【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第5話 勘違いで始まる恋

 例え前日に不思議な事が起ころうと、学校に通うと言う日課は何も変わらない。普段と同じ様に、修繕の終えた制服を着て2人と共に学校への通学路を歩き始めた真白。途中で美柑と別れ、途中でリトを置いて学校に足を進め続ける真白は何1つ変わる事無く普段通りの学校生活を送る……筈であった。しかしどうやら前日の不思議は、日が経っても2人を解放しない様である。

 

「随分騒がしいわね」

 

「……」

 

「ちょ、いきなり何よ……真白?」

 

 昼食の時間となり、各々の生徒達が持参したお弁当を開けている中。廊下の方から聞こえて来る大勢の男子達による騒々しい声がお弁当を開けていた真白。そして一緒に食べようとしていた唯の耳に入る。自由な時間故に少しばかり騒々しいのであれば『仕方の無い』で済むだろう。だがその騒々しさは余りにも度が過ぎており、唯は持ち前の正義感からか男子達を鎮めさせようと席を立ち上がる。が、突然真白が無言のままその腕を掴んだ事で唯は急停止。急に自分を止める真白に振り返るも、無言で廊下を見つめる真白の姿に唯は首を傾げる。

 

「……駄目」

 

「何でよ?」

 

「……」

 

 やがて静かに口を開き、自分を見つめ始めるその真っ赤な瞳に唯は思わず内心でたじろいでしまう。が、そんな様子を表に出すこと無く強気に聞き返すした唯。真白はその質問に答えること無く、再び廊下の方へと視線を向けて黙ってしまう。捕まれた腕は未だに離される事が無く、無理にそれを振り払う事に少しばかりの抵抗を覚えた唯。そんな体勢のまま少しすると、その騒ぎは徐々に静かになって行く。理由は分からない物の、止める必要の無くなった唯はそれに不思議に思いながらも「もう行かないわ」と真白に告げる。その言葉を聞き、真白はそっとその手を離した。

 

「騒ぎの原因を知ってるみたいだけど……教えてはくれないのね?」

 

「……知らない方が……良い」

 

「……何よ、それ」

 

 再び席に座り、箸でお弁当の中身を突きながら聞いた唯。しかしその質問に帰って来た答えは決して答えとは言えない物であり、真白はそれ以上言わないと分かった唯はもうそれ以上質問することを止める。心の中に感じる疑問と、理由を知れなかったモヤモヤを残しながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になり、何時も通りに結城家へ向かった真白。しかしそこに居たのは美柑だけで無く、昨日から不思議を運んで来る張本人であるララも存在して居た。真白は居るとは思っていなかったララの存在に無表情のまま見つめ、ララは「お帰り~!」と笑顔で。美柑は無表情乍らも驚いていると分かったために、そんな真白の姿に僅か乍ら笑みを浮かべながら「お帰り」と告げた。

 

 何故ララが結城家に居るのか? 疑問に思うのは当然な事であり、察した様に美柑が「ここに住むんだって」とその答えを教えた。真白はそんな答えを聞き、少し目を閉じた後。何も言わずに普段通りの家事を開始し始める。美柑も真白が始めればそれに加わり、ララだけはリビングの椅子に座ったままその背凭れに両手を乗せて2人の姿を見始める。

 

「リトと美柑は兄妹なんだよね?」

 

「うん、そうだよ」

 

「じゃあ真白は?」

 

「真白さんは……家族だよ」

 

「???」

 

 真白と美柑の並ぶ姿を見つめていた時、ふと気になった様に質問したララ。最初のリトと美柑の関係についてすぐに肯定した美柑は、次に聞かれたその質問に手を止めて真白に一度視線を向ける。話題の当事者である真白は特に気にした様子も無く作業を続けており、そんな姿を見た美柑は笑顔でララに答える。そしてそれと同時に美柑の頭の中には数年前、まるで猫を拾って来るかの様にして母親が連れて来た幼い真白の姿が浮かび上がる。が、頭の中など分からないララは頭の上に『?』を浮かべるだけであった。

 

 結局その後ララはそれ以上の質問をする事無く、リビングに置かれていた小さな機械で遊び始める。どうやらゲーム機の様で、家に居る間それで時間を潰していたらしい。真白と美柑は特に気にした様子も無く料理を続け、やがてそんな3人の耳に微かにだが扉の開く音が聞こえた。今この場に唯一居ない、帰って来て居なかったリトが帰宅したのだろう。ララはその扉の音に顔だけを玄関のある廊下に繋がる扉に向け、美柑は手を止めずにその扉が開いた時に視線を向ける。入って来たリトはリビングの中を見渡し、やがて当然の様に遊んでいるララの姿に真白とは違い分かりやすく驚いた表情を見せる。

 

「お帰り、リト!」

 

「な、何でお前が家に居るんだよ!?」

 

「私、今日からここに住むことにしたの!」

 

 笑顔で迎えるララに疑問をぶつけたリト。しかし思いつきを行動に移した様に言うララの言葉に、開いた口が塞がらないと言った状態になってしまう。真白はそんな2人の姿に手を止めて、美柑も同じ様に手を止めて2人の会話を見守っていた。が、やがてリトはこの状況が不味いと思った様でララの手を取って自分の部屋へと走り去って行ってしまう。恐らくしっかりと話をする為に向かったのだろう。美柑は「部屋に連れ込んだ……」と居なくなったリトの姿に若干引き気味で言い、真白は既に料理を再開していた。

 

「真白さんは気にならないの? ララさんの事」

 

「……ララは……あのまま」

 

「確かにララさん、嘘ついてる感じは無いけど……?」

 

 何となく気になり、質問した美柑。だがそれに帰って来た真白の答えに何処か引っ掛かりを覚える。確かに今の言葉をそのまま受け取るならば、『ララは見たままだと思う』と答えて居る様にも聞こえる。しかし、美柑には真白がその言葉を言う時。僅かに【思いだしながら】言っている様な気がしたのだ。……が、唯の気のせいかも知れないと思った美柑はそれ以上聞く事を止める。そしてその後、料理を完成させた事で会話は終了。上に行った2人も呼び、夕ご飯をララも加えて食べ終えた後、リトはララを連れて外へと出て行ってしまう。ララはゲーム等の部屋にある物に夢中になっている為、部屋の中では真面に話が出来ないのであろう。

 

「真白さんは行かなくて良いの?」

 

「?」

 

 空になった食器を洗い始めていた時、ふと言った美柑の言葉に真白は首を傾げる。美柑は昨日の件を知っている訳では無い。が、既にララと真白が知り合いであったと言う事はすぐに理解出来ていたのだ。故にララの事は真白にとって無関係では無い事だと思っていたのだろう。美柑の言葉に悩み始めているのか、手を止めていた真白。その姿に美柑は「私なら1人でも大丈夫だから」と言って笑う。と、真白はやがて静かに頷いて持っていた食器をその場に置いた。そして、部屋を出る時。洗い物をする美柑に振り返る。

 

「……ありがとう」

 

 その言葉を最後に、家を出た真白。1人残った美柑は洗い物を続け乍ら、言われたそのお礼の言葉に笑みを零すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リトとララの後を追って結城家を出た真白は2人の向かった場所を予測しながら歩き始める。ララが興味を持ってしまう様な場所で話をするのは、外に出た意味が無い。故に何処かの娯楽施設に入った可能性はまず無いだろう。となれば、何も無い場所。そこで真白の頭の中には、電車の走る光景が見える河川敷が思い浮かんだ。そしてそこを確認するために移動しようとした時、その向かうべき方角から微かにだが爆発に近い音が聞こえた事でその足を速める。

 

 真白が河川敷にたどり着いた時、そこにあったのは地面に出来た地割れの後の様な亀裂と崩壊した車と言う余りにも恐ろしい光景。速めていた足は走る事に切り替わり、まるで足跡を残す様に様々な破壊された後を通ってその後を追い始める真白。やがて彼女の視界の中に、リトとララ。そしてリトに光の剣を振るっている鎧にマントを付けた男性の姿が映り込んだ。……それを見た後の真白の行動は非常に早かった。切りかかる男性の真横に突然現れる様に移動し、男性が驚く間に回し蹴りをその身体に打ち込もうとする。何故か頭から血を流していた男性は目にかかる血も相まって恐ろしさのある驚きの表情を浮かべながらそれを受け、吹き飛ばされはしないものの少し後方へと下がる事になった。

 

「ま、真白!?」

 

「加勢……だと!?」

 

 突然現れた真白に驚くリトと男性。その間にも真白はリトの前に立ち、片手を横に出してリトを守る様に立った。何故か武器を持って居ないリトが無傷であり、武器を持って居る男性がかなりの大怪我をして居るが、今真白にとってそれは関係の無い事である。知って居る存在が知らない存在に襲われている。助ける理由はそれで十分なのだ。

 

「誰だか分からないが、その地球人の味方と言うのであれば容赦はせぬぞ!」

 

「……!」

 

 光の剣を手に、再び構え始める男性。真白もそれに対等する為に拳を握る。構えなどは特に無く、唯相手の前に立っているかの様なその姿に男性は少し違和感を感じながらも迷いなく切りかかろうとした。……が、今度はそんな男性の横に何時の間にかララが立っており、その片足が前に伸ばされると共に男性はそれに躓いて前に転倒する。そして、顔面から地面に倒れ伏した。

 

「女の子に剣を向ける何てサイテー! デビルーク星でNO.1の剣士って言われてるザスティンに2人が敵う訳無いじゃん!」

 

「しかし! ララ様との結婚はデビルーク王の後継者として数多の星の頂点に立つ事! 弱い者には務まりません!」

 

「……結婚?」

 

「あ、いや……どこから説明するべきなんだ……!?」

 

 ララの罵倒と共に飛び起きて反論する男性……ザスティン。そんな彼が言った【結婚】と言う言葉に真白はリトに振り向いて首を傾げた。一体何をどうしてリトはララと結婚する事になっているのか。何も分からない真白にとって、それは困惑するには十分な物。リトは顔を引きつらせて説明に苦難するが、その間にはララとザスティンの口論は続く。

 

 そもそもララがお見合いをさせられているのは彼女がデビルーク星と呼ばれる世界中の星を統べる王の娘であるからとの事。しかしその相手の条件は王の代わりに星を統べる事の出来る人材で無ければならず、故に沢山の相手の中からそれを見つけだそうとしているとの事であった。が、ララにとってそれは父親が自分を利用して自分の後継者を決めようとしていると言う風にしか捉えられなかった。……だから家出をしたのだろう。そして、それから逃れるためにララはリトを自分が決めた結婚相手として口実に利用した。結婚と言う言葉が出た意味を理解出来た真白は握っていた拳への力も抜き、静かに小さな溜息を漏らした。

 

「何でこんな訳わかんない目に合わなきゃいけないんだよ……」

 

「!」

 

「お見合いだとか、デビルーク星だとか、後継者だとか、俺にはどうだって良いんだ……!」

 

 静かに本音を漏らす様に呟き始めたリト。その声を聞き、真白は抜いていた力を再び込める。間違い無く、今真白の瞳に映るのは苦悶の表情を浮かべるリトの姿。そしてそれを見た時、真白は数時間前に言われた言葉を思い浮かべる。

 

『真白さんは……家族だよ』

 

『こうして一緒に居て。傍に居て楽しいと思えるなら、俺達はとっくに【家族】なんだって!』

 

 そしてそれに連想する様に、真白の中に存在する過去の言葉が繰り返される。やがてそれは普段喋る事の無い真白の口を開かせる切欠となり、真白は口論する2人の傍に立つ。突然横に立った真白に「何だ地球人」とザスティンは喋りかけ、それに真白は静かに口を開いた。

 

「……苦しめないで……家族を」

 

≪!≫

 

「真白」

 

「……大事な人だから……辛い顔は……見たく無いから。……だから、解放して。【自由にして】」

 

 胸の前に手を当て、普段は言わない言葉を続けた真白。そんな彼女の言葉に口論していた2人は勿論、苛立ちを露わにしていたリトもその名を呼んで思わず黙ってしまう。……しかしやがてララはゆっくりと真白に近づき、その両手を取る。

 

「今日1日だけだったのに。私の事、そんなに思ってくれてたんだね。真白」

 

「?」

 

「私の事を思ってくれて、私の思いも理解してくれて……私、真白が良い!」

 

「……は?」

 

 真白の言葉を聞いて笑顔で言ったララ。どうやら彼女は先程の真白の言葉を自分への言葉だと思ってしまったのだろう。1日しか食事を共にしていないにも関わらず、家族と呼んで辛い顔を見たくないと言われ、自分を縛っている現状からの解放を。自由を求めてくれた……と。そしてその事に嬉しくなったのならばそれは感謝の心だけで済むものだ。しかしその嬉しさを声にした後、続けたララの言葉にリトは思わず呆けてしまう。リト自身、【家族】と言う言葉や先程の状況からそれが自分への。自分達家族への優しさだと理解出来ていた。そしてだからこそ、ララの言葉に何かがすれ違っている事に気付く。

 

「なぁ。今のは「私は、ずっと見て見ぬ振りをしていた」お、おい」

 

「ララ様の心を。王の命に従う、それが自分の役目なのだと言い聞かせて。だが王の事を考え、ララ様の思いを酌める様な者に出会ってしまっては……もう何も言えまい」

 

 ずれている事を伝えようとしたリト。だがそれを遮る様に今度はザスティンが口を開く。目から涙を流し、強く自分の拳を握り締めて。……どうやら彼もまた、先程の言葉に違う形で受け取ってしまった様である。『家族を苦しめないで』と言う言葉。それをララと同時にララの父親である王の事も思っていると。王は娘であるララを常に思っている事、それでも解放してあげて欲しいと言う願いを告げたのだと。そしてそれを完全に理解した時、ザスティンは眼元を擦る。

 

「許嫁候補はきっと納得しないでしょう。ララ様も真白殿も女性です」

 

「関係ないよ! 私、決めたから!」

 

「……分かりました。私から、デビルーク王には報告して置きます。ララ様の。そして王の気持ちすらも解る事の出来る存在であると」

 

 真剣な面持ちで確認する様に言ったザスティン。だが即答したララの答えは予想していたらしく、何も言わずに唯理解した様に引きさがる。そして去りながら言葉を続け、やがてその姿は見えなくなってしまった。そうして取り残されたのはリト・ララ・真白の3人。リトは余りの状況に口を開ける事しか出来ず、真白は何故か自分が巻き込まれてしまった事実に助けを求める様にリトを見る。が、手を握っていたララがその身体に抱き着いた事でその目線は戻さざる負えなくなってしまう。

 

 その後、帰路を歩き始めた3人。ララは笑顔で真白の手を握り、リトは反対側に立って真白を見る。その目は明らかに罪悪感を感じて居り、やがて静かにリトは呟く。

 

「ごめん。俺のせいで真白が」

 

「……気にしない……解放されて、良かった」

 

「でもこれから真白はララに……それに良く分かんないけど、宇宙人の奴らと関わる事になっちまう」

 

「……私は……守りたい。美柑を……リトを……だから、良い」

 

「何だよ、それ……」

 

 リトの謝罪に首を横に振って普通の人では分からない微笑みを浮かべる真白。長い時を一緒にいたリトにだけそれは理解出来、その言葉を聞いてリトは悔しさを感じると共に拳を握る。そして、彼なりの決意をした。解放される事を望んではいたが、それは決して家族を犠牲にして手に入れる物では無い。故に自分が巻き込んだのなら、自分に出来る事はしようと。それが自分の責任なのだと……。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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