【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第39話 宇宙マフィア組織・ソルゲム【後編】

 リトと唯は別々に分かれ、とある人物を探す為に学校内を走り回っていた。真白の命と御門の運命が関わる内容故に廊下を走る事も厭わず、只管その人物を探して駆けまわる2人。やがてリトが2階の廊下に並ぶ窓から、探し人が下に居る光景を目撃する。

 

「古手川! 下だ!」

 

「! 急ぐわよ! 結城君!」

 

 リトがその姿を見つけた事で階段に向かえば、唯が上って来ようとしている光景があった。すぐにリトは探し人が下に居る事を伝えると、唯は即座に方向転換して来た道を戻りながらリトが見た場所へと向かい始める。2階から見えた位置にたどり着いた時、少し離れた場所に長い金髪を揺らしながら誰かを探す彼女の姿があった。

 

「! ヤミ!」

 

「……結城 リト。丁度良かったです。真白を知りませんか?」

 

「はぁ、はぁ。その事で貴女に用事があったの! お願い、真白と御門先生を助けて!」

 

「! ……どういう事ですか?」

 

 2人が探していたのはヤミであり、リトがその姿を見つけると大声で彼女の名前を呼ぶ。ヤミはリトが来たことで振り返り、彼女もまた真白を探していた様子でリトに気付くと質問をする。だがそれに答えるよりも早く、息を切らしながら言った唯の言葉にその目元は一瞬で鋭くなった。『助けて』と明らかに穏やかでない言葉と切羽詰まった表情に、只事では無いと感じたのだろう。息を荒げる唯よりも、睨む様にしてリトを見るヤミ。少し怖さすら感じるその姿にリトは一瞬怯むも、すぐに起きた事を説明する。

 

「真白が……人質? そう、ですか……」

 

「御門先生は真白を助ける為に奴らに連れて行かれるかも知れない! だからすぐに真白を助けて、御門先生も助けないと不味いんだ!」

 

「貴女ならきっとどうにか出来るって、御門先生がそう言ったの!」

 

 説明を受けてヤミが目を見開くと共にゆっくりと顔を伏せ始める中、説明を続けるリトと唯。中々動かないヤミの姿に唯が声を荒げようとするが、リトがヤミの様子に気付くと唯の前に手を伸ばしてそれを止める。顔を伏せて表情を伺う事が出来ないヤミ。だが彼女のその手は微かに震えており、ゆっくりと開かれていた手が握り込まれると顔が上げられる。その表情は普段と同じ無表情……よりも感情を感じさせない表情を浮かべていた。が、リトはすぐに分かる。今ヤミの感情の大半を占めているのは、怒りであると。

 

「場所は分かっていますか?」

 

「い、いや。何処に居るかも分からない」

 

「そうですか……襟の長い服装の男、でしたね?」

 

「え、えぇ。真白の居場所、分かるの?」

 

「これから見つけます。今すぐに……!」

 

 静かに紡がれるヤミの声。だがその中にまるで今にも爆発しそうな感情があると分かったリトは、少しだけ怯えながらも答える。すると、相手の服装を確認するヤミ。唯がそれに肯定して場所が分かるのかと質問すれば、帰って来たのは今から探すという事。それと同時にヤミの背中から翼が生えると、目に見える速度を超えて空へと突然舞い上がる。強い風が2人に襲い掛かり、何とか飛ばされない様に足を踏ん張りながらもやがてヤミの姿を追って2人は空へと視線を追わせる。

 

 周りの目など欠片も気にせず、学校の上を飛ぶヤミ。人の姿を微塵も逃さず、やがて屋上付近に誰かが立っている姿を見つける。リトと唯が教えた服装と一致した男が2人、保健室の中を覗きこんでいた。今現在保健室にはララだけが居る為、彼女を監視しているのだろう。ヤミはリトが言った言葉を思い出す。

 

『ララはそいつらに多分目を付けられてて、下手に動けないんだ。だから俺達でどうにかするしかない』

 

 ララを監視している男たちが真白を人質に取った者達の仲間なら、ヤミに容赦をする気は一切無かった。男たちからすれば一瞬の瞬きの内に突然現れたと言って間違い無いだろう。反応する時間も無く、激痛を受け乍ら倒れ伏す男達。ヤミはその内の1人に髪を刃にして顔の真横に突き立てると、コンクリートが綺麗に割れてその刃が突き刺さる。

 

「彼女は何処ですか?」

 

「お、お前は……金色の闇!?」

 

「もう1度聞きます、彼女は何処ですか?」

 

「ひぃ!」

 

 質問に答える事無くヤミの存在に驚く男。だがヤミは驚く男に反応する事無く、もう1度同じ事を質問する……顔の反対側にもう1本の刃を突き刺して。情けなく悲鳴を上げる男はヤミの姿に恐怖し、簡単に真白の居場所を吐き始める。やがて場所を完全に把握出来た時、ヤミは髪を元に戻して男に背を向ける。が、それを好機と思った男がヤミに襲い掛かろうとした。しかし、最初からヤミは彼らを許す気等無かったのだろう。ヤミに攻撃が届くよりも早く、巨大な拳になった髪が男を地に沈める。

 

 ヤミは男達2人を雑に髪を利用して持ち上げると、男が吐いた真白の場所へ向かって全速力で飛び始める。空を見てヤミが飛び回っているのを見つけたリトはヤミが飛んで行った方角を見て走り始め、唯も彼が走り始めた事で驚きながらも飛んで行くヤミの姿を見てすぐに追い掛け始める。……やがてたどり着いたのは学校外の立ち入り禁止になっている廃工場。リトは半開きになっていたその扉を恐る恐る開くと、中には正に地獄絵図が広がっていた。

 

「が……ぁ……」

 

 最後の1人が倒れ伏す音が響く中、ヤミが髪を元に戻している姿がまず最初に映る。だがすぐにそんな彼女の周りに、4人の男がそれぞれ白目等を剥いて倒れている姿があった。身体も服も全てがボロボロになり、明らかにやられた後も過剰な攻撃を受けた事が伺える。ヤミの怒りは全て、彼らに向けられたのだろう。リトは彼らを哀れに思いながらも、自業自得だと1人納得する。

 

「! 結城君! 真白は!?」

 

「! ヤミ! ここに真白が居るんだよな?」

 

「えぇ。……こっちです」

 

 追いついて来た唯が何よりも先に真白の安否を確認しようと声を掛ければ、リトは男たちの事への思考を捨ててヤミに質問する。男たちがここに居る以上、確実に関係する何かがここにある。そしてヤミがここに来たという事は真白がここに居るのだと、そんな確信がリトにはあった。そんな彼の言葉にヤミは静かに頷くと、周りを見渡し始める。だが見たところ真白の姿は無く、ヤミが突然目を瞑って微かに匂いを嗅ぎ始めれば……まるで分かった様に歩き始めた事で2人もその後ろを追い始める。

 

「この扉の奥から真白の匂いがします」

 

「に、匂いって……」

 

「今はそんな事どうでも良いでしょ! 早く開けるわよ!」

 

 ヤミの言葉に若干引き気味に言うリト。だが唯は気にする事無く言うとその扉に手を掛けて開け放つ。……中に居たのは探し人である真白の姿であった。ゲイズ達が作ったというスライムに包まれた真白。命令は無くとも蠢いている様であり、真白は微かに頬を赤くしながら熱い息を漏らし続けていた。保健室で見せられた映像の後にも続いていたのだろう。制服のボタンは全てが外れてしまい、下着もずれて胸が露出。スカートも膝元までずれ落ちてしまっている。余りにも官能的なその光景に顔を真っ赤にするリトと、同じ様に顔を赤くして口と鼻を押さえる唯。すぐに助け出そうとリトがヤミに視線を向けると、ヤミは何故か目を見開いて固まっていた。

 

「や、ヤミ? 早く真白を助け出そうぜ!」

 

「…………そう……ですね」

 

 リトの言葉に長い沈黙の後、途切れながらも答えるヤミ。何か様子の可笑しいその姿にリトが首を傾げる中、ヤミは歩き始める。が、ヤミはスライムの様なニュルニュルが苦手な為に近づく事が出来ずにいた。リトはその事に気付くと、ヤミの代わりに真白の元へ。唯も我に帰ると真白のスライムを取る為に行動を開始する。

 

「結城君! 貴方は目を瞑って取りなさい!」

 

「む、無茶言うなよ! う……ぁ……」

 

「結城 リト。貴方は今の真白を見続けた時間に応じて彼らと同じ目にあわせます」

 

 真白の素肌や下着が晒されている光景に唯が唯一の男子であるリトに言う。しかし見ずにスライムを外すのは難しい事であり、顔を真っ赤にしながらも続けるリトに今度はヤミが髪を刃にして突きつけ乍ら告げる。赤かった顔を一変、真っ青に変えたリト。その後何とか真白を解放出来たところで、3人は安心した様に一息をつく。が、リトはすぐに思い出すと携帯を取り出した。

 

「真白を助けたって伝えないと、御門先生が不味い!」

 

「……涼……子?」

 

「大丈夫です、真白。彼女も必ず守ります。ですから今は、休んでいてください」

 

「……お願……い……」

 

 真白が救出された事を未だに知らない御門は、今現在もゲイズの言われた通りにしているだろう。リトはもう言いなりになる必要が無い事を伝える為に、御門に電話を掛け始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。河川敷にて御門はゲイズと対当していた。ゲイズの目的は御門の医療技術。その力を生きている存在に利用すれば、常識を超えた力を手に入れる事が出来ると言う。そしてそんな存在を大量に作り上げて商品として販売することで、デビルークが統一した宇宙に再び戦争を齎すことが出来ると。もし戦争が始まれば、彼らの組織は瞬く間に急成長出来るだろう。御門はそれを聞いた後、静かに目を瞑る。

 

「生物の改造と強化……それで生み出された子を1人知っているけれど、私は医学をそんな事に使いたくは無いわ」

 

「だが生徒の命には代えられない。どうやらあの生徒は貴女に取って少し特別な様だ……」

 

「……そうね。あの子は確かに特別。だからこそ、貴方は大きな失敗をした」

 

「? 失敗?」

 

 御門の言葉に厭らしい笑みを浮かべながら言うゲイズ。だが御門はそんな彼の言葉に肯定しながら、白衣のポケットから来る振動を感じて安心した様に告げる。ゲイズは御門の言葉の真意が分からず、眉間に皺を寄せ乍ら質問。御門は微かに笑みを浮かべてそれに反応すると、「そうね」と言って白衣のポケットに両手を入れる。何をするか分からない御門の行動に、ゲイズも懐に手を近づけて銃を隠し持ち始める。

 

「貴方は人質にする相手を間違えたの。あの子を特別だと思うのは、私だけじゃないわ」

 

「何を言っている……?」

 

「あの子に手を出せば、彼女が黙っていない。貴方は絶対に触れてはいけない琴線に触れたのよ」

 

「訳の分からない事を……!?」

 

 ゲイズが御門の言葉にやがて痺れを切らした様に近づこうとしたその瞬間、突如上空から急接近する何かに気付いた。遥か遠くに微かに見えたと思えば、一瞬にして目の前に現れたその存在にゲイズは銃を取り出そうとする。だがその銃は向けられたと同時に一瞬でバラバラになり、驚くべき光景にゲイズは目を見開いた。っと、そんな彼と御門の間に静かに降り立つ少女。

 

「金色の闇だと!? 手出ししなければ何もしないと思っていたが、何故貴様がミカドの為に動く!?」

 

「貴方は彼女に手を出した……それだけです」

 

 それは先程真白を無事に救出したヤミであった。廃工場からここまで、リトに場所を聞いて来たのだろう。ゲイズはそんな彼女の登場に狼狽え始め、叫ぶ様に質問。ヤミは答えながらも右手を刃にして近づき始め、ゲイズは焦りながらも攻撃をしようとする。だが気付けばゲイズはヤミの髪が変化した巨大な拳に握られており、抵抗することも出来ずにヤミの接近に恐怖する事しか出来なかった。

 

「殺しては駄目よ。大きな組織だから、潰すためにもアジトの場所を吐いて貰わないと。まぁ、やるのは私達では無いでしょうけど」

 

「…………分かりました」

 

「……もう1度言うけれど、殺しては駄目よ?」

 

 刃を振り上げた時、御門がヤミに忠告をする。ゲイズをこの場で始末してしまうよりも、彼に吐かせて組織ごと潰してしまうべきと言う御門の言葉は尤もな事。しかしそれに了承したヤミのするまでの間が長かったこともあり、御門は同じ事をもう1度言う。ヤミはそれに頷き、そこからは……ゲイズにとっての地獄が始まるのであった。

 

「(ドクター・ミカドと金色の闇は繋がっている? いや、ドクター・ミカドの言葉からするに繋がっているのは!)」

 

「……少し変更して、今日の記憶が無くなるぐらいは徹底的にして良いわ」

 

「難しい事を言わないでください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。保健室にて、ベッドの上で真白は眠っていた。そんな彼女の眠るベッドの左右にはララと唯が椅子に座っており、カーテンの向こう側では御門が自分の定位置に。そしてヤミが出入り口の傍で壁に寄りかかり、リトが窓の傍で茜色に染まる外を眺め続けていた。

 

「! 真白!」

 

 突然聞こえるララの声に全員の視線が一斉に真白へと向き始める。囲む様にして全員が真白の傍に近づくと、目を覚ましていた真白がゆっくりと起き上がろうとする。それを見て唯は無理をさせない様にその背中を抑え乍ら起きる手助けをし、真白は唯にお礼を言うと周りを見渡した。唯・ヤミ・御門・リト・ララ。5人の顔を順に見回した真白。すると真白が起きた事に眼元を潤ませ始めたララがその身体を抱きしめ始めた。強過ぎない様に、負担を掛けない様に気を付けて。

 

「良かった! 良かったよ!」

 

「……ララ……ありがとう。……唯、平気?」

 

「えぇ。貴女のお蔭で私は平気よ。……ねぇ、真白?」

 

「?」

 

「助けてくれた事には凄く感謝してるわ。だけど……だけど……!」

 

 真白が無事な事に安心するララ。そんな姿に真白は抱き着かれたまま、お礼を言うと次に唯の安否を確認し始める。唯はその事に目を見開いてから答えるも、その後に弱弱しく名前を呼ばれた事で真白は首を傾げる。っと、拳を強く握りながら言い始める唯。何かを言おうとして、中々言えないといったその姿。だが真白以外の全員が、唯の言いたいことを理解していた。

 

「なぁ、真白? もう少し自分の事も考えてくれ。頼む」

 

「確かに古手川さんを守ったのは立派な事よ。彼女を守る事が最善だったのも間違いじゃない。でも、貴女に何かあれば悲しむ人が沢山居るのよ」

 

「……」

 

「貴女の繋がりは私達の繋がりでもある。もう貴女1人だけじゃ無いの。自分の事も考えなさい。……それと、巻き込んでごめんなさい」

 

 御門は真白に言った後、最後にそう付け加えて保健室を後にする。ララに抱き着かれたまま、自分の手を見つめ始める真白。静寂が支配する保健室内に気まずさを感じ、やがてリトは手を叩いて音を鳴らす。

 

「帰ろうぜ? 美柑も心配してるから、な?」

 

 リトの言葉に真白は顔を上げた後、頷いて返す。ララも真白を解放して帰りの準備をする中、唯は未だに顔を伏せていた。そんな彼女に気付いた時、真白は唯の体を抱きしめ始める。突然の事に唯が驚く中、真白は静かに口を開いた。

 

「……良かった……無事で……」

 

「! わ、私は先に帰るわ! 今日はありがとう、貴女も気を付けて帰りなさい! それじゃあ!」

 

 真白の言葉を聞き、唯は急激に顔を赤くした後に素早い動きで荷物を持って真白に言うと同時に保健室を飛び出て行ってしまう。余りの事にリトは呆気に取られ、ララは「唯も元気になったね!」と。真白は何も言わずに首を傾げて開かれた扉を見続ける。すると今まで黙っていたヤミが唯の居た真白の目の前に立ち、手を差し出した。

 

「荷物は纏めてあります。帰りましょう、真白」

 

「ん……」

 

 真白はヤミの言葉に頷いた後、その手を取る。その後、無事に家へと帰る事の出来た真白たち。騒がしく危険な1日が、こうして幕を下ろすのであった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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