【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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【5話】完成。本日より5日間、投稿致します。


第46話 転校生は幽霊少女

「さて、これで良いわ」

 

「……ありがとう」

 

 御門の家にて。その家の主である御門が機械を操作しながら、やがて軽く弾く様にして指を離すと傍に立っていた真白へ回る椅子を回転させながら告げる。真白はその言葉に頷いた後、以前ヤミが眠っていた際に使われていた巨大カプセルの中に眠る1人の少女の姿を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「村雨 静と申します! お静って読んでください!」

 

 その自己紹介に教室の中が一瞬固まり、半数以上の生徒達がやがて我に返った様に歓迎の声を上げる。だがリトを初めとした一部の生徒達はその存在に驚いたまま固まり続けていた。それもその筈、村雨 静と名乗った少女の姿を幽霊として見た事があるからである。しかし教壇の前で自己紹介をしてやや薄い紫色の長い髪を地面に落としながらお辞儀をするその姿は明らかに人であった。故にリトは生き返っていると言う事実に驚愕し、唯は信じられないとばかりに放心。春菜も驚き、里紗と未央でさえ驚き戸惑っている様子であった。唯一驚かずに喜びの反応を示すのはララのみ。真白は反応する事無く、その光景を見つめていた。

 

 教室の中での騒ぎはしばらく続き、お昼休みになるまでお静は自由に行動することが出来ない程であった。だがようやく自由の身になった時、お静は立ち上がると同時にある場所へと向かう。その先に居たのはお弁当の入った包みを手に立ち上がろうとしていた真白であった。

 

「真白さん真白さん! お弁当、一緒に食べましょう!」

 

「……ん」

 

≪ちょっと待った!!≫

 

 真白と数㎝程の差で顔を合わせて昼食を誘うお静に真白は特に驚く事も無く頷いて返すと、共に教室から出ようとする。扉を開けた際、その奥に金色の髪が微かに見えた事からヤミも居るのだろう。だが当たり前の様に出て行く2人の姿に思わずリト達が一斉に待ったを掛ける。どうして今お静がここに居られる様になったのか、知らない故に。

 

「いや、凄く自然にしてるけどさ、お静ちゃんはどうやってここに?」

 

「ゆ、幽霊だったよね?」

 

「あ、はい。因みに今も幽霊ですよ? 唯この身体に憑依してるんです!」

 

 里紗と未央が代表する様に質問すると、お静は当たり前の様に答える。だがその答えに全員が思いつくのは誰かの身体を勝手に使っていると言う事だった。しかしそれを察した様に真白が首を横に振ると、お静の前に出る。

 

「……御門……先生」

 

 たった一言だが、その言葉に全員は納得するのだった。

 

 その後、詳しい話を聞きたいと言う事で、お静の正体を知っている一同は御門の居る保健室へ。そこでは既に食べ始めようとした御門が居り、入って来た全員の姿に箸を口に入れたところで振り返る。そしてそのまま首を傾げた。

 

「随分と大所帯ね。差し詰めお静ちゃんの事、かしら?」

 

 お静と共に入って来たことで用事をすぐに察した御門の言葉に全員が頷くと、御門は一度溜息を吐いてから箸を置いて全員に身体を向けた。

 

「真白からお願いされてね、彼女の為に人工体(バイオロイド)を作ったのよ」

 

「バイオロイド?」

 

「えぇ。有機物だけで構成された、限りなく生体に近いロボットって所ね」

 

「私、実体が欲しかったんです。以前春菜さんの身体を勝手に借りちゃって、皆さんに凄い迷惑を掛けてしまいました。だからあの後、真白さんが貸してくれるって言ってくれたんですけど、お断りしたんです」

 

「……借りるのは、駄目……なら」

 

「新しい身体を作ってしまえば良い。そう言う事よ」

 

 御門の説明、お静の思い、そして真白の行動力。その3つが合わさって出来た目の前の光景にリトは開いた口が塞がらなかった。が、その説明で完全に納得したララ達はお静に久しぶりに身体を動かす感想などを聞き始める。するとお静は着ていた制服のスカート部分を触りながら足が出る事に中々慣れないと答える。しかしその言葉で里紗と未央の2人の視線はお静の綺麗な足をロックオン。抱き着き、触り始めた事で保健室内には悲鳴が木魂した。唯一の男子であったリトはその光景に顔を真っ赤にし、戸惑いながらも何とか納得した唯がそれを止めようとする中、御門はその光景に微かに微笑む。

 

「良かったわね」

 

「……ん」

 

 幽霊のままでは絶対に起きず、見られない光景。わき合い合いとしているその雰囲気に御門が呟くと、真白が小さく頷いてそれに共感を示す。

 

「そろそろ食べましょう。次の授業に間に合いません」

 

「あ、そう言えば私達、お昼ご飯まだだったね?」

 

「じゃあ皆で食べよっか。偶には良いじゃん?」

 

「さんせ~い!」

 

 教室から出た際に合流し、共に着ていたヤミの言葉に春菜が反応する。そして言った言葉に全員が時計を見た。まだ食べる時間はあるが、ゆっくり食べるにはそろそろ厳しい時間であった。春菜の言葉にお静の足弄りを止めた里紗と未央は全員で食べる事を提案。その中には御門も含まれており、何処で食べるかは言わずもがなであった。特に問題がある訳でも無い様で御門は何も言わず、全員は昼休み故に持っていたお弁当をその場で開け始める。

 

「椅子はその辺にあるわ。全員分は無いけれど」

 

「ではでは真白さん! 一緒にベッドに座りましょう!」

 

「あ、私も!」

 

 今現在保健室に居るのは10人。数人なら椅子が用意されていても、10人となれば流石に想定外だった故に椅子の数は足りなかった。しかしそれを聞いてお静はすぐにカーテンで囲われていたベッドに近づくと、カーテンを完全に開けて座ると同時に自分の横を数回叩いて並んで座る様に促す。もしも誰か生徒が体調を悪くしていたりすれば、御門を抜いた9人が来ている事態で大迷惑だが……運よく誰も居ない故にその心配は無かった。お静の誘いに真白は頷いた後に隣へ。ララも反対に座り、左右が埋まった光景にヤミは何も言わずに4つあった椅子の内1つを持って真白の前に向かい合う形で座る。

 

「ここに並んで座ろっか?」

 

「じゃああたしここね? 結城は春菜の隣ね」

 

「えぇ!?」

 

 ヤミが座った事で同じ様にヤミの隣、お静の向かい側に座る里紗。それに乗じて未央もその隣に座り、唯一の男子だった故に混ざる事に抵抗があったリトは拒否権の無い一言とその場所に驚き戸惑う。椅子は後1つだけ残っており、春菜は唯と話をした後に椅子では無くお静の隣、未央の前に座る。故にリトはその隣に顔を赤くしながらも座り、唯は楽しそうに席を考える目の前の光景に溜息を吐きながらヤミの隣、ララの前へ座る。結果、席順はベッドにララ・真白・お静・春菜・リトとなり、その向かいに唯・ヤミ・里紗・未央となった。そして始める騒がしい時間。御門はその光景に他に人も居ない為に何も言わずに背を向けようとして、真白と目が合う。

 

「……」

 

「……はぁ、仕方ないわね」

 

 何も言わずに、しかしその目が言いたいことを訴えかけていた事で御門は微かに微笑みながらも呟いて座っていた椅子を動かす。そして唯とララの間、全員が見える場所にその位置を動かした。最初は驚いた唯とララだが、真白が頷いてから食べだしたことで理由を察して何も言う事は無く迎え入れる。……その後、保健室で楽しく昼食の時間を過ごした一同は食べ終わるまで保健室に居続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄く美味しかったです! 今度また、分けてください!」

 

「ん」

 

 昼食を終え、教室へと戻る為に廊下を歩いていた一同。授業に向かうためヤミとは既に別れ、歩きながらする話は昼食の時に分け合っていたおかずについてであった。真白と美柑が作ったお弁当と聞き、真白たちが以前した様な分け合いっこを今回共にしたお静。その場には10人も居た為、その交換は壮大なものとなった。だが結果的にお静を含めて全員が満足のいく昼食となり、また今度したいと言うお静の言葉に頷いて返した真白。するとその時、並んで歩いていたお静の足が自分の足に引っかかって倒れてしまう。余りに突然の事に誰も反応できず、お静の顔は地面に直撃。思わず悲鳴に近い声を上げる春菜達を前に、真白は急いでその傍に近づく。が、すぐに顔は上を向いた。

 

『自分の足で歩くのって久しぶりで、まだ慣れません……あはは』

 

 そこには本当に幽体離脱したお静の姿があり、後ろ髪を掻きながら答えるその姿は自分が離れていると気付いていない様であった。故に全員が教えた時、少し離れた場所から全員の担任である年老いた教師、骨川先生が近づき始める。リトがそれに気付くと早く戻る様に言うが、中々戻る事の出来ないお静。やがて骨川は倒れているお静に気付き、明らかに死んでいるその身体を見て驚きの余りお静と同じ様に幽体離脱しそうになる。が、間一髪その魂を骨川の身体に押し戻してそれを阻止した。その後すぐにお静も元に戻り、一瞬記憶が抜けていると言う骨川に夢であったと説明。難を逃れたが……また新しい問題が現れる。

 

「あれ? よく見かける野良犬くんが居るよ?」

 

「野良……犬……!?」

 

 ララが少し離れた場所に居た犬を発見したのだ。そしてその言葉でお静は犬の姿を確認してしまう。お静にとって一番苦手な存在と言えば、それは犬だろう。故にその存在に気付いた時、声にならない悲鳴と共に周辺にあったゴミ箱などが動き始める。それは所謂ポルターガイスト現象であり、その原因は間違い無くお静であった。

 

「いやぁぁぁぁ!」

 

 何故かお静に反応する様に犬が吠え、それに更に恐怖するお静。やがて傍に居た里紗に近づけば、現象を受けて里紗の制服のボタンが一斉に弾け飛ぶ。余りに突然の事に反応できない里紗と、それを間近で見てしまったリト。犬に追われ、お静は逃げ惑いながらやがて真白に助けを求める様に駆け寄り始める。もしも触れればどうなるかは明白だが、それを拒否する訳にも行かなかった真白は結果的にその身体を受け止める様に前から抱きしめた。途端、案の定制服が壊れるものの、お静が被さっている為に晒される事は何とか防がれる。っと、真白は抱き留めたままララに視線を向けた。

 

「……犬……駄目」

 

「へ?」

 

「ララ様! 真白さんが言いたいのは犬を遠ざけ欲しいと言う事だと思われます!」

 

「あ、そっか! うん、任せて! ぴょんぴょんワープくん!」

 

 真白の言葉の意味に一瞬驚き、しかしペケの通訳ですぐに了解したララはウサギに似たモチーフのリングを犬に投げる。綺麗にそれは犬に引っかかり、その場から消失。犬が居なくなった事で脅威は去ったが、気付かないお静は未だに怯えている為にポルターガイストは続いていた。

 

「……もう、平気」

 

「怖いです! 犬怖いです!」

 

 もう居ない事を伝えるも、一切気付く様子も無く声も届かない程に怯えるその姿に真白は成す術が無かった。一番近くに居る真白がどうにも出来ない事にどうすべきか迷う中、春菜が意を決した様に近づき始める。2人の周りは物が飛び回り、非常に危険だが、それでも構う事無く近づき続ける春菜。やがて物が一度額に直撃するも、お静の後ろに立った春菜は真白とは反対側からその身体を抱きしめ始める。真白も一緒に包む様にして。そこで初めて、お静は新しい誰かの感覚に顔を上げる。

 

「もう、大丈夫だよ。お静ちゃん」

 

「春菜、さん……? ! ま、真白さんの制服が!」

 

 ようやく我に返ったお静は自分の目の前に映る真白の制服が崩壊した裸同然の姿に驚きの声を上げる。しかしポルターガイスト現象は無事に収まり、その後里紗と真白は制服を何とか元に戻す。ボタンなどは弾けてしまって居る為に簡単な修復で済まし、その後何とか全員は午後の授業を迎える事が出来た。……そして

 

「皆さん、今日は色々ごめんなさい。元々犬は苦手で、噛み付かれると思ったら更に怖くなってしまって」

 

「今は生身の人間だもんね? 仕方ないって」

 

 放課後、今日1日の出来事に関して謝るお静に里紗は気にしていない様子で笑顔を見せ乍ら答える。他の全員も気にしておらず、お静はその事に安心すると春菜に視線を向けた。

 

「春菜さん、ありがとうございました」

 

「え? わ、私は何もしてないよ……」

 

「誰かに抱きしめられる感触、暖かさ。長い間、忘れてたんです。だから春菜さんに抱きしめられた時、あんなに安心出来るんだって、思い出しました」

 

 長い時を旧校舎で過ごし、人と接することを長くしていなかったお静にとって温もりとは忘れていたものに近かった。だからこそ、温もりを得る事はあっても与えられる事の無かったお静はあの時、春菜に間違い無く救われたのである。お静の言葉にその場に居た全員が思わず笑顔になる中、お静は笑みを浮かべて今度は真白に視線を向ける。

 

「真白さん。私、身体を持てて嬉しいです! だから、ありがとうございます!」

 

「……ん」

 

 お静の言葉に普段通り、静かに頷いて返す真白。だがその声の中に交じる微かな感情に気付いた者は、その光景に改めて笑みを浮かべた。

 

「改めて、これから皆さん! よろしくお願いします!」

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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