【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第86話 元気を出す魔法

 ある日の事。真白はお風呂から上がったところでリビングに座っていたナナから「相談があるんだ」と突然持ち掛けられ、彼女を自分の部屋へ通す。家具の少ない真白の部屋に椅子は1つも用意されておらず。故に真白は自分が普段眠るベッドを叩いてナナに座る様に伝えて自分もまたそこに座って濡れた髪を拭い始める。何度か真白が結城家で泊まっていた事はあるが、普段余り見る事の無い真白の姿にナナは少しだけ頬を赤らめながらも真剣な顔に切り替えて話をし始める。

 

「あたしの友達がさ、最近元気無いんだ。「お姉ちゃんと喧嘩した」って言うんだけど……力になってやりたくてさ」

 

 ナナの相談に真白は手を止めた後、考える様に顎に手を添える。ナナ曰く、ナナの友達は姉と再会したばかりだと言う。故にまだ仲良くなれておらず、本人はどうにかして仲良くなりたいと思っている。との事であった。ナナの友達がどんな人物なのか、真白は知らない。故に相手の家庭事情へ下手に介入する訳にも行かない。不安そうにするナナの姿に真白はようやく口を開いた。

 

「……ナナは……どう、したい?」

 

「あたしか? あたしは……あいつと初めて会った時、笑ってたんだ。凄い良い笑顔で。だから、あいつには笑ってて欲しい」

 

 真白はその言葉を聞いて過去にリトが自分にした行為を思い出す。それは幼い頃、まだ出会ったばかりの頃。笑わない真白の顔を見て彼は必死に色々な事をした。変な顔や変な踊りをして、必死に真白を笑わせようとした。一緒に居た美柑は彼の行動に笑う事が多く、そのお蔭で泣き止んだ事もある。……真白は彼の思いを今なら理解出来、それは今ナナが願う事と同じだと考える。故に真白は答えた。

 

「……笑わせる」

 

「笑わせるって、どうやってだよ?」

 

「……ナナにしか、出来ない事……きっと、ある」

 

「私にしか……笑ったら、あいつも少しは元気出してくれるかな?」

 

「……笑顔は……暖かく、なれる。……大丈夫」

 

 胸に両手を当てて告げる真白の言葉にナナは「そっか」と呟いた後、ベッドから立ち上がって笑顔を見せる。

 

「笑わせる為にも、まずはあたしが笑ってないとな!」

 

 そう言って八重歯を見せ乍ら振り返ったナナの顔を見て、真白は静かに頷いた。話を終えたナナは真白にお礼を言って部屋の外へ出て行き、1人残った真白は小さな欠伸をしてベッドへ横になる。まだ少しだけ慣れない新しい環境を感じ乍ら、ゆっくりと目を瞑った真白はそのまま静かに寝息を立て始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。彩南高校付近を歩いていた真白達の中で、校門の近くを歩く少女の姿に気付いたナナが大きく手を振ってその名前を呼びながら駆け出す。

 

「おーい! 芽亜!」

 

「!」

 

「どうしたの? 真白」

 

 ナナの声に振り返った少女、芽亜はその姿を見て驚いた後に更に後ろに居た真白達の姿を見る。だが一瞬だけであり、近づいて来るナナと会話を始めた芽亜。真白はナナの友達が芽亜である事を今、初めて知った為に思わず足を止めていた。それに気付いたララが首を傾げて聞けば、真白は首を横に振って歩みを再開する。

 

「そう言えばナナが紹介した時、シア姉様とヤミさんは居ませんでしたね。彼女は黒咲 芽亜さんと言って、ナナに出来たお友達です」

 

 モモの言葉にヤミへ視線を向けた時、彼女が頷いた姿を見てその事実を受け入れた真白。昨晩ナナが笑って欲しいと思っていた相手は芽亜の事だったのだろう。『お姉ちゃんと喧嘩した』と言うのはつまり、ヤミと上手く行ってない事を現していた。ナナに初めて出来た友達であり、自分達に襲い掛かって来た芽亜。真白の思いは複雑であった。

 

「なぁ、芽亜。今日の放課後空いてるか?」

 

「え? うん、大丈夫だよ。何処か遊びに行くの?」

 

「ちょっと見せたい物があってさ。この後、紹介出来なかったもう1人の姉も紹介するよ!」

 

 笑顔で話し掛けるモモの言葉に首を傾げながら質問する芽亜の姿は彩南高校に通う普通の1年生に見える。今まで危険な姿しか見ていなかった真白はナナと話をする姿を見て無意識に行っていた警戒を少しだけ緩めた。気付けば校門を通過して下駄箱へ辿り着いていた真白達は、1年生と2年生に別れて教室へ向かった。

 

 挨拶を済ませ、朝のHRも終わった時。教室の外から聞こえるナナの声に真白は廊下へ出る。そこにはモモと話をするナナと、それを眺める芽亜の姿があった。

 

「あ、シア姉! 紹介するよ! あたしの友達だ!」

 

 真白の姿にナナが笑顔で芽亜を紹介すれば、彼女は微笑みながらお辞儀をして口を開いた。

 

「真白先輩、おはようございます♪」

 

「……芽亜……おはよう」

 

「? 御2人は既にお知り合いですか?」

 

「そうなのか?」

 

 名前を名乗らずに挨拶する芽亜と、名前を聞かずにその名前を呼ぶ真白の姿に少々驚いた様子でモモは質問する。ナナも同時に芽亜へ聞き、2人は両者へ同時に頷いて肯定した。そして再びその視線を合わせた時、真白の後ろから出て来たヤミの姿に芽亜は再び微笑んだ。

 

「おはよう、ヤミさん(・・・・)

 

「おはようございます、黒咲 芽亜」

 

 ヤミと挨拶する芽亜の姿に再び驚いたナナ。その後、彼女は彩南高校の一生徒として会話を続ける。ヤミが姉である事も、真白を狙った事も当然口には出さない。そして真白とヤミもまた、彼女の正体を明かす事は無かった。それは真白が数日前、ヤミに言われた言葉が理由であった。

 

『彼女は私と同じ様に生まれ、ですが私と同じ様な家族には出会えなかった。黒咲 芽亜は真白達と会えなかった時の私です』

 

『……』

 

『彼女にも知って欲しい。兵器としてでは無い、人としての生き方を。家族の暖かさを』

 

 それは姉として、人として願う彼女の思い。家族であるリトを殺させようとする芽亜を、自分達に仕掛けて来る彼女を簡単に許す事は難しいだろう。だが知らない故の行動ならば、知ってもらう事で彼女を変える事が出来るかもしれない。微かな望みを真白とヤミは胸に抱き、彼女を『ナナの友達』として改めて受け入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後を迎えた時、ナナは芽亜の手を掴んで2年A組へ走った。宇宙人としての脚力を活かして猛スピードで走る彼女に、自分が地球人では無いと気付かれない様にし乍らも芽亜は着いて行く。そして教室の目の前に立った時、開いた扉から真白とヤミが姿を現した。

 

「シア姉! ヤミ! この後空いてるか!?」

 

「家で美柑が待っていると思いますが」

 

「それなら心配すんな! シア姉達を借りるってもう伝えといた!」

 

「……分かった」

 

 ナナは少しだけ焦った様子で2人の姿を前に聞き始める。本来なら休み時間に聞きたかった内容なのだが、紹介した際には色々な驚きでタイミングを逃し、他の休み時間には互いに都合が合わずに今を迎えてしまったのだ。結城家へ帰る前に何とか間にあったナナの言葉に真白を見ながらヤミが答える。しかし既に先手を打つ様に携帯を見せ乍らナナが告げれば、真白は静かに頷いて了承した。ナナは笑顔でお礼を言うと、真白の手を空いていた手で掴んで走り始める。

 

「ナナちゃん、何処に行くの?」

 

「行って見てのお楽しみだ!」

 

 未だにナナが連れて行く場所を知らされていない芽亜が質問するが、走りながら八重歯を見せて笑うナナは答えを言わない。下駄箱や校舎を通って彩南町の商店街を走ったナナは、やがて河川敷にその足を進める。人通りが少なくなり、鉄橋や川が見える見晴らしの良い場所。そこでようやくナナは足を止めると、2人の手から自分の手を離して両手で口元に円を作る。

 

「お~い! マロン! 居るかー?」

 

『ワンっ!』

 

 大きな声でナナが名前を呼んだ時、少し離れた場所から突然姿を見せた1匹の犬がナナに向かって駆け寄り始める。だが突然犬は進路を変えると、迷わず芽亜の身体へ飛びついた。突然の事に驚き、犬の突撃に尻餅をついた芽亜は自分の身体に乗って荒い息を吐く犬と見つめ合う。

 

「この子は?」

 

「あたしの友達で、春菜のペット。西連寺マロンだ! 変な顔だろ?」

 

 犬……マロンはボストン・テリアと呼ばれる犬種であり、宇宙でその種は珍しいのだろう。お世辞にも美形とは言えないその顔が面白かったのか、ナナの言葉に芽亜はその身体を両手で持ち上げて眺める。そしてしばらく黙った後、突然笑いが我慢出来なかったかの様に噴き出した。

 

「本当だ、変な顔!」

 

 芽亜は笑顔になってナナの言葉に頷きながら答える。マロンがナナに視線を向け乍ら吠え、それを聞いてナナが「頼むぜ」と告げた時。マロンは芽亜へ再び向いて舌を伸ばす。動物と会話を出来るナナはマロンに予め何かを伝えていたのだろう。突然舐められた事に芽亜が驚いた時、マロンは足元へ着地して芽亜の露出した足を舐め始める。

 

「きゃ! あはは! くすぐったい!」

 

 マロンと笑顔で戯れる姿を真白は無表情乍らその奥に優しい笑みを浮かべて眺める。ナナの速度に知られている故、隠す事もせずに着いて来ていたヤミも同様であった。芽亜の姿は純粋で可愛らしい少女であり、その姿が2人の思いを強くする。っと、芽亜を舐めていたマロンが真白とヤミに気付いてナナへ視線を向けた。

 

「ん? あ、あの2人は……待てよ? 芽亜が笑ったみたいにシア姉も笑わせられるかも!」

 

 ナナはマロンが2人を気にした事で答えようとして、思い至る。元気の無かった芽亜が現在甘えられる事で笑顔を見せている。なら可愛い動物達に囲まれて、一斉にじゃれる事で真白の無表情も笑顔に出来るのではないか? と。そう思った時、ナナはデダイアルを手に空へ掲げていた。

 

「来い! あたしのペット達!」

 

 その言葉と同時にナナの周りで白い煙が沢山出現し、そこから様々な生き物が飛び出し始める。そのどれもが地球には存在しない奇妙な動物達であり、ナナ曰く宇宙の彼方此方で知り合った友達。との事であった。動物達は一斉に芽亜や真白達に群がり始め、じゃれつき始める。それはナナに呼ばれた際、この場に居る者達に甘えて欲しいと言うお願いを聞いての行為であった。身体を擦りつける物や舐める物が居る中、芽亜を舐めていたマロンが対抗心を燃やし始める。マロンに取って相手を舐める事は最大級の甘え方であった故に。

 

「ちょ、んぁ! まってぇ」

 

「お、おい! やり過ぎ、ひぁ! し、尻尾をしゃわるにゃ~!」

 

「ん、ぁ……!? んんっ! せなか、は……だ、め……!」

 

「くっ、ニュルニュルが纏わり着いて……力が……」

 

 暴走とも言える動物達の甘える行為は徐々にナナの手に負えなくなり始める。芽亜の身体中を舐め、ナナの尻尾を擦り、真白の背中に入り込み、ヤミを滑る触手で絡み取る。様々な生き物達が居る為、様々な攻めを受ける事となった4人。ナナが持っていたデダイアルで全員を宇宙に戻そうとするが、突然小さな猿がそれを掴んで飛んで行ってしまった事で送り返す事も出来なくなってしまう。

 

「それ、返せ! ふぁ!」

 

 飛んで行った猿に手を伸ばして動こうとしたナナは尻尾を攻められて倒れてしまい、臀部を中心に動物達に甘えられる。快感から抜け出せない芽亜は只管手を伸ばし、その手を掴んだのは真白であった。お互いに引き寄せ合い、間近に迫った時。快感に乱れる芽亜と必死に声を抑える真白は互いの顔を見合った。

 

「真白、先輩ぃ、あぁ!」

 

「んっ、め……あ……んんっ!」

 

 気付けば互いの身体が触れあう位置で手を繋ぎ合った2人を中心に動物達が甘える構図が出来上がっており、微かに蕩けた芽亜の声が真白を呼ぶ。握る力を強くして返すものの、真白の声は弱々しかった。逃げ出す手段の無い4人は動物達に甘えられ続け、何時まで続くのかと思った時。救世主となる者の声が響いた。

 

「ナナ! 受け取って!」

 

「あ、姉上……てりゃぁぁ!」

 

 それはララの声であり、ナナは自分の元へ飛んできたデダイアルに手を伸ばす。ギリギリのところでそれを受け取った時、ナナは迷わずにボタンを押した。途端、マロンを残してその場に居たナナのペット達は一瞬にして宇宙へ送り返される。後に残されたのは乱れた服装の4人だけだった。

 

「た、助かったぁ~」

 

「はぁ、はぁ。吃驚、したね?」

 

「ん……大、丈……夫?」

 

「私は、問題ありません……」

 

 解放された事で安堵するナナを見て芽亜が口を開けば、真白が頷いた後に3人を見ながら確認する。まだ呼吸が荒いものの全員怪我は無い様子であり、真白はそれを確認して胸を撫で下ろす。っと、4人の元へドレスフォーム姿のララが舞い降りた。

 

「大丈夫?」

 

「あぁ、助かったぜ姉上」

 

「メアちゃんを元気付けたいって言ってたナナが気になって来て見たけど、正解だったね!」

 

「え……」

 

「あ、姉上!」

 

 ララの言葉に驚いた様子でナナへ視線を向けた芽亜。ナナは隠して置きたかった思い故にララの言葉で恥ずかしそうに顔を赤くし、その様子で真実だと芽亜は理解する。それと同時に何かを感じた様に胸へ手を当てた芽亜。ララはナナが隠そうとしていた事に気付き、だがばらしてしまった故に笑顔で芽亜へ視線を向けた。

 

「ナナはね? メアちゃんに笑って欲しかったんだよ。お姉ちゃんの事で最近元気が無いから、元気を出して欲しいって」

 

「何で姉上知ってるんだよ!?」

 

「えへへ。真白の部屋で話てたの、聞いちゃった!」

 

「ち、ちち違うからな! あたしはそんな思いで芽亜を呼んだ訳じゃないからな! ちょっとあたしの友達を紹介して、喜んでくれるかな~と思っただけだからな!」

 

 ララの暴露に驚いて質問すれば、舌を出しながら答えたララ。真白との会話を聞いていたと聞いた事で、芽亜は真白へ視線を向ける。何も言わずに静かに頷く真白の姿を見て、芽亜は立ち上がると座り込むナナへ近づいた。ナナは顔を伏せて芽亜の行動に気付かず、言葉を続ける。

 

「でもこんな事になっちまって……悪いな、芽亜」

 

「ううん。嬉しかったよ。それに楽しかった! ありがとう、ナナちゃん!」

 

「! 芽亜……」

 

 謝るナナへ首を横に振った後、花の咲く様な笑顔でお礼を言った芽亜の姿にナナは目を見開いて驚く。だがすぐに照れくさそうに顔を背けた後、芽亜が差し出した手を取って立ち上がった。……そんな光景を優しく見守っていたヤミの隣に真白は移動する。

 

「……大丈夫」

 

「はい。彼女はきっと、変われます」

 

 笑い合うナナと芽亜の姿を眺め、2人は優しく見守るのであった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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