【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第57話 激闘! ビーチバレー対決!

 里紗と未央の提案で始まったビーチバレーは天条院家主催の大会へと変わり、それぞれがペアを結成して対戦相手を決めるくじ引きに参加する。ペアは全部で8組であり、トーナメント形式で進行。やがて始まったくじ引きの結果、ララ真白ペアはお静御門ペアと対決する事が決定する。試合のコートは急遽決まったという事で1ヶ所のみ。最初の試合は真白が参加する試合では無く、里紗未央ペアとナナモモペアの対決であった。

 

 天条院 沙姫の命令で即座に作られたネットを挟んでコートの中に入る4人。宇宙人と地球人では身体能力に大きな差が出てしまう為、極力地球人側と合わせる様に約束させられたナナとモモはどれ程の力加減でやれば良いのかと思案し続ける。そして何気なくナナが片手を上から下へ下げれば、それだけで地面の砂が大きく舞い上がり粉塵が広がる光景に里紗と未央は思わず顔を引き攣らせる。そうして心配を残しながらも、試合は始まる。

 

「それではこれより、籾岡沢田ペア対ナナモモペアの試合を始める!」

 

 足の長く位置の高い椅子に座った猿山はそう宣言すると同時に用意されていた笛を首に掛けていた為、それを口に加えて勢いよく吹く。甲高い笛の音が響き、先にボールを手にしていた里紗のサーブから試合はスタートする。空へと上がったボールを追い掛けて地面に落とさない様に上手く空へと上げ、隙を見れば相手のコート内へ。ナナとモモも上手く地球人に合わせており、試合は見事に4人の女子による白熱したものとなっていく。

 

「いくよ! 里紗!」

 

「良いよ! 未央!」

 

 声を掛け合うと共に未央がボールを里紗の頭上目がけてゆっくりと狙える速度で上げる。コートのギリギリで待っていた里紗はタイミングよく飛び、そのまま力強くボールを叩いてナナとモモが立つコートへと叩きつけ様とした。が、何時も仲の良い二人のコンビネーション技であるそれは同じく仲が良く双子であるナナとモモのコンビネーションによって防がれる。

 

「ナナ!」

 

「任せろ!」

 

 地面へと迫るボールはモモの位置からでは間に合わない。だがモモに掛けられた声にナナは答え乍ら地面とボールの間に文字通り滑り込んだ。斜めに滑り込んだ身体のその平らな胸によってボールが上へと上がり、好機とばかりに今度はモモがそのボールを未央同様に次へ繋げる為に上げる。決まると思っていた為に反応が遅れた里紗と未央を前に、ナナはすぐに立ち上がると口元に八重歯を覗かせ乍ら笑みを浮かべた。

 

「此奴で終わりだ!」

 

 大きく飛びあがったナナの地球人に合わせたスマッシュによって戻って来たボールは里紗と未央の真ん中を通過して地面に落ちる。猿山はその光景に笛を鳴らし、ナナはガッツポーズをしながら喜びを表現した。だがまだ1点である。本来は21点1セットを2回と15点1セットを1回の計3セットで行うものだが、これはあくまで遊びの延長線。故に7点先取の1セット勝負と決められていた。つまりナナとモモのペアは勝利まで後6点取る必要があり、里紗と未央もまだまだ勝機があった。

 

 その後、1回戦最初の試合は白熱した。ナナとモモはルール上身体能力を加減してはいるものの、試合には真剣に取り組んでいる為に点を取って取られてを繰り返す。そして猿山による試合終了の笛が鳴り響いた時、里紗と未央は汗を掻きながら地面へと仰向けに横になった。猿山の座る椅子の隣には試合に参加しない綾が立って居り、その傍には得点番が存在していた。そしてその得点番は里紗未央ペアの方に6と。ナナモモペアの方に7と記されている光景。勝者は、ナナモモペアであった。

 

「あぁ~! 負けた!」

 

「ふふ、良い試合でした」

 

 言葉は悔しそうにしながらも、その表情には笑顔を見せる里紗。そんな彼女にネット越しではあるが、微笑みながらモモが声を掛ける。ナナも未央と話をしており、その後体力を少し取り戻した里紗と未央は加減していた故に体力に余裕のあるナナとモモと共にコートから外へ。すぐさま次の試合の準備が始まる。真白たちは3回目であり、次の試合はリトレンペアと美柑ヤミペアの対決であった。

 

「まさか君と組むことになるとはね、結城 リト」

 

「あはは……まぁ、よろしく頼むな」

 

「頑張ろうね! ヤミさん!」

 

「そうですね」

 

 ネット越しにお互いのペアが相方へと声を掛ける。レンとリトは普段仲が余り良い訳では無い為にチームワークに期待は出来ないだろう。だがレンは宇宙人故に身体能力が高く、抑えていてもある程度の戦力は間違いが無い。そしてリトも地球人の中では間違い無く運動神経が良い為に個々の力があるだろう。対する美柑とヤミは普段から真白も存在するが、日常的に一緒に居る為に仲は良好。これから始まる試合を前に、真白へと一度視線を向けながらもヤミはネット越しにリトを見る。

 

「覚悟してください、結城 リト」

 

「か、加減しろよ!?」

 

 ヤミからの言葉に恐怖しながらも答えたリト。やがて猿山による開始の合図と共に、美柑がボールを打ち上げる。飛んできたボールを取る為に近かったリトが動き始めたが、そんな彼の傍にレンが近づいた。気付いた時には間に合わず、2人の身体がぶつかり合うと同時に身体が下がってしまい、ボールはそのまま地面へと落ちてしまった。

 

「何をする! 結城 リト!」

 

「いや、今の位置は俺が取ってレンが打つべきだろ!?」

 

「ふん。貴様のアシストなど要るものか。僕1人で十分だ」

 

「それじゃあ試合になんないって……」

 

 個々の力は強くとも、ビーチバレーでは相方の協力が必要不可欠である。嘗てリトを敵と考えていた名残なのか、未だに敵意を消さないレンの言葉にリトは思わず頭を抱えた。そしてそんな光景をネット越しに見ていた美柑はやれやれと言った様な仕草をし乍らヤミに視線を向ける。

 

「何か、凄く簡単に勝てそうだね?」

 

「その様ですね。早く終わらせましょう」

 

 それからリトとレンは上手く合わせる事が出来ず、意図も簡単に4点先取されてしまう。このままでは勝つ事が出来ないと思い、ほぼ諦めかけたリト。だが突然レンが動きを止めると徐々に顔を青くし始める。リトを始め全員がその表情の意味を理解出来ない中、当の本人は内なる【もう1人の自分】と会話をしていた。それはルンであり、彼女は真白とペアで無い事を悔しがりながらも試合が出来る事を楽しみにもしていた。だからこそ、明らかに合わせようとしないレンへ冷たく告げる。

 

「(もし今のまま真白ちゃんとの試合が出来なかったら、お仕置きだから)」

 

「(お仕置き? 何方かしか居られないのに、そんな事出来る訳無いじゃないか!)」

 

「(女子更衣室で鼻こより。あ、ライブ中でも良いかな? きっと私のファンが怒ってレンに襲い掛かるよ……ふふふ)」

 

 最初はルンの言葉に余裕だったレンだが、彼女の言葉に想像したレンは思わず震えてしまう。唯でさえルンの状態からレンになった時、女子制服を着ている為に変態に近い恰好となるのだ。女子更衣室で変われば変態どころでは済まず、ライブ中に変わってしまえば怒りの対象となっても可笑しく無い。明らかにルンにも支障が出るが、その声音はそれでも構わないという覚悟を感じさせるものであった。故にレンは歯を食いしばり、プライドを一時捨てる。

 

「ゆ、結城 リト。今だけ……今だけ、君に合わせてやる!」

 

「だ、大丈夫か?」

 

「この勝負に勝たないと大丈夫じゃ無くなるんだ!」

 

 レンの言葉に呆けるリトだが、その後に続けたレンの必死な表情にリトは何があったのかは分からずとも頷いた。そしてそこから、2人の反撃が始まる。今まで点数を余裕で取れていた美柑とヤミ。だが決まると思って放った美柑の1発は簡単にレンに受け止められ、リトへと渡る。そしてリトは高い跳躍力と共にそれをスマッシュした。その勢いは強く、余裕だと思っていた美柑は反応する事が一切出来ない。そしてヤミは反応するものの、落ちた先はコート外ギリギリだった為に間に合わなかった。結果、リトレンペアに1点が追加される。美柑は気を引き締めてヤミは変わらず、レンは必死になってリトはようやくちゃんと試合が出来る。それぞれ思い思いの感情を抱きながら、試合は本格化する。

 

 1回戦に引けを取らない白熱した試合はやがて終わりを迎える。綾が得点番を動かし、猿山の終了を告げる笛と共にリトは膝に手を置いて息を切らせながら額を拭う。

 

「はぁ……はぁ……か、勝った……」

 

 リトとレンが協力する様になった事で、試合は一変。先に4点取られてはいたものの、その後2点を取られながら7点を取り返すという奇跡を2人は起こした。ネットの反対側では美柑がヤミに謝り、ヤミが美柑は悪くないと首を横に振る姿があった。見ていた者達も最初は美柑ヤミペアが勝利すると思っていたが、まさかのどんでん返しにリト達を好意的に見ると同時に美柑とヤミにも賛辞を送った。

 

 試合は3回戦目となる。ララと真白が、お静と御門がコートへと入る光景に全員が興味津々とばかりに視線を向ける。

 

「真白! 頑張ろうね!」

 

「ん……」

 

「身体の調子は平気かしら?」

 

「はい! 偶に抜けちゃいますけど、最近は大分慣れて来ました!」

 

 元気よく声を掛けるララとそれに頷いて答える真白。反対側では御門がお静の調子を聞いてお静は笑顔で答えていた。お静は新しい身体を手にしてすぐは何かの拍子に身体からその魂が抜けてしまう事が多かった。だが学校での授業では体育などもある為、慣れる環境が多かったのもあって今では大分増しになっている。故にお静の答えに御門は相槌を打った後、反対側に立つ真白とララへ視線を向ける。

 

 猿山による笛の音を合図に始まった試合。お静のサーブでボールが飛んで来ると、真白はそれを受け止めてララの元へと飛ばす。そしてララが飛んでスマッシュをすればお静がそれを受け止めて今度は御門へ。普段余り動く印象の無い御門だが、彼女も宇宙人。故に身体能力は高く、抑えていても地球人に引けは取らないだろう。この試合に地球人は存在せず、抑えながらも行われる試合はそれでも常識から外れていた。打てば取られ、取れば打つ。最初の1点すら決まらずに数分試合は続いた。だが突然、その場に居た誰もが予想しなかった出来事によって、点が決まる。

 

「あら?」

 

 飛んできたボールを上に上げようと構えていた御門。そんな彼女の元へと降りたボールは御門の手では無く、その大きな胸に着地する。ボールが触れた事で揺れた胸に猿山が鼻の下を伸ばし、ナナが胸元に手を当て乍ら憎々し気に見つめる中、跳ね返ったボールはネットに触れてお静御門ペアのコート内へと落ちる。少し遅れて笛が鳴り、ララ真白ペアに点数が入った。

 

「やったね真白!」

 

「……まだ」

 

 長い攻防の末に決まった1点。それにララは喜びながら真白に飛びかかる。まるで試合が終了したかの様な喜び様に真白は抱きしめられながらもララに答えるが、次が始まるまでララが離れる事は無かった。次のサーブは真白であり、ボールが来た事でようやく解放された真白はそのボールをララの上へ向けて飛ばす。再び始まった長い攻防の中、今度は滑り込もうとしたお静が身体から抜けてしまった事で再びララ真白ペアに点数が入る。そしてララが再び真白を抱きしめた。元々無かった抵抗は諦めに変わり、何を言うでも無く次が始まるのをそのまま待つ真白。だが決して嫌がっている訳では無い事が、分かる者には分かった。1名、目を細めてその光景を不機嫌そうに見つめる者が存在するが、誰も気付く事は無い。

 

「少し、本気で行きましょうか」

 

「? 何するんですか?」

 

 御門の言葉にお静が首を傾げる中、再開した試合は先程よりも長く続き始める。胸で弾かれる事も魂が抜ける事も無く攻防を続けていた時、御門が狙った様に後ろ側のコートとコート外ギリギリへ向けてボールを叩いた。ララと真白が間に会う事は無く、点数となったその御門による攻撃はその後も行われる。真白とララが間に合わない位置へと誘導され、そして点数を取る決め技。だがそれも3点程取ったところで真白が気付くとララへ視線を向ける。

 

「……距離。……気を付けて」

 

 真白の言葉に首を傾げながらもララは言われた通りに距離を意識しながら立ち回り始める。真白と近づき過ぎず、前に出過ぎずに片側の全体へ間に合う様に意識して。すると御門は今までの事が出来なくなり、再び長い攻防の末に点数を取られる様に。今までで一番時間の掛かる試合を続け、やがて終了の笛が鳴り響いた時。1点差で勝利したのはララ真白ペアであった。因みに最後の1点は最初と同じ、御門の胸による事故である。

 

「真白ー!」

 

 喜びと共に抱き着くララに抱きしめられたまま、真白は抵抗もせずに立ち続ける。美柑やヤミの様に自分よりも身長が低ければ頭を撫でる等の返しをしていたかも知れないが、ララが相手では抑え込まれるに等しい為に何も行動を起こすことは無い。お静は悔しさよりも楽しかったという思いの方が強い様で、「またやりたいですね!」と笑顔で告げる。そして御門は勝敗を気にした様子も無く軽い溜息を吐きながら、終わった事に安堵している様子であった。

 

 最初に決められた対戦も次で最後。4回目となる試合は春菜唯ペアと沙姫凛ペアの対決であった。真白たちが退場した後、コートに春菜と唯が入れば突然聞こえて来る高笑いに視線を向ける。反対側のコートで右手の甲を左頬に当て乍ら余裕そうに高笑いをする沙姫の姿がそこにはあり、春菜は苦笑いを。唯は呆れながらも勝利を確信する様なその姿に見返そうとやる気を出す。……そんな中、沙姫の高笑いの横で静かに立つ凛は静かに目を瞑りながら一瞬だけ見ている者が集まっている場所へ視線を向ける。

 

「凛……凛!」

 

「……! 何でしょうか、沙姫様」

 

「上の空だった様だけれど、何処か具合でも? 無理せず、綾と変わってもよろしくてよ?」

 

「いえ、問題ありません。沙姫様のお役に立てる様、全力で私も戦わせて頂きます」

 

 その視線が何処へ向かったのかは凛本人にしか分からないが、沙姫の声に遅れて反応した事で沙姫は心配そうに凛へ告げる。それは彼女の為を思っての言葉であり、凛は首を横に振った後に強い意志と共に沙姫へ誓う様に答えた。本人が平気と言ったのならそれを信じるといった様に、沙姫はそれ以上言う事も無くネットの向こうに立つ2人へ視線を向ける。

 

「行きますわよ、凛!」

 

「はい! 沙姫様!」

 

「古手川さん、頑張ろうね」

 

「えぇ。やってやるわ!」

 

 各々が鼓舞し乍ら猿山の吹く笛と共に試合が始まる。宇宙人が1人も交じらない地球人のみの試合。運動神経が悪い者も居らず、その試合は取って取られての接戦を繰り広げ続けた。そして両ペアが6点を取り、次の点数で勝者が決まる時。沙姫が上げたボールに凛は強い視線を向ける。アタックをするチャンスであり、何処へ落とすかを瞬時に判断。沙姫から託される様に名前を呼ばれ、凛は大きく空へ舞った。

 

「はぁ!」

 

 春菜と唯が取ろうとするが、何方も間に合う事無くボールは砂の上へ後を付ける様に叩きつけられる。終了の笛の音と共に沙姫凛ペアの勝利が決まった瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝利を飾ったペアは次の段階へ。2回目のくじ引きを行い、次の試合で勝ったペアが最後の戦いへと駒を進める事となる。ララ真白ペアはくじ引きに参加し、対戦相手に決まったリトレンペアに視線を向けた。

 

「よろしくな、真白。ララ」

 

「……よろしく」

 

「くっ、ララちゃんと戦う事になろうとは……」

 

「レンちゃんと遊ぶの、久しぶりだね!」

 

 リトが笑い掛け乍ら話しかけ、真白が静かに頷きながら答えるその横で悔しそうに拳を握るレンと楽しそうに話すララの姿があった。少し離れた場所ではナナとモモが対戦相手に決まった沙姫と凛に話しかけており、少しの時間へ経て試合が開始される事となった。沙姫と凛は先程動いたばかりだった為、比較的多く疲労が回復しているララ真白ペアとリトレンペアの対決を先に行う事が決定。両ペアはコート内へと入り始めた。

 

 猿山の鳴らす笛と共に試合が開始され、最初にボールを受け取ったレンがサーブをすると誰もが思っていた。だが笛が鳴り響いた後も一向に動く様子の無い彼に全員が首を傾げる。現在、彼はまた内なるもう1人の自分であるルンと会話をしていた。先程は勝たなければお仕置きと言われ、具体例を出された為に本気でリトと協力しあったレン。しかし今現在告げられる彼女の願いはレンが叶えられるものでは無かった。

 

「(変わって! 真白ちゃんと戦うなら、私に変わって!)」

 

「(都合良く変われる訳ないだろう!?)」

 

「レン、おいレン! 大丈夫か?」

 

「へ、平気だ(頼むから黙っててくれ!)」

 

 ルンのお願いに頭の中で会話をしていれば、始めないレンにリトが声を掛ける。そこで待たせてしまっている事に気付いたレンは強くルンに言って試合を開始した。頭の中では納得していないルンが何時までも変わる様に言い続け、レンは集中することが出来ないまま試合を続ける。リトがレンにアタックさせる為に上げたボールも、ルンの声が頭の中で響き続ける為に気付けず地面へ落ちてしまう。明らかに可笑しなレンの姿にリトが話し掛けようとした時、レンを今の状況から解放する予兆が訪れ始める。鼻へ感じるむずむずとした感覚と開いてしまう口。リトを始めこの場に居る大勢の者がそれが何かを知り、そしてレンの場合は不味い事を知っていた。だからこそ、今現在海パン姿のレンでは非常に不味かった。

 

「は、ふぁ……」

 

「ま、不味い!」

 

 傍に居たが為に逸早く気付いたリトだが、彼にどうにかする術は無かった。やがて、無情にも放たれたレンのくしゃみは彼の身体から煙を発生させる。そしてそこから現れたのは海パンを履いて胸を曝け出したルンの姿であった。隠される事無く晒されるその乳房に御門の時以上に鼻の下を伸ばす猿山と顔を真っ赤にして視線を逸らすリト。状況を見ていた者達も流石に焦る中、当の本人は気にした様子も無くネットの向こうにいる真白へ笑顔で手を振り始めていた。

 

 その後試合は一時中断となり、レンはルンとなってしまった為に試合はララ真白ペアの勝利と言う事で決着する。上着を貰い、隠すべき場所を隠しながらルンは真白とビーチバレーが出来なかった事に肩を落とす。そして真白とペアを組むララに嫉妬しながらも観戦者としてその場に居る事になった。元々優勝に拘っていなかったリトは残念そうにしながらも「仕方が無いさ」と諦め、試合はナナモモペアと沙姫凛ペアの対決へ移る。

 

「これで勝てばお姉さまとシア姉様、2人と戦う事になりますね」

 

「とっとと終わらせて、早くやりたいぜ」

 

「あら、私たちに勝てるとでも?」

 

「優勝は沙姫様のものだ。……それに戦いたいのはお前たちだけじゃない」

 

 コートの中に立ち、ネットの向こうに立つ沙姫と凛を前にまるでそんな2人が映っていないかの様に会話をするナナとモモ。余裕そうな彼女達に沙姫もまた余裕そうに返し、凛が告げる。だがその後に続けた言葉は小さく、しかし傍に居る沙姫よりも宇宙人故か聴力の高かったモモの耳にその言葉はしっかりと届いていた。凛の声音は決して好意的では無く、何方かと言えば敵対する相手に向けたもの。モモは凛の姿に少しだけ目を細めながらも、始まる試合に改めて集中する事とした。

 

 宇宙人故に力を抑え、それでも負けない様に戦うナナとモモ。だが2人が思っていた以上に沙姫と凛のコンビネーションは完成されたものであった。決して手も足も出ない訳では無いが、姉妹の絆とはまた違う主従の絆は沙姫と凛の場合強いものであった。

 

「これで、終わりですわ!」

 

 沙姫の叩いたボールは真っ直ぐにナナの元へ。受け止められると八重歯を見せ乍ら構えた時、ナナの差し出した腕に落ちたボールはナナの胸へ当たると同時に前へ飛んでしまう。その先にあったのはネットであり、点数は沙姫凛ペアのものとなる。そしてその1点が、勝負を決める最後の1点となった。

 

「ナナの胸で前の試合は勝てましたけど、負けるのもナナの胸が決め手になってしまいました」

 

「おい、モモ。馬鹿にしてんのか? 馬鹿にしてんだろ? ペタンコで悪かったな!」

 

 モモの馬鹿にする様な言葉にナナが怒りを露わにしながら叫ぶ中、無事に勝利する事の出来た沙姫と凛はそれぞれ次の相手に視線を向ける。

 

「最後に立ちはだかるのはやはりララ。今日こそ何方が上か、はっきりさせますわ!」

 

「三夢音 真白。あの時の借りを、返してみせる……!」

 

 元々沙姫はララへ敵意を抱いていた。だからこそ勝敗が決まるこれからの戦いに今まで以上のやる気を見せ始める。そしてそれは凛も同じであった。嘗て行われた【彩南高スポーツフェスタ】。その時沙姫のサポートを行っていた凛だが、唯を背に競技に参加していた真白に場所を気付かれると共に全ての攻撃を交わされるという出来事があった。綾が必死に沙姫を手助けする中、真白のゴールを止める事が出来なかった事に悔しい思いを抱いた凛。謝った彼女を沙姫は優しく微笑んで許したが、凛自身が自分を許すことが出来なかった。……そして今、その悔しい思いをした相手と凛は再び合間見える事となる。雪辱を果たすため、凛は覚悟を決めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより、最終対決を始める!」

 

「沙姫様! 全力で応援させていただきます! 凛も頑張って!」

 

「真白さん! 頑張ってね!」

 

「お姉様! シア姉様! 頑張ってください!」

 

 猿山の声と共に綾から沙希と凛へ声援が送られる。同じ様に美柑やナナとモモからララと真白へ声援が送られ、それぞれ試合に参加する4名はコートの中へ。勝つ気満々な沙姫と一度目を閉じて息を吐きながら改めて集中する凛とは対照的に、最後まで楽しそうにするララと何を考えているのか分からない無表情の真白が向かい合う。先にサーブを始める凛がボールを受け取り、猿山が鳴らす笛の音を待ち始めた。最終戦と言う事もあり、場は不思議な緊張感に包まれる。

 

「始め!」

 

「!」

 

 声と共に響き渡った笛の音。それを合図に凛がボールを飛ばす。飛んできたボールをララは迎えると大きく空へ飛ばし、ネットのすぐ傍へ移動。ララが浮かせたボールを真白は次にララへ繋げる為に上げると、狙い通りにネットの傍へ。ララはタイミングよく飛び、それを相手のコート内目掛けて叩く。だがそんなララの目の前にネット越しで沙姫が現れた。

 

「させませんわ!」

 

「うわぁっと! 真白!」

 

「!」

 

 沙姫がララのアタックを両腕を使って防ぎ、その身体に当たったボールはララと真白のコート内へと戻ってしまう。打ったララに対処する術は無く、着地しながら振り返って真白の名を呼んだララ。そこには丁度滑り込んでボールを完全な落下から防ぐ真白の姿があった。ララはそれを見てすぐに今度はアシストに回り、真白がアタックへ。行動の早さに沙姫達が驚く中、すぐに真白によるアタックが行われた。今度は地面に身体を滑らせながら凛がそのボールを取ろうとするが、運悪く凛の腕に当たったボールはそのままネットとは反対のコート外へと出てしまう。

 

「くっ、やりますわね!」

 

「だが、負ける訳にはいかない……!」

 

「ふぅ……助かったよ、真白!」

 

「ん……」

 

 まずは1点。だが沙姫と凛も抑えているとはいえララと真白に遅れを取らない動きをしており、今まで以上の戦いを誰もが予想した。そしてその予想は的中し、次に点数を取ったのは沙姫凛ペアであった。当然お互いに最初の点数であり、相手が相手の為に油断は一切無い。気づけば来た際には強い陽を照らしていた太陽も沈み始め、茜色に染まる砂浜の上で4人は動き続ける。

 

「お、終わらねぇ……」

 

 リトは今現在も目の前で行われる際を前に思わず呟く。既に3点を互いに取り、今は4点目を賭けた試合。しかし今に至るまで既に1時間以上が経過しており、この調子で行くと7点先取が決まるまでには単純に計算してもう1時間以上掛かることだろう。

 

「はぁ……はぁ……まだ、終りませんわ……!」

 

「負ける……ものか!」

 

 肩を上下に動かして苦しそうに呼吸をする2人。そんな彼女達とは対照的にララと真白は疲れた様子を見せず、変わらぬ姿であった。根本的な体力の量に加えて力を抑えているという現実が埋められない差を作っているのだ。傍から見ればもう沙姫も凛も限界に近い。だが2人に諦める様子は無く、それに答える様にララと真白も真剣に続けていた。

 

「これで!」

 

 凛が強く打ったボールの先には真白が立っていた。上げる為に既に構えており、真白の手によって打ち上がったボールを前に最初と同じ様に飛んだララ。真白は返された時に対応出来る様に移動するが、その時凛は微かに自分から見て真白が左側に立っていると知る。途端、沙姫が同じ様にブロックに入る光景を前に叫んだ。

 

「沙姫様! 右です!」

 

「! 貰いましたわ!」

 

 凛の言葉を受け、沙姫は腕を少しずらして返す先を調整する。真白は同じ様に言葉を聞いていたが、時既に遅くララはアタックしてしまう。沙姫の腕に当たって弾かれたボールは真白が立つ場所から特に遠い場所へと飛んで行き、真白が間に合う事も無く地面へ落ちてしまう。結果、4点目を取ったのは沙姫凛ペアであった。

 

「やりましたね、沙姫様」

 

「ナイスアシストですわ、凛」

 

 疲れた身体を動かして互いにハイタッチを交わす2人。流れる汗が飛び交い、周りを輝かせながら落ちていく光景に綾は1人感動を覚える。この調子なら勝てると何処かで確信し、余裕を持った沙姫は汗に濡れた後ろ髪を片手で流しながらララに告げる。

 

「ふふ、ララ。本気を出してもよろしくてよ?」

 

「え? 良いの?」

 

 その瞬間、場の空気が正しく凍りついた。今まで力を抑えて参加していたララと真白。だが沙姫の悪い癖が出てしまい、告げられたララは驚きながら聞き返す。余裕な様子で笑みを浮かべながら頷いて答える沙姫を前に、ララは腕を回して改めてやる気を見せ始める。当然リトを始め見ていた面子はそれぞれ嫌な予感を感じ始め、真白もこのままでは不味いと感じてララへ声を掛けようとする。しかし沙姫は自分が蒔いた種に気づく事無くボールを手にサーブを始めてしまい、間に合う事は無かった。

 

「行っくよ~!」

 

「不味い! 皆、逃げろ!」

 

 飛んできたボールへ大きく跳躍して腕を振り上げたララ。そしてその腕が触れた時、ボールは恐ろしい速さと共に沙姫と凛の立つコート目掛けて返された。宇宙人であるララの馬鹿力を完全に忘れていた沙姫は迫るボールを前に冷や汗を流す事しか出来ず、やがて地面へと着弾したボールは周りにあったネットや猿山等を吹き飛ばして地面を抉りながら進行し続ける。沙姫と凛の間を通過すれば2人は軽々と風圧で吹き飛ばされ、付けていた水着も一瞬で木っ端微塵に。それでもボールは停止する事無く海へと向かい、全員の目の前には綺麗に裂かれた海が見えるのであった。

 

「あれ?」

 

「……やり過ぎ……」

 

 地面に着地したララは相手のコート側から向こうに広がる光景を前に首を傾げ、その姿に真白が静かに告げた。当然その後試合を続ける事等出来ず、ボロボロの沙姫がララ相手に怒るのを前に半ば逃げるに近い形で一同は帰る事となった。

 

 

 

 翌日、海に起きた現象がニュースとして報道されるのを苦笑いしながら見る事となったリトと美柑。大破した天条院家のプライベートビーチには破壊の後が残り、海には原型を留められずにバラバラとなったボールの残骸が浮かび続けるのであった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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