【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第61話 セリーヌを救え! 惑星ミストア【前編】

 ある日の土曜日。結城家で朝食の片づけをしていた真白は突然聞こえて来る美柑の焦った様な声にその手を止める。読書をしていたヤミも美柑の声に顔を上げ、2人は共に美柑が洗濯物を干す為に出た庭に向かう。普段ならばそこに居るのはララがリトの誕生日に渡した巨大な植物、セリーヌ。だが今その姿は弱々しく、花も地面へと伏していた。明らかに弱っており、美柑はそんなセリーヌの姿に声を上げたのだろう。

 

「ま、真白さん……セリーヌが!」

 

「……リト……モモ」

 

「分かりました」

 

 出てきた真白とヤミの姿に美柑が不安そうに声を掛ければ、頷いた真白はヤミに告げる。それはセリーヌを一番世話しているリトと植物を相手に意思疎通が出来るモモを呼んできて欲しいと言う意であり、それを瞬時に理解したヤミは家の中へと入って2階に居るであろうリトを呼びに行き始めた。そして少しすれば、慌てている事が分かる程に足音を鳴らして降りてくるリト。そのすぐ後にヤミと共にモモを始め、ララとナナも降りてくると、全員がセリーヌの前に集まった。

 

「お、おいセリーヌ! どうしちまったんだよ!」

 

「元気無いね。病気なのかな?」

 

「……お願い」

 

「分かりました。リトさん、私が話を聞いてみます」

 

 心配するリトと理由を分からないながらも考えるララを前に、真白はモモに視線を向けてその名前を呼ぶ。頷いて返したモモはセリーヌを心配するリトに告げて少し離れて貰った後、優しくその身体を摩りながら話し掛けた。小さな音を出すセリーヌを前に、不安で一杯のリトはモモにセリーヌが何を言っているのか質問。モモはセリーヌから離れ、リトに振り返って暗い顔のまま答える。

 

「大丈夫。ちょっと疲れてるだけだから心配しないで……。そう言っています」

 

「心配しないでって、どう見ても辛そうだよ?」

 

「そう、ですね。もしかすると、カレカレ病。なのかもしれません」

 

「カレカレ病?」

 

「放って置けば数日で枯れ果てて死に至る、この種特有の病気です」

 

 モモの言葉に思わず口に手を当てて驚く美柑とショックを受けるリト。だがララはすぐに助ける方法が無いのかをモモに質問する。モモはララの質問に少しだけ間を置き、言う事を躊躇いながらもやがて口を開いた。

 

「あるにはあります。ですが、大変な危険が伴います」

 

「! 危険でも何でも良い! 教えてくれ!」

 

「で、ですが……」

 

 モモの言葉にまだ希望があると分かったリトは無意識にモモの目の前に立って内容を聞こうとする。しかしモモは説明することを戸惑い、中々教えようとしなかった。それは彼女の言う様に、かなりの危険が伴うのだろう。それも宇宙人であるモモが危険と思うのだから、地球人であるリトには計り知れない危険になるのだろう。だがリトは一歩も引く様子を見せず、モモは状況を見ていた真白を見る。真白もモモを見ており、視線が合うと同時に頷いて返した。

 

「分かり、ました。……惑星ミストア。地球から300万光年離れた星です。その場所にはカレカレ病に効くラックベリーの果実があると聞きます」

 

「それがあれば、セリーヌは助けられるんだな!」

 

「はい。ですが、ミストアは未開の原始惑星。どんな危険が待ち受けているか」

 

「私のデータが正しければ、惑星ミストアは危険指定Sランクの星になっている筈です」

 

 モモの言葉にやる気を見せるリト。だがモモが再び続けると、ララの頭に付いているペケが補足する様に説明する。宇宙人たちが危険と判断する星。普通であれば恐怖し、諦める者も沢山居るだろう。しかしリトは一切諦める様子を見せなかった。拳を握り、覚悟を決めた様に全員を見回す。

 

「危険だろーが、このままじゃセリーヌが死んじまう! だから、俺は行くぜ!」

 

「リト! 気持ちは分かるけど、どうやって行くのさ!」

 

「それは……」

 

「……平気」

 

 リトの決意を聞き、彼の優しさを感じる全員。だが美柑の言う通り、地球人である彼に地球から遥か離れた星へ行く術は無い。リトがその言葉を聞いて拳を落とし掛けた時、静かに告げた真白の声に全員が視線を向ける。真白はその視線を流す様にヤミと目を合わせれば、言いたい事が分かった為にヤミは微かに目を見開いた。

 

「確かに可能ですが、無事に帰れる保障はありません」

 

「……」

 

「……」

 

 ヤミの言葉に頷きながらもその目は何かを告げる。それだけでヤミは悩む様に目を閉じ、やがてゆっくりと開けば全員に視線を向けた。

 

「私の宇宙船なら3人どころか、ここに居る全員を乗せても余裕でミストアに迎えます」

 

「! 本当か!」

 

「はい。真白が行くつもりなら、私も行きます。ついでに貴方も乗せてあげます。死にそうになった時、私が止めを刺す為にも」

 

 ヤミの言葉に落とし掛けた力を取り戻したリト。だが続けられた言葉に思わず恐怖する中、無事にミストアに迎える事が決定した事でリトはすぐにでも出発しようと言い出す。するとそこで話を聞いていたモモがリトに声を掛けた。

 

「リトさん。張り切っていますが、ラックベリーがどんなものか分かっていますか?」

 

「え、えっと……」

 

「はぁ~。勢いとやる気があってもそれじゃあ無駄足になるだけだぜ?」

 

「うっ。じゃ、じゃあ教えてくれ!」

 

「教えても似たようなのは一杯ありますよ。ですから、私も一緒に行きます」

 

「私もサポートするよ! セリーヌを助けたいもん!」

 

「ま、姉上とモモが行くなら私も行くぜ?」

 

「皆……ありがとな!」

 

 モモの言葉にララとナナも続き、リトは3人の言葉に嬉しさと感謝の思いを心の底から感じて笑顔でお礼を言う。その笑顔は子供の様に人を魅了しそうな笑顔であり、その場に居た全員がリトの笑顔を前に再び決意を固める。

 

「私はセリーヌがこれ以上酷くならない様に出来る限り手を尽くしてみる!」

 

「あぁ、頼んだ!」

 

「それでは、宇宙船をここに呼びます」

 

 美柑はここに残る事となり、ヤミが何処からか小さなスイッチを取り出すとそのボタンを押す。その瞬間、結城家の上に巨大な黒塗りの宇宙船が出現した。余りの大きさに呆気に取られるリトと嬉しそうに見上げるララ達。真白は既に見た事も乗った事もある為、無表情のまま驚く様子は一切見せなかった。

 

「共に幾多の死線を潜り抜けた相棒(パートナー)。ルナティーク号です」

 

「……行く」

 

「あぁ、行こう! 惑星ミストアへ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルナティーク。惑星ミストアまで、どのくらい掛かりますか?」

 

『ヘイッ(マスター)。このままワープドライブを続けてりゃ、2時間ちょいってとこだぜ!』

 

「凄いね! ヤミちゃんの船、人工知能が付いてるんだ?」

 

「でも何か、口悪くね?」

 

『何だぁペタンコ娘! 文句あんなら宇宙に放り出すぞ?』

 

「誰がペタンコだ!」

 

『お前に決まってんだろぉが! 隣の姉ちゃんはお山があるのにお前はなんだぁ? 絶壁じゃねぇか! ぎゃはは!』

 

「壊す! こいつ今すぐ壊す!」

 

 ルナティーク号の中。ヤミが最初に話しかけたのはララの言うとおり人工知能、ルナティークであった。だがその口調は悪く、同じく口調の悪いナナが思った事を言えばそのまま機械を相手に売り言葉に買い言葉。怒りながら破壊しようとするナナをモモが宥める。破壊することを止めたナナだが、自分に攻撃しないことを分かった様で更に煽るルナティーク。近づく人影に気づく事無く煽り続けるが、煽られていたナナが不意に勝ち誇った様な表情を浮かべたことでルナティークは不審に思う。

 

『おい! 何笑ってんだテメェ』

 

「やり過ぎたんだよ、お前」

 

『はぁ? 何を言って……は!?』

 

「……」

 

 ナナの言葉に意味が分からなかったルナティークだが、いつの間にか近づいていた真白の存在に気づいて驚いた様に声を上げる。普段通りの無表情だが、その目にあるのは冷たいものであった。不味いと思ったルナティークは主であるヤミに助けを求めるが、無意味に終わる。

 

『あ、(あね)さん待ってくれ! 今のはちょっとした冗談で! ちょ、それ抜いたら俺切断され……』

 

「……」

 

 電源が抜ける音と共にルナティークの声は掻き消える。人工知能で意思を持っているルナティークも、自分の出る場所が無くなれば話すことなど当然出来ない。運転に問題は無く、急に静寂が支配する船内でナナは消えた画面を見ながら「ざまぁみろ」と告げる。が、そんなナナに視線を移した真白は首を横に振った。意味が分からなかったのか首を傾げるナナに、ララが手のひらに拳を乗せて「分かった!」と声を上げる。

 

「ナナも悪いから反省しなさい! だよね?」

 

「ん……」

 

「ご、ごめん。ちょっと頭に来たからつい。あ……」

 

 ララの言葉で意味を理解したナナは反省した様子で謝る。すると無言で真白はナナの前に近づき、その手を伸ばして頭を優しく撫で始めた。ヤミよりも美柑よりもナナとモモは身長が低い為、真白でも自然と手を伸ばす事が出来たのだろう。突然の事にナナは驚きながらも少しだけ頬を染めて嫌がる様子は見せず、その光景を微笑ましそうにララは見守る。ヤミは何を言うでもなくその光景に目を微かに細めて見つめ続け、モモは少しだけナナを羨ましいと感じた。っと、今の今まで一言も発さないリトが静かに地面を見つめる姿に気づく。

 

「リトさん? リトさん!」

 

「え? な、何だよモモ」

 

「大丈夫ですか? ……セリーヌのこと、心配なんですね」

 

「あ、あぁ。思い返すと、もう長い付き合いだしさ。変かも知れないけど、やっぱりあいつも家族なんだよ」

 

「……」

 

 ララがリトにセリーヌを送って以降、誰よりもセリーヌの世話をしていたのはリトであった。美柑も少ない訳ではなく、真白やヤミも結城家に居れば時々世話をしたりする事はあった。だが植物が好きなリトがやはり誰よりも多く世話をして接していた為、助けたい思いは人一倍強いのだろう。リトの言葉に真白は静かに頷き、そんな光景にモモは優しく微笑む。植物と意思疎通が出来る以上、セリーヌのことを大切にするリトや真白の姿がモモには嬉しく感じたのだろう。

 

「あぁ! 春菜を家に招待してたの忘れてた!」

 

「ありゃ、まぁでも仕方無いんじゃない? 状況が状況だしな」

 

「……平気」

 

「そうですね。美柑が何とかしてくれると思います。それよりも、目的地が見えました」

 

 ララの言葉に両腕を頭の後ろに回してナナが言えば、真白の言葉に頷いてヤミが続ける。そしてヤミが自然に窓の外を見ながら告げれば、その言葉にリトは驚き立ち上がりながら窓の外に視線を向けて、見え始めた光景を前に思わず生唾を飲む。明るく話をしていた全員がその異様な惑星の姿に今一度気を引き締め、リトは増える心拍数を感じながらその惑星を見続けた。

 

「あれが……」

 

 ルナティーク号から見えたのは、謎の霧に覆われた巨大な惑星……ミストアであった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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