『もう終わりにしよ、友達ごっこは……』
電気も何もついて居ない部屋の中、ナナは自分のベッドの上で布団に包まっていた。閉め切られたカーテンの外は太陽が上っている様で、平日故に学校もある。だが現在の時刻は既に9時を回っており、つまりそれはナナが学校を休んだ事を意味していた。
彼女の頭の中には昨日の出来事が鮮明に蘇る。突然破壊された体育倉庫と居なくなった芽亜に心配した彼女は学校が終わると同時に自分のベッドを使って彼女の姿を探した。そして見つけた時、そこに居たのは自分の知らない『本当のメア』。真白とヤミを見降ろしていた彼女の姿に声を掛けた時、芽亜は驚いた様子を見せ乍らもナナに告げた。それは以前悩んでいた姉がヤミである事、自分が彼女と同じ生物兵器である事。以前から真白とヤミに襲い掛かっていて、今まで地球人としてナナと『友達ごっこ』をしていたと言う事を。……ショックの余り頭が真っ白になったナナはその時の芽亜の表情を見る事すら出来ず、膝から崩れ落ちた。
ナナにとって黒咲 芽亜は初めて出来た友達だった。だからこそ彼女に拒絶された事が苦しくて、学校に行く事が怖くなる。自分の身体を包む布団を握り締め、歯を食い縛って抑えようとする彼女の目からは涙が溢れた。
『……ナナ』
「!」
突然静かに響いた扉をノックする音と、その向こう側から聞こえる声にナナは涙を零して目を見開いた。様子が可笑しいとモモやリトに気付かれはしたものの、説明する余裕も無かったナナは突然閉じ籠ったに等しい。が、数少ない芽亜以外にナナが塞ぎこむ理由を知る人物が2人居る。……扉の向こうから聞こえたのは、その1人である真白の声だった。返事をする事も出来ずに布団に包まるナナは、やがて静かに開かれる扉を見て咄嗟に叫ぶ。
「入るな!」
『!』
「……シア姉……何で、居るんだよ……」
答えを聞かずとも閉じ籠ってしまった自分を心配した真白が学校を休んでまで傍に居ようとした事くらい、ナナは察する事が出来る。だがナナは今の自分の姿を見せたくないと同時にどうしても思ってしまう事があった。
「シア姉は、知ってたんだよな……メアの事を」
『……』
「前に居なくなったのも、あいつのせい……何だよな……」
自分の為に教えなかった。それが分かっていても、ナナは知らなかった事が悔しかった。友達だと思っていた相手が元から友達になる気が無く、しかも自分のもう1人の姉の様な存在を襲っていた。2つの事実に真白にも、学校に行っているかも知れない芽亜にもナナは会う事が恐ろしく感じてしまう。だからこそ、全ての始まりとなった自分の決断を彼女は後悔した。
「こんな事になるなら……学校なんて、行かなきゃ良かった!」
最初から学校にさえ行かなければ、黒咲 芽亜と言う偽物の彼女と知り合う事も騙される事も……傷つく事も無かった。再び溢れ始める涙を流しながら叫ぶ様に告げたナナは布団に顔を伏せてしまう。悲しみや苦しみに押し潰されそうなナナの心。だが彼女は自分のベッドに誰かが座った事に気付いて涙に濡れたまま顔を上げる。入って欲しく無かったのに入ってしまった真白へ文句を言う為に。
「入るなって……ぁ……」
「……1人は……辛い」
ナナの言葉は途中で弱々しく消えて行った。文句を言おうとした相手である真白が自分の身体を包む様に抱きしめた為に。布団とは違う人肌の温もりがナナの心までもを包み込み、三度溢れる涙を今度は抑える事が出来なかった。気付けば布団では無く真白の服にしがみ付いてその胸を借り、溢れる感情のままに号泣する。……その日流した彼女の涙を知るのは、真白だけであった。
「……ごめん」
「……平気」
目元を赤くしながらも何とか落ち着きを取り戻したナナは同じベットで座る真白に気まずく感じ乍らも謝る。ナナの涙で微かに胸元を濡らした真白は彼女の謝罪に首を横に振って答えた後、しばらくの間を置いてから口を開いた。
「……芽亜は……迷ってる」
「! 迷う?」
突然出て来た名前に驚きながらも、ナナは真白の言いたい事が分からず首を傾げて聞き返した。
「……心……繋げた、から……分かる。……不安で、孤独で……2つの生き方に……迷ってる」
「2つの、生き方……! 芽亜は自分の事、兵器だって言ってた。……なぁ、シア姉。シア姉が知ってるメアの事、あたしに教えてくれ!」
ナナの言葉に真白は言葉を途切れ途切れに発しながらも、ナナへ自分が知る黒咲 芽亜について説明を始める。初めて出会った時から今までどの様な事があったかを話し、自分達が彼女に『人としての生き方』を知って貰おうとしている事も話す。真白の話を聞いて先程告げた2つの生き方の意味を理解したナナはその話に驚きながらも、やがて俯き始める。彼女が感じている思いは真白には分からない。だが、やがて顔を上げたナナは真白の手を掴んだ。
「あたし、もう1度アイツと友達になる。今度は本当のアイツと。……だから、力を貸してくれ! シア姉!」
決意した様子で告げるナナの言葉に真白は頷いて答えた。既に真白は1人で学校に行かせたヤミから芽亜が学校を休んでいると聞いており、それを聞いたナナは昨日と同じ様に鼻の利くペットを呼び出した。毬藻の様な姿をした宇宙生物、マリモッタ。以前大量に呼び出した中に紛れていたペットであり、芽亜を襲っていた内の1匹でもある。ナナは芽亜を探す様にマリモッタへお願いをして、デビルーク星で着ていた私服にデダイアルで一瞬にして着替える。
「行こう、シア姉!」
「ん……」
ナナの言葉に頷いた後、真白は彼女と共に結城家を出る。マリモッタは時折匂いを嗅ぎながら進み続け、やがて2人は以前ナナが芽亜にマロンを紹介した河川敷へ到着。広い河川敷を見渡した時、2人の視界には草の上で座り込む
「今度こそ赤毛のメアを……!」
「くっ! お前は昨日、赤毛のメアと一緒に居た小娘!」
「また我らの邪魔をするか!」
「……邪魔は……そっち」
互いの本心を曝け出して本当の友達に成ろうとする2人の邪魔だけは絶対にさせない。その思いを胸に真白は3人の前に立つ。昨日の戦いで全身をサイボーグ化したと告げていた男は真白を脅威と感じていない様子で前に出ると余裕の笑みを浮かべ始める。金色の闇が居ない今、勝てると踏んだのだろう。だが男達が笑っていた時、彼らの視界は一瞬で別の場所を見ていた。気付けば河川敷から何処か良く分からない場所におり、真白の姿も無い。驚き戸惑う彼らの少し上で、輝く羽を背中に出現させた真白が見降ろしていた。
河川敷で芽亜から攻撃を向けられるナナはそれを避けようともせずに足を進める。何故か芽亜の攻撃は全てナナに当たる事無く、放っていた本人すらもその理由が分からず目を見開いていた。が、やがて意を決した様に放った芽亜の攻撃がナナの額に当たる。それは身体を傷つける事無く、彼女の精神の中へ入り込んだ。昨日真白にした時と同じ様に繋がった芽亜。だが、彼女から伝わる感情は唯1つ。……『本当の友達に成りたい』と。唯、それだけであった。
拒絶する芽亜にそれでもナナは歩み寄る事を止めない。やがて芽亜がナナの心から逃げる様に繋がりを外した時、自由になったナナは芽亜の身体を抱きしめた。
「何で……私は兵器でナナちゃんは人間。仲良くなれる訳無い、一緒に居て良い訳が」
「人間とか兵器とか、そんな肩書どうだって良いんだ! 大事なのはあたし達の気持ちだろ! あたしはメアともう1度友達になりたい」
「もう……1度……? で、でも私は主の教えを。自分が兵器だって考えは変えられないよ? この町にも何時まで居られるか分からないんだよ?」
「言ったろ? あたしは人間でも兵器でも、それこそ動物でも関係ない。メアと友達になりたいんだって」
「シア姉達の事はちょっと怒ってるけどな」。そう言いながら笑顔で告げるナナの顔は繋がらなくても芽亜にその言葉が本心であると伝える。芽亜は心の中に感じる暖かい感覚が広がって行く気がして、やがて零れる涙に目を見開いた。自分を兵器だと考えていた彼女は泣けた事が驚きだったのだ。
「ふふっ……そこまで言われたら、断れないじゃん」
「! メア!」
そう言って泣きながら笑う
「へへっ……あれ、シア姉は?」
ナナの疑問に答える者はいない。だがこの日3人の男達がザスティンの元に気絶した状態で運ばれ、銀河警察に引き渡されるのであった。
各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?
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サブタイトルの追加
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主な登場人物の表記