【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第64話 お正月にはすごろくを【前編】

「それじゃあ、皆! カンパーイ!」

 

≪乾杯!≫

 

「……」

 

 新しい年を迎え、新年会と称して集まった全員はララの声と共に手に持ったグラスを上げる。中にあるのは当然ジュースであり、真白は何も言わずに皆で同じ様にグラスを上げた後に口を付け始めた。この新年会を企画した猿山がグラスに注がれた炭酸飲料を一気に飲み干して唸る中、その隣でリトは振袖の姿で座る春菜に見惚れていた。猿山がその姿に気付くと、自分に感謝する様に告げる。リトはそんな猿山に「声を掛けただけだろ?」と言った後、真白に話し掛ける唯の姿を見る。唯も現在振袖を着ており、長い髪を纏めて左右の前だけ降ろす普段とは違う髪型をしていた。

 

「このお節も貴女が作ったの?」

 

「……美柑と」

 

 囲んでいるテーブルの上に置かれている料理はお正月と言う事あり、美味しそうなお節料理であった。色鮮やかな料理を前に真白に質問すれば、真白は箸を片手にもう食べ始めていた美柑へ視線を向ける。突然の事に驚きながらも、美柑は食べていた物を飲み込んで少し照れた様に笑みを返した。唯は着付けに時間が掛かってしまった為に来るのが少し遅くなってしまい、料理をする真白と美柑の姿を見ていなかった。が、それ以外の全員は見ていた為に各々が食べては2人に感想を告げる。どれも褒められるものばかりであり、美柑は真白に「やったね」と声を掛けた。真白もそれに頷き、食べ始める事に。

 

「ねぇ、春菜。里紗未央は結局来れないの?」

 

「うん。何故か連絡が取れなくて。お静ちゃんも駄目みたい」

 

「そっか。皆、どうしたんだろう?」

 

 現在この場に集まっていたのは主催者である猿山にリトと美柑、春菜、唯、ララ、真白の7人であった。真白が来た際にはその隣にヤミの姿もあったが、突然『用事が出来ました』と告げて居なくなってしまったのだ。故に集まった人数は知り合いの中でも少数であり、春菜は心配そうに。ララは不思議そうに首を傾げる。すると突然、この場に居なかった者が現れる。それは振袖を来たナナとモモであった。

 

「その理由はすぐに分かるよ、姉上」

 

「皆さん、明けましておめでとうございます」

 

 ナナに続いたモモの挨拶に、全員が返しながらも疑問を抱く。すると質問するよりも先にモモが笑みを浮かべながら説明を始めた。

 

「実は皆さんに楽しんで頂こうと、ナナと一緒にゲームを作ったんです」

 

「げ、ゲーム?」

 

「はい。そして皆さんのご友人はその協力者としてお呼びしています」

 

 モモの言葉に思わず聞き返したリト。そしてそのまま続けられた会話にこの場に居た全員が一瞬思いだしたのは、初めてモモとナナが現れた際にプレイした仮想空間でのゲーム『とらぶるくえすと』。ララがモモの説明を受けて面白そうと期待する中、前回の事を知らない猿山以外の全員が不安を感じる。だが話は進んで行き、モモはデダイアルを操作して腕に嵌められるリングを出現させた。当然数はこの場に居るナナとモモ以外の7人分であり、それを各々に配布し始める。

 

「危ない事にならない、よね?」

 

「それは勿論です。ご安心ください!」

 

「言ったろ? 楽しんでもらう為のゲームだって。よし、全員付けたな!」

 

「それでは、皆さんをゲーム空間へご案内します!」

 

 モモの言葉と共に視界が切り替わると、浮遊感が全員を襲う。お節料理の残った部屋には誰も残らず、その場から消えた全員が次に見たのは雲の上の世界だった。手摺りのある小さな足場に立ち、目の前に見えるのは巨大なマスの様な物が連なる光景。それは遥か遠くにまで伸びており、見ただけでこのゲームが何なのか誰もが理解した。

 

「これって、でっかいすごろく!?」

 

『その通り!』

 

 リトの言葉に返事をするモモの声。すると空中に突如画面が出現し、そこにマイクを持ったモモの姿が映し出され始める。モモ曰く、地球に存在するすごろくをモチーフに作ったこのゲーム。ルールは普通のすごろくと同じであり、サイコロを振って出た目のマスだけ進むことが可能で最初にゴール出来た者には優勝賞品が贈られる。との事であった。規模は違えどルールは同じと言う事で唯が安心した時、最初の人からサイコロを振る様にモモが指示を出す。サイコロは唯の手の上に突然出現した。

 

「わ、私からなのね。えいっ!」

 

『3だな。じゃ、3マス進んでくれ! コケガワ!』

 

「古手川よ!」

 

 唯が降ったサイコロの目は3。それを見てナナが名前を間違え乍ら言えば、怒った様子で注意しながらも唯は3マス分歩みを進める。すると唯の目の前に突然画面が出現。そこには文字が書かれており、唯はそれを読んでみる。

 

「下着ショップでセクシーな下着をゲット? ……!?」

 

 内容を読み上げた瞬間、唯の服装が変化し始める。振袖だった筈の唯は気付けば文字通りのセクシーな下着姿になってしまい、変えていた髪型も元通りに。余りにも恥ずかしい恰好に手で肌を隠しながらも画面に映るモモへ戻す様に言う。が、モモは笑みを浮かべたまま無情にも告げた。

 

『プレイヤーには止まったマスで表示される指示に従って貰います。残念ですが、次に振るまでそのままでーす!』

 

「そ、そんな! くっ、ちょっと結城君たち! 見ないでよ、破廉恥な!」

 

「わ、悪い!」

 

「べ、別の意味で危なかった……うぅ、私もあんな恰好になるのかな?」

 

「……」

 

 モモの言葉にショックを受けながらも見ていた猿山やリトに告げる唯。鼻の下を伸ばした猿山とは対照的にリトは慌てて顔を真っ赤にしながらも視線を逸らした。そんな光景を前に美柑は自分にも起こる可能性を感じて肩を落とし、真白も同じ身である為にその背中を擦って慰める事しか出来なかった。

 

 次は猿山の番であり、5の数字を出した彼は言われた通りにマスを進む。やがて現れた文字は短かった。

 

『1回休み!』

 

「いきなりかよ!?」

 

 驚く彼の姿が突然消えた事で見ていた全員が驚く中、モモたちが映っていた筈の画面に何処かへ出現する猿山の姿が映り始める。戸惑う彼が部屋の中を見渡した時、優し気に掛けられた声に猿山は振り返った。何とそこに居たのはベッドのシーツに包まれただけの御門の姿。自分の元へ来る様に誘うその姿に猿山が喜んで飛び上がった時、突如落ちて来た大きな盥が彼の頭を直撃する。

 

「ど、どうして御門先生が?」

 

『御門先生だけではありません。色々な方がこのゲームに参加してくださる予定です。そして内容も、あんな事からこんな事まで。色々用意しちゃってます。ふふふ』

 

 リトの言葉にモモが告げた後、浮かべた笑みを見ていた者達の殆どが思った。彼女が誰よりも自分達を使って楽しんでいる、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意を決して振ったサイコロの目は4を出し、リトはグラビア撮影と言う指示を受けてしまう。気付けば海が見渡せる砂浜でカメラを片手に立っていたリト。辺りを見渡した時、少し離れた場所で画面に向けて話し掛ける水着姿のルンが居る事に気付いた。

 

「真白ちゃ~ん! 見てる~?」

 

『……』

 

「これからリト君に撮って貰う写真は、今度真白ちゃんにあげるから楽しみにしててね!」

 

「と、撮るって俺が!?」

 

 画面の向こうに映る無表情の真白へ向けて話し掛けるルン。そんな彼女の言葉でこれから自分が何をしなくてはいけないのかを理解したリトは、顔を真っ赤にして慌てる。だが10枚の写真を撮らなければこの場所からは出られないらしく、ルンは話し掛けるのを止めると気合を入れてリトにポーズを取り始める。

 

「良い感じに撮ってね!」

 

 ルンの言葉にリトは何とか恥ずかしさに耐え乍ら写真を撮って行く。少々の時間を掛けて何とか戻って来たリトはその場に座り込んでしまい、そんな彼を前に今度はララがサイコロを振る事に。元気良く振ったサイコロは数回転がった後、1の目を上にして停止した。

 

「あちゃー1になっちゃった!」

 

『神社でアルバイト! お掃除お掃除!』

 

 指示と同時に姿を消したララが次に現れたのは神社の前であった。気付けば巫女服になっていたララは箒を片手に周囲を見回す。するとララの元へ駆け寄るお静の姿があり、ララは嬉しそうに同じくお静へ駆け寄った。お互いに普段は見ない服を前に褒め合い、掃除を始めようとする。が、そんな彼女達の傍に1匹の犬が現れた。犬が苦手なお静は逃げ出し、何故かその犬はララの尻尾を舐め始める。画面の向こうから聞こえる喘ぎ声を聞いて春菜は戸惑いながら口を開いた。

 

「な、何でマロンが……?」

 

「……マロン?」

 

「う、うん。私が飼ってる犬なの。でも、どうしてここに?」

 

『あたしが呼んだんだ! 次は春菜の番だぜ!』

 

「うぅ。やらなきゃ駄目、何だよね?」

 

 ララの尻尾を舐める犬は何と春菜の飼い犬であり、春菜の戸惑いに画面の向こうでナナが説明をするとサイコロを出現させる。落ちて来たサイコロは春菜の手の上に落ち、自分に起きるであろう何かに怯えながらも春菜は意を決してサイコロを投げる。出た目は3。唯と同じ数であった。が、そこまで足を進めた春菜の前に現れたのは別の文字であった。

 

『美容の為、エステへ通う』

 

 文字の出現と共に姿を消した春菜が次に現れたのは里紗と未央が待つ部屋であった。気付けばタオル1枚の姿になっていた春菜は2人に連れられてベッドへ。両手の指を動かして自分へ迫り始める2人を前に春菜が恐怖すれば、安心させる様に里紗が笑みを浮かべる。

 

「心配しないで、春菜。……たぁっぷり気持ちよくしてあ・げ・る」

 

「ひっ!」

 

 太腿から胸にかけて指先でなぞる様に触れる里紗。その後、画面が消えると共に春菜の喘ぐ声と楽しむ里紗と未央の声だけが聞こえ始める。リトは聞こえて来る声に顔を真っ赤にしながらも聞き耳を立ててしまい、見ていた美柑は戸惑いながら画面へ声を掛ける。

 

「さ、さっき3は違う内容だった筈なんだけど?」

 

『被る事は配慮済みです。なので指示は基本的にランダムで決定されます』

 

『何処に止まったら何がある。何て分かってたら詰まらないだろ? よし、次は美柑だな!』

 

 それは良いとも悪いとも言えない答えであった。今の唯の姿や、春菜の様に何をされているか分からない目に遭いたくないと思っていた美柑。同じマスに止まっても同じ目に遭うとは限らないと言う安心感と共に、まだまだ何が残されているか分からない不安感が襲い掛かる。だが逃げだすことも出来ず、美柑は意を決してサイコロを振るった。出た目は4。現れた文字は

 

『夜道で怪しい人にストーカーされる』

 

「あ、怪しい人って……? !」

 

 気付けば暗い夜道、街灯の下に立っていた美柑は背後へ振り返る。電柱の後ろに誰かが隠れており、徐々に姿を現せばそこに居たのは太ったサングラスの男性……彩南高校の校長であった。間違い無く変態である彼は美柑を見ると同時にその容姿に興奮し、自分の学校に勧誘する様に裸になって飛び掛り始める。恐怖でしか無いその光景に美柑が悲鳴を上げた時、飛び上がった校長の身体が強い衝撃を受けて蹴り飛ばされた。

 

「や、ヤミさん!?」

 

「大丈夫ですか? ……気を付けてください。この男は本物の危険人物です」

 

「ぐぇ!」

 

 美柑を救ったのは何故か女性警官の恰好をしたヤミであった。笛の代わりに鯛焼きを加えたヤミは足元で横たわる校長を踏みつけ乍ら美柑に注意を促す。何とか無事に助かった美柑はマスに戻り、最後の順番である真白の上にサイコロが出現した。

 

「……」

 

 何も言わずにサイコロを放った真白。転がったサイコロが出した目は2であり、それを見て足を進めた真白は目の前に現れる文字を読む。

 

『メイドに就職。基礎を教わる』

 

 その場から消えた真白が次に現れたのは豪華な装飾などが施された部屋の中であった。明らかにお金持ちの家だと分かる様な部屋であり、着ている服も気付けば肩を出してスカートの丈も短いメイド服となっていた。すると突然部屋の扉が開き、現れたのは沙姫であった。その後ろには何時も通り凛と綾の姿もあり、真白は首を傾げる。

 

「この前のお礼として、私もこのゲームに協力して差し上げますわ!」

 

「沙姫様に仕える身として、出来る限りの事は教えよう」

 

「頑張ります!」

 

 実は数日前、沙姫が父親の指示で留学をする様に言われて家出をしたと言う話があった。その際逃げ込んだのは結城家であり、色々あった後にララの『自分の意思を親に伝える』と言う言葉を聞いて覚悟を決めた沙姫は父親と話をする。結果、留学の話は無くなって沙姫はこれからもこの町に居続けられる事となったのだ。そんな事もあり、ライバルだと思っていてもしっかり恩を感じていた沙姫はこのゲームに誘われたのだろう。こうして協力者として現れた彼女は目の前に立つ真白を前に凛や綾と共に仕える者のあり方を教え始める。

 

『認められれば合格となって次のサイコロが振れます。シア姉様、頑張ってくださいね?』

 

『これで1周だな! それじゃあ、2周目スタートだ!』

 

 ゲームはまだ、始まったばかりである。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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