【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第41話 彩南高スポーツフェスタ【前編】

 その日、彩南高校は普段以上の賑わいを見せていた。それもその筈、現在グラウンドには体操着を着た生徒達が集まっていたのだ。

 

「彩南高スポーツフェスタ! 楽しみだね!」

 

 巨大な垂れ幕に書かれた言葉や賑わう雰囲気を見てワクワクしながらララは笑顔で傍に居たリトと真白に告げる。『彩南高スポーツフェスタ』。彩南高校の体育祭であり、既に何日も前から種目決めなどが行われていた行事である。ララは大きな行事の殆どを楽しみにしている為、これもその例に漏れず楽しみだったのだろう。輝きすら見せる笑顔にリトは少し笑って、真白は何も言わずにその姿を見つめていた。

 

「協賛が天条院グループってのが気掛かりね」

 

「天条院……あの先輩か」

 

 ふと、真白の近くに立って居た唯が顎に手を当て乍ら呟く。現在唯の髪型は普段のストレートでは無く、動きやすさを求めて髪を上げた状態で纏めていた。そしてそんな姿を真白が見つめる中、リトは唯の呟いた名前を聞いて3年生に居る1人の先輩を思いだす。天条院 沙姫。ララの事をライバル視し、何かある度に災難な目にあったりあわされたりする余りお近づきにはなりたく無い人物。それがリトが思う彼女への印象であった。

 

「? 何よ?」

 

「……」

 

「あ、みんな~!」

 

「ララ様~!」

 

 唯が見つめられていた事に気付いて真白に声を掛ける中、大きな行事であると同時に沙姫の行動によって一般の客が今日だけ特別に出入り出来ると言う事で美柑とザスティンが学校にやって来ていた。2人は目的の人物であるララ達を見つけると大きな声で手を振りながら近づいて来る。ララは美柑とザスティンの姿に笑顔で名前を呼び、リトは少しだけ恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「ララ様! デビルーク王家の名に恥じぬ様、頑張ってください!」

 

「あ、でも無茶しちゃ駄目だよ? それとお昼ご飯は期待してね! 私と真白さんで、豪華に作ったから! って、あれ?」

 

 ザスティンが拳を作ってララを応援する中、美柑は注意をした後に笑顔でリトとララに告げる。そこで真白がすぐ傍に居ない事に気付いた美柑。首を傾げて周りを見た時、少し離れた場所で唯と話をしている真白の姿が映る。が、唯が真白の目の前に被っている為にその姿を完全に確認することが出来ない。故に美柑は笑顔で真白の元へ。ザスティンが美柑の行動で真白の存在に気付く中、唯が近づいて来る美柑に気付いて横にずれ乍ら振り返った時、美柑は目の前の光景に一瞬固まった。

 

「? ……美柑?」

 

 美柑に気付いてその名前を呼ぶ真白。現在彼女は口に黒いゴム紐を加え、両手で髪を一束に纏め上げ様としていた。揺れる銀色の髪に見え隠れする項。普段真白は髪を降ろしている為、余りにも珍しい光景に美柑は言葉に詰まってしまう。美柑が反応しない事を不思議に思った真白は髪を結び終えると美柑の前へ。固めずに結んだだけの為、サイドテールとなった真白の姿に呆然とする美柑はやがて我に返ると顔を真っ赤にする。

 

「ま、真白さんも頑張ってね! それじゃあ!」

 

「?」

 

 逃げる様に去って行く美柑の姿に真白が首を傾げる中、ザスティンは難しそうな表情で真白を見つめていた。……真白とザスティンは殆ど出会う事が無く、最後に2人が出会ったのはデビルーク王であるギドが居た時である。王を守る者として、どんな理由があろうとも真白の行為を見過ごす事が出来ないザスティン。しかし王の気持ちを知っていて、更に真白の心情も理解している為にザスティン本人の心は今まで通りにするつもりでいた。だが一度感じた強い感情が邪魔をするのか、ザスティンは真白に話しかける事も無く複雑な心境を抱く事しか出来なかったのだ。

 

 そんな彼に声が掛かる中、真白は逃げてしまった美柑の姿に理由が分からず唯へと視線を向けていた。1年以上友達を続けていて初めて見る髪型の真白に唯は何となく美柑の心情を理解しながらも「知らないわよ」と答える。

 

「おーい! ララちぃ!」

 

「あ、里紗! 未央!」

 

「!」

 

 再びララを呼ぶ声に全員が振り返った時、そこには手を振って走りながら向かって来る里紗と未央、そして春菜の姿があった。ララが笑顔で駆け寄って来る2人の名前を呼ぶ中、リトは春菜の存在に気付くと目に見えて動揺し始める。現在この場に居る者は全員体操着。春菜も例外では無く、中々間近では見る事の出来ない光景に恥ずかしさと嬉しさに挟まれているのだろう。そんな事は露知らず、ララは3人の元へ。どうやら何か話があった様で、里紗が口を開く。

 

「ねぇ聞いた? この大会の景品!」

 

「景品?」

 

 里紗の言葉に首を傾げるララ。すると未央が一枚のチラシを見せ乍ら説明を始める。何でも今回の行事で優勝したクラス全員に、豪華客船のスペシャルディナー招待券が配られると言う。明らかに学生が行う学校行事の景品にしては大きすぎるものだが、協賛が天条院グループ故に誰もおかしいとは思わない。おかしいのが普通であり、おかしく無い方がおかしいのだ。

 

「凄いね! 見た事無い地球の料理が一杯! よーし! 絶対優勝して、皆で行こうね!」

 

「うん。皆で行けたら、きっと楽しそうだもんね?」

 

 ララが見せられたチラシに載る食べ物に食いついてやる気を出す中、そんな彼女に微笑みながらも賛同する春菜。里紗と未央も同じ思い故に一致団結し、リトも内心では春菜と一緒に行けるディナーにやる気を出す。やがてクラス全員が集まって優勝することを目標に士気が高まる中、唯は腕を組んで眉間に皺を寄せていた。

 

「体育祭の景品の為に頑張る何て……」

 

「……皆……やる気……出してる」

 

「やる気を出すのはともかく、その理由が不純だわ」

 

 真面目な彼女には余り良く映らなかったのだろう。真白の言葉に強い口調で言った後に溜息を吐く唯。その後、準備体操などを経て種目が始まった時。真白と唯は同時に立ち上がる。

 

「最初の種目は……おんぶ競争、ね。まったく、何よ。おんぶ競争って」

 

 最初の競技。それは1人の生徒の背中に1人が乗った状態で速さを競う、おんぶ競争と言う物であった。明らかに変な競技だが、学校側で競技が決められてしまっている以上、唯にそれを止める手段は無い。1人愚痴る様に喋る中、真白は静かに唯の前でしゃがみ始める。この競技は2人1組、唯の方が大きく真白の方が小さいが、力は真逆の為に背負うのは真白なのだ。すぐ傍にはララを背負うリトの姿もあり、真白達と少し離れた場所で「頑張ろうね~!」と大きな声で話しかけるララに真白は静かに頷く。そんな彼らの2つ隣では、綾に背負われた沙姫が高笑いを見せていた。……恐らくこの競技を提案し、採用させたのは他ならぬ彼女なのだろう。

 

 スタートラインに並ぶ一同。やがてスターター役の人物が火薬銃を手に空へ向ける。

 

「位置に付いて……よーい、ドン!」

 

 大きな発砲音と共に走り出す選手たち。リトと真白も足を動かす中、何故か沙姫は余裕そうな表情で少し後方からそれを眺めていた。

 

「ふふ、そんなに急いで良いのかしらね~? 皆さん?」

 

 誰にも聞こえない様な距離で沙姫が呟いた時、真白たちの傍を走っていた女子生徒の1人が何かを踏む。と同時に地面から突如水が噴出し、体操服は見る間にビショビショになってしまう。濡れた事で透けて見える下着に見ていた男子たちや男たちが鼻の下を伸ばす中、違う場所でも同じ様な別の罠が発動して生徒達を妨害して行く。

 

「何なのよこれ! こんなの競技でも何でも無いわ!」

 

「……障害物?」

 

「どんな障害物よ! 真白! こんな競技、!?」

 

 周りの生徒達が様々な被害に遭う光景を見て唯が怒りを露わにする中、突然真白が大きく飛び退いた事で唯の顔が一瞬驚愕の表情を浮かべる。真白の立っていた場所は気付けば砂場の代わりにブルーシートが敷かれ、明らかにヌルヌルしていそうな液がその上に広げられていた。一瞬の内に土と入れ替わった事に唯が驚く中、真白は空中で何も無い所を蹴る様に足を動かす。すると2段ジャンプの様にもう1度空中で跳躍。ブルーシートの部分を超え、砂場に足を付ける。

 

「じょ、常識の無い競技も常識が通じなければ何とかなるのね」

 

 余りの出来事に驚きながらも真白の背中なら安心と確信した唯。真白は着地すると同時に再びゴールへ向かい始め、直後背後で巨大な爆発が起こる。思わず立ち止まって振り返れば、ララによってトラップ地帯が爆破された光景が。呆気に取られる唯と無表情乍らも足を止めてその光景を見つめていた真白は、すぐに何かを察知した様に顔と身体を動かす。真白の立って居た場所に、何かが猛スピードで通過して地面に着弾した。

 

「今度は射撃!? もうこんな大会、続けて大丈夫なのかしら……」

 

 明らかに狙われていた事に驚き、もう疲れた様に呟く唯。真白はそんな彼女を背に、とりあえずは目的の為に再び走り始める。が、そんな彼女目がけて飛んで来る何かがそれを妨害する。

 

 少し離れた木の上で、射的で使われる様な銃を手に構える存在が居た。九条 凛。沙姫の付き人として綾と一緒に普段から行動している黒髪の女子生徒である。凛々しい雰囲気を普段から醸し出す凛。だが今彼女は目の前の光景に驚き、焦っていた。

 

「何故だ。何故当たらない!」

 

 体力の無い綾が沙姫を背に一生懸命に走る姿を見て、自分もまた沙姫を勝利に導くために。そう思って一番前に出ている生徒を止める為に用意をしていた凛。だが彼女が確実に当てられると確信し、発砲した銃弾をまるで見えているかの様に真白は全て避けてしまっていた。超人的な光景に額から汗を流しながらも次を構える凛。その時、走っていた真白が微かに視線をずらす。そして隠れていた凛と、その目が合った。

 

「私の居場所に、気付いている……!?」

 

 思わず動揺した凛は指を掛けていた引き金を引いてしまう。それは真白たちとは違う明後日の方向へ。その先に居たのはリトであり、吸い込まれる様に彼の額へその銃弾は当たる。と同時に煙が彼の視界を遮り、ふらつき始めた。ララはリトがふらつく事で安定しなくなり、傍に居た者の服を掴む。が、彼女は宇宙人。咄嗟に掴んだそれは地球人とは比にならない力で引き千切られ、掴まれた者……沙姫は見る間に下着姿に変えられてしまう。

 

「な、なな、何するんですの馬鹿力!」

 

「あ、あわわわわ!」

 

 沙姫は一瞬理解出来ず、だがすぐに我に帰るとララに怒鳴る。だが前を走っていた為に沙姫が振り返って怒鳴った事で綾は体勢を崩し、倒れ込んでしまった。沙姫は綾を心配しようとするが、周りの視線が自分に気付くと顔を真っ赤にする。その中にはザスティンも居り、沙姫は誰よりも彼に見られた事にショックを受け乍ら身体を抱きしめる様にして隠す。どうやら彼女はザスティン相手に、特別な感情を抱いている様である。

 

「沙姫様! !?」

 

「ここで2-Aの選手ペアがゴール!」

 

 沙姫の状態に驚く中、ゴールの音が響いた事で凛はゴールテープのあった場所を見る。そこには既にゴールして背後で起きている光景を見つめる真白と唯の姿が。凛は悔しそうに真白を少しだけ強い瞳で睨みつけると、沙姫を助ける為に動きだすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、もうこんなおかしな体育祭に参加したくないわよ……」

 

「……」

 

 肩を落として呟く唯の背中を、真白は優しく擦って慰めるのであった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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