東方嫉妬姫   作:桔梗楓

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守矢神社にて、外の世界で分れた後輩…早苗と再会した碧。
次なる目的地…碧にとっての最初の幻想郷の地…地底へと向かう。
設定では地底の妖怪からも嫌われている…とありますが、話の都合上、地底の代表者はさとりとしています。
そして当小説では、さとりの容姿もロリではなく、紫の様な大人のお姉さんになっています。
まぁ、作者の趣味ですね…すみません。


13話 挨拶回り~地霊殿編~

「碧君と早苗が面識があったなんて…少し驚いたわ」

 

「まぁ…唯一、慕ってくれていた後輩だったんで…。引っ越した時は少しショックでしたけどね」

 

「これからは、いつでも会えるから良かったじゃない♪さて、次に行く場所がこの幻想郷で確認された、最後の異変の地なのだけれど…碧君は一度そこに行っているの」

 

「それって…?」

 

「異変が起こったのは博麗神社…そして、その原因となったのは…地底…あなたが最初に現れた場所よ」

 

「地底…じゃあ、また、あの人と会えるのかな…」

 

「…?あの人って…誰かしら?地底の入り口近辺だとヤマメかキスメかしら?」

 

「いえ…、実は僕が居たのはその少し奥で…橋の近くでした…」

 

「?!…って事は橋姫…水橋パルスィかしら?」

 

「えぇ…とっても良い方で…できればもう一度会いたいなと…」

 

すると紫さんは何かをブツブツと独り言を言っていた…「――やっぱりそうなのかしら?」とか…何だろう?

 

「……碧君…彼女から何かされなかった?…それと彼女と接して何かに対して嫉妬を覚える様な感情は沸かなかったかしら?」

 

「紫さん…流石に怒りますよ…?パルスィさんは、純粋に心配してくれて…幻想郷の事についてや、博麗神社への行き方を教えてくれたんです」

 

「あぁ…いえ…そういう事じゃないの…。気分を害したなら謝るわ…ごめんなさい。ちょっと確認をしたかっただけなの」

 

確認…何なんだろう?

 

「いえ、こっちも早とちりしてしまってすみません…紫さんは、僕の事を思って言ってくれたのに…」

 

「なら、お互い様って事で、この話は此処までね。さて、話を戻すわね。博麗神社で起こった異変…この異変は雪の降る冬のある日。博麗神社の近くに突如高、温の間欠泉が噴出した事から始まったの」

 

そして、紫さんは異変のあらましを話してくれた。

 

・温泉水とともに地霊(地底の悪霊)が湧き出てきた

 

・同時に地下の妖怪や地霊が、表に出ることに危険を感じ、自分の所にパチュリーが相談に来た

 

・この頃、地上と地底は互いに不可侵であり、今の様に親交が無かった

 

・そこで霊夢ともう一人が調査に向かった

 

・そこで進んで行く内に、『地霊殿』という場所で異変の原因を突き止める

 

・間欠泉の原因が地上の侵略を企む妖怪の仕業で、その力の源を八坂神奈子が与えた事を

 

・神奈子が力を与えた理由は、地底の底にある旧地獄を核融合炉として活用し「山の産業革命計画」を起こそうと考えていたからである

 

以上がこの異変の概要である。

 

「まぁ、最初から私か霊夢に相談をしてくれていたら、こんな事にはならなかったのですけれどね…本当に面倒な異変だったわ」

 

「発展を願うばかりで、根本を見逃しては、それは大事になる…。まぁ、流石に神様の考える事は分かりませんが…」

 

「お陰で、地上と地底の不可侵条約が無くなって、より一層、幻想郷の発展には繋がったのですけれどね…さて、此処が先程話した『地霊殿』…地底の妖怪を統率する一人…『古明地さとり』の住むお屋敷よ」

 

東洋的な名前とは裏腹に、西洋風のお屋敷が目の前に現れる。シックな感じの館だ。

 

「さて…”お燐”。居るのでしょう?姿を見せなさい」

 

すると近くに居た一匹の猫が…人の姿になり…。

 

「ようこそ。紫様…連絡は受けてます。館にてさとり様もお待ちしております」

 

「紫さん…この人?は?」

 

深紅の髪を両サイドで三つ編みにし、根元と先を黒いリボンで結んでいて、頭部に黒いネコ耳がある。

 

服装は、黒の下地に何やら緑の模様の入った、ゴシックロリータファッションのようなものを着用している。

 

コスプレ以外でゴスロリ服は初めて見たけど…凄く様になってるなぁ。

 

「あぁ、あたいは『火焔猫燐』火車妖猫で、この『地霊殿』の主、さとり様のペットさね。名字は長いから”お燐”って呼んでおくれ」

 

「僕は、大神碧です。つい最近幻想郷に来ました。碧って呼んでください。よろしくお願いしますお燐さん」

 

「うん!元気そうでいい子だ。では紫様…案内させて頂きますね」

 

そうして、お燐さんから館の中を連れて行かれる。

 

中には…黒に、赤色または紫色の市松模様に彩られた床や、ステンドグラスの天窓が多数あった。何て言うか…すごく幻想的な館だ…。

 

「そう言えば、さっきから動物が多く見かけられるんですけど…ここで飼ってるんですか?」

 

犬や猫は分かるとして…ライオンや黒豹、ハシビロコウやコモドドラゴン等…珍しいにも程がある。

 

「そうだよ。さとり様は生き物が大好きで、みんなさとり様のペットなんだよ。まぁ人の姿になれるのは、あたいと”お空”だけなんだけどねぇ」

 

生き物が好きな地底の主…どんな人なんだろう?

 

「あの…さとりさんって…「―さぁ、着いたよ」…まぁいいや。此処にその人が居るのか…何だか緊張してきた…」

 

すると、少しだけ神妙な顔をした紫さんから…。

 

「碧君…さとりがどんな人なのかは、自分で見て、きちんと判断しなさい。それは必ずあなたの為になるから」

 

「…?。…紫さん…はい、分かりました」

 

そうして、扉が開かれる…その先に居たのは…。

 

やや癖のある薄紫のボブヘアーに、眠たげな深紅の瞳。

 

ゆったりとした水色の服装をしており、下は膝くらいまでのピンクのセミロングスカート。

 

そして、一番目を引くのが、胸元に浮かぶ、複数のコードで繋がれている赤い目の様な物…あれはいったい?

 

「ようこそ地霊殿へ…。私が此処の主『古明地さとり』です…。この胸元の目は”第三の目(サードアイ)”私の一部の様な物です」

 

「大神碧です。最近この幻想郷に来ました。よろしくお願いします(あれ?目の事…口に出したっけ?)」

 

「いいえ、あなたは口には出していませんよ「――?!」あぁ、そうですね説明しましょうか。私の種族は覚妖怪。能力は”心を読む程度の能力”…この第三の目を使い相手の心を読む事が出来るのですよ。まぁ目を外せば、読まない事も出来るのですが…こういった場ではやはり必要になりますので、ご了承くださいね」

 

「いいえこちらは構いません…。でも、心が読めるって…辛くないんですか…?」

 

「――?!」

 

すると、眠たげな眼を見開き、驚いた古明地さんが居ました。僕…何か失礼な事をまた、言ってしまったのかな?…だとしたら謝らないと…。

 

「あの…「――大丈夫ですよ」え…?」

 

「私の事はさとりで構いません…妹も居るので名字だと不便ですし…。それから、あなたの様な考えを持つ人間は、初めてだったので…少々驚かされました。さて、あなたの答えに応じましょう。確かに、この能力は便利ですが、それ以上に苦痛を伴います。読みたくない感情や人の表裏…それらの全てが私の中に入ってくるのですから…」

 

やっぱり…だとしたら僕の考えもまた、優しさの押し付け…映姫さんから言われたばかりなのに…。

 

「感情や考えが読める…。それだけで人は…いえ、妖怪ですら私の近くには寄ってきません。当然です。心を読まれて快い者などいないのですから。ですので私は裏表のないペットたちと共に暮らしています」

 

やっぱり…この人は自分の心を犠牲にして…周りの為に生きる…そんな優しい人なんだ…。

 

「ただ…あなたの様に私の事を労ってくれた人は初めてです。誰しも最初は、恐ろしいと…気味が悪いと思いますから…。あなたの心を読ませて貰いましたが…不思議と嫌ではありませんでした。あなたは先程、閻魔さまにお説教をされたみたいですね。ですが…今、私に向けてくれている、その優しさは間違ってはいません。押し付けではなく…心から私の事を考えてくれたのですから…それは、誇りに思ってください」

 

そう言ってさとりさんは第三の目を外す…。

 

「さとりさん…?」

 

「あなたとは…もっと語り合いたいです。その語り合いに、これは必要ありません。あなたの要件は先程読ませて頂きました…。この様な忌むべき能力…そんな私で良ければ支援はさせて頂きます…どうでしょうか?」

 

僕は嬉しくなった…。自身ですら疑っていた心を肯定してくれて…余計な能力無しに、語り合いたいと言ってくれたことに。

 

「さとりさん…ありがとうございます…。さとりさんの様な優しい方から支援を受けれるなんて…光栄です」

 

「ふふっ…。私は優しくなんてないわ。何の思惑も無く…普通に話ができるあなたこそ、本当に優しい人間なんだと思うわ…。不思議ね…あなたの様な人間もいるのね…」

 

そうして、さとりさんと僕は暫く会話を続けた。何の取り留めもない…けど充実した話をした。

 

お互いの事、好きな食べ物やペットの事、家族の事など…。

 

それから、どれくらい時間が過ぎただろうか…。

 

コンコンとノックをする音が聞こえてきた。

 

「ほんと、あの時のお燐の顔と言ったら…ってあら?誰かしら?」

 

すると扉から、紫さんとお燐さんが出てきた…そういえばあれから二人とも、いつの間にか居なくなってたんだよな。

 

「碧君、さとりと打ち解けたようね。心配はしていなかったけれど…良かったわ」

 

「さとり様も…久しぶりに、この館以外の方と楽しく話されていたみたいで、良かったですよ」

 

「えぇ…。碧さんの緩やかな…そして、優しい在り方は、話していてとても心地良かったです」

 

さとりさん…そう面と向かって行われると照れますね…///

 

「そ、それで、二人とも今まで何処にいたんですか?途中から、居なくなってたみたいですけど」

 

「さとりが第三の目を外した辺りからね。二人とも、とっても楽しそうに話すから…お邪魔しちゃいけないと思ってね」

 

「ですです。それで、二人だけにしたんです。それと…碧さんが良ければなんだけど、今日は案内も兼ねて、旧都のお食事処で御夕食をどうかなと、それから…さとり様さえ良ければ今日は地霊殿に泊まっていかれたらと…思いましてね」

 

「お燐、それは良い考えね。私は反対しないわよ」

 

にこやかな顔で答えるさとりさん。ありがたいけど…。

 

「”旧都”…ですか?」

 

「あぁ…そういえば、碧さんは知らなかったのですね。旧都はこの地底の都…元々は地獄だったのですが、閻魔様…映姫様の措置により地獄は地上へと移設され、残された土地に建てられた都を、”旧都”と呼んでいるのですよ」

 

そういうことか。ちらっと紫さんの方を向くと笑顔で頷いてくれた。…よかった。

 

「じゃあお願いします。あ、紫さんは…?」

 

「私が旧都に居ると面倒な事になるから、遠慮しておくわ。そうね、代わりに碧にはこれを渡しておくわね」

 

そう言って、手渡してきたのは…陰陽玉とお札?

 

「紫さん…これは?」

 

「間欠泉での異変の際に造った、通信用の陰陽玉と私達の家…マヨヒガへの転移札よ。転移札は一人用だけれど…。私もいつもあなたと居る訳じゃないし…かといってあなたを一人にするのも問題がある。それに、家に帰るには私がスキマを開くか特殊な転移術を使わないと来れないからね。それがあればいつでも、家に帰って来られるし、連絡も取れるから。今日はこちらでゆっくりとさせて貰いなさい?」

 

あぁ…本当に僕は恵まれているんだなぁ…。

 

「ありがとうございます。紫さん…。さとりさん、お燐さんも…今日はよろしくお願いします」

 

「えぇ…私の…初めての人間のお友達なんだから…気にしないでね?」

 

「こっちこそよろしく頼むよ!あたいも、精一杯もてなしさせてもらうからね」

 

「良かったわね…二人とも…。では私はこれで失礼させてもらいますわね…」

 

そう言ってスキマの中に消えていく紫さん。何かお土産でも買って帰ろう。

 

「さて、じゃあ良い時間だし出かけようかね」

 

「そうね…あぁ少し待っていて…ペットたちにご飯を…「今日はもうあげましたよ」…そう、ありがとう…お燐」

 

優しそうな笑顔を浮かべるさとりさん…まるでお母さんみたいだなぁ…――とほっこりしてしまった。

 

―――――――――――――――――――――

 

準備を整えた僕達は、お燐さんの案内で旧都へと向かった。

 

そして…。

 

「此処が旧都…とっても賑わってて…みんな楽しそうだ…」

 

「えぇ…此処が私達…地底で暮らす者達の自慢の都…『旧都』よ。想像と違って良い場所でしょう?」

 

うん、その通りだ。

 

「正直、元地獄って聞いてたからもっと閑散としてるのかな?って思ってました…でも、此処は違う…みんな活き活きとして、笑顔で満ち溢れてる…。多いのは鬼だけど…他の妖怪も、みんな楽しそうにお酒を交わしてる。羨ましいな…」

 

すると、さとりさんがほほ笑みながら…。

 

「碧さんも、今日はその一員になるんですよ?さぁ、私達が良く行くお食事処までもう少しです…行きましょう?」

 

さとりさんから手を引かれ人混みを進んで行く…。そうして着いた一軒のお店。

 

『料亭”翡翠”』

 

「ここの懐石料理は絶品なんですよ?さぁ入りましょう」

 

そうして、通いなれたかの様に店に入るさとりさん。ここって所謂、高級料亭なんじゃ…?こんな店…入るの初めてだ…。

 

「いらっしゃいませ…あら?さとり様ではないですか。いつもご贔屓に…そちらの方は?」

 

「いつも悪いですね女将…。こちらは私のお客様…いえ…友人の碧さんです。以後も連れてきますので、よろしくお願いします」

 

そうして現れたのは少し小柄な二本の角の鬼。見た目の幼さとは別に、はんなりと、落ち着いた雰囲気の女性だ。

 

「ようこそ、当料亭『翡翠』へ。私がここの従業員兼、女将の『酒呑(しゅてん)』でございます。以後よろしゅう」

 

「僕は大神碧です。最近幻想郷に来て、今日はさとりさんの所に挨拶に来ました。よろしくお願いします」

 

「しっかりされた子ですね。あ…そうです。さとり様、今日はお知り合いの方が見えられてますが…ご合席されますか?」

 

「知り合い…?誰かしらね…?勇儀かしら?こちらは構わないですよ」

 

「それではお伝えしますね…―――。ではさとり様…こちらのお部屋へどうぞ…」

 

そうして、僕たちは料亭の一室に案内された。そして、襖を開いた先には…。

 

「あら、さとりじゃない…久しぶりね?……って、――え?碧……なの?」

 

見間違える筈がない…金髪のボブヘアー、ペルシアンドレスのような服。

 

煌めくような緑色の目に…特徴的な耳の女性…。

 

「―――…パルスィ…さん…?」

 

こうして二人は再開する…そして、廻り始めた運命…二人の物語は此処から始まる。

 




ようやくメインヒロインとの再会…長かったですね。
酒呑の容姿はFGOのサーヴァント…酒呑童子です。
口調などは違いますがそちらをイメージして下さい。

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