【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

67 / 139
【5話】完成。本日より5日間、投稿致します。


第66話 バレンタインは少し素直に

 2月を過ぎた頃、春休みを控えた彩南高校で真白は休み時間になると同時に突然囲まれる。囲んだ相手は里紗と未央であり、その顔は何か気になっている様子。真白が首を傾げてその姿を見た時、里紗が最初に口を開いた。

 

「ねぇねぇ、真白は何時も誰かにあげてるの?」

 

「?」

 

「ほら、2月と言えばあれじゃん? 男子が浮足立ってワクワクするけど、殆どが絶望する日」

 

「……チョコ?」

 

 里紗の言葉に再び首を傾げた真白だが、未央の出したヒントでその意味を理解する。2人は真白の言葉に笑顔で「その通り!」と答えた後、最初の質問の答えを待ち始めた。2月14日はバレンタインデー。普段真白は美柑と共に結城家でチョコを使った何かを用意しているため、今年もそのつもりであった。リトだけで無く、結城家に住む者達全員に作っている真白と美柑。今年は去年に比べて更に人数が増えた為、当日は大忙しになる予定である。

 

 真白が少ない言葉でそれを伝えている間、傍で猫の本を読んでいた唯はその会話を聞いていた。興味があった訳では無く、偶然耳に入ったその会話。里紗と未央の言葉で真白と同じ様にバレンタインデーを理解して、興味無さげに本へ視線を戻した唯。だがそんな姿を未央は見逃さず、真白の説明を受けた後に笑顔で唯に近づき始める。

 

「古手川さんもバレンタインに興味津々かな?」

 

「おぉ! 遂に古手川さんにも意中の人が!? だれだれ?」

 

「わ、私はそんな事に興味無いわよ!」

 

 未央の言葉に反応した里紗が詰め寄れば、顔を真っ赤にして本を閉じ乍ら唯は立ち上がる。そして強い口調で告げて教室を後にしてしまった。里紗と未央はお互いに顔を見合わせ、「やれやれ」と唯の何時も通りな姿を見送る。唯に意識が向いた事で2人から解放されていた真白は、唯の姿を同じ様に見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2月14日。バレンタインデー当日を迎えたこの日、真白とヤミは結城家に普段より少し早く訪れていた。既に美柑は起床しており、2人が早く来る事も想定済み。リトやセリーヌ達はまだ眠っており、ララやナナとモモの姿も現在は無かった。静まり返るリビングで音も立てずに椅子へ座るヤミを横目に、真白と美柑は同時にエプロンなどを付けて準備を始める。

 

「それじゃあ、始めよっか」

 

「ん……」

 

 美柑の言葉に頷いた後、キッチンで2人は動き始めた。素早くお互いの役割を決めて行動する2人は決して目で追えない速度で動いている訳では無い。だが料理に関して余り理解の無いヤミは2人が何をやっているのか何となくでしか理解出来ず、手の動きに内心で驚いてしまう。

 

 時間が経ち、キッチンでは未だに音が鳴り続ける。リトが起床してリビングへやって来ると、冷蔵庫へ向かう為にキッチンの中へ入ろうとする。だがヤミはそんな姿を前に声を掛けた。

 

「今は入らない方が良いですよ?」

 

「何で……はぁ!?」

 

 まだ寝起きだった事で周りが見えていなかったリトは、ヤミの言葉に疑問を持って入らずに中を覗き込む。そしてリビングで動き回る2人の姿に驚愕した。目で追えない速度とはヤミから見たものであり、地球人であるリトにはその速さに驚くしか無かったのだ。身体は見えるものの動き続ける為にぶれる美柑と、一瞬消えては現れるを繰り返す真白。一体そこまでして何を作っているのかと疑問に思ったリトだが、その隣でヤミが言葉を続ける。

 

「今入れば何方かにぶつかる可能性が高いです。何より、邪魔になります」

 

「そ、そうだな」

 

 ヤミの言葉に呆気に取られながらも何とか返したリト。その後、ララも起床。リビングに入って来ると、2人の姿に吃驚しながらも2人が作るチョコレートにワクワクし始める。そして作業する真白に向けて笑顔で話し掛けた。

 

「私も飛びっきりのあげるから、楽しみにしててね! 真白!」

 

「…………ん」

 

 ララの言葉に手を止める事無く普段よりも長い間を置いた後、真白は頷いて返した。一瞬去年の出来事が真白の頭の中を過ったのだ。ヤミもリトも同じ事を思いだした様で、リトが恐る恐るララに声を掛ける。

 

「へ、変なの入れて無いよな?」

 

「大丈夫! 今年は春菜と一緒に材料を集めたから!」

 

「!?」

 

 リトの質問に胸を張って笑顔で答えたララ。春菜と共になら大丈夫だと安心する真白とヤミだが、聞いた本人であるリトはララの言葉に戦慄する。春菜と共に材料を買ったと言う事はつまり春菜もチョコを作るつもりだと言う事。一体そのチョコは誰に渡されるのか……一瞬自分だと思って幸せそうにしながらも、すぐに別の知らない男かも知れないと考えて絶望するリトの姿にララは首を傾げる。ヤミは興味無さそうであり、真白と美柑はお互いに視線を合わせた。

 

「心配しなくて良いのにね~」

 

 美柑の言葉に真白は頷いて同意を示し、その後も2人の料理は続いた。無事に朝食は完成。朝から動き回っていたにも関わらず、結城家で振る舞うチョコレートに関しては下拵えであった。リトはどの様な規模の物が出て来るのか気になりながらも、普段通りに食事を済ませて登校する為の準備を始める。

 

「あれ? 真白さん、それって……」

 

 同じ様に登校する為、鞄を手にした真白は小さな銀の包みを鞄の中に数個入れ始める。美柑の知らぬ内に用意されていた物の様で、気付いた美柑が声を掛ける。真白は静かに頷いて何かを肯定。美柑は少し考えた後、去年に比べて色々な人と知り合いになっている事を改めて思い出した。

 

 結城家を出て戸締りを確認した後、登校する為に全員で歩き始める。通学路の途中で美柑と、学校の手前でヤミと別れた真白達は教室に入ると同時に視線を向けられる。その目は一様に男子生徒達のものであり、ギラギラとした鋭さを感じる程に強い視線であった。女性生徒の登校を確認すれば、貰えるか気になっているのだろう。リトにはララや真白と一緒に教室に入って来た事で嫉妬の念も込められていた。

 

 リトが猿山と挨拶を交わして話を始める中、真白とララも里紗と未央に話しかけられる。2人の手には沢山の小さなチョコが入った箱があり、挨拶をした後にリトと猿山の元へ近づき始めた。

 

「はい、結城。義理チョコだよーん!」

 

「猿山もあるよ。最初で最後のチョコ!」

 

「おぉ! サンキュー!」

 

「んだと! まだ貰えるかも知れないだろ! まぁ、ありがとな!」

 

 里紗と未央からチョコを受け取った2人は別々の反応を示しながらお礼を言う。その後、2人が入って来る男子生徒達にチョコを配り始める姿を見ながら真白は教室の中を見回した。騒がしい教室の中で、何かを難しそうに考えている唯の姿を見つけた真白。まだ時間があった為に傍へ近づき始めれば、唯は真白の姿に気付いて顔を上げた。だが普段と違い、その視線は真白の目と合わずに泳ぎ続けていた。

 

「……唯?」

 

「うぇ!? え、えっと……その……」

 

 明らかに狼狽える姿に首を傾げながらも、真白は鞄から何かを取り出そうとする。だがそれが取り出される一歩手前で真白の傍に里紗と未央が急に現れた。

 

「何々? もしかしてチョコでも渡すの?」

 

「なっ!? い、言った筈よ! 私はバレンタイン何て興味無いって!」

 

 ニヤニヤしながら話し掛ける里紗の言葉に顔を真っ赤にしながら自分の席から立ち上がった唯は、強い口調で言って数日前の様に教室を後にしてしまう。しかし里紗と未央はそんな姿に心底不思議そうな顔でお互いに見合い、首を傾げた。

 

「真白に言ったつもりなんだけど……何で古手川さんがあんなに反応した訳?」

 

「もしかして古手川さんも渡すつもりだった、とか? ……そんな訳無いよね!」

 

 恐らく大体の男子生徒に配り終えたのだろう。2人が話をする姿に真白は去って行く唯の姿を見つめて今は諦めると、同じ様に鞄から何かを取り出す。それは結城家で鞄に入れた銀の包みであり、渡された里紗と未央は驚きながらもお礼を言う為に口を開いた。

 

「ありがとね、真白。いやぁ、でもまさか貰う側になるとは……流石に想定外かも。しかもこれ、手作り?」

 

「ん……」

 

「所謂友チョコって奴だね! う~ん、ちょっと待ってね!」

 

 里紗はお礼を言った後、明らかに市販されているチョコとは違う包み方に手作りである事を見抜いた。真白が肯定する姿を前に未央が笑顔で言うと、真白へ待つ様にお願いして本人には聞こえない様に背を向け乍ら里紗と内緒話を始める。

 

「流石に今日のチョコで返すのは悪く無い? 私達のは買った奴だし」

 

「だよねぇ。う~ん。あ、ならこうしよう!」

 

 真白の前で背を向け乍ら話す2人。やがて未央の提案に里紗が納得した様子でお互いに頷き合った後、再び真白へ振り返って2人は笑顔で決めた事を告げる。

 

「お礼はホワイトデーの時に、返す事になったから!」

 

「楽しみにしててね!」

 

 その言葉と同時にチャイムが鳴り始める。一斉に席へ座り始める生徒達の姿に里紗と未央も席へ向かい、唯も廊下から教室へ戻って来る。真白も自分の席に座り、次の休み時間までを過ごした。

 

 それから真白は休み時間を迎える度、仲良くなった者達へチョコを渡して回り始めた。今日は登校していた隣のクラスのルン。同じクラスの春菜とお静。保健室で過ごしている御門。3年生の沙姫とその傍に居る凛、綾。等々、ここ最近で特に話す事の多い者達に配り続けた真白。だがまだ渡せていない人物が1人だけ存在していた。

 

「ま、真白……その……な、何でも無いわ!」

 

「……」

 

 授業が終わる度に真白は唯から話し掛けられる。だがその内容が最後まで告げられる事は無かった。真白もチョコの渡すタイミングを伺うも、唯は毎回教室から出て行ってしまう為にその機会が中々訪れなかった。しかし今回迎えたのは昼休み。真白は唯が言い難い理由として、朝の出来事から誰かに見られている事だと考えてその手を掴む。驚く唯を他所にそのまま強引に教室を後にして、向かった先は中庭であった。

 

「……」

 

 まだ昼休みは迎えたばかりであり、中庭に人の影は一切無い。何も言わず、だがジッと見つめる真白の姿に唯は狼狽えながらもやがて覚悟を決めた様に視線を合わせた。そして何処からか取り出したのは、手の平サイズの可愛らしい布に包まれた箱であった。それが一体何なのか、説明しなくても当然分かった真白。唯と今一度視線を合わせた後、それを両手で受け取る。

 

「と、友チョコよ。本当はこんな事興味無いけど、一応渡しておくわ」

 

「……ありがとう……」

 

 そっぽを向きながらも話す唯へ、真白は受け取った箱を両手で胸の前に持ったまま感謝を伝える。その言葉で真っ赤になる唯だが、真白はお返しをする様に目的であった手作りのチョコを唯へ差し出す。他の誰かに渡している姿を唯は教室から離れてしまう等して見ていない。故に差し出されたチョコに驚きながらもそれを受け取り、赤い顔のままお礼を言った。そして、そんな光景を陰から見ている者達が居た。

 

「いやぁ、青春だねぇ~」

 

「若いっていいねぇ」

 

「……そろそろ行って良いでしょうか?」

 

 強引に教室から連れ出した為、気になって後を付けて来ていた里紗と未央。真白と合流する為に待っていたヤミは2人に捕まり、真白達から見えない場所で話をしていた。ヤミは今からでも合流しようとするが、それを里紗と未央の2人が止める。

 

 その後、唯と一緒にお互いが渡したチョコを開いた真白。真白が作ったのは色々な人に渡す事を考えて、小さな小粒のチョコを纏めたもの。対する唯が作ったチョコは、猫の形であった。丁寧に顔や髭も描かれており、真白は開いて最初に小さな声で「……可愛い」と感想を告げる。自分が作ったチョコ故に真白の言葉を聞いて恥ずかしくなったのか、唯は貰ったチョコの一粒を照れ隠しに食べる。ほろ苦い味を感じ乍ら、無事に渡せた達成感に唯は安堵するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のわぁ! 何だこれ!?」

 

「凄い! これ、真白と美柑が作ったの?」

 

「モモさん達も家に住む様になったから、今回は結構張り切っちゃった。……ちょっとやり過ぎたかもだけど」

 

「……一杯ある」

 

 夜を迎えた結城家の夕食は真白と美柑の作ったバレンタイン特性ケーキであった。リビングに置いてあるテーブルを端から端まで占領する程の大きさであり、簡単に作れるものではどう見ても無い。春菜からチョコを貰えて上機嫌で帰宅したリトがリビングに存在する巨大なケーキに驚愕する中、ララがその大きさに大喜びする姿を見て頬を掻きながら答える美柑。屋根裏の空間に住んでいるモモとナナも呼び、セリーヌも合わせて8人で賑やかで甘い夕食を楽しむのであった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。