翌日。真白は授業と授業の間にある短い休み時間を、ララに誘われて春菜も含めた3人で移動教室故に歩きながら過ごしていた。笑顔で話をするララに微笑む春菜と表情を変えずに聞き続ける真白。そんな時、突然3人に声が掛かる。それは階段の上からであり、見上げた先に居たのは制服姿のナナとモモであった。
「ナナ!? モモ!? どうしてここに? それにその制服……」
「ふふ、今日から私達も
「吃驚したか!」
「そうなんだ。よろしくね、2人とも」
「はい、宜しくお願いします。春菜先輩♪」
「姉上と春菜は吃驚してるけど、シア姉は吃驚しないんだな」
「……知ってた」
学校に居る2人の姿に驚いたララを見て説明をしたモモ。春菜が笑顔で告げれば、同じく笑顔で返したモモの横で少しだけ不満そうにナナが真白を見ながら呟く。表情豊かなララと春菜が驚く事は想定済みであり、その上で殆ど表情を変えない真白の顔が少しは変わると期待していたのだろう。だが既に御門から話を聞いていた真白は心に受け入れる準備が出来ていた為、普段通りであった。
「先輩、って事は1年生だよね? あれ、でも2人の年は……」
「余り気にしないでください。校長先生にお願いしたらこうなりましたので」
「出来れば姉様やシア姉と同じ2年生が良かったんだけどなぁ。ま、今日から他の皆とも毎日会えるし、正直留守番してるのはかなり暇だったから良いんだけどさ!」
ナナが両手を頭の後ろに組んで告げる中、予鈴のチャイムが鳴り響いた事で授業に向かっていた事を思いだすララ達。ナナとモモは報告と挨拶をしに来た様で、授業の場所は自分のクラスだと説明する。そこで昼休みに会う約束をした5人はそれぞれ目的の場所へ向けて足を進めるのであった。
「改めて、宜しくお願いしますね」
「よろしくな!」
屋上でお辞儀をするモモと元気よく言うナナの姿に約束をしていたララ、春菜、真白の3人は何事も無く受け入れ、新たに集ったリト、唯が顔を引き攣らせる。2人とも考える事は一緒であり、また学園生活が騒がしくなる予感を感じた為であった。
「頭が痛くなるわ……」
「あ、あはは……でも2人とも良い子だから大丈夫だよ」
「ん……」
「ま、決まったものは仕方無いな。ナナ。モモ、下手に宇宙人だってばらすなよ?」
「はい。分かってます。ですよね、ナナ」
「へ? あ、あぁ~、うん。大丈夫大丈夫」
頭を抱える唯に苦笑いしながらもフォローする春菜。真白も頷いて肯定する中、リトは気持ちを切り替えて2人を迎えた。だが2人は宇宙人であり、その事実は周りに公表するべきでは無い事。既に手遅れな気もするが、それでも黙っているに越したことは無いと注意したリトに微笑みながら答えるモモ。しかし彼女とは対照的にナナは頬を掻いて目を反らしながら答えた。それは明らかな同様であり、見ていた全員が思う。『もう誰かに言ったな』と。数名から感じる冷たい視線にナナは耐えられなくなり、追及される前に白状する。
「1人友達が出来てさ、そいつに言っちまった。他の奴には言って無いぞ! それに言ったって普通信じないって。あいつは信じたけど」
「はぁ~。言ってしまったものは仕方ないけれど、今後は気を付けなさい」
「分かってるよ。気を付ける」
「えへへ」
「? 何だよ姉上」
「ううん。唯、ナナにも友達が出来て嬉しかっただけ!」
白状したナナに注意するモモだが、そんな2人の会話を見ていたララが満面の笑みを浮かべている姿にナナが質問する。笑顔の理由は妹を大事にする彼女らしいものであり、それを聞けばナナが誰かに秘密を話した事をもう咎める者はいなかった。まだ昼休みの時間は残っており、昼食を取ろうとお弁当を出した真白に唯が「そう言えば」と口を開く。
「ヤミちゃんはどうしたのよ? 何時もなら貴女にピッタリついてるじゃない」
「また何か用事か?」
「ん……手続き」
唯の質問にリトが続き、全員が視線を向ける中でお弁当の箱を開けた真白は頷きながら答える。彼女の言葉に全員が首を傾げる中、気にした様子も無く真白は卵焼きを箸で挟んで口元へ運んだ。
放課後。ララはナナとモモの2人と帰宅し、リトは適当に散歩して帰ると告げ、唯は用事があるからと真っ直ぐ帰らない事を真白へ告げた。故に真っ直ぐ結城家へ向かおうと席を立ち、教室から出た真白は下駄箱で靴を履き替える。そして校舎から出ようとした時、目の前に現れた1人の女子生徒にその足を止めた。
「こんにちは、真白先輩」
「……?」
赤い髪に長い1本のおさげ。元々彩南高校の制服に学年の違いを示す物は無い為、見た目で学年を判別する事は不可能であった。が、真白は先輩と言う言葉から下級生であると理解する。……しかし、一切相手の事を知らなかった。忘れているのでは無く、本当に初対面なのだ。
「私、先輩に聞きたいことがあるんですよ」
「……聞きたい……こと?」
「えぇ。……真白先輩、『家族』って何ですか?」
「……」
女子生徒の言葉に首を傾げた真白は続けられた質問を聞いて即返答する事無く相手を見続ける。まるで2人以外には誰も居ない世界の様な沈黙を互いに感じ続け、やがて真白は1度目を閉じてから答える。
「……私の……居場所」
「真白先輩の?」
「……そう」
「それじゃあ、もしその居場所が危険に晒されたらどうしますか?」
「……守る……絶対に」
「居場所。守る。そうですか……とっても素敵ですね! あ、そろそろですか。それでは、
「……」
答えを聞いて何かを考え始めようとした女子生徒は、何かに気付いた様に顔をあげると笑顔でお辞儀をし乍らその場を去る。向かう先は校門とは違う方角であり、真白はジッとその背中を見送り続けた。そして彼女の姿が見えなくなった頃、反対の空からヤミが真白の隣へ着地した。
「まだここに居ましたか」
「……」
「? 何か、ありましたか?」
「…………平気」
真っ直ぐに真白の足で帰っていればもう家に着いていても可笑しく無い時間にも関わらず、まだ学校の校舎前に残る真白の姿にヤミは不思議に思いながら質問する。だが真白は普段よりも少々長い沈黙の後、首を横に振りながら答えて歩き始めた。ヤミは無理に聞き出そうとはせず、歩きだした真白の後ろを追う様に自分も歩み始めた。
夜。空に星が輝く頃、とある建物の屋上で真白と放課後に話をした女子生徒は彩南町の夜景を見渡していた。
「家族は居場所、か……」
『まさか、迷い始めたりはしていないな』
真白の言葉を思いだした様に呟いた時、黒い影が彼女の背後に立って声を掛ける。彼女は振り返らずに手摺りへ身体を預けて笑みを浮かべながら答えた。
『当然だよ、
彼女の言葉で黒い影は満足した様に笑い、消える。また1人になった時、女子生徒は空を見上げながらまた1人呟いた。
「結城 リトの代わりにヤミお姉ちゃんと私が居場所になる。そんなのも素敵かも……ふふ」
各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?
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サブタイトルの追加
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主な登場人物の表記