【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第98話 メアとネメシスの予想外な食卓

 真白は彩南町にあるデパートへ買い出しの為に訪れていた。ネメシスの件で再び警戒する様になったヤミも隣には居り、様々なコーナーを回り続ける2人はカートに乗った籠に沢山の食材などを入れて行く。やがてレジの並びに真白が立った時、少し離れた位置から戻って来たヤミは何も言わずに籠の中へ何かを入れた。

 

『冷凍鯛焼き 5個入り』

 

「……」

 

「……」

 

 商品の名前を見て真白がヤミへ視線を向ければ、彼女も同じ様に向けて2人は見つめ合う。お菓子を買う事自体は何の問題も無く、お金が結城家の物と言ってもリトや美柑が文句を言う事も無い。真白は何も言わずに頷いた後、少し進んだ並びを進んだ。

 

「あれ? ヤミお姉ちゃんに真白先輩!」

 

「……メア」

 

「貴女も買い物ですか?」

 

 突然隣から話し掛けられた2人が視線を向ければ、そこに居たのは手に籠を持ったメアであった。その籠の中にはお菓子ばかりが入っており、彼女はヤミの質問に笑顔で「そうだよ!」と肯定する。そして続けた彼女の言葉に真白は目を細めた。

 

「夕飯の買い物! 地球って美味しいのが一杯だよね!」

 

「夕飯……どう見てもお菓子しかありませんが」

 

 メアの籠の中に入っていたのは飴やチョコレート等々であり、それを彼女は夕飯と言った。明らかにバランスを考えておらず、その事に毎日朝昼晩とご飯を作っている真白は黙っていられなかった。実際には何も喋らないが、真白は並びから抜けることも厭わずにメアの傍に近づいて籠の中身を見た後にメアと視線を合わせる。

 

「……駄目」

 

「えぇ~、でも私達は人と違うから別に健康とか考えなくても……」

 

「駄目」

 

 物静かである事に変わりはないが、普段とは明らかに違う様子で喰い気味に繰り返した真白の姿にメアは驚いた。そして彼女が反応するよりも早く空いていた手を掴むと、ヤミへ振り返って目を合わせる。何を言わずとも全てを察したヤミは静かに頷いて答え、真白から財布を手渡された後に改めてレジへの並びに並ぶ。

 

「え? え?」

 

「……こっち」

 

 突然手を握られた事や話さずにお互いの意思を理解する2人の姿に困惑するメアを置いて、真白は歩き始める。向かう先はお菓子のコーナーであり、最初にそこでしたのはメアの籠に入っているお菓子の山を減らす事。駄々を捏ねる様に嫌がる彼女を甘やかす事無く、20個程のお菓子を3個程に減らした後に今度は食材のコーナーへ足を進める。流石にメアも察する事が出来た。真白は自分にバランスの良い食事を取らせる為、調理されていない食材を買わせるつもりだと。

 

「ねぇ、真白先輩。私食材買っても料理なんて出来ないよ? マスターもそんな事しないし」

 

「……私が……作る」

 

 その言葉にメアは再び驚いた。が、そんな彼女を気にする事無く真白は食材を前に首を傾げる。何を作るか考えているのは間違い無く、メアは慣れない感情に戸惑うしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メアが住んでいるのは彩南町にあるマンションの一部屋であった。結城家には既に全てを理解したヤミが説明をしている筈であり、日が暮れた頃にメアは真白を連れて帰宅。家の中には数日前からメアの身体では無く、実体を持って姿を見せる様になったネメシスの姿があった。

 

「帰ったか。ん? 何故真白が一緒なんだ?」

 

「何か、夕飯作ってくれるんだって」

 

「ほう? どうやら金色の闇は居ない様だが、まさか自分を狙う者が居る場所へ1人ノコノコ現れるとはな。そんなに闇に染まりたいか?」

 

「……」

 

 玄関から現れたメアを迎えた浴衣姿のネメシスがその後ろから現れた真白の姿に驚き、メアの答えに笑みを浮かべて立ち上がる。以前は何もせずに髪を降ろしていたネメシスだが、現在はヤミの様に2カ所髪の一部を結んで降ろすツーサイドアップと呼ばれる髪型にしていた。そしてそんな彼女は邪魔する者も居ない事から真白へ近づき……捕らえたと思った手は空を掴んだ。

 

「なにっ?」

 

「……」

 

(マスター)。あっち」

 

 消えてしまった真白の姿に驚いたネメシスへ声を掛けたメアはとある方向を指差す。そこは普段殆ど使っていないキッチンであり、埃の被ったシンクを水で流し始める真白の姿があった。ネメシスは驚きながらも再び真白へ飛び掛かるが、また消えてしまった彼女が次に姿を見せたのは買って来た食材の詰まったレジ袋の前。人参やジャガイモ等を出しているその姿にネメシスも流石に本気を出し始め、まるで野良猫に近づくが如くゆっくりと距離を縮め始める。

 

「…………今だ! はっ!?」

 

「……遅い」

 

「あはは! 主が遊ばれてる!」

 

「何故だ……私が捕まえられない程身体能力は高く無かった筈だが……」

 

 ネメシスが捕まえようとしても真白はその場から消え、すぐに次の工程へ移れる場所に現れる。中々見る事の出来ない主の姿にメアは面白そうに笑い、ネメシスは悔しそうに料理を続ける真白を眺めながら呟いた。……その後、何度も同じ事を繰り返しては同じ様に避けられたネメシス。彼女は到頭自分の身体を黒い霧にして真白を包囲する様に捕まえようとし始める。が、お玉片手に真白が人差し指を伸ばして前方へ突き出し乍ら一周。真白の指が回った範囲に細い光の輪が現れ、迫るネメシスの黒い霧を遠ざける様に広がり始める。どうやっても近づけず、やがてネメシスは人型に戻ると膝をついた。

 

「馬鹿な……!」

 

「へぇ、あんな技もあるんだ。真白先輩って本当に素敵♪」

 

 ショックを受けるネメシスと頬を微かに染め乍ら手を当てて笑うメアを余所に、真白は料理を作り続ける。ネメシスは以降諦めた様子でリビングから料理を作る真白の姿を眺め続け、メアも同様にその姿を眺め続ける。普段は2人だけで過ごして居る部屋に突如やって来た真白。自分達が狙っている事を知りながら、それでも自分達の為に料理を作る彼女の心を2人はまだ理解出来なかった。

 

「……メア」

 

「何? 真白先輩」

 

 鍋の中身をかき混ぜていた真白はその中身を掬って小皿に乗せると一口味見をした後、メアを呼び始める。普段誰かが料理をする姿など見ないメアは首を傾げながら真白へ近づき、もう1度小皿に盛った皿を差し出された事でようやく意味を理解する。そして何となく真白が口を付けた場所に自分も口を付けてそれを食べれば、メアは笑顔で目を輝かせ始めた。

 

「美味しい! これ、何て言う料理?」

 

「……カレー」

 

「ほう、そんなに上手いのか?」

 

「凄いよ主! 地球に来てから食べた中で1番かもしれない!」

 

 その言葉で真白は改めて確信する。メアもネメシスも地球に来てからちゃんとした食事をしていないと。惣菜などを食べる事はあったかも知れないが、メアが持っていた籠から察するに余り美味しいと思わなかったのだろう。だがお菓子の様な甘い物は美味しいと感じ、以降そういった物ばかり食べているのだ。

 

 メアとネメシスの家には普段から自炊をしていない為、お米が用意されていなかった。家具等は備え付けで何とかなったものの、それはどうしようも無い。故に仕方なく真白が取り出したのは惣菜で買った白米であった。当然炊いた方が美味しいが、背に腹は代えられないのだ。

 

「……お皿」

 

「あ、今用意するね!」

 

「ふっ、既に用意してある。感謝しろ」

 

 盛り付ける為に皿を出して貰おうとメアに話し掛ければ、返事をする彼女の隣でネメシスが腕を組んでしたり顔で告げる姿があった。メアの感想で彼女も気になったのだろう。明らかに言葉では言わずとも食べたがっているその姿に真白は何も言わずに頷いた後、惣菜のご飯を3人分に分けた後に作ったカレーを掛ける。……そうして3人分のカレーライスが完成した。

 

 1人1皿ずつ自分の夕飯を手にリビングへ移動し、唯一と言って良い家具の無い部屋に存在するテーブルへそれを置いた。カレーを作る上で無い事を想定していた真白はレジ袋からプラスチック製のスプーンを3本取り出して2人に1本ずつ渡し、静かに手を合わせる。

 

「頂きま~す!」

 

「確か、食材となった生き物に感謝する。だったか? 弱き者が強き者の生きる贄となるのは当然の事だと言うのに。愚かな事だ」

 

「……食べない?」

 

「そうは言っていない。……頂きます」

 

 真白とメアの姿にカレーライスを見下ろして馬鹿にした様子で告げたネメシス。だが真白がその言葉に目を細めて皿を引き始めれば、素早くネメシスの手が反対を掴んで自分の元へ戻し始める。そして心は籠っていないが、メアと同じ様にしっかりと言って一口。……その目が大きく開いた。

 

「これは……」

 

「真白先輩! 御代り!」

 

「……ご飯……無い」

 

 ネメシスが衝撃を受ける中、その隣であっと言う間に完食したメアが真白へ皿を差し出した。だが惣菜で買って来たお米は綺麗に3人分で分けてしまった為、お米は既に残っていない。真白の言葉に残念そうに肩を落とすメアを前に、真白は静かに溜息を吐くと自分の皿をメアへ寄せた。

 

「え? これ、真白先輩の分だよ?」

 

「……平気」

 

「良いの? 食べちゃうよ?」

 

 自分へ譲ろうとする真白に最後の確認とばかりに聞いた時、頷いた姿を見てメアは笑顔でお礼を言いながら食べ始める。彼女の隣では殆ど自分の分を食べ切ったネメシスが最後の一口を食べ、そのスプーンを置いた。何処か満足げに微笑むネメシスは声を出しながら息を吐き、真白に視線を向ける。

 

「お前、これから私達に飯を用意しないか?」

 

「……」

 

「夕飯だけでも良いぞ? 偶にでも良い。どうだ?」

 

「ふふっ。主、それじゃ駄目だよ。ねぇ真白先輩? お店でも言ったけど、私も主も料理出来ないんだよね。今日は良いかも知れないけど、また明日から夕飯はお菓子かも……ね?」

 

 1度味わってしまった惣菜とは違う手料理の味。それを知ってしまったら最後、ネメシスはこれから何時も通りの食事で満足出来ない自信があった。故に料理が出来て自分が数少ない関係を持つ、料理の出来る存在……真白を誘う。だがその物言いは彼女らしく、それでは駄目だとメアが言った後に告げたのは一種の脅迫の様なものであった。材料は自分達であり、『自分達を思うならここに来て欲しい』。そんな内容。

 

「…………」

 

 真白はジッと考える様に黙ったまま、2人の姿を交互に見続ける。メアが徐々に変わり始める事が出来たのなら、ネメシスもまた変われる可能性がある。そして彼女達を本当に変えたいと思うのなら、積極的に接点を持つ事も大事だと真白はヤミと話していた。当然危険はあるかも知れないが、地球には虎穴に入らずんば虎子を得ずと言う諺もある。……真白はやがて2人の言葉に頷いた後、来る日を決める事にした。結果、1週間に1回。御門の家に行く日曜日の夜に夕食を作りに来る事で話は決まる事となった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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