日曜日。既に陽も沈み始めた頃、御門の家で家事を終えた真白は両手に買い物袋を持って帰宅する為に歩いていた。ヤミは珍しく傍におらず、1人で歩いていた真白は空を飛ぶその姿に気付いて顔を上げる。そこには何処か不安定に上下しながら空を漂うヤミの姿があった。が、能力で生えている翼が消えると同時にその身体は落下。下には民家があり、屋根へ上手く着地する事も出来ずに頭から落ちてしまう。……明らかにその光景は普通のヤミでは無かった。
「いたたっ……気を抜いたら消えちゃうのね。結構難しいかも……」
「……平気?」
「ま、真白さん!?」
「?」
頭の上にたん瘤を作り、普段の無表情が嘘の様に痛みから顔を歪ませて頭を抑えるヤミ。屋根の上で倒れたままのヤミに下から見上げる様にして真白が声を掛けた時、目に見えて驚きながら自分の名を呼ぶその姿に違和感を感じて真白は首を傾げた。慌てて何かを取り繕おうとするが、そんな彼女のすぐ傍に何かが落下してくる。ヤミが驚き、真白が警戒する中で姿を現したのは……何故かボロボロな彩南高校の校長であった。
「へ?」
「おぉ~、落下した先にヤミちゃんとは。これは運命を感じますなぁ~!」
「きゃ、きゃあぁぁぁ!」
煙の中から徐々に姿を見せる校長は、丁度ヤミの足元から仰向けの体勢で倒れていた。スカートの中が見えているのか、興奮するその姿に悲鳴を上げそうに無いヤミが大きな悲鳴を上げる。そしてその場所から逃げようと走り出すが、今居る場所は屋根の上。足元は危険であり、案の定足を踏み外してしまう。何故か翼を出す等の事が出来ないその姿に、真白は買い物袋を放って走り出した。その結果、買った卵を犠牲に払って無事にその身体を受け止める事に成功する。
「ま、真白さん!?」
「……危ない。……!?」
「ヤミちゃぁ~ん! 真白ちゅわぁ~ん!」
突然近づいた真白の姿に焦るヤミと、注意する真白。だがそんな2人の元へ屋根から正しく飛び掛る様に校長が近づき始める。真白はヤミを抱えたまま後ろに跳躍してそれを回避すると、逃げる為に走りだす。そしてヤミは今の状況に困惑しながらも、遠ざかる校長と買い物袋に助けられている事を理解した。そしてこのままでは不味いと思ったのか、突然髪を伸ばし始める。向かった先は校長……では無く、買い物袋であった。
「に、荷物は任せて! 真白さん!」
「……」
抱えられながら告げるヤミの姿に真白は反応する事無く、再び大きく跳躍する。真白に連れられる様に金の髪に引っ張られて買い物袋が揺れ、校長から見る見る距離が出来て行く2人。やがて屋根の上から屋根の上へ着地する事を繰り返し、校長を撒く事に成功した真白はヤミを降ろした。
「ありがとう! 真白さん!」
「……ん」
ヤミの姿をし乍ら、普段のヤミでは到底見せない笑顔でお礼を言うその姿に真白は違和感を感じ乍らも頷く。そしてヤミの髪に引っ張られた買い物袋を回収して中身を確認し始めた。最初の衝撃で卵は全て駄目になっており、中身の殆どが何処かで落としたのか袋の中に残っていない光景に真白は無表情のまま反応しない。だがそれを見ていたヤミが申し訳なさそうに頬を掻いた後、思い付いた様に手の平に拳を乗せた。
「今から一緒に買い物に行こ! 明日の献立も考えながら、ね? 大丈夫、お金は私が出すから!」
「…………」
「だ、駄目……かな?」
「……美柑?」
「ふぇ!? ……あ」
真白の言葉に驚いた後、思いだした様に声を出したヤミはヤミでは無く美柑であった。自分への呼び方や雰囲気、力を扱えていない様子に当然乍ら違和感を感じていた真白。だがその正体が美柑と分かった最大の理由は、『一緒に献立を考える』と言った事であった。普段ヤミは食べるだけであり、料理の話をするのは美柑が殆ど。お金もヤミ本人なら絶対に出す等と言わないだろう。何故ならそのお金は真白のお金でもあるのだから。だが、美柑ならば話は別。結城家の家計を担っているのは基本美柑なのである。
正体がばれた事で美柑は自分がヤミの姿になっている理由を説明し始める。切欠はヤミの
「……美柑も……違う?」
「うん。その筈だよ」
今現在ヤミの姿をした美柑が居る様に、何処かに美柑の姿をしたヤミが居る事を知った真白。実は校長の飛んで来た理由が美柑の姿をしたヤミに襲い掛かって帰り討ちにあったからである事を知らない2人は、無表情に過ごす姿を想像しながら話を終わらせる。そして一緒に買い物する事にした真白は、かなり軽くなった袋を手に歩き始めた。当然、その隣には普段のヤミの様子を真似する様に美柑が着いて行く。
その後、買い物を済ませて一緒に買い物袋を手に結城家へ向かい始めた2人。到着して中に入った時、リビングでセリーヌと共に無表情のままテレビを見る美柑の姿をしたヤミがそこには居た。自分の姿をした美柑が真白と共に帰って来た事でヤミはテレビから視線を外し、2人の元へ。既に真白は知っている事を美柑から聞かされたヤミは、何時も通りにリビングの席に座った。そして、真白と美柑はキッチンに入り……そこにあった昼食の残りであろうそれに美柑が顔を引き攣らせる。
「や、ヤミさん……これ、何?」
「結城 リトに夕飯を作って欲しいと言われたので、作ってみました」
「……」
真白と美柑の前にあったのは3品。鯛焼きの刺さったご飯に鯛焼きの乗せられたサラダ。そしてスープに浮かぶ、鯛焼きのふやけた残骸であった。味で言えば間違い無く甘ったるいであろうそれを夕食として出されたリトに美柑は軽く同情しながら、買って来た食材を仕舞い始める。
それからしばらくした後、ララによって元に戻った美柑とヤミ。美柑は校長に追い掛けられ、真白と共に買い物をしてと普段より少し濃い1日を過ごした事に満足した様子であり、ヤミはそんな美柑の言葉に普段通りの無表情で「そうですか」とだけ答える。そして結城家から真白と共に帰る途中、徐にヤミは口を開いた。
「私は今日、美柑でした」
「ん」
「そして私と知らずに美柑と思い接する結城 リトはとても暖かかった」
「……そう」
「家族の暖かさ。それは、何処も同じなのですね」
ヤミは言い終えると同時にお互いの温もりを感じられる距離まで真白に近づいた。そしてそのまま2人は家に到着するまで、何時もより近い距離で歩き続けるのだった
各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?
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サブタイトルの追加
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主な登場人物の表記