【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第45話 大浴場で大乱闘

 真白とヤミはとある建物の前で立ち止まる。『彩南 ぽかぽか温泉』と大きな看板が掲げられたそこは彩南町に存在する大きな浴場施設であり、結城家へと行かない日曜日は毎週ここへ2人で来ていた。腕に桶とタオルを抱えて2人は暖簾をくぐり、番台に座る者へ2人分の料金を支払うと中へ。男湯と女湯に分かれている為、真白たちは女湯に向かう為に足を進め始めた時、突然呼びかけられた事で2人は振り返る。

 

「真白にヤミちゃんだ!」

 

「……ララ?」

 

 暖簾をくぐり、番台の向こう側で桃色の長い髪と特徴的な黒い尻尾を揺らしながら大きく手を振って名前を呼ぶのはララであった。真白がララの存在に首を傾げる中、暖簾が捲りあげられて更に入って来るお客達。それは一様に真白たちの見知った存在であった。

 

「あれ、三夢音さん? それにえっと……ヤミさん、だよね? 奇遇だね?」

 

「何してんだよ、こんな所で」

 

「いや、お風呂に入りに来たに決まってんじゃん」

 

 最初に入り、真白たちの姿に気付いて声を掛けたのは春菜であった。そして次にリトが、続けて美柑が入って来るなり真白に気付きながら話し始める。真白はどうしてリト達が浴場に来たのか分からずに首を傾げる中、番台に居る者にお金を払って入場した美柑が説明を始める。何でもララが買って来た入浴剤が可笑しなものだったらしく、お風呂が詰まって使えなくなってしまったとの事であった。

 

「せっかくだし、一緒に入ろうよ!」

 

 大きな浴場施設の為、同じ時間に入る事はつまり一緒に入浴することと同じ。真白は美柑の言葉に頷いて、そのまま並んで女湯の暖簾をくぐって奥へと進み始める。ヤミも美柑の反対に並んでついて行き、ララが入って行く3人の光景に追い掛ける様にして、春菜がそんなララに引っ張られて女湯の暖簾をくぐって行く。走り出したララに注意をし乍らも1人残されたリトは男湯へ。そうして男女は別になり、脱衣所は男性の方は静かに。女性の方は騒がしくなりはじめる。

 

「色んなお風呂があるんだね! 行ってみようよ! ? 真白?」

 

 浴場へと続く扉を開けて中へとタオルを片手に裸で入ったララ。春菜と真白たちもその後ろについて行く形で入り、ララは中を見て楽しそうに言うと走りだそうとする。だが真白が瞬時にその腕を掴んで止めれば、ララが真白を見て首を傾げる。真白は首を横に振るだけで、何を伝えたいのかララは完全には分からなかった。っと、それを見ていた春菜が微笑みながら真白の代わりに口を開く。

 

「ここは私達以外にも色んな人が居るから、走ったり騒ぎ過ぎたりしちゃ駄目だよ?」

 

「あ、そっか……うん! 気を付けるよ!」

 

「ん……」

 

 春菜の言葉を聞いてララは納得しながら真白に告げる。その言葉で安心した様に真白が頷いてその手を離すと、ララは気になる場所へと早歩きで移動し始める。春菜はララについて行くかここに残るか迷い始めている様で、真白は気付けば離れて湯船に浸かっているヤミと反応が薄くともヤミに話しかける美柑の姿を見た後に春菜へと視線を向ける。

 

「……入る」

 

「あ、うん……そうだね」

 

 決して仲が悪い訳では無い。だが2人だけで話す機会など殆ど無かった為にどうしようかと迷っていた春菜は突然言った真白の言葉に少しだけ驚きながらも頷いて返す。そして2人は特別な事は何も無いシンプルな湯船へと浸かり始める。真白は基本話すことが無い為に無言の時間が続き、何もせずに唯浸かる真白と、チラチラと真白を見ながら苦笑いを浮かべる春菜。そんな時間が少しだけ続くも、意を決した様に春菜が口を開く。

 

「ま、真白さん。身体は大丈夫?」

 

「? ……平気」

 

 春菜の質問に首を傾げながらも、やがて以前あった出来事を思いだすと真白は腕等を見せ乍ら答える。たった1度の会話だが、春菜は真白の答えに安心すると同時に居心地の悪さの様なものを感じなくなり始める。そして立ち上がると、湯船に肩まで浸かっている真白に手を伸ばした。

 

「ララさんも行ってるし、私達も色んなお風呂に行ってみよっか?」

 

「…………ん」

 

 真白は春菜の誘いに少し考える様に無言でいたが、やがて頷きながら春菜の手を取ると立ち上がる。そして湯船から出てララが行った方向を確認しながら向かおうとしたその時、突然の轟音にその場所へと振り向く。

 

『見つけたぜ……金色の闇!』

 

 壁が破壊され、そこから入って来る巨大なロボット。そこから聞こえて来るのは男の声であり、呼ばれたヤミは……美柑を庇いながらロボットを見つめていた。周りにいた女性客たちは一様に逃げ出しており、春菜も目の前の光景に驚く中、真白はタオルを肩から巻いて何事も無い様に2人の元へ。春菜がそれに気付いて声を掛ければ、止まった後に春菜へ振り返って顔を横に振る。恐らく近づかない方が良いと伝えたいのだろう。

 

「ソルゲム製の無人型戦闘ロボット……私が目的の様ですが、何者ですか?」

 

『賞金稼ぎさ! お前を倒して懸賞金は頂くぜ!』

 

「そうですか……なら、遠慮なく破壊させて貰います」

 

 ヤミは真白と再開する以前、暗殺者として生きていた。故にその首には懸賞金が掛けられており、男はそれを狙ってどうやらヤミを襲いに来た様である。話をしていたヤミだが、帰って来た言葉と向かってくる攻撃に静かに返答をすると同時に飛び上がる。そしてカメラの付いている首と思わしき場所を捻りながら破壊し、続いて髪を刃にして機械を一瞬にしてバラバラにしてしまう。明らかにやり過ぎに近い光景に男の声が驚く中、ヤミは持っていた首の部分をバラバラになった機械の中に放り投げた。

 

『そ、そこまで破壊する必要があるのか!?』

 

「貴方がソルゲムの関係者かは分かりませんが、私はこの組織の製品が大嫌いですので」

 

『くっ、まさか登場から会話含め13行で破壊されるとは……だが、これならどうだ!』

 

 男の声と同時に今度はロボットよりも小さい何かが浴場に着地する。それは真白たちの見知った存在であり、本来ならば女湯に居ない筈の存在。

 

「身体が勝手に!」

 

「リト!? あんた何で堂々と入って来てんのよ!」

 

「……! 何か……ついてる?」

 

「アンテナ……ですか」

 

 腰にタオルを巻いた状態でぎこちない動きをし乍ら歩くリトの姿に美柑が驚きながらも怒る。しかし真白は頭に普段のリトには絶対に付いていない何かが付いているのに気付き、ヤミが目を細めながら告げる。すると男の声は笑いながら説明を始めた。リトには生体制御が可能なアンテナを取り付け、今は男の意のままに操れる様になっていると。そしてリトを選んだ理由は、

 

『金色の闇が唯一仕留め損なった男……これ以上に強い味方は居ねぇよな!』

 

「……」

 

 大きな勘違いによるものであった。【何時でも殺せるが、真白の家族故に殺せない】。そんな理由を知らない故の勘違いにヤミが無言になる中、ゆっくりと真白に振り返る。

 

「これを機会に抹殺しては駄目ですか?」

 

「や、ヤミ!?」

 

「……駄目」

 

 ヤミの提案にリトが恐怖を感じ乍ら名前を呼ぶ中、真白は静かに首を横に振って答える。すると突然リトが走り始め、ヤミへと襲い掛かった。リト自身を攻撃出来ない為にアンテナを破壊しようとしたヤミ。だがその時、ヤミが何をするのか分かった様で男の声が響く。

 

『はっはっは! アンテナを破壊したらその瞬間にドカン! こいつは死ぬぜ!』

 

「!?」

 

 男の声に寸前で攻撃を止めたヤミ。だが襲い掛かるリトは止まらずにその手がヤミに届きそうになった瞬間、突然ヤミの身体は横から攫われて違う場所へと移動させられる。勢い余ったリトの身体は地面に激突、ヤミは自分を抱擁する相手……真白を見る。

 

「助かりました、真白」

 

「ん……」

 

「真白さん! リトを操ってる奴を私、探してくるよ!」

 

「……」

 

「大丈夫だから! 私を信じて!」

 

「!」

 

 ヤミがお礼を言うと同時に2人の元に駆け付けた美柑。そんな彼女の提案に真白は首を横に振った。相手は間違い無く宇宙人であり、美柑を危険な目に遭わせる訳には行かない。そう思ったのだろう。だが自分の胸に手を当てて告げる美柑の言葉に真白はリトが言った言葉を思い出す。それは初めて宇宙人の悪意に巻き込まれた時、改めて家族になった時に告げられた言葉。真白はそれを思いだし、美柑を見つめる。そして……頷いた。

 

「! 行ってくる!」

 

 真白の行動に美柑は強く頷き返して走りだす。っと、未だに腕の中に居たヤミが静かに解放された。ヤミは去って行く美柑の姿を見つめた後、真白を見ると口を開く。

 

「危険なのでは?」

 

「……平気……美柑は、強い」

 

 ヤミは真白の言葉に少し首を傾げるが、真白の背後に迫り始めていたリトに気付くと真白を髪で包んで横へと跳躍する。今度は真白が助けられた為、ヤミへとお礼を言えば2人はリトへと視線を向けた。未だにぎこちない動きを見せているが、それが操られている事を証明していた。

 

「……時間……稼ぎ」

 

「美柑が見つけるまで、ですね。仕方ありません」

 

『さっきも言ったがアンテナを壊せばこいつは死ぬ! 大人しく捕まれ、金色の闇!』

 

「俺の、身体ぁ~!」

 

 戦う覚悟を決めた様に並ぶ2人。そんな姿を何処から見てるのかは分からないが、余裕そうに男の声が告げる。リトは必死に抵抗しようとしている様だが上手く行っておらず、そんな彼の顔が自分達へと向いた時、走りだしたことでヤミは気付いた。

 

「どうやら結城 リトの見えている視界を介して此方を見ている様ですね」

 

「……目隠し」

 

 ヤミの言葉に真白は静かに呟くと、2人は反対に飛ぶ。最初から狙われているのはヤミだった為、リトはヤミが飛んだ方向へ。だがその身体が真白に背を向けた瞬間、真白が背後からリトの目元に自分が付けていたタオルを巻きつけ始める。男の驚く声とリトの戸惑う声を尻目に、タオルを簡単には外せない様にきつく巻き付け……やがてリトの目は完全にタオルに覆われて塞がれる。焦る男の声を尻目に、ヤミが駆け寄ると今度は見えていないリトを地面に倒してその四肢を髪で完全に拘束した。

 

「例え操れても、その力を増幅させるのは不可能です。地球人である結城 リトを選んだのは間違いでしたね」

 

『くそっ! これじゃあ何も見えねぇじゃねぇか! せっかくの裸がぁ!』

 

「真白さん! ヤミさん! 見つけたよ!」

 

『何っ!』

 

 地球人と宇宙人では明らかに力などに差が有る為、運動神経が例え良くとも宇宙人であるヤミの込められた力にリトが適う訳が無かった。故に何も出来なくなり、悔しがる男の声にここに来た本当の目的が明らかになる中、突然遠くから聞こえた美柑の声に真白が顔を上げる。そしてそれと同時にその姿がその場から消えた。

 

『この餓鬼! こうなったらこいつを……ひっ! お前何時からそこに!? って、お? 中々に冥福な……ま、待て! 何だそれは!? 分かった! 俺が悪、ぎゃあぁぁぁぁぁ!!』

 

「……終わりましたね」

 

「もがもがもがっ!」

 

 聞こえて来る男の声は明らかに美柑に何かをしようとした。だがそれよりも早く現れた存在、恐らく真白であろうその姿に最初は歓喜し、次に恐怖して許しを請うも受け入れて貰えず、悲鳴が木魂する。っと何かを破壊する様な音が響き、それと同時にリトが自由を取り戻した。ヤミは聞こえて来る声に安心し、リトはもう平気な為に拘束を解いて欲しいとばかりに声を上げるが……ヤミはそれを冷たい目で見降ろした。

 

「今更ですがそのタオルは真白が巻いていた物だった筈……」

 

「もがっ!? もがが!!」

 

 その後、簡単に操られる様になってしまったお仕置きの様に酷い目に遭う事になったリト。何だかんだで宇宙人達は倒され、別の浴場に行っていたララは何事も無かった様に合流。真白たちは疲れを取りに来た筈の浴場で更に疲れて帰宅することになるのだった。




ストック終了。また【5話】or【10話】完成をお待ちください。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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