【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第70話 美少年ペケのお礼

 放課後。彩南高校での1日を終えた真白は真っ直ぐに結城家へ赴き、美柑と共に夕食の支度を行った。ララは春菜と約束がある様で未だ帰らず、リトも外出。ナナとモモもまだ見ぬ地球見物に何処かへ。結城家に残って居るのは下拵えを終えてリビングで寛ぐ真白と美柑。そして真白の傍に居続けるヤミと……1人の美少年だった。

 

「そう言えば、ペケってご飯は食べられるの?」

 

「ご飯ですか? そうですね……食べても害はないと思いますが、必要ないと思います」

 

「……お腹……空かない?」

 

「元々機械ですからね」

 

 お茶を啜り乍ら何気なく美柑が美少年……ペケへ質問する。そう、彼はララが開発した万能コスチュームロボットのペケである。

 

 数日前、真白達が町中で何処か目立つ見覚えのある美少年と出会った。それはララのドレスフォームと似た格好であり、あの能力を応用する事で自らも人型になる事が出来る様になったとペケは明かした。その後、ファッションに異様な執着を持つ宇宙人……ダサール星人のカーマンという存在に目を付けられたペケ。どんな服装にでも成れる能力を目的に嫌がるペケの記憶を消して自分の者にしようとしたカーマンだが、途中で真白達と合流したリトも含めた4人で無事に撃退。ペケは今まで通りララの元で過ごしていた。

 

 ペケは普段からララの頭にくっ付いて居る。だが、四六時中ララの頭に居る訳では無い。彩南高校の制服は本物とペケが作ったコスチュームと存在しており、今日のララは本物を着用している。故にペケは結城家で寛いでいても問題無かった。が、例え必要で無くてもララの頭に付いて居る事の多い彼がこの場に居る理由は別にあった。

 

「ところでヤミさん。お礼の話なんですが……」

 

「はい。貴方にしか出来ない事です」

 

 自分を救ってくれた真白・美柑・ヤミ・リトの4人に彼はお礼をしたいと言った。だが『家族の家族が危険な目に遭ったから助けただけ』と答えたリトはそれを断り、美柑や真白も同様にお礼を受け取らない。ヤミも最初は真白の姿に同じ様に頷いていたが、ペケが『ですが、何もしない訳には……』と申し訳なさそうにする様子を見せた。どうしても何かを返したいと思ったのだろう。少しリト達が困っていた時、ヤミが静かに告げたのだ。

 

『それでは後日、お願いがあります』

 

『! 何でも言ってください!』

 

 余り人を頼らないヤミがペケへ何かをお願いする。美柑やリトからすれば驚くべきことであり、真白も少しだけ驚いたのかヤミを見た。しかし彼女は普段と変わらぬ無表情故にその真意は誰にも分からない。……が、今日。ペケが結城家に残り、真白と美柑以外誰も居ないこの時間はヤミが約束を果たしてもらう上で絶好のタイミングであった。一体どの様なお願いをするのか、美柑は気になって仕方が無い様子で2人の会話を聞こうとする。

 

「説明しますので、着いて来てください」

 

「? 分かりました」

 

 だがヤミは立ち上がるとペケを連れて廊下へ行ってしまう。どんな内容の話なのか更に気になって仕方の無い美柑は、落ち着かない様子でお茶を飲んだ。それから戻って来るヤミと、少しだけ複雑そうに真白を見るペケ。ヤミが「お願いします」と告げれば、ペケが覚悟を決めた様に「分かりました!」と答える。……美柑はそんな2人の会話に何処か見覚えがあった。そして、何となく予想出来てしまう。

 

「真白さん。失礼いたします!」

 

「……」

 

 ペケが人型から見慣れた人形の様な姿になれば、真白の元へ飛びついた。バッチの姿になり、長く伸びた銀髪の額付近に自ら装着されたペケ。途端に真白の服装は学校から真っ直ぐ帰って来ていた為に着ていた彩南高校の制服から、神社の巫女が着る巫女服へと変化する。お茶を飲むために湯呑を持っていた真白は自分に起きた出来事に無表情乍らも停止し、美柑は目の前の光景に目を見開いて驚いた。微かに膨らみが分かる胸元、何故か晒される脇。結城家に静寂が支配した。

 

「……」

 

「次、お願いします」

 

 誰も言葉を発さない中、ようやく口を開いたのはヤミだった。真白の姿をジッと見つめ続けていた彼女は無事目に焼き付け終えた事で指示を出す。何の服装かも告げず、だがペケは言われた通りに真白の服装を変化させた。巫女服の次に真白が着る事になった服は、白衣である。が、その着方は独特な物。真白が最初から付けていた下着をそのままに上から白衣を羽織るだけで前を一切止めてはいない。……それはまるで彩南高の保険医、御門 涼子の着方と酷似していた。

 

「ぶっ!」

 

「……」

 

 突然晒された真白の下着と、官能的にも見える白衣の着方に思わず美柑は咽てしまう。先程以上に真白の姿を凝視し始めるヤミ。もう、流石に美柑もヤミがしたい事を完全に理解した。彼女はペケからお礼として、真白に様々な服を着せる事を求めたのだ。普段の様子からは余り考えられないが、中々手に入る服では無いコスプレ衣装を着せられるのは今しか無い。ヤミの思いに驚きながらも、美柑は何処か悪い気がしない故にそれを止めようとは思わなかった。寧ろ、次の服が気になり始めてすらいる。

 

 ヤミが再び衣装チェンジの指示を出す。特に怒る様子も恥ずかしがる様子も見せない真白はされるがままであり、ペケが次に真白へ着せた服装は水着であった。だが何度か共に海などへ行った際に着ていた様な水着では無い。世間一般にスクール水着と呼ばれるそれは、真白の身体のラインをしっかりと強調していた。丁寧に胸元には『ましろ』とまで書かれており、この場に居る中では大きいものの比較的背の低い真白にその服装は違和感が無かった。

 

「……」

 

「ぅ、あぁ……!」

 

 気にした様子の見せない真白とは対照的に、美柑は顔を真っ赤にしてしまう。実際の事実とは異なるが、横目で見るヤミの目は血走っている様にも見えた美柑。恥ずかしさを感じ乍らも、チラチラと見続けていた時。真白の額に付くペケが声を発する。

 

「す、すいません……そろそろエネルギーが……」

 

 その声音は何処か疲れており、ペケの言葉に美柑は嘗てララが地球見物をしたいと言った事で町に出た時の出来事を思いだす。道行く人の服装をコピーして中々決まらず、ようやく決まったもののペケがエネルギー切れを起こした事で裸になって行くララを服の店に急いで連れ込んだ出来事。その後、水族館で起こった出来事も思いだして大分前の出来事だと懐かしく思う中、ヤミが静かに口を開いた。

 

「美柑。何かありますか?」

 

「え!? えっと……」

 

 思いだしていた美柑は突然振られた事で戸惑ってしまう。まさか自分が服を提案する事になるとは思わなかったのだろう。変な服装を求めれば、その後真白から冷たい目で見られるかもしれない……そんな事を考えながら思案する美柑。だが黙って自分の言葉を待つヤミと真白の姿に焦ってしまい、美柑は思わず頭の中に浮かんだ真白の姿をそのまま告げた。

 

「え、エプロン……かな?」

 

「エプロンですね! 分かりました!」

 

 咄嗟に浮かんだのは先程まで制服の上にエプロンを付ける真白の姿であった。御揃いのピンクのエプロンを付けた真白の姿を日曜日以外、毎日と言って良い程に見ている美柑。故に思い浮かんだそれを聞いて、ペケが答える。だがこの時美柑は失念していた。現在スクール水着になっている真白はペケの能力で制服も下着も消えている。エプロンを要求すれば、ペケは間違い無くエプロンを着せるだろう。だがそれは同時に、エプロンだけでもあった。

 

「なっ……あ……」

 

「……」

 

 真白の身体が輝き始め、後にヤミと美柑の目に映ったのはエプロンだけを着た真白の姿だった。『裸エプロン』と言う言葉をヤミは知らないが、美柑は知っている。目の前でその姿になっている真白は服の感覚が無い事に気付いたのか、自分の身体を確認していた。背中を見る為か少し身体を捻れば、前だけが隠れていた為に真白の身体が見えてしまう。膨らんだ胸へ優しく掛かるエプロンの布地が、その頂点をギリギリ隠す。肩から指先や背中などの前以外あらゆる部分が曝け出され、絹の様に綺麗な肌が2人の目に映り続けた。決して見るのが初めてな訳では無い。一緒にお風呂へ入った回数など数え切れない故に。……が、リビングと言う別の環境になっただけで恥ずかしさは何十倍にも膨れ上がった。

 

「しばらくそのままでお願いします」

 

「え!?」

 

 ペケが真白に新しい服を着せるのはもう難しいだろう。美柑が思わず声を上げて驚く中、そのままの服装を維持する事はまだ出来る様でペケが了承する様に答える。恥ずかしくて目を反らしたくなり、だが無意識に目が真白の身体へ向いてしまう美柑。反対に恥ずかしいとは思っていないのか、ジッと真白の身体を見つめ続けるヤミ。2人の視線を受け乍ら、真白はお茶を啜る。ふと、お茶を飲み干してしまった事で真白はテーブルに置いてあった急須へ手を伸ばした。伸びる手に視線が動き、少しだけ前屈みになった真白の胸の谷間が見えた事で美柑は素早く視線を逸らした。

 

「ただい……まぁぁ!? な、何だその格好!?」

 

「あ」

 

「……お帰り」

 

 突然、リビングの扉が開いてリトが帰宅する。玄関の音で普通ならば気付く筈だが、ヤミも美柑も目の前の姿に別々の形で夢中だった為に気付かなかったのだろう。リビングの出入り口からは真白の身体を横から見る事が出来る。そして真白は扉側に座って居たため、その真正面に座る美柑やヤミとは違ってリトは後ろから真白の姿を見る事になった。故に隠れていない背中や臀部が椅子越しにリトの目には見えてしまっていた。裸にエプロンの姿だが、後ろから見れば裸同然。目の前の光景に焦る中、美柑が驚くのとは対照的に真白は普段通り迎える。……が、この場にこの状況を前にして黙っていない人物が1人だけ居た。

 

「結城 リト」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! これは完全に俺のせいじゃ……!」

 

「問答無用です!」

 

「ぎゃあぁぁぁぁ!」

 

 リトの悲鳴がリビングに響く中、美柑がペケにもう止めて良い事を伝える。疲れた様子のペケは人形の姿に戻ってテーブルに座り、制服の姿に戻った真白は変わらずにお茶を啜る。思い返すだけでも恥ずかしい差し詰め『真白ファッションショー』とでも言うべき時間を終え、美柑は1人安堵の溜息を吐いた。

 

 それから数日の間、美柑の頭から真白のコスプレ姿や裸エプロンの姿が離れなかったのは余談である。




ストック終了。また【5話】or【10話】完成をお待ちください。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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