【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第83話 暴虐のアゼンダ

 女性は崩れた建物を前に笑っていた。嘗て彼女は殺し屋として宇宙を股に掛けていた金色の闇と対峙し、敗北。殺し屋として生きていた彼女の信頼は失墜し、以降金色の闇に復讐する事だけを目的に生き続けていた。殺せれば良い。出来る限り、苦しめる事が出来れば良い。そう思う彼女がすぐにヤミを殺す訳が無かった。

 

「早く出て来な! 金色の闇!」

 

「……用があるなら明るい内にインターホンを押すのが常識ですよ」

 

 彼女は確信していた。あの程度の攻撃と瓦礫の雨に降られた程度では金色の闇が死なない事を。傍にいた者の事等死んだところで彼女に取ってどうでも良く、故に瓦礫を押しのけて少し汚れた寝間着姿で姿を見せるヤミの姿に恐ろし気な笑みを浮かべる。

 

「は! 地球の常識何て知った事じゃ無いよ。随分平和ボケしてるみたいだね」

 

「郷に入っては郷に従え。殺し屋である事とは別に生きる上で当たり前の事ですよ、暴虐のアゼンダ」

 

「ほう、嬉しいね。あたしの名前を覚えていたかい。ところで一緒に居た小娘はどうした? 潰れたかい?」

 

「……」

 

 求めていた敵を相手に嬉しそうに話し掛ける女性……アゼンダとは対照的に、ヤミは無表情のまま何処か面倒そうに言葉を返す。アゼンダはヤミが名乗る前の自分の事を記憶していた事に喜び、そして彼女を陥れる為に傍で寝ていた真白について質問する。ヤミはそんな言葉に視線を下げ、片手を静かに差し出した。途端、その手を掴んで立ち上がる姿にアゼンダは微かに目を見開く。彼女の攻撃はヤミを傷つけると共に隣にいた真白を瓦礫で押し潰せる様に調整して放たれたものであった。だがそこに居るのは無傷の少女。アゼンダは驚き戸惑うが、すぐに笑い始める。

 

「守ったか。人の命を奪う筈のお前が人の命を救うとはな。本当に失望したよ金色の闇ぃ!」

 

「!」

 

 持っていた鞭を大きく振るって2人へ叩きつけようとしたアゼンダだが、ヤミは真白の手を掴んだまま大きく跳躍する事でその攻撃を回避する。ヤミに引っ張られる様に真白もその攻撃から逃れ、足元の悪いアパートの跡から広い公園まで移動した。月が空から地面を薄く照らす頃、足を止めたヤミは追い掛けて来たアゼンダと向かい合う。

 

「追いかけっこはお終いかい?」

 

「そうですね。ここなら心置きなく戦えます」

 

「その地球人を守りながらあたしを倒すつもりかい? 一度勝ったからって良い気になるんじゃないよ!」

 

 止まったヤミとその背後に立つ真白を見て話すアゼンダに答えたヤミだが、その表情は変わらない。それが余裕にも見えたのか、アゼンダは怒りを露わにし乍ら鞭を振るった。しかしその鞭はヤミが片手を刃にして弾いた事で、身体に当たる事無くアゼンダの元へ。ヤミは鞭を破壊するつもりで弾いたが、恐ろしい柔軟性がその刃すらも受け止める事で壊れはしなかった。武器を破壊するのは難しいと判断し、ヤミは一気に飛び出る。だがその瞬間、アゼンダはニヤリと笑った。

 

「お前にあたしは斬れないよ。何故なら」

 

「……」

 

「!?」

 

「お前の友達があたしを守るからね!」

 

「! み、か……ん……」

 

 余裕そうに笑うアゼンダの言葉を聞きながら伸ばした刃となった髪は、アゼンダの前に突然現れた美柑の目の前で停止する。驚き目を見開いたヤミと同じく美柑がアゼンダの守る様に立った事で驚く真白を前に、アゼンダは鞭を振るった。攻撃を急停止したヤミは間一髪でそれを避けるが、まるで美柑が対峙する様にヤミの前に立ちはだかる。

 

「あたしの能力は忘れたかい? 金色の闇」

 

「念導力……!」

 

「意識の無い地球人程度なら簡単に操れるさ。この娘はお前のお友達、だろ? 見ていたから良く知ってるよ。……そしてお前の後ろに居るのは」

 

「! 真白!」

 

 美柑を操るアゼンダの能力を思い出したヤミは続けてアゼンダが片手を動かした事で嫌な予感を感じて振り返る。そこには公園の遊具が地面から外れ、真白の周りを浮きながら回転し続ける光景があった。囲まれて逃げる事が出来ない真白の姿にヤミがアゼンダを止めようと動くが、それを妨害する様に意識の無い美柑が攻撃を仕掛ける事でアゼンダに辿り着けず……再びアゼンダは恐ろし気に笑った。

 

「お前の家族、だったものだ」

 

 その言葉と同時に真白の周辺を回る遊具が一斉に真白へ襲い掛かった。四方八方から襲い掛かる鉄棒や滑り台といったものを避ける術は無く、真白はヤミへ視線を向ける。言葉も何も無い一瞬。ヤミが目を見開いた瞬間、真白は遊具の雨に埋もれた。

 

「さっきはお前が守ったが、今度はそうはいかない。どうだ? 家族の死に際をみた感想は?」

 

「……」

 

「もっと苦しめてやる。家族を、友達を持った事を死ぬほど後悔させてやる。這い蹲って許しを請って、無様に死ぬ姿を見下ろしてやるよ!」

 

 微かに下を向いて表情の見えないヤミ。その姿を家族として接していた相手が死んだ故に言葉も出なくなったと考えたアゼンダは怒りの形相で告げる。そして意識の無い美柑を動かしてヤミに向かわせた時、ヤミは静かに顔を上げた。

 

「愚かですね」

 

「! はっ! お友達を殺すつもりかい?」

 

 先程と何も変わらない様子で髪を動かし始めたヤミ。それは真っ直ぐに美柑へ向かい、動揺した様子の無いヤミの姿に驚きながらもヤミが美柑を傷つけられないと確信していたアゼンダは笑いながら告げる。だがヤミが取った行動は美柑への攻撃では無く、優しくその身体を受け止める事であった。美柑の身体が傷つかない様に優しく。だが思い通りに動かせない程には複雑に、その身体を拘束した。再び驚きながらも、アゼンダは鞭を持つ手に力を籠める。

 

「お友達を拘束したところで、お前ががら空きになるだけさ!」

 

「信じる者は救われる……私は、信じています」

 

 アゼンダがヤミを殺すつもりで放った鞭を避ける動作も見せずに見続けるヤミ。ヤミの殺せると確信したアゼンダが次に見たものはヤミの死体では無く……先から徐々に壊れて行く自分の鞭であった。内側から光が溢れる様にして、脆く崩れて行く鞭。驚き自ら握る手の部分まで来た時、アゼンダは自らも崩れるかも知れないと言う恐怖に鞭を手放す。鞭は完全に崩れ去り、静かな風が鞭であった砂すらも飛ばしていった。

 

「い、一体何が……!? お前は!」

 

「……」

 

 驚き戸惑うアゼンダが顔を上げた時、ヤミの隣には殺した筈の真白が当たり前の様に立っていた。その後ろにある遊具で出来た瓦礫の山は最初よりも崩れており、そこから出て来た事は明白。武器を失い、家族も殺せていなかった事実にアゼンダは困惑した。

 

「私は家族を信じています。守り続けます。ですが同時に私もまた、守られています」

 

「! まさか、金色の闇が探していた人物ってのは」

 

「……!」

 

 必死に拘束から抜け出そうとする意識の無い美柑を髪で抱き留めたまま、話をするヤミの言葉にアゼンダは金色の闇に関連する噂を思い出して更に驚きながら真白を見る。宇宙を股に掛けていた金色の闇は最強の殺し屋であると同時にずっと人を探している。それは殺し屋の世界では有名な噂であり、再会後は殆ど殺し屋として過ごさずにその世界から姿を消したヤミが探し人と再会出来た事を知る者は少ない。アゼンダが真白を唯の宇宙人では無いと理解した時、気付けば真っ赤な瞳が間近に迫っていた。

 

「そして、私達は家族に手を出した者を許しません」

 

「ひっ!」

 

 ヤミの言葉と同時に片手で真白に顔を掴まれたアゼンダは一瞬の悲鳴の後、頭と足の位置を入れ替える事となった。後頭部を地面が割れる勢いで叩きつけられ、足が大きく浮いた後に重力に従って落下。真白が手を離した時、そこには白目を剥いて倒れるアゼンダの姿があった。地球人なら即死だが、宇宙人故にそれで済むのだろう。

 

「……あれ? 何で私、外に……ってえぇ! 何で私ヤミさんの髪に巻かれてるの!?」

 

 美柑を操っていたアゼンダが倒れた事で意識を取り戻した美柑は自分が外に居る事とヤミの髪に包まれている事に驚き戸惑い始める。美柑の声で彼女が元に戻った事に気付いたヤミは優しく美柑を地に降ろし、それと同時に真白がその傍へ近づいた。

 

「……怪我……無い?」

 

「真白さん? えっと、何処も痛くは無いけど……何があったの? そこに倒れてる人は?」

 

「良いんです。美柑が無事なら、それで」

 

「へ? や、ヤミさん? ふぁ! 真白さんも!? な、何がどうなってるの!?」

 

 心配する真白の姿に自らの身体を見ながら答えた時、美柑は少し離れた場所で倒れる人影を見る。だが操られていた事実など知られたく無かったヤミは気にならない様に、そして無事である美柑を確かめる様にその身体を抱きしめる。突然の事で更に困惑する美柑の姿を見た真白はヤミの行動に乗っかる様に2人ごとその身体を抱きしめ、2人の暖かさを感じる美柑はパニックになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とか落ち着いた美柑を結城家へ送り、アゼンダを然るべき場所へ運んだ真白とヤミは自宅へ帰る。だが2人の目の前にあるのは崩壊したアパートであった。実は真白達が住んでいたアパートに現在、他の住居者は誰も居ない。故にアゼンダの攻撃によって死人や怪我人は出ておらず、被害を受けたのは真白とヤミ。そして別の場所に住む大家だけであった。

 

「どうしますか?」

 

「……」

 

 真白はヤミの知らぬところで行った大家との会話を思い出す。2人が住んでいたアパートの大家は既にアパートを経営するのも大変と感じるお婆さんであった。そしてそのお婆さん曰く、『現在住んでいる者達が居なくなった時点で建物は取り壊す』。との事であった。決して追い出す様な真似はせず、だが新しい住居者の募集もしない。真白達が最後となった事で壊し方について考える様になったと本人から聞いており、間違い無くもう住めない目の前のアパートはこのまま無くなる事が真白には分かった。

 

「……荷物……出せる?」

 

「壊れていない物なら少しありそうですが、家具等は諦めた方が良さそうですね」

 

 瓦礫の中へ足を踏み入れ、自分の部屋だった場所周辺を探る真白とヤミ。やがて着替えや生活に使う必需品等を出来る限り集めた後、2人は瓦礫から外に出る。

 

「……お世話に……なった」

 

「お世話になりました」

 

 アパート跡へお辞儀をし乍ら真白が告げれば、倣う様にヤミもお辞儀をし乍らお礼の言葉を言う。誰も居ないアパート跡から当然返事が帰って来る事も無く、真白は頭を上げると歩き始めた。ヤミが何処へ行くのか質問すれば、考える様に黙る真白。傍から見れば荷物を沢山持つ夜逃げの様な姿であり、2人は泊まる場所を求めて移動するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、今日の分はこれで終わりですね。おや?」

 

 漫画家であるリトの父親、結城 才培の元でアシスタントとして働くザスティン。彼は夜中まで作業を行っており、自分に任された場所を無事に終えた事で寝る前に気分を切り替える為、窓を開けて庭へ足を運んでいた。後は寝るだけであり、家の中に籠っていた為に新鮮な外の空気をザスティンは大きく吸い込んで吐き出す。そして戻ろうとした時、何かが庭に落ちているのを見つけた事で彼は首を傾げた。良く観ればそれはモゾモゾと動いており、その姿を見てザスティンは目を見開く。

 

「貴様は殺し屋・暴虐のアゼンダ! 何故貴様がここに! ? これは……?」

 

 その正体は紐で拘束されて自由に身動きが取れなくなったアゼンダであり、危険人物と知っていたザスティンは驚きながらも傍に石を乗せて置いてあった手紙の様な物を拾う。そこに書かれていたのは一文だけであった。

 

「『襲われた』……ここに奴が居ると言う事は無事な様だな。差出人は……」

 

「何やってんだ? ザスティン。お? この字は真白のだな! 何々、襲われた……ねぇ」

 

 手紙を読むザスティンの姿に気付いた才培が庭へ足を運び、ザスティンの持つ手紙を見てそれを書いた人物を言い当てる。内容から目の前で横たわるアゼンダが真白達を襲い、帰り討ちに合ってここまで運ばれた。そう全てを理解したザスティンは一度目を瞑った後に頷いた。

 

「銀河警察に引き渡さなければ。ブワッツ! マウル! しばらくの間見張っていてくれ」

 

「で、ですが原稿が……」

 

「残りは俺がやるから心配すんな! ザスティン、そいつの事は任せたぜ?」

 

「はい。責任を持って対処させていただきます」

 

 未だにザスティンは真白と会う機会が無く、故にその感情は複雑なものであった。だが才培に取って娘であり、敬愛するデビルーク王が何とか和解しようとしている相手を襲ったアゼンダを許す道理は欠片も存在しない。部下の2人を呼び寄せ、犯罪者を引き渡す為に動きだしたザスティンの姿を見て才培は家の中に戻る。

 

「さて、そんじゃ今日も徹夜と行きますか!」

 

 そう言った彼の表情は笑顔であった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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