東方嫉妬姫   作:桔梗楓

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さとりとお燐に連れられて来た料亭で再開する碧とパルスィ。
二人の運命は動き始める。


14話 嫉妬姫との再会

「――…碧…なの?」

 

「パルスィ…さん…?」

 

二人は見つめあったまま沈黙した…。

 

どのくらい見つめ合っていたのか…その沈黙を破ったのはさとりさんだった。

 

「えっと、見つめ合ってる所悪いけど…パルスィ…碧…あなた達…知り合いだったの?」

 

その言葉に二人ともハッとして目をそらす。

 

「えぇ、僕が幻想郷に来た時に…一番最初に出会ったのがパルスィさんなんです。何にも分からない僕に色々と教えてくれて…本当にパルスィさんには感謝しています」

 

すると、少し照れた顔をしたパルスィさんは…。

 

「そ、そのくらいの事、普通でしょ///…それよりも、碧…てっきり外の世界に帰ったのだと思ったのだけれど……?」

 

「それについては私から説明させて貰うけど…先に席に着かせて貰っていいかしら?」

 

そういえば、そうだ。このまま入り口に居ては他のお客さんにも迷惑がかかるし…。

 

そして、さとりさんの指示により、僕はパルスィさんの隣の席に座る事になったんだけど…パルスィさん…何だか良い香りがする…///

 

暫くして、女将さんがお通しとおしぼりを持って来た。料理に関してはさとりさんに任せる事にしたんだけど…。

 

「さて、お料理も注文したことですし…。パルスィ、説明させて貰うわね――」

 

そして、さとりさんの口から、僕についての説明がされた。

 

幻想郷に住むことになった事

 

今は八雲家にお世話になっている事

 

今日は挨拶回りで来た事

 

自分の身を守ってくれる人に依頼している事

 

今宵は地霊殿に泊まらせて貰う事

 

晩御飯を食べに、この店に来てパルスィさんに偶然会った事を…。

 

「こんなところかしらね?大体の事情は分かってくれましたか?」

 

「えぇ…。それにしても、私と別れてから色々と在ったのね。でも、何で幻想郷に住もうと思ったのかしら?」

 

こればかりはさとりさんの口から言わせる訳にはいかない…。意を決して僕は話し始めた…。

 

「……紫さんの話だと、…外の世界には…僕はもう存在できないみたいなんです」

 

その瞬間…その場で聞いていた三人は息を呑んだ。

 

それはそうだろう、妖怪や、神ならば…自身の信仰や怖れが無くなると消滅する。しかし、人間にそれがあるのだろうか?

 

人は死んでも、そこに居たという事実は残される。しかし僕は、その事実すらなくなったのだ。

 

「誰からも忘れ去られ、自身が幻想となる…。遅かれ早かれ、僕はこっちに来ることになったのだと…。そして、再び僕が外の世界に戻れば、その時は完全に消滅してしまう。幻想郷にも来れず…誰の記憶からも居なくなる…。それだけは嫌だったんです…。そんな時、結界の綻びが起きて、僕は幻想郷に来る事になりました。僕の願いは…今とは違う環境で、素敵な出会いがある事…幸せになれる事…。それを聞いた紫さんが僕を此処に送ったみたいなんです。もしかしたら…此処で運命の出会いがあるからと」

 

すると、パルスィさんから質問が来る…。

 

「なら、碧はもう…出会ったのかしら?その…運命の人と…?」

 

「それは僕にも分かりません…。ですけど、幻想郷の人は皆良くしてくれます。僕が妖怪に狙われやすい事と、八雲家の庇護下にある事を差し置いて…個人として…思ってくれたのを感じました…。こんなにも人に思われた事って、あんまりなくて…正直、少し戸惑ってます…」

 

「こう言っては何ですが…碧さんは元々、外の世界と相性が悪かったのかもしれませんね。だから、逆に幻想郷に馴染んだ…。まぁ私の勝手な考察ですが」

 

「いえ、さとりさんの言った事も、あながち間違ってないのかもしれません。実際外の世界で交友があったのは親友二人と幻想郷に来ている早苗ちゃんだけでしたから…」

 

その言葉に反応したパルスィさんから、再び質問が来る。

 

「ちょっと待って…。早苗ちゃんって…ひょっとして守矢の巫女かしら…?「えぇ…高校の…こっちで言う寺子屋ですかね?の後輩だったんです」…そう…」

 

その言葉を聞いたパルスィさんは俯き、何かを呟いていた…どうしたんだろう?

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

私は、いつもと気分を変える為に、久しぶりに料亭に来ていた。

 

「いらっしゃいませ…ってあら?パルスィさん、お仕事お疲れ様です。こちらに来られるなんて珍しいですね?」

 

「お久しぶりです、女将さん。いつもの居酒屋か、家で作っても良かったんですけど…偶には気分を変えようと思いまして…」

 

そう、ヤマメとキスメとの飲み会の後、数日経ってもまだ、私は碧の事を考えていた。

 

もう、外の世界に帰ったのか?もう一度彼に会えないか?自分のこの気持ちは何なのか…と。

 

家に居てもそれは変わらず、居酒屋で勇儀達と飲んでも同じだった。

 

だから気分を変える為、そして自分の気持ちを整理する為に今日はこの落ち着ける料亭に足を運んだのだ。

 

「久しぶりに来てみたけれど…相変わらず、妬ましいくらい良い雰囲気ですね」

 

「ふふっ…ありがとうございます。それでは…カウンター席も一杯ですので奥の部屋でよろしいですか?」

 

「えぇ、お願いします」

 

そうして奥にある四人部屋に通される…一人で四人部屋って贅沢ね…。

 

注文を済ませ、お通しをつつきながら、そこそこの量のお酒を飲んでいると、女将さんから声を掛けられた…どうしたのかしら?

 

”パルスィさん。さとり様が見えられたのですが…相部屋にされてもよろしいですか?”

 

さとりが?丁度いいわ。さとりなら私の心のモヤモヤを聞いてくれるかもしれない…。それで私は承諾したのだけれど…。

 

襖が開かれてさとりが入って来たの…そして、その後ろには…。

 

「…碧…なの?」

 

「パルスィ…さん…?」

 

私は自分の目を疑ったわ。だって、彼が…碧が旧都にいるなんて普通は思わないでしょ?!

 

私と碧は暫く見つめ合ったわ…。今日は顔を隠しているのね…。

 

また、あの時みたいに顔を見せてくれないかしら…?でも、髪の隙間から見える彼の瞳は相変わらず綺麗だった。

 

「えっと、見つめ合ってる所悪いけど…パルスィ…碧…あなた達…知り合いだったの?」

 

さとりの言葉に我に返った…とっても恥ずかしかったわ///

 

そして、さとり達が席に着いたんだけれど…何で私の隣が碧なのよ?!

 

部屋もそこまで広くないから、彼の肩と私の肩がずっと当たってるし…まだ今日はお風呂にも入ってないから、汗の臭いとかしてたらと思うと…///

 

そして、さとりの口から、彼が此処に来た理由を聞いたの…本当に凄い偶然が重なったのね…。

 

でも、その後…碧の口から幻想郷に残った理由を聞いて、私は絶句したわ。

 

だってそうでしょう?妖怪や神ならいざ知らず…只の人間が世界に否定されるなんて…あんまりすぎるわよ!?

 

そして、彼が地底に飛ばされた理由を聞いて、私はドキッとしてしまった。

 

運命の人…。もし、それが自分なら…どれだけ良いか…、どれだけ彼を幸せにしてあげれるか…。

 

でも、彼の口から守矢の巫女の名前が出てきたとき…思わず私は嫉妬してしまったわ…”早苗ちゃん”

 

そう呼んだ彼の顔には、少しだけど嬉しそうな感情が出てたから…。あぁ…妬ましい…、彼にこんな顔をさせる守矢の巫女が…。

 

 

 

「………妬ましい」

 

 

 

思わず口から、その言葉が出ていたらしい…。

 

私がハッと見ると、さとりが、やれやれ…といった顔をして、碧は、心配そうな顔でこっちを向いてくる…。やめて!

 

私は今…明確に嫉妬していたのだ…。名前で呼ばれる守矢の巫女に…一緒に暮らす八雲家の者に…。

 

今の私は橋姫という前に、嫉妬妖怪という存在でもある。嫉妬妖怪は、名前の通り、他人の嫉妬心、自身の嫉妬心を操り力に変える妖怪。

 

でも、今この時だけは、そんな力は要らなかった。彼に、見られたくない…嫉妬に塗れた私の姿なんて…!

 

渦巻く思いが私を巡る…それが嫌で部屋を後に、立ち上がろうとした瞬間、私の右手は温かい何かに包まれた…。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「………妬ましい」

 

 

 

パルスィさんから聞こえてきたその声…ぞっとするような声…だけど同時に、何かに縋るような悲しい声…。

 

するとパルスィさんはハッとして、さとりさんと僕を見てきた。その表情は何かに怯える様な…恐れる様な表情…。

 

いけない!…そう思った時には、僕は行動していた。彼女の右手を握り絞め…。

 

「大丈夫ですよ。パルスィさん…僕が言った何かが、また、パルスィさんを傷つけてしまったならごめんなさい」

 

そのまま、映姫さんがしてくれた様に、パルスィさんを優しく抱き寄せて、背中をポンポンと叩いてあげた…この想いが伝わりますようにと…。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

気が付いたら、碧に手を握られ…そして、そのまま抱きしめられた…。

 

自身の嫉妬心に嫌気がさした私の心に、その言葉と想いは響いて来た…。

 

温かい……。ずっとこのまま碧の腕に抱かれていたい…。

 

永遠にも、そして、一瞬にも感じられるその時間は終わりを告げた。

 

「パルスィさん…落ち着いてくれましたか…?」

 

目の前にあるのは心配そうな彼の顔…。

 

ただ、純粋に、私の事を思い…安心させてくれる為に、抱き寄せてくれた碧の顔…。

 

かなりのお酒の入っていた、私の自制心はそこで振り切れた。

 

私は碧の顔を強引に引き寄せ…――

 

「…んぅ…「…んっ?!」…んちゅ…っふぅ…んっ…」

 

私は彼に強引にキスをしていた。

 

部屋にはさとりとお燐も居るのに、そんな事は気にせず…只ひたすら、彼の唇を貪った。

 

あぁ…やっぱり私は彼に恋している…彼の事を愛している。彼と一生を添い遂げたい…。

 

 

 

 

 

そのまま私の意識はまどろみの中に沈んで行った……――

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

正直驚いた。でも同時に…凄く…嬉しかった…。

 

抱き締めていたパルスィさんが落ち着いたと思って、顔を上げたらいきなり頭を掴まれキスをされた。

 

暫くの間、さとりさんとお燐さんが居るのも構わず、ずっと唇を合わせていた…。

 

そして、急に力が抜けたと思ったら、パルスィさんはスヤスヤと可愛い寝息を立てながら眠っていた。

 

何か悩みでもあったのだろうか…?彼女の眼には隈が出来ている…。

 

自分が何かしてしまったのか…?パルスィさんを思い詰めさせる事を…?

 

すると、さとりさんから声を掛けられた。

 

「何となく…分かりましたけど…。まさかここまでだったなんてね…」

 

「あ、さとりさん…///」

 

そうだ、ずっと見られてたんだ…僕がパルスィさんを抱き締めた事も…あのキスも…///

 

そう思ったら、自分が凄く恥ずかしい事をしていたんだなと思い、自分でも分かるくらい顔を赤くして、俯いた…。

 

「気にしなくてもいいですよ。私もああいった事は、見慣れている訳ではありませんが///…こほん。パルスィも、だいぶ思いつめていたみたいだったから…。もし碧さんが嫌な気分をしてしまったのなら、地底に住む者の代表として謝罪致します…」

 

申し訳なさそうに、こちらを向くさとりさん…。

 

「嫌だなんてそんな…!…ただ、どうして、パルスィさんが、あんな表情をしたのか…僕に…き、キスをしてくれたのかが分からなくて…。でも、僕の気持ちは「ストップですよ」…?」

 

「それは後日…彼女に直接言ってあげて下さい。その言葉を最初に聞く権利があるのは彼女だけですから…ね?」

 

そう言ってさとりさんは、僕の膝の上で眠っているパルスィさんを見る…。

 

「…分かりました。あ、でも、パルスィさんはどうしましょうか?このままだと風邪を引きますし…」

 

「それでしたら、別室があるのでそこでお休みさせましょう」

 

丁度料理を持ってきた女将さんが言ってくれた。

 

「二階でしたらお客さんも入ってきませんし。お布団もあります。さぁ…パルスィさんの事はこちらに任せて、皆さんはお料理を楽しんで下さいな」

 

そう言って、パルスィさんを軽々運んでいく女将さん…流石は鬼…自分よりも一回りは背の高い人を運べるんだ…。

 

その後は、女将さんに言われた通り、料理を食べた。正直、最初はそんな気分じゃなかったけど、一口食べて、その美味しさに感動し、気が付いたら全てを食べ終わっていた。

 

因みにこの間、お燐さんはずっと赤面して固まっていた。これが普通の反応だよね///

 

「女将さん、色々ありましたが今日はごちそうさまでした。相変わらず美味しかったですよ」

 

「さとり様にそう言って頂けたなら良かったです。碧さんも…旧都に来ることがあるなら是非、うちをご贔屓に…」

 

「あ、はい!こちらこそ…美味しい料理とお酒…ごちそうさまでした。あんなに美味しい料理を食べたのは生まれて初めてでした」

 

「それは良かったです。それと…パルスィさんには、あの手紙を渡しておけば良いのですか?」

 

「えぇ…お願いします。あ、あと…これを渡しておいて下さい」

 

そう言って僕はポケットから、簪を取り出して渡した。

 

この簪は自分用で、長い髪を止める時に使うのだけれど、まぁ普段はあまり使わないので、今ではお守り代わりのような物になっている。

 

「あら…これは綺麗な簪ですね…。分かりました。では手紙と一緒に渡しておきますね」

 

「よろしくお願いします。それでは失礼します…」

 

そうして、僕はさとりさんとお燐さんと一緒に地霊殿へと帰って行ったのでした。

 

―――――――――――――――――――――

 

「ではお風呂はここを使っておくれ。それから、部屋の方は後で案内するから」

 

お燐さんから案内される。そして、お風呂に入ると檜造りの温泉でとっても良い香りがした。

 

そして、湯船につかりながら…僕は…。

 

「ふぅ…。今日はとっても濃い一日だったなぁ…」

 

出かけたいと頼んだのが朝。

 

それから、紅魔館、白玉楼…妖夢さんが師匠になってくれるって事だし…。

 

永遠亭、無縁塚…てゐさんのあれと、映姫さんのお説教は効いたなぁ…。

 

守矢神社…早苗ちゃんと会えるなんて思わなかったし…。

 

地霊殿…さとりさんっていう優しい人とも出会えた…。

 

でも…。

 

「やっぱりさっきの事が一番印象に残ってるなぁ…」

 

パルスィさんとの再会…そしてキス…。もし、パルスィさんがあの手紙を読んでくれて…次に会う時には…。

 

「この気持ちを伝えよう…あの時言えなかったことも…全部…」

 

それから、暫くお風呂でゆっくりした後、お燐さんから部屋に案内され、そのままベッドで眠りについた。

 

眠りにつく前に…あの人の顔を浮かべながら…。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「碧さんはもうお休みになられましたか?」

 

「はい、布団に入るなり、直ぐに眠られました」

 

「今日一日で、色んな事があったみたいですから…無理もないでしょう。それに最後のあれもね…」

 

するとお燐が赤くなる…この子…こういう話に弱いのよね…可愛いわね♪

 

「うぅ…さすがのあたいも、あれは恥ずかしかったですよ///でも、どうするんでしょうね彼は?妖怪と人間…やっぱり…」

 

この子もまだまだね。

 

「お燐…。確かに、それは一つの壁でしょうけど…それよりも大事な事は二人の気持ち…。それに、碧さんなら大丈夫よ。なんせ…私の信頼した方なんですもの」

 

「……あの…違ってたら申し訳ないんですけど…ひょっとして、さとり様も彼の事…?」

 

まぁ、嘘を付いてもしょうがないわね。

 

「えぇ…もし、出会いが違えば、間違いなく恋に落ちていたでしょう。今の立場なんて関係なく…。でも、先を越されちゃったから…」

 

パルスィがキスをしていなければ、自分が迫っていたかもしれない…でも…。

 

「とはいえ、只で引き下がるのも女が廃るから…。私もアプローチはさせてもらうわよ?…ふふっ♪今日からライバルね…パルスィ♪」

 

―――そうして、幻想郷の長い長い一日は終わりを告げるのでした。

 

 




順当にお姉さんキャラを落しつつ、本命のパルスィと…。
次回はパルスィとのデートになります。

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