【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第60話 クラスメイトから友達へ

 昼休み。昼食を終えた真白は2年A組のクラスに戻って来ると同時に里紗と未央に目の前を塞がれる。ヤミは既に廊下で別れており、共に昼食を取っていた唯が突然現れた2人に驚きながらも真白を守る様に前に出た。明らかに警戒されている光景に里紗と未央は少しだけ苦笑いしながらも何もしない意思を伝えた後、唯の後ろに立つ真白に視線を向け始めた。

 

「今日の放課後さ、一緒にショッピングに行かない? 勿論ヤミヤミも連れて」

 

「……?」

 

「考えて見たら私達って大所帯の時は話す時もあるけど、あんまり一緒に遊んだ事ないじゃん? だから偶にはどうかな~って」

 

 里紗の提案に首を傾げた真白を見て、続ける様に提案した理由を告げる未央。彼女達の言う通り、真白は何か大きなイベントで集められる事等が無い限り2人と接する機会が余り無かった。仲が悪い訳では決して無いが、理由がないと話す機会も無い唯のクラスメイトの関係。それで問題が無いと言えば無いのだが、里紗と未央は満足していない様子である。少しでも話す機会があってこれからもあるのなら、仲良くしたいと思ったのだろう。真白はその提案に少し考え始めるが、それを聞いていた唯は明らかに難色を示していた。誘われているのは真白だが、里紗と未央の2人から連想するのは何方も破廉恥な事を数多く行っているという事。真白もその被害の1人になるのでは? と不安になる中、そんな唯の気持ちを察した様に里紗が口を開いた。

 

「春菜も誘う予定だし、変な事はしないって」

 

「西連寺さんは甘い所があるから安心出来ないわ」

 

「じゃあ古手川さんも一緒に来ない? それなら安心でしょ?」

 

「生憎、今日は用事があって行けないわ」

 

 心配性な唯へ安心させるつもりで春菜も一緒である事と手を出さない約束をするも、信用されない事に自分達への印象が明らかに悪い事を嫌でも理解する2人。そこで未央は唯も一緒に来る様誘い始めるが、残念ながら唯は参加出来ない事を伝える。このままでは何時まで経っても話が纏まらないと里紗が頭を抱えそうになった時、唯の後ろから真白が1歩出て2人の前に立った。

 

「……行く」

 

「! 真白!?」

 

「……平気」

 

「三夢音さんもこう言ってるしさ、良いじゃん?」

 

 実は里紗と未央に提案されて以降の唯が話をしている間、真白はリトと美柑にメールを送っていた。リトは同じ教室の中で猿山と話をしていたのか、メールが来ると同時に真白の状況に気付いてメールで返答。内容は『家の事は任せてくれ』であった。そして今現在小学校に行っている美柑も丁度良く休み時間だった様で返信が速く、『偶には遊んで来ても良いよ。こっちは任せて』と兄妹似た内容の答えに真白は里紗と未央の提案に乗る事を決めたのだ。

 

 真白が決めた以上、唯が文句を言ってもそれは無駄な事。里紗の言葉に少し黙った後、唯は真白に振り返るとその両肩を掴んで告げる。それはまるで初めて遊びに行く子供を心配する母の様に。

 

「何かされそうになったら絶対に逃げなさい。良いわね?」

 

 その言葉に頷く真白の姿を前に、里紗と未央は自分達への信頼の無さに思わずため息を吐きながらも無事に放課後の約束を取りつけられた事に一先ず安心するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後を迎えた真白は帰りの支度を終えた後、普段通りに素早く下校する。だがその向かう先は結城家では無く自分の家であり、着替えた後に商店街の約束した場所で落ち合う事になっていた。教室から出て来た真白と共にヤミも一時家へと帰り、そこで真白は制服から休日に着ている私服に着替えると再び家から外へと出た。結城家に向かう際には急げば急いだ分、やる事を速く済ませる事が出来た。だが約束した場所に全員が揃うには時間が必要であり、家を出てからは急ぐ事無くヤミと歩いて向かい始める。

 

「以前、服装について聞かれた際にお店で色々と試着したことがありましたね」

 

 並んで歩いている途中、ヤミが思い出す様に口を開くと真白は顔だけヤミに向けて話を聞き始める。嘗てヤミは里紗と未央に戦闘服以外の服装を進められ、色々と試着した過去がある。その時に真白の姿は無かったが、これから行くショッピングにヤミは同じ事をする想像をしている様子であった。ショッピングとは決して服装だけでは無いが、基本的な生活での買い物以外に行った事がある買い物はそれぐらいだった為に思い付かないのだろう。里紗と未央の提案から親睦を深める事が目的の様だが、その為のショッピングでどんな買い物をするのかは真白にも分からなかった。

 

「この辺りですね」

 

「ん……」

 

 商店街の待ち合わせ場所に着いた2人は周りを見渡しながら落ち着ける場所を探して少しだけ離れた所にベンチを見つける。その位置は相手が気付き易く、自分達も見つけ易い丁度良い場所だった為に真白はヤミと共に座って待つ事を決める。そんな2人の姿は現在、非常に目立っていた。彩南町にカラフルな髪の色をした者が居るのは自然な事だが、ヤミの様な服装をした者は目立ってしまうのだ。既にヤミがこの町に来て長い日が経つ為、見掛けた事がある者も決して少なくは無い。だが当然始めて見る者も居る為、必然的に2人は視線を集めてしまっていた。その結果何処に居ても2人の存在は色々な人達の目に止まり、待ち合わせ場所に訪れた春菜はすぐに2人の姿に気付くと近づいて声を掛け始める。

 

「三夢音さんにヤミさんも、早いね? もう来てたんだ」

 

「そう言う其方も早いですね。まだ時間には15分程ありますが」

 

 近づいて来る春菜の姿に真白達も気付く。そして掛けられた声にヤミが返した後、まだ里紗と未央が来ていない事もあって3人で一緒にベンチに座る事となった。ヤミも真白も口数が多い訳では無い為、向こうから話を振って来る可能性は限りなく低い。だが以前に銭湯で真白と話をした事のある春菜は気まずさの様なものを余り感じず、リラックスした様子でヤミを挟んで隣に座る真白へ視線を向けて話し掛け始めた。

 

「三夢音さん達は普段お買い物とかするの?」

 

「……偶に」

 

「生活に必要な物を買いに行く程度ですね」

 

 春菜の質問に頷きながら静かに真白は答えると、補足する様にヤミが続ける。普段から接点が多い訳では無い春菜に真白の短い言葉の中に含まれた思いを感じる事はまだ難しかった。以前も1対1だった為に会話と言えるか難しい状況だったが、今はヤミが居る事で間接的ではあるがスムーズに話を出来る事に春菜は内心で驚きながらも安心する。そして同時に真白の言葉数が少ない欠点を補うヤミ、と言う普段から見慣れた2人の光景に改めて納得した。

 

 その後、ヤミの補足を受けながらも真白と会話をし続けた春菜。少しの時間を3人で過ごしていると、離れた場所から掛けられた声に3人は話を止めて視線を向ける。そこにはショッピングに誘った張本人、里紗と未央が私服姿で手を振る光景があった。一度真白は春菜に視線を向けると、春菜はその視線に静かに頷いて立ち上がる。真白も続けて立ち上がり、ヤミも必然的に立ち上がると3人で2人の元へ近づき始めた。

 

「何々? 仲良さげに話してたけど、何の話してたの?」

 

「特に特別な事は話して無いよ。普通にお話してただけだから」

 

「三夢音さんと話が出来たって時点で結構気になるんだけど……?」

 

 全員が無事に集まった時、未央が離れた場所から3人が話をしているのを見ていたのだろう。何を話していたのか質問する。だが春菜は本人が思っている通り、特に特徴の無いごく普通の話をしていた為にその内容を言う事は無かった。が、普段から話しをするとなれば難しい真白との意思疎通が出来ていた事実に里紗は本気で何を話していたのか気になり、誰にも聞こえない声で小さく呟いた。しかし彼女の言葉に答える者は、誰も居ない。

 

「それで、今日は何処に行くつもりなの?」

 

「一応考えてるけどさ、三夢音さんは行きたい場所とかある?」

 

「……」

 

 無事に合流出来た事で行き先を質問した春菜。里紗はその質問に頭を掻きながら難しい顔で言った後、今度は真白に質問する。だが真白は首を横に振って無い事を示し、その事に今度は腕を組みながらも「仕方無いか」と言って決めた様に頷く。

 

「とりあえず服でも見に行こっか? 後の事はその時考えるって事で!」

 

「じゃあこの前ヤミヤミと行った場所で、今度は三夢音さんをコーディネートしちゃおうよ!」

 

「真白を……ですか」

 

「えっと、大丈夫?」

 

「……ん」

 

 里紗の言葉に腕を大きく上げて元気良く提案する未央。そんな彼女の言葉にヤミは自分が以前された事を思いだしたのか、同じ目に遭う真白の姿を想像し始める。春菜は真白が着せ替え人形の如く色々着せられると思い、心配そうに声を掛ければ特に不安は無いのか普段通りに頷いて返した真白。そして5人はお店に向かって歩き始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 里紗と未央が先導しながら辿り着いた店、『Indies Bland Cronos』。女性者の服を中心に変わった服や、下着まで置いてあるお店である。嘗てここで里紗と未央によって着せ替え人形にされた経験のあるヤミは見た事のある内装に落ち着いた様子で事の成り行きを見守り続けていた。真白も店内を周り乍らも何かに気になる様子は無く、春菜は別の場所で服を見ていた。っと、お店の中を歩いていた真白は入ると同時に居なくなった里紗と未央が目の前に現れた事でその足を止める。

 

「見つけた! 三夢音さん、こっちこっち!」

 

「まずはこれから着て見ない? あ、でもこれでも良いかも!」

 

「いや、どうせ全部着るから順番なんてどうでも良いって」

 

 真白を探していたのだろう。服を沢山持った里紗と未央は真白を見つけると、里紗がその腕を掴んで半強制的に試着室に向かって歩き始める。歩く間、未央は持っていた服の中から着る物を考え始め、里紗はその姿に少し投げやりになりながらも明らかに楽しみと表情を見せていた。真白が連れ込まれる姿をヤミも見届け乍ら止める事は無く、春菜はお店の中で騒ぐ2人に注意する為に服を片手に駆け寄る。未央に服を渡されて流れる様に試着室へ真白が押し込められると、駆け寄って来た春菜に気付いて里紗と未央は目を合わせ乍らにやりと笑う。何か嫌な予感を感じ取った春菜だが時既に遅く、注意することも出来ずに真白の隣の試着室に押し込められてしまう。

 

「う、嘘!? こんなの着れないよ!」

 

「良いから着てみなって! 私達の中でそれが一番似合うの、春菜しか居ないからさ!」

 

 隣で衣の擦れる音が聞こえる中、渡された服を手に悩む春菜。だが状況からして着なければ試着室から出しては貰えない様子で、春菜は恥ずかしがりながらも意を決して服を脱ぎ始める。そして少しの時間が経った後に同時にカーテンを開けた春菜と真白の姿に里紗と未央は感嘆の声を小さく上げる。普段から余りお洒落に興味の無い真白はそれでも美柑が選んだ服などを着ていた為に問題無かった。が、今時の女子高生である里紗と未央が仕立てた服装は真白の違った魅力を引き立たせていた。何時もとは違う雰囲気にヤミも試着室の中に立つ真白の姿を見て固まる中、春菜の恰好に別の意味で喜ぶ里紗と未央。

 

「も、もう良い?」

 

「もう少しだけ見せて! むふふ、やっぱり私達の目に狂いは無かったね!」

 

「春菜はナース服が似合うって思ってたもんね!」

 

「……似合う」

 

「三夢音さんまで……うぅ……」

 

 現在春菜が着ているのは病院などでしか見掛ける事の無い、ナース服であった。真白とヤミはお静が着ている姿を見た事が何度かあるが、春菜にその服装は里紗と未央の言う通りにしっかりと合っていた。普段から人の事を気に掛ける事が出来る分、中身も十分に似合っているだろう。恥ずかしそうにする春菜の姿に興奮した様子で鼻息を荒くしながら次の服を考え始める里紗と未央。流石にこれ以上辱められるのは嫌だと思ったのか、春菜はすぐにカーテンを閉じると素早く着替えて元の姿に戻る。気付けば真白も着替える前に戻っており、春菜は真白に声を掛けると共に試着室から外へ。

 

「あ! 何処行くの春菜!?」

 

「ちょ、里紗! 服置いてかないと不味いって!」

 

 逃げだした春菜の姿に驚きながらも追い掛けようとした里紗だが、その手には次に着て貰う為にと里紗から受け取って用意していた服があった。その気が無くとも会計せずにお店の外に出てしまえば、それは万引きと思われても可笑しく無い。故に未央は追い掛けようとする里紗を何とか止めるが、その間にも春菜はお店の入り口にまで辿り着いていた。そして試着室の前で焦る里紗と未央を見ていた真白の姿に気付くと、店内なので大声は出さない様に気を付けながらも真白へ聞こえる様に声を掛ける。

 

「三夢音さん! 早く!」

 

「? ……」

 

 元々着せ替え人形に近い未来が待っていた真白だが、今ここで置いて逃げてしまえば自分の分まで彼女に降りかかると思った春菜。真白は掛けられた声に春菜へ視線を向けながらも首を傾げるが、一緒に逃げようとする彼女の仕草に意味を理解する。そして里紗と未央が品物を元あった場所に片づけ終えた時、既に真白と春菜の姿は見えなくなっていた。ヤミは余程衝撃的だったのか未だに固まったまま、里紗と未央は流石に無理強いし過ぎた事を後悔するしか無かった。

 

 お店から外に出た春菜と真白は少しだけ先程の場所から距離を取る為に移動する事を決める。ナース服を着た事が余程恥ずかしかったのか、心底安心した様に溜息を吐く春菜。だが安心した彼女はその事に頭が一杯で、少しだけ不注意になってしまっていた。結果、運悪く前から歩いて来る人とぶつかってしまう春菜。そして更に不運な事に、見た目からしてぶつかった相手は柄の悪い男達の1人であった。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「ごめんなさい、だぁ? ……へぇ、ちょっと付いて来いよ。そっちのお前も」

 

「……」

 

 春菜の謝罪に明らかに不機嫌ですと言わんばかりの口調で話す男。後ろには別の男達が2人立っており、目の前の光景をまるで面白い物を見つけた様にニヤニヤしながら見ていた。すると、不機嫌そうだった男は春菜の顔と後ろに立つ真白の顔を見て同じ様に笑みを浮かべ始めると同時に告げる。良からぬ事を考えているのは明白であり、普段から非力な女子高生である春菜は思わず後ずさる。だが逃がさないとばかりに男は春菜の腕を掴もうと手を伸ばし……それは一瞬で叩かれた。

 

「あぁ?」

 

「み、三夢音さん!?」

 

「……逃げる」

 

 気付けば春菜の横に移動していた真白が守ろうと男の腕を叩いたのだ。そして男がそれに驚いている隙に、真白は春菜の手を掴んで男達とは逆の方向へ走り出す。突然の事に困惑してしまう春菜だが、徐々に理解すると同時に真白と一緒に走る事で男達から距離を取ろうとする。だが男達も逃げる2人を放って置く気は無い様で、不機嫌さを取り戻した男が他の2人に何かを言うと同時にその2人は追う為に走り始める。

 

 人の間を通り抜ける真白たちと、それを追う男2人。真白だけならば確実に逃げる事が出来るが、春菜も一緒となると話は別になる。息を切らし始める春菜を見て真白は隠れる事を決め、曲がり角を見つけるとその中へ。先程よりも人通りが無くなった場所だが、潜んでいれば気付かれない可能性も高かった。春菜に休憩させると同時に警戒を続ける真白。だが、男達が追い掛けて来る様子は無かった。

 

「ご、御免なさい……私がしっかり前を見てれば、こんな事にならなかったのに」

 

「……平気」

 

 息を切らしながら謝る春菜に首を横に振って答える真白。それから少しして、春菜が何とか体力を取り戻した事で2人はその場所から出る事にする。入って来た場所から出る為に歩き出した2人だが、真白が先に出ると同時に左右から待ち構えていた様に2人の男が飛び出してくる。突然の事に驚きながらも距離を取ろうとした真白だが、前に出ていた為に男達を挟んで春菜と離れてしまう。そしてそれが狙いだったかの様に春菜がぶつかってしまった相手の男が違う場所から現れると、春菜の傍へ。

 

「逃げられるとでも思ったか?」

 

「!」

 

「おっと、動くなよ? 分かるよな?」

 

 男の姿にもう攻撃することも止む終えないと覚悟して動こうとした真白だが、男は春菜の傍に近づくとその背に回って腕を首の前に当て始める。何時でも春菜の首を絞める事が可能な光景に真白は迂闊に動く事が出来ず、その光景に楽しそうに笑みを浮かべた男は2人の仲間達に合図を出した。そしてそのまま2人の男達に両腕を掴まれた真白は春菜と共に再び人気の無い中へと戻される。町を歩く人達には余り見えない位置まで辿りつけば、両腕を掴まれたまま地面に真白は無理矢理座らされた。

 

「ったく、手間掛けさせやがって」

 

「お願い! 私の友達に、酷い事しないで!」

 

「無理だな。面倒を増やした罰って奴だ」

 

「……」

 

「なぁ、そろそろ始めようぜ?」

 

「だな」

 

 春菜が微かに震えながらを意を決して叫ぶが、男は簡単に却下してしまう。そして真白を抑えている男の1人がソワソワしながら話し掛ければ、下卑た笑みを見せ乍ら答えた男。やがて真白と春菜の身体にその男達の手が伸び始め、状況は正に絶対絶命であった。春菜は自分がこれからされるかも知れない事に恐怖すると共に、真白を巻き込んでしまった事を心の底から悔いる。そしてこの状況から救われたいと、叶わないと知りながらも願う。それは春菜の思い人……。

 

「(助けて! 結城君!)」

 

 春菜が心の中で叫びながらリトの姿を思い描いた時、突如として何かが春菜達の元に飛来する。緑色の球体とは余り言えない不格好な何かは真っ直ぐに春菜を拘束する男の後頭部へ直撃。かなり堅い物の様で、男は余りの威力にふら付いて春菜から後ろへ離れながら倒れる。余りに突然の事に何が何だか分からない春菜は、男の頭にぶつかって舞い上がった後に目の前で転がるそれを見た。……男の後頭部に当たったのは、南瓜であった。

 

「な、何が……っ!」

 

 真白を拘束していた男達が同じ様に困惑する中、1人が背後に気配を感じて振り返る。そこに立っていたのは……。否、飛び込んで来たのは里紗と未央であった。

 

「私達の友達に!」

 

「何してんのよ!」

 

「ぐぁ!」

 

 いくら男であっても不意打ちで女子高生2人の突進には叶わない。受け止める事も耐える事も出来ずに呆気なく2人に潰され、仲間がまた倒れた光景を前に最後の1人が真白を見ながらまだ勝機があると慌て乍ら必死に笑みを浮かべ始めた。

 

「お、おい! こいつがどうなっても」

 

「どうなっても……何ですか?」

 

「なっ!」

 

変身(トランス)!」

 

 だが男の言葉は突如聞こえて来た声に遮られ、男は驚愕しながらも聞こえて来た方角……上を見上げる。そこには今正に自分の居る場所に落ちて来る金髪の少女、ヤミの姿があった。空から降って来る少女の姿に反応できる訳も無く、更にヤミは髪を巨大な拳に変えると同時に真白へ被害が行かない様に計算した上で男の元へ振り下ろす。地面に減り込み、死んでも可笑しく無い程の攻撃を受けた男はそのまま意識を失った。

 

「このっ! どけっ!」

 

「うわぁ!」

 

「ちょっ!」

 

「ふざけやがって! !」

 

 自分の上に乗る里紗と未央を無理矢理退かして立ち上がった男は、倒れた里紗に拳を振り上げる。だがそんな彼の目の前に突然現れたのは、先程まで拘束していた真白であった。既に足は振り抜かれており、男が反応するよりも早くその足は男の身体へ。地球人では到底出せない力で蹴られた男の身体は地面に減り込む男の様に、壁へ激突。そのまま背中を擦る様に座り込んで気絶してしまう。……そんな光景を、最後の1人である春菜を人質にしていた男は倒れたまま恐怖しながら見ていた。

 

「ひ、ひぃ! な、何なんだよこれっ!」

 

 身体を後ろへ引きずって後ずさりしながら逃げようとする男。だが先程衝撃を受けた後頭部が今度は何かにぶつかった事で、男は真上を見上げた。真白を助けた里紗と未央は男2人の背後から現れた。ヤミは空から現れ、南瓜は春菜を人質にしていた男の後ろから。つまり男の後ろには、まだ姿を現していない南瓜をぶつけた誰かが居ても可笑しく無いのだ。そして男の目に映ったのは、オレンジ髪をツンツンさせた青年……結城 梨斗であった。

 

「ゆ、結城君!?」

 

「……リト」

 

「無事か! 西連寺! 真白!」

 

 片手にビニール袋を下げているリトは男に一切反応する事無く、大事な春菜と家族である真白に怪我が無いかを心配する。男はリトが2人を心配する姿に逃げられると思ったのか、立ち上がるとリトを押しのけて入って来た場所とは反対の誰も居ない場所目掛けて走り始める。このまま逃がしたところで、恐怖を植え付けられた男はもう春菜と真白を付け狙う事は無いだろう。しかし思い人である春菜を、家族である真白を危険に晒した男にリトは怒りを抑えずにはいられなかった。春菜に駆け寄った事で足元にある南瓜を足で上げ、それを華麗に蹴り飛ばしたリト。恐ろしいコントロールで走って逃げる男の後頭部に再び直撃させれば、男は勢い余って前方へ文字通り吹っ飛ぶ。

 

「へぇ~、やるじゃん結城!」

 

「今の凄かったね!」

 

 完全に男3人が沈黙した事で、安心した様に里紗と未央がリトの凄さを褒める。南瓜を回収してとりあえずその場から離れる事にした全員はヤミが息の根を止めようとするのを何とか止めさせ、男達をその場に放置して人通りの多い場所へ移動する事に。春菜は助けに来てくれた4人にお礼を言い続け、真白も中々話す事は無いが感謝している事を全員に示す。そして、本当に安全な場所に辿り着いた事で春菜と真白はベンチに座って休まされる事となった。

 

「流石にやり過ぎたと思って探してたけど、まさかあんな事に巻き込まれてるとはねぇ」

 

「ヤミヤミの鼻が無かったら危なかったかも」

 

「ヤミさんの……鼻?」

 

 ベンチに座る春菜と真白を囲う様にして立つ4人の内、里紗と未央が口を開けばその中の言葉に春菜が首を傾げる。何でも春菜と真白を探すことにした2人が無事に見つけられたのは、ヤミが真白の匂いを嗅ぎ取ったからとの事。その話にリトは嘗てソムゲルに連れ去られた真白が囚われていた場所を訪れた時、その場所の何処に真白が居るのかをヤミが匂いで判断していたことを思いだす。そしてリトも含めて思わず全員がヤミに視線を向ければ、ヤミは首を傾げた。

 

「当然の事ですが、何か?」

 

「あ、あははは……っで、結城は何であそこに居たのさ?」

 

「美柑に買いだし頼まれてさ。これとか重いし、俺が行った方が良いだろ? でも帰り際、逃げてる真白たちの姿を見掛けて何かあったんだって思って。それで追い掛けたけど一度見失って、探してたら西連寺の声が聞こえたんだ」

 

 リトの説明に納得して行く中、最後の言葉に内心でドキッとする春菜。自分が思った事がリトに届いたのかと一瞬驚くが、リトが続けて説明すればそれは春菜が真白を助ける為に男へ叫んだ声だと言う事が判明する。春菜は安心しながらも、過程はどうあれリトが自分達を助けてくれたという事実に嬉しく感じた。そして彼を頼もしくも感じる。

 

 その後、買い出しを終えていた事もあってそのまま結城家へ帰宅する為にリトとは別れる。残ったのは本来約束していた5人であり、里紗と未央は「これからどうする?」と春菜達に質問した。色々あったが、まだ少しだけ遊ぶ時間が残っているのだ。

 

「三夢音さんは、どうしたい?」

 

「……」

 

「特には何も無い様ですね。そもそも、何処かに行く必要があるのですか?」

 

「? どう言う事?」

 

「いえ。必ず何処かに行かなければいけない訳では無いと思いまして。こうして話すのも交流と言う面では問題無いのでは?」

 

「確かに、ヤミヤミの言う通りかも!」

 

「じゃあ、適当に話しますか! っとそうだった。ねぇ、三夢音さん。1つ、お願いしても良い?」

 

「?」

 

 春菜の質問に首を傾げた真白を通訳したヤミだが、彼女の感じた疑問に今度は里紗が首を傾げる。そして告げられたヤミの言葉に少しだけ目を輝かせながら未央が賛成し、里紗の言葉で何処かに行くのではなくこの場所で話をするという事に決定。すると、里紗が何かを思いだした様に真白へ話し掛ける。真白へのお願いと言う珍しい事に春菜は何をするのか気になって事の成り行きを見守り、未央は里紗がするお願いの内容が分かっている様子であった。そして、里紗が意を決した様に口を開く。

 

「今までずっと私達、『三夢音さん』って呼んでたけど。これから『真白』って呼んで良い?」

 

「中々言い出せる機会が無かったもんね。でも今日の最後に言おうって決めてたんだ」

 

「……ん」

 

 里紗のお願い。それは苗字では無く、名前で呼ぶ事であった。些細な事と感じる者も居るかも知れないが、ある程度仲良く無ければ出来ない事である。里紗と未央が今日こうして共に時間を過ごそうと決めたのも、仲良くなる為。未央の言葉に里紗は頷いて真白の答えを待つ。普段通り言葉で答える事は無かった真白だが、頷いて了承する姿を見て里紗と未央は笑顔でお互いにハイタッチをした。

 

「それじゃあ、真白! 改めてよろしくって事で!」

 

「よろしくね、真白!」

 

「……里紗……未央……よろしく」

 

「ほら、春菜も!」

 

「う、うん。よろしくね、真白さん」

 

「ちょっと硬いけど、まぁいっか!」

 

 里紗と未央、そして春菜と更に仲を深めた真白。その後、真白の言葉を時にヤミが通訳しながらも5人は帰る時間まで話し続けるのであった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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