【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第78話 真白の過去。迫る少女

 生き物にとって記憶というものは複雑である。忘れたい事程刻み込まれ、覚えようとしても覚えられない記憶がある。忘れたくない事が時間と共に薄れ、何れ消えてしまう事もある。だが本当に心に刻まれた記憶は例え本人が忘れていたとしても、その心に残り続ける。……彼女はそれが見たかった。

 

「真白先輩、貴女の忘れたくても忘れられない記憶。私に見せてください」

 

 真夜中。真白の家で、眠る真白の上に乗りながら告げる彼女の表情は冷笑にも見えた。何時も傍に居るヤミの姿は現在結城家にあり、美柑の部屋で共に眠りに付いている。普段なら真白から離れようとしないヤミだが、美柑から誘われたのだ。その際には真白も一緒に誘われたのだが、真白は今日この日の泊まりを断った。ヤミも真白が断った事で帰ろうとしたが、嘗ての事件故に自分の傍に居続けるヤミが自分に縛られているに等しいと感じた真白はヤミへ首を横に振って残る様に言ったのだ。用事がある時以外は自分の傍に居る彼女は言ってしまえば自由が無く、故に『自由に過ごす様に』と。そこでヤミは真白と一緒に居る事が自由であると返すも、残念そうな美柑を放っても置けなかった。……結果、今日1日だけ別々で一夜を過ごす事となったのである。そしてそれは、彼女に取ってまたと無いチャンスであった。

 

 長く伸びた髪が動き、真白の頭を撫でる様に伝って降りていく。微かに身動ぎするも目を覚まさない真白の姿を見つめ乍ら、その髪はやがて首元へ。邪魔の服のボタンを両手で外し、胸の谷間の少し上に止める。

 

「ふふ、繋がりましょう。真白先輩♪」

 

 彼女の言葉と共に、触れていた髪は真白の身体の中へ入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、真白先輩の記憶の中……」

 

 彼女が目を開けた時、周りに見えたのは真白の家では無かった。真っ白とも真っ黒とも言える不思議な空間の中、唯一見えるのは様々な場面を切り取った静止画の様なものが沢山浮かぶ光景。腕を組んで強い眼光で見つめる唯の姿。ララの手を引いて走るリトの背中。口元に水着を引っかけたイルカの姿。泣いた後なのか、目元を赤くしながらも笑うララの姿。他にも様々な真白の記憶がそこには浮かんでいた。

 

「この辺りでヤミお姉ちゃんと再会したんだ。……こっちは、地球に来る前かな」

 

 記憶の画を眺めながら自分の持つ情報と照らし合わせて進む彼女は、やがて真白の地球に来る以前の記憶を見つける。そして何かを思い付いた様に早歩きになると、少しして彼女は目的の画を見つけた。それは幼いヤミと1人の女性が映る画であった。女性の姿はヤミと似ており、ヤミが成長すれば彼女の様になると思える程。彼女はその画を見て納得した様に声を上げる。

 

「へぇ~。話には聞いてたけど、本当にヤミお姉ちゃんが生まれた時から一緒だったんだ。……? あの記憶は?」

 

 ふと見つけたその画は涙を流す女性の姿だった。画が自分を見ていると言う事からそれは真白に向けられたものであり、その理由を考えようとした彼女は女性の向こうにあった鏡に映る光景を見て気付いた。その鏡には微かに幼い真白を映っており、それと同時に彼女の背後。その足元に血溜まりが出来ている事に。それは誰かを殺した訳でも怪我させた訳でも無い。……半ば好奇心から、彼女はその画に触れた。

 

 

『本当に、良いのね?』

 

『……お願い』

 

 気付けば画の並ぶ空間では無く、真白が見た記憶の元に作りだされた記憶の中の部屋に立っていた彼女は目の前で行われる光景をジッと見つめる。まだ足元に血溜まりは出来ておらず、記憶の中故に立っていても存在として気付かれる事は無い。悲痛な面持ちの女性が確認する様に幼い真白に声を掛ければ、静かに真白は頷いた。

 

「何を……!」

 

 最初は分からなかった彼女は真白が女性に背を向けて服を脱ぎだした事で一瞬驚いた。だが更に驚きなのは、彼女の背中に小さな白い羽が生えていた事であった。【エンジェイドの羽】。その種族である証であり、誇りでもあるその羽を彼女は情報でのみ理解していた。そして、今エンジェイドは真白以外に存在しない事も。……何をしようとしているのか、嫌でも理解出来てしまった。

 

『ごめん、なさい……っ!』

 

『! ひっ、ああぁぁぁぁぁ!』

 

 その悲鳴は彼女の鼓膜を揺らす。恐らく真白の悲鳴を聞いた事がある者など、今【羽を斬り落としている】女性以外には誰もいないだろう。涙を流し、出来る限り早く地獄の様な痛みに苦しむ真白を解放する為に羽へ刃を突き立て続ける女性。やがて数分で2つの羽は音を立てて床へ落ち、光と共に消えていった。

 

『はぁ……はぁ……』

 

『ごめんなさい……貴女を守るには、こうするしか……ごめんなさい!』

 

『……あり、が……とう。……ティア』

 

 頭から汗を流して苦しむ真白に謝り続ける女性。だが真白は苦しみながらも彼女へ振り返ると、切り取られた羽の部分から血を流しながらもお礼を言う。その言葉に涙を零して目を見開いた女性は手が血で汚れる事も構わずにその小さな身体を抱きしめた。……そして世界は元の画が並ぶ場所へ戻る。

 

 

「……絶滅したエンジェイドの生き残りである事を隠すため、かな」

 

 既に宇宙から消えてしまった種族の生き残り。その存在が明るみになれば、必ず狙う者が現れる。そんな者達から生き延びる為に、真白は幼くしてエンジェイドの誇りを捨てた。頭の中で考えながら疲れた様に溜息を吐き、彼女は画を見つめた。

 

「ヤミお姉ちゃんの真似をして今まで色々斬って来たから血も見慣れてるけど、これはもう見たく無いなぁ。……何でだろ?」

 

 涙を流す女性の画から離れ、再び真白の記憶を巡り続ける彼女。人の記憶を聞くのではなく見る彼女は気付けば色々な場面を喜び、怒り、悲しみ、楽しむ。……既に地球が微かに明るくなり始めた頃、彼女は見ていた画の中から出て頃合いを感じた。

 

「はぁ~、面白かった! 真白先輩、思っていた以上に素敵な思い出が一杯! 意外な関係(・・・・・)も知れたし、ヤミお姉ちゃんの事も知れた。やっぱり私達(・・)家族は一緒じゃ無いとね!」

 

 笑顔で1人告げた彼女は真白の中から出て行こうとする。だがふと見えた浴室と思われる場所にシャワーや煙が映る画を見てニヤリと笑みを浮かべる。

 

「記憶から夢にして……えいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真白が目を開いた時、見えたのは結城家の浴室であった。何故そんな場所で目が覚めたのかは分からないが、自分が裸である事とシャワーから流れ出るお湯を見てお風呂に入ろうとしていたのだと考える。まだ身体は濡れておらず、暑くも寒くも無い。シャワーを手に取って身体に湯を流し、目を瞑って頭にも湯を掛けて長い髪の先まで濡らす。そして濡れた顔の目元を拭って再び目を開けた時、目の前に彼女は立っていた。

 

「!?」

 

「こんにちは、先輩♪」

 

 何も纏わず裸で笑みを浮かべながら挨拶する彼女の姿に真白は目を見開いて1歩下がる。だが気付けばその身体は彼女の長い髪に巻かれ、離れられなくなっていた。

 

「洗いっこ、しましょ?」

 

 胸同士をくっ付け、腕や足も動かすだけで互いの身体に触れられる至近距離。そんな状態で彼女は告げると、何時の間にか持っていたボディソープの容器を手にそのノズルを数回押す。勢いよく飛び出た粘り気のある青白い元液が真白の胸へ必要以上に掛かり、彼女は容器を放り投げて真白の身体を抱き着く様に抱きしめる。胸に乗った原液が彼女の胸に擦れて卑猥な水音を鳴らしながら互いの胸へ広がり始めた。

 

「んっ、……何、で……」

 

「家族、んっ、何ですから、一緒に、あっ、お風呂に入るのなんて、ふぅ……当たり前じゃない、です、か!」

 

「ん! かぞ……く……?」

 

「そうですよ。私とヤミお姉ちゃん、そして真白お姉ちゃん(・・・・・・・)は家族です」

 

 身体を動かして胸と胸を擦り、身体と身体を擦り合わせながら告げる彼女の言葉に真白は首を傾げた。目の前の少女と家族になった覚えなど当然無い。だが何故か納得する自分がおり、それを否定する事も動く彼女を跳ねのける事も真白には出来なかった。そしてそんな真白の姿に動き出した彼女は浴槽の縁に真白を移動させ、そこに座らせる。

 

「家族なんですから、えっちぃ事をするのも当たり前ですよね?」

 

「……家族……えっちぃ……事……?」

 

 思考が浮く様な感覚と共に何か大事な常識の様なものが塗り替えられ、彼女の言葉が真実に聞こえ始めた真白。笑顔を絶やさずに彼女はやがて真白の胸を両手で掴んだ。

 

「ぁ」

 

「私しか居ませんから、声出しちゃいましょ? お姉ちゃん」

 

「……こ、ぇ…………知ら、ない」

 

「え?」

 

 掴まれた事で微かに声を漏らした真白を見て真白の中に眠る理性を解放しようと囁いた彼女。一瞬言う通りに流されかけた真白だが、何かに気付いた様にその目は光を取り戻し始める。はっきりし始めた思考は繋がっている故に理解出来、驚き戸惑う彼女に真白は告げた。

 

「……名前……知らない。……家族じゃ、無い」

 

「……あ~あ。初めて話した時に名乗って置けば良かったかな」

 

「……」

 

「私は黒咲 芽亜だよ。また会おうね、真白先輩♪」

 

 真白の言葉でこれ以上は無理と判断した彼女……芽亜は真白から離れて後悔した様に呟いた後、ジッと見つめる真白へ名前を名乗ると同時に手を振った。そして一瞬真白の視界が揺らぎ、気付けば真白は自分の部屋で目を覚ます。普段なら居るヤミの温もりは無く、家の中には誰も居ない。微かに残る記憶は徐々に薄れ、辛うじて覚えた名前と共に今まで起こった事全てが夢であったのだと真白は考えるのであった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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