すべき一枚目の写真は、大切に…大切にされるのでした――…
これで碧とパルスィの障害は取り除かれた…と思います。
でも、代わりにライバルも増えましたが…