皆さん年末はゆっくりと過ごせましたか?
今年も東方嫉妬姫をよろしくお願い致します。
年明け最初の話は居酒屋デートと…あの人を登場させようと思います。
元々、彼女…水橋パルスィはかなりの美女である。
だが、彼女の能力と、自分からあまり、他人とは関わらないようにするため、そこまで親交も多くなく、他の妖怪からも声を掛けられる事は殆ど無かった。
しかし、ある時からそれは変わる。良く旧都に出かけては、色んな食材を買い、そして、前にも増してその美しさに磨きが掛かっている。
食材屋の店主からしたら、その顔は新妻のそれだろう。お幸せに!と声を掛けてあげる。
しかし、何も知らない妖怪から見たら、益々美人になり、性格の明るくなった彼女は、またと無い恰好の獲物である。
―――――――――――――――――――――
今日の仕事を終え、いつもの通り橋へとやってくる。
すると最愛の人…パルスィさんが待っていてくれた。
「ごめんねパルスィさん…いつも待たせちゃって」
「いいのよ?あなたにはあなたの仕事がある…それをキチンとこなせるんだから…何も文句なんてないわよ」
そうして、いつもの様に旧都へと繰り出す。
最近はパルスィさんと二人で居酒屋を回り、二人で晩酌をし合うのが日課となっている。
新しいお店を見つけてはそこに行き、二人でその日在った事を話している。
何の取り留めもない、面白味の無い話。でも、二人で飲みながら話すと、途端に楽しくなる…これが恋人との時間なんだな…。
でも、その日は運が悪かったんだろう…。食事を済ませ、店を出て直ぐに…。
「おい!ねーちゃん!最近噂になってる橋姫だろう?ちょっと俺達と遊ぼうぜぇ?」
酔っぱらった数人の鬼の男達に囲まれてしまったのだ。
「はぁ…見て分からないのかしら?今は連れと一緒に居るの…邪魔をしないでくれる?」
毅然と返すパルスィさん…。しかし相手は酔っ払い…。
「はっ…そんなもやしみたいな人間に何ができるっていうんだよ?俺達ならねーちゃんを愉しませてやれるぜ?」
下賤な笑み…。自分が言われた事よりもパルスィさんに”そういう”目線を送っている事が許せない…。
「行こう。パルスィさん、こんな輩…相手にしてもムダだから」
すると鬼の中の一人が、僕のその言葉に激昂する。
「あぁん?!人間風情が喧嘩売ってんのか?!」
「それとも何か?目の前で彼女が奪われるのを見てみたいのか?クヘヘ…」
こいつら…!ダメだ…せめて、もう少し人通りの多いところまで逃げよう…。
僕はパルスィさんの手と肩を取り、その場から大急ぎで逃げ出した。
「ちょっと碧?!あれくらいの人数なら私でも…」
「ダメ!あの場所だと他の人達の迷惑にもなる…それにこの旧都で、事件なんて起こしたくない…パルスィさんやさとりさんが大切に思う、この旧都で…。それに人通りの多いところならあいつらも暴れられないと思うから!」
でも、その考えは甘かったらしい…。
鬼はすぐさま僕達に追いつき、気が付いたら人気の少ない場所へと追い詰められていた…。しかも…人数が増えてる…。
「ハッ!楽なもんだなぁ?素直にあの場で着いて来てりゃあ良かったものを…」
こいつら…まさか前から狙っていたのか?!だとしたら説明も付く…この大人数と、人気の少ない場所への誘導…やられた…。
「ずっと狙ってたんだよ?最近旧都で話題のねーちゃんをなぁ!ひひひ!」
「俺達を愉しませてくれよ?」
ふざけるなよ!…でも、いくらパルスィさんでも、この人数の鬼相手じゃ無理だ…。せめて、パルスィさんだけでも逃がさないと…!
「パルスィさん!転移札を!」
「……無理…みたいね…さっきから何度か試そうとしてたんだけれど…簡易結界が張られているみたいなの…」
「そんな…どうにかして…。パルスィさんだけでも逃げて!」
「そんな事できる訳ないでしょ!私は碧を守るって…幸せにするって、紫さんと約束したの!」
すると一匹の鬼が目の前に出てきた…。
「無駄口を叩いてる暇があるのか?そうだな…その人間を殺せば…あんたを手に入れる事は容易そうだなぁ?」
「碧には手は出させないわ!あんた達全員を道連れにしてでも守って見せるんだから!」
震えているのが分かる…。この人数の…しかも腕力ならば最強クラスと言われる鬼に囲まれているのだ…僕も、本当なら逃げ出したいくらいだ…。
でも、僕が逃げたらパルスィさんがこいつらに捕まる…。それだけは絶対にいけない!
「こんな事をして!鬼の…いや…旧都に住む人としての誇りが無いのか!」
少しでも時間を稼げれば…と思って言葉を放つ…。
「ふん!鬼はなぁ…力在る者が正しいんだよ!それに、俺達はこの旧都が大っ嫌いなんでね…戦も強奪も出来ない…こんなクソみたいな場所に誇りなんてあるわけねぇだろ!」
「ハッ…最低ね?それで女一人襲うのに、この人数?情けない男。力在る者が正しい?だったらあなたは悪ね!寄って集ることしかできない…蛆虫ね!」
その言葉に鬼は激昂する…。
「ち、調子に乗るのもいい加減にしやがれ!このアマ…テメェ達、傷がついても構わねぇ!この女をボコボコに痛めつけて、奴隷にしてやるぞ!」
そして鬼が拳を振り上げる…。いけない!
そう思った僕は咄嗟に自分の背中を盾にして抱える様にパルスィさんを庇う…少しでも…パルスィさんが傷付かないようにするために…。
目を瞑り…来るであろう衝撃を覚悟した………。
でも、いつまで経っても衝撃は来ない…何で…?…うっすらと目を開けると、そこには一人の女の人の背中が見えた…。
蒼い着物に赤い帯…金髪の長い髪…180cmを越える身長…。そして、何より目を引くのは、その一本角…。自らの強さを主張するかの様なその角には星の意匠がされていた。
そして、その女の人は、ゆっくりこちらを振り返りながら…。
「惚れた女の為に、自分を犠牲にする…そして旧都の人達を思う、優しさの中にある強さ!あんたの”漢(おとこ)の覚悟”…見せて貰ったよ!」
すると、パルスィさんが…。
「勇儀?!何でこんな所に?!」
パルスィさんの知り合い…?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
最近、旧都で不穏な噂を耳にした…私の友人…水橋パルスィが狙われていると。
パルスィは最近…ようやく、恋人が出来、幸せをかみ締めている…。それを邪魔する輩は許しちゃ置けないからねぇ。
そして、数日、パルスィが旧都に来るたびに見張ってたんだけど…隣に居るのが彼氏かい?
大神碧…いたって普通の人間…。なんでパルスィと付き合う事になったのか…。
何だか女みたいな顔をして、背も、パルスィより低いし…頼りになるのかねぇ…?
そして、事件は起こった。その日もパルスィは彼と飲みに来ていたが、店を出た辺りから、どうにも様子がおかしい…。
周囲には不穏な気配を持つ鬼達も集まり始めてるし…。これは…まずいかもねぇ。
私が出て行こうとしたら…。
「まだですよ、勇儀さん?」
同行者から止められる…何でだい?
「そんなこと言っても、あいつら…このままじゃ危ないですよ!」
「いざとなったら、私が直ぐに助けます…勇儀さんは見て下さい。彼の強さを…」
あいつの強さ?分からない…見た目はただの人間、特別な力も無い。そんな人間が何を?
でも、見ていて分かった…あいつは逃げながらも、ずっとパルスィを庇いながら逃げていた。
最愛の人を傷つけない為…。そして言った…。
”この旧都で、事件なんて起こしたくない…パルスィさんやさとりさんが大切に思う、この旧都で…”
最近来た人間なのに、旧都の本質を分かっている…それに、住む人達が、旧都をどれだけ大切に思っているのかを…。
私は胸が熱くなった、この旧都を管理する鬼として…一人の個人として。
そして見た。パルスィに向かって振り上げられる拳を、食らえばその身が砕ける筈の一撃を、彼は自分の身を挺して守ろうとしたのだ…。
それで十分だった…私が動くには…。同行者もそれを分かっていたのか動かなかった。
目の前の鬼から放たれた、”軽い拳”を受け止め…
「惚れた女の為に、自分を犠牲にする…そして旧都の人達を思う、優しさの中にある強さ!あんたの”漢(おとこ)の覚悟”…見せて貰ったよ!」
さぁ…暴れるには十分な理由が出来た…今日の私は…最高に気分が良いぞ!
「星熊勇儀!押して参る!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「勇儀?!何でこんな所に?!」
勇儀…?いったい誰なんだろう…。でも、女性の言葉は胸に響いた…自分の覚悟を…見せて貰ったと…。
「パルスィ…そして、碧!あんた達の強さ…心、見せて貰ったよ!さて、後はこいつらを掃除するだけさ!」
するとゴロツキの一人が…。
「ほ、『星熊勇儀』!山の四天王の一人がなんでこんな所に?!」
「お前らみたいな、鬼の風上にも置けない奴には関係ない!私の友人と彼氏に手を出したんだ…覚悟はできてるね?」
「あ、相手は一人増えただけだ!このままやっちまえ!」
するとゴロツキの鬼達が全員で向かってくる…いけない!?
しかし、目の前の女性は逃げるどころかこちらに笑顔を向け…
「安心しな…直ぐに片付けてやるから?…危ないから伏せとくんだよ!」
そうして、呼吸し…
「行くよ!四天王奥義!…まずは一歩!」
踏み出される足…起こる振動…そして同時に女性の周囲に高密度の弾幕が展開される。
「な、何なんだよ?!」
ゴロツキは慌てる…。
「二歩!!」
再び振動が起こると同時に、先程の弾幕よりも外側の範囲で弾幕が展開される。
「まずい!野郎ども!ずらかれ!」
危険を察知した鬼が逃げるように言うが…
「遅い!これで最後だ…三歩…必殺!!!」
女性の震脚によって起こされる、先程よりもさらに激しい振動。
同時に収束された弾幕が一気に解放され、前方50mは更地となっていた…。これが…鬼の力?
―――――――――――――――――――――
「彼女の名前は『星熊勇儀』この旧都の裏の管理者で、山の四天王とも呼ばれている存在よ…助かったわ…ありがとう勇儀」
「なに、この旧都での悪事は私が見逃さない…それだけのことさね。それと…碧だったか…話は聞いているよ。パルスィを恋人にして貰って…本当に感謝している」
すると勇儀さんは深々と頭を下げてくる…。
「や、やめてくださいよ…勇儀さんが来なければ、今頃どうなっていたか…。僕に…もっと力があったら…「――大丈夫だ」…?」
すると勇儀さんから、頭を撫でられる。……???
「大丈夫だ。確かにお前さんには力は無い。…だけどな、それ以上に大切な物を持っている「???」分からないかい?あんたはずっと、パルスィを庇いながら逃げていた…それだけじゃない…旧都に住む人の事も考えながら逃げてくれた…その優しさが…あんたの一番の強さだよ。それは何にも代えがたい…誇ってもいいものさ」
「勇儀さん…ありがとうございます!」
「うん!その意気だ!これからもパルスィを支えてあげてくれ…なんせ、私の大切な友人なんだから?」
「はい!僕…頑張ります!」
「//////……全く…。あ、でも何人か逃げてたけど…そいつらはどうするのよ?」
そうだったの?全然気が付かなかった…でも、そしたら、またパルスィさんが狙われるんじゃ…?
「何。そいつらに関しては心配はいらないよ。なんせ…今頃、こっちで倒された方が、まだマシな地獄を味わっているだろうからねぇ…」
心無しか引き攣った顔の勇儀さん…パルスィさんと顔を見合わせるけど…二人して分からなかった。
まぁでも…平和になるならそれでいいのかな…?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃…旧都から外れた洞窟内にて…
「おい!どういう事だ!星熊勇儀が出てくるなんて聞いちゃいねぇぞ!」
「全くだ!でもあの小僧…それにあのアマ…絶対にゆるさねぇぞ…。いつか必ず地獄を…「あらあら…それは困りますねぇ…」誰だ!」
そうして闇の中から現れたのは…料亭『翡翠』の女将…酒呑…。
しかし、普段と異なりいつもの着物を着崩し最低限の布で体を隠している。
そして何よりも違うのが…幼い身体つきながらも、蠱惑的なその表情…。
「うちの大切なお客さんに、これ以上危害を加えるなら…容赦しませんえ?」
鬼は理解した…目の前の鬼は、自分なんかじゃ届かない…遥か高みに居る存在だと…。
「こ、こいつ…一体なんなんだ?!」
「うちが誰かなんてどうでもええ…。どうせあんさん達は此処で消えるんやさかい…」
すると、酒呑童子はどこからともなく巨大な瓢箪を取り出す。
「根こそぎ根こそぎ……ええ言葉やねぇ。骨の髄まで……しゃぶり尽くさんとなぁ」
「巨大な瓢箪…?まさかこいつ…まさか四天王を束ねる?!」
鬼が言えたのはそこまでだった…。
「くふふ…死にはったらよろしおす。『千紫万紅・神便鬼毒』――あぁ……骨の髄までうちの物や……」
酒呑童子の持つ杯から零れた酒が一面に広がり、それに触れた鬼達は、悉く溶けていった…。
そして、再び杯に戻ってきたお酒を、酒呑童子は最後に飲み欲し…。
「ふぅ…毒にも薬にもならん味やったなぁ…。さて、仕事も済ませましたし…帰りましょうかね」
いつもの雰囲気に戻った女将さんはその場を後にした。
そうして、パルスィを襲撃した鬼達は全て消えて行った。
―――この後…二人を襲う者は、鬼神の裁きを受けると話題になり、地底で二人を襲う者は居なくなった。
年明け最初のお話はいかがでしたでしょうか?
星熊勇儀の元ネタは酒呑童子四天王の一人、星熊童子。
テーマ曲「華のさかづき大江山」の曲名も酒呑童子伝説 (酒呑童子は大江山に拠を構えていた)に由来するので無理やり繋げてみました。
この作品における力関係は→酒呑童子>(越えられない壁)>星熊勇儀となっています。(性格的にも)
それから、少し更新速度を落そうと思います。
予定では3日に1話くらいですかね?
急いで書いてもあまり良い文書になりませんし、適当に書いたものを投稿したくなかったので…ご了承ください。