【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第52話 美柑、熱に倒れる

 登校する前、結城家へと赴き料理を作る事を日課としている真白はその日も美柑と共に料理を作ろうとしていた。だが、同じキッチンに並んで立つ美柑の姿に真白は動かしていた手を突然止める。そして隣に居た美柑の手を突然掴むと、持っていた物を降ろさせて何も言わずに自らの額を合わせ始めた。

 

「……え?」

 

「……美柑。……熱、ある」

 

 余りにも突然な出来事に赤い顔をし乍ら驚き戸惑う美柑。しかしその赤く火照った顔は恥ずかしさでは無く、彼女が現在熱を出しているからに他ならなかった。火に掛けているものなどは何も無かった為に、キッチンから美柑を連れてリビングへと出る真白。椅子に座ってその光景を見ていたヤミが、真白が何かを言う前に小さな機械を手渡す。それは人の体温を測る事の出来る、体温計であった。

 

「大丈夫、だよ?」

 

「……」

 

 心配させない為か、弱々しく笑みを浮かべながら告げる美柑。だが真白はそれで納得する事無く、無言で受け取った体温計を美柑の前に差し出す。このままでは測らない限り離れられないと感じたのだろう。美柑はそれを受け取ると、服の首元から自らの脇にそれを挟ませる。結果が出るまで真白はその場に居る様で、誰も居ないキッチンと時間を見て美柑は口を開いた。

 

「朝ごはん、作らないと……」

 

「……駄目」

 

「でも……」

 

 何時もやっている事をやらない訳には行かないという様にキッチンに立とうとする美柑。その肩を抑え、もう1度椅子へと座らせた真白はヤミと一度視線を合わせた後にその場から離れる。ダイニングになっているキッチンはリビングに座る美柑の姿と、監視する様に見つめるヤミの姿を捉える事が出来、真白は美柑が無理をしないか確認しながら料理を再開した。

 

 少し時間が経った時、小さな電子音が響き始める。それは美柑が脇に挟んだ体温計であり、それを抜いて確認した美柑は少し驚いた様子を見せる。すると、電子音を聞いた真白が確認する為に近づき始めた。が、美柑はすぐにその体温計の電源を切ってしまい、結果を真白には見えない様にしてしまう。当然美柑の行動は良いものでは無く、ジト目になって見つめる真白。そんな姿に美柑は力が出ない身体を動かして、「大丈夫だから! ね?」と答えた。どうしても熱がある事を認めたくない様子であり、真白はこれ以上何を言っても聞かないと諦めた様子で小さく溜息を吐く。しかし今だけでもと考えたのか、美柑にはそのまま座って貰う様に告げた。不服そうだが、仕方なくそれに従う美柑。目だけを合わし、美柑が無理をしない様に見て欲しいと伝えられたヤミは頷いて返した。

 

 その後、朝食の時間になって現れたリトとララは何時も通りに騒がしい食事を行う。何処か元気の無い美柑の姿にリトも気付いた様で、心配する姿を見せるも美柑は真白の時同様に強がるばかり。朝食を終え、学校へと向かう時にも心配そうにする真白達を他所に美柑はフラフラとした視界の中で懸命に学校へと向かい続ける。

 

 そして数時間後、休み時間に小学校で結城 美柑が倒れた事を真白達は知らされるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美柑が目を覚ました時、最初に見えた景色は自分の部屋の天井であった。最後の記憶は教室でふらつき、倒れてしまった時の光景。心配する生徒達の声と、先生の『すぐに保健室に! それと親御さんに連絡を!』と言う声に忙しいであろう林檎と才培に迷惑を掛けまいと止めようとした自分の行動。美柑の家の事情を知っていた担任の新田 晴子はすぐに姉と紹介された人物を思いだし、その人と連絡を取る為に行動を開始した。幸いにも家庭訪問の日、真白は彩南高校の制服を着ていた為に何処の学校かはすぐに判断できた。電話の中で、あの日居なかった兄の存在を知らされながらも無事に連絡が付いた後、数分で現れた姉の姿に安堵すると同時に車も使わず、早退の手続きを瞬時に終えて連れて帰った行動力に驚き顔であった。

 

「あぁ……そっか。私……?」

 

「……美柑」

 

「あれ……? 真白、さん?」

 

 自分が倒れた事を思いだした美柑は独り言の様に呟いた。だがその声に同じ部屋、美柑の眠るすぐ傍に居た真白が反応する。そこでようやく真白の存在に気付いた美柑はボーっとする頭の中で、それでも何故真白がここに居るのかと困惑した。時間を見ればまだ学校は終わっておらず、ここに居てはいけない筈。自分が自分の家の部屋に居る事も考え、美柑はすぐに答えへ行きついた。

 

「御免ね……迷惑、掛けちゃって。私が朝、ちゃんと真白さんの言う事を聞いてれば……」

 

「……」

 

 美柑が倒れたという連絡を聞き、真白は早退したのだ。本来なら実の兄であるリトが早退するか、両親に連絡して引き取ってもらうのが普通である。だが担任が唯一分かる美柑の肉親は姉と紹介された真白であり、両親に連絡することは美柑自身が嫌がった。そして何よりもリトが迎えに行くより、真白が迎えに行く方が速かったのだ。当然リトにも美柑が倒れた事は知らされているが、真白が行くことを伝えると同時に同じ様に早退しようとするリトを止めたのである。

 

 真白を早退させた。少なくともそれは真白にとって、良い事では決してない。迷惑を掛けたと自分を責め、謝る美柑の姿に真白は何を言うでも無くゆっくりと手を伸ばす。そして何も言わずに、布団の中で横になる美柑の身体を抱きしめた。

 

「真白……さん?」

 

「……無事で……良かった」

 

 美柑は抱きしめられた事に驚くが、唯一言告げられた言葉に目を見開く。怒る訳でも呆れる訳でも無く、唯静かに告げられた言葉。それは間違い無く今現在話をする自分の姿に安心している様であり、美柑は以前思いだした真白の過去を再び思いだし始める。何よりも真白が恐れる事……それは、家族が消える事。

 

 その後しばらくの間、抱きしめられ続けた美柑。真白が美柑の風邪を貰う可能性は低く、気の済むまで抱きしめた後に真白は今日1日は絶対安静にする様に美柑へ告げる。朝の様な強がりはせず、真白の言葉に頷いて美柑は了承した。

 

「大丈夫そうですか?」

 

「ん……美柑を……お願い」

 

「分かりました」

 

 素直に休むことを約束した美柑に安心した真白は、結城家の家事をする為に部屋を出る。するとそこには真白の早退によって当然の様について来たヤミが立っており、彼女もまた心配そうに真白へ美柑の容体について質問する。ヤミにとって真白の次に共に居る時間が長いのは、美柑なのだ。真白の頷きに表情は薄くとも安心した様子を見せるヤミに美柑をお願いした時、ヤミは了承と同時に頷いて部屋の中へと入れ替わりに入って行く。その光景を見た後、真白は1階に降りて作業を開始した。

 

 本来は美柑がやっている家事も、今日は全て真白が担当。早退した為に時間は沢山あり、洗濯から風呂の掃除まで全てを熟し続ける。そうして時間が経過した時、廊下を歩く真白の目の前で玄関の鍵が外から開けられる。それも急ぐ様にして。

 

「美柑! 真白? 美柑は!?」

 

「……」

 

 学校が終わったのだろう。汗を掻き、走って帰って来た様子が伺えるリトの大声に真白は口元に指を置いて静かにする様に伝える。焦っていたが故に気付いていなかった様で、リトはその行動に少しだけ冷静になった。

 

「悪い。……それで、美柑は大丈夫なのか?」

 

「ん……今は……部屋。……多分、風邪」

 

「熱があるんだろ?」

 

 美柑の容体について説明した時、リトの言葉に真白は頷いた。朝、熱を測った際に隠されてしまった体温計。美柑が寝て居る間に真白が勝手に計った時、それは39℃という高熱を示した。大人でも苦しむ温度であり、小学生である美柑なら倒れても不思議では無い温度だ。恐らく朝はもう少し低く、無理をした為に上がったのだろう。美柑が自分を責める様に、真白もまた止められなかった事を内心で悔いていた。っと、何も変わらない表情からでも理解した様にリトが溜息を吐く。

 

「気付けなかったのは俺も同じだ。だから、真白のせいじゃないって」

 

「……」

 

「幸い明日明後日は休みだしさ。出来る事は、俺達もやる。だから、元気だそうぜ!」

 

 リトの励ましに頷いた後、遅れてララも帰宅する。リトとララでは身体能力に大きな差がある筈だが、妹を思う兄の気持ちはそれを超えたのだろう。汗は掻かずとも急いで帰って来たのは同じ様であり、リトと同様に美柑を心配するララへリトが聞いた容体を伝え乍ら様子を見に行くことを提案する。その際には絶対に騒がない事をララに約束させて。

 

「真白。何か、する事はありますか?」

 

 美柑の傍に居たヤミがリト達と入れ替わりに1階へと降り、真白の元にやって来ると手伝いを申し出る。だが今すぐにやるべき事は余りなく、首を横に振った真白に「そうですか」と少しだけ残念そうに答えたヤミ。すると、2階から降りて来る足音に2人は視線を向けた。降りて来たのはリトであり、美柑の様子を確認し終わった彼は真っ直ぐに何かを確認する為に冷蔵庫へと向かう。

 

「やっぱりな。真白! 俺とララで、買い出しに行ってくる」

 

「買い出しですか……料理を作る真白が行くべきでは? 荷物なら沢山持てますし」

 

「いや、真白は帰ってすぐに色々やってるからな。出来れば、美柑の傍に居てやってくれ」

 

「……分かった」

 

 真白と美柑が料理をする事が多くても、買い出しに行くのは美柑だけ。冷蔵庫などを使う事はあれど、やはり家に住んでいるリトの方がその中身について覚えていたのだろう。リトの提案に今現在やる事の無いヤミは真白の役に立つ為に提案するが、リトは首を横に振って答えた後に何処か優しい目で真白にお願いをする。真白は首を傾げながらも、頷くとララを呼んで買い出しに出ようとするリトを見送った。

 

 夕ご飯の支度以外にする事が無くなった真白は、リトの言う通りに美柑の元へと向かい始める。ヤミは付いて行こうと最初はするも、2人で中に居続けるのは余り良く無いと考えて再び扉の前に待機。部屋の扉が開いた事で、横になっていた美柑が顔を向けて真白の姿を確認した。

 

「真白さん。ありがとう」

 

「?」

 

「家事とか、してくれたんでしょ? リトが言ってたよ」

 

 どうやら真白の行動はリトを通して聞いていた様で、美柑はそれに笑みを浮かべてお礼を言う。真白はそれに頷いて答えた後、美柑の横になるベッドのすぐ傍に座り込んだ。そして何を言うでも無く、ゆっくりと延びたその手は美柑の頭の上へと触れた。

 

「ふぇ?」

 

「?」

 

 優しく撫でる真白の手に一瞬訳が分からずに声を出した美柑。真白は戸惑う美柑の姿に首を傾げながらも手を止めず、やがて理解した様に美柑の頬に赤みが増す。熱が上がったのかと思った真白は膝立ちになると、今度は朝同様に額を合わせ始める。朝はボーっとしていたが故に余り動揺しなかった美柑。だが、しばらく休んだ事で多少なりとも回復したのだろう。間近に見える真白の顔に爆発寸前になった美柑だが、するより速く静かに離れる真白に心の底から安心する。

 

「……計る」

 

「あ……うん」

 

 額では温度を数値化する事が出来ない。故に熱が上がったと勘違いした真白は傍に置いてあった体温計を差し出す。美柑はそれを受け取り、脇に挟んで横になっていたベッドの上で座る体制になった。

 

「ね、ねぇ……さっきなんで、頭を撫でたの?」

 

「? ……何となく」

 

「な、何となくなんだ……」

 

 未だに残る頭を撫でる感覚を思いだしながら質問した時、真白の答えに美柑はリトの様に頬を掻きながら苦笑いを浮かべる。しかし心の何処かで名残惜しいと感じており、それを言いだせない恥ずかしさに葛藤し始めた美柑。するとその様子に気付いた真白は再び手を伸ばしてその頭を撫で始める。小さく「ぁ」と声を漏らした美柑は、それを止めさせる事も出来ずに受け入れ続けた。すると突然、電子音が鳴った事で美柑は我に返る。

 

「えっと、熱は……あ、少し下がってる」

 

「……見せて」

 

 美柑の言葉に朝動揺に体温計を受け取ろうとする真白。今度は隠すことも無く差し出されたそれを受け取り、見て見れば小さな画面に37.5℃と表示されていた。微熱とも言えない温度だが、下がった事には変わりない。故に安心した様に体温計を置いた後、真白はもう1度美柑に横になる様に言う。そして言われた通り横になった美柑の頭を三度撫で始めた。美柑は何も言わないが、嫌がっていない事だけは明らかだった為に。

 

「ぉねぇ……ちゃん……」

 

「?」

 

「な、何でも無い! お休み、真白さん」

 

「ん……お休み」

 

 眠ろうとする美柑が真白を見て微かに呟いた言葉は真白に届く事無く、首を傾げたその姿に再び顔を赤くしながらも掛け布団を口元にまで持って行って有耶無耶にすると、眠る為に真白へ告げた。真白もその言葉に頷いた後に答え、頭を撫でられながら美柑はやがて眠りに付く。その後、無事に買いだしを終えたリト達が帰宅。入れ替わりで美柑の傍に誰かが付き、お粥を作るなどした後に真白とヤミは帰宅。次の日には熱も下がり、それでも安静にする様に言われた美柑が平日を迎えた時、無事に元気な姿が見られる様になったのであった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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