【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第37話 風紀よりも大事な事

 授業の合間の休み時間。各々の生徒が自分の時間を過ごす中、雑誌を読んでいたとある女子生徒の目の前に唯は突然立つと、その雑誌を引っ手繰る様にして奪ってしまう。突然奪われた事に女子生徒が驚く中、唯は強い視線でその女子生徒をまるで睨みつけるが如く見る。

 

「学校に不必要な物を持って来るのは校則違反です。減点2。もし10点を超えた場合、反省文を書いて貰いますからね」

 

「ちょっと古手川さん。それぐらい良いんじゃない~?」

 

 クラス委員にはなれなかったものの、風紀委員として活動する様になっていた唯。そんな彼女の言葉に雑誌を読んでいた女子生徒だけで無く、クラスに居た生徒達数名が不服の声を上げる。そして代表するかの様に里紗が唯に言うが、その瞬間。唯は最初に里紗の足元にしゃがみ込むと何処からかメジャーを取り出してスカートの長さを計測。次に立ち上がると未央を全体的に見た後、持っていたボードに書き込み始める。

 

「スカート丈が1㎝短く、ネクタイも無い! 減点2です」

 

「ちょ、細かすぎない!?」

 

 あっと言う間に図られ、あっと言う間に減点される。余りにもしっかりし過ぎている唯の行動に里紗は驚きながら抗議する。しかし唯がそれに応じる事は無く、ふと見つめた先。真白の席に立っているララに気付いた。

 

「真白! 今度はこんなの作って見たよ! これを使うとね……あ!」

 

「学校に変な物を持ち込まないで! 減点よ! これは没収しますから!」

 

「……」

 

「な、なぁ古手川? それぐらい……」

 

 小さな丸い何かを持って真白に話しかけるララ。それがすぐに発明品だと分かった時、唯はまず最初に先日起きたサバイバルの事を思いだす。ララの発明品の大きな欠陥によって数日を過ごす羽目になってしまった事を。そしてそれ故にララの発明品は危険であると認識してしまった唯。真白に見せていたそれを横から奪い取ると、強い口調で言い放つ。そんな唯の姿を真白は無言で見ていると、今の光景を目撃したリトが声を掛ける……が、掛けられると同時に振り返った唯の眼光に思わず怯んでしまう。

 

「貴方も他人事じゃ無いわよ、今度破廉恥な事を見かけたら即減点10なんだから」

 

 ララの発明品に危険を感じる様に、唯はリトの事を深く警戒していた。それは普段からリトが何かに巻き込まれてしまっているのを目撃していると言う事もあるが、ララと同じくサバイバルの時に裸を見られてしまったと言う事もあるのだろう。強い口調で言い放った後、去って行く唯の後姿を見ながらリトは未だに根に持たれている事に肩を落とす。っと、今までの行動を見ていた同じクラスの生徒達が唯が居なくなると同時に文句を言い始める。彼女への不満が溜まり、明らかに心が離れて行っている光景に春菜が残って居た3人の元に近づいて話しかけた。

 

「古手川さん、このままじゃ……」

 

「あぁ、クラスで孤立しちまう。……真白?」

 

 1人だけ浮いてしまう事を不安に思った春菜の言葉に同じ様に頷いて答えるリト。すると徐に立ち上がった真白に気付き、リトが声を掛ける。何も言わず、唯少しだけリトと目を合わせた後に教室を出て行く真白。春菜が首を傾げてリトに視線を向ければ、何処か安心した様子のリトに気付く。そしてリトは春菜に見られていた事に気付くと、少しだけ笑って口を開いた。

 

「古手川の事は、真白に任せようぜ」

 

「え? でも……」

 

「この学校で古手川と一番付き合いが長いのは、多分真白だからさ。それよりも俺達は戻って来た時に迎えられる様に、出来る事をしよう」

 

「そう、だね。うん、私達は私達に出来る事を……」

 

 リトの言葉に最初は困惑した春菜。だがすぐに扉の向こうを見ながら言うリトの言葉に春菜も了承する。明らかに真白を信じているリトのその姿に、少しだけ真白を羨ましく思いながらも彼女を信じるリトを信じる事にしたのだ。そして2人は唯の事を真白に託すと唯が戻って来た際に悪い雰囲気にならない様に、行動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室から出た後、唯は様々な生徒に注意や持ち物の没収を行っていた。そんな彼女を追う為に廊下へと出た真白。何処に行ったのか分からず廊下を歩いていた時、微かに聞こえて来る声に気付いて足を進め始める。

 

「恋をすれば、彼女にもきっと分かりますわ。ホーホッホ!」

 

 曲がり角を曲がった時、そこに立って居たのは屋内にも関わらず日傘を差して何故か派手なドレスを着ている彩南高では有名なお嬢様……天条院 沙姫とその付き人である2人であった。普段通り、高笑いをする沙姫の姿に真白は何も言わずに見つめた後に来た道を引き返そうとする。しかしそんな真白の存在に誰よりも早く気付いたのは付き人の1人である丸眼鏡を掛けた女子生徒の綾であった。眼鏡の内側で目を見開き、すぐに沙姫に何かを告げた綾。すると沙姫の視線が今まさに離れようとする真白の姿を捉え、声を掛ける。

 

「貴女ですわね? 学園祭の時、綾にテーブルクロスを貸したのは。お蔭で醜態を晒す事無く、私のこの美しい身体を守れましたわ。礼を言って差し上げます!」

 

「……そう……良かった……」

 

「? 何か探しているのか?」

 

 突然のお礼に真白は静かに答えると、窓の外を見る等してそこから去ろうとする。そんな真白の行動に気付いたのは綾とは違うもう1人の付き人である黒髪の女子生徒であった。真白は言われた言葉に頷いて返す。と、それを聞いていた綾はすぐに先程すれ違った生徒の事を思い出し始める。

 

「もしかして私みたいに髪の長い黒髪の女子生徒?」

 

「!」

 

 真白は綾の言葉に去ろうとしていた足を止めると、振り返って綾の顔を見る。表情は変わらないものの行動が間違いの無い事を物語っており、沙姫は「あら?」と言いながらも自分達が来た道を指さした。

 

「彼女でしたら向こうの方へ行きましたわ。ついさっきの事ですわよ」

 

「……ありがとう」

 

「礼には及びませんわ。こんな事で返せるとも思っていませんもの。何かあれば、この天条院 沙姫が力になって差し上げますわ! オーホッホッホッ!」

 

 唯の居る場所への手掛かりをくれた沙姫にお礼を言う真白。すると彼女は笑みを浮かべながらも続け、やがて左頬に右手の裏を添えて高笑いを始める。その声を背後に真白はその場から離れ、再び唯を探し始めた。教室から出てすぐ分かれ道になっていた廊下も、探す方向が分かれば見つかりやすさは格段に上がる。道なりに進んで行けば、やがて男子生徒を注意する唯の姿を見つけた真白。ボードに何かを書いていた唯の傍に近づけば、真白の存在に気付いた唯が驚きの表情で目を見開いた。

 

「真白……何か用かしら?」

 

「……無い。……でも、一緒に居る」

 

「何よそれ? まぁ、勝手にしなさい」

 

 唯はすぐに表情を元に戻すと、顔を背けてボードを見ながら質問。真白はその言葉に首を横に振ると、静かに答える。唯は真白の言葉に呆れ乍らも言うと学校内の見回りを再開。様々な生徒を注意するが、必ずその傍らには真白が存在する様になった。……その休み時間だけでは無く、次の休み時間も。そのまた次の休み時間も。やがて放課後になった時、唯は誰も居なくなった教室の教卓にボードに挟んでいた紙を広げる。そこに書かれているのは全て減点した生徒の名前や内容ばかり。唯はその数に怒りながら、教卓を叩く。そして溜息をついた時、突然そんな唯に声が掛かった。

 

「……唯」

 

「真白? 珍しいわね……今日は急いで帰らないのね」

 

「ん……心配な事……あるから」

 

「? この学校に?」

 

 普段なら真っ直ぐに急いで帰っている真白が教室に入って来たことで、唯は驚きながらも質問する。すると真白は頷きながらも答え、唯は気になった事にまた質問しながら首を傾げた。すると真白は再び頷き、唯の傍へ。やがてすぐ傍までたどり着くと、何を思ったのか徐に唯の書いた紙を手に取った。そこに書かれているのは里紗やララを含んだクラスメイトの名前や減点内容。真白はそれを見つめた後、唯に視線を向ける。

 

「何? 何か言いたいって感じね?」

 

「……唯……疲れてる」

 

「べ、別に私は疲れて何て……!?」

 

 何も言わずに、それでも何かを思っているのが分かった唯は強い口調で真白に言う。すると真白は静かに告げ、その手を伸ばし始める。突然の言葉に訳も分からず狼狽え始めた唯。だがそんな彼女の右手が優しく握られた事で、その言葉は中断される。真白の両手が優しく唯の手を包み、やがて左手で唯の手を乗せ乍ら右手で唯の指を触り始める。唯の指は細く、その指の1本に小さなタコが出来ているのを確認した真白。くすぐったい様な感覚を受けて思わず固まっていた唯は、すぐに我に帰ると同時に手を無理矢理手前に引っ張って真白の手から解放させる。

 

「い、いい、一体何がしたいのよ! 貴女は!」

 

 思わず叫ぶ様に顔を赤くしながら言い、真白から距離を取ろうとする唯。そんな姿を前に、真白は胸に手を当てると唯を見る。優し気だった視線は強い意志を見せ、唯は真白が何を言うのかと少しだけ怖くなる。

 

「……風紀は……大事。……校則も……大事」

 

「そ、そうよ! 当然の事だわ!」

 

「……だけど……縛り、過ぎたら……皆、笑えない。……唯も、笑えない」

 

 守るべきことを守るのはごく自然で当たり前の事である。だがそれを強制されて無理矢理守らされる様になってしまえば、言われた方も言う方も不快な気持ちになるもの。唯に注意を受けた生徒達は苛立ち等から笑えず、注意をする唯も守ってくれないと言う気持ちから苛立ち、疲れて笑う事が出来ない。このまま続けていれば何時か、生徒達も唯も誰も笑えなくなってしまう。それが真白の心配事であった。

 

「……唯が……笑えなくなるのは……嫌」

 

「!」

 

「……風紀より……校則より……唯が、大事……だから」

 

 続けられる言葉に驚き戸惑う唯。そんな彼女に追い打ちを掛けるが如く続けた真白の本心から来るその言葉に、唯はやがてゆっくりと顔を伏せ始める。長い黒髪が表情を隠し、今どの様な事を感じているのか誰にも分からない。が、その状態のままやがて唯は口を開き始める。

 

「もし私が笑えたら、貴女も私に笑ってくれるの?」

 

「……唯?」

 

「! な、何でもないわ! ……そうね。少しは肩の力を抜いた方が、良いのかも知れないわ。流石に毎日こんなんじゃ、疲れるものね」

 

 微かに呟いた言葉が真白に届く事は無く、それでも何かを呟いた事が分かった真白が声を掛ければ焦った様に唯は答えてから薄く笑みを浮かべて続ける。そして紙を1つに纏めてしまうと、帰宅の準備を始める唯。真白はそんな姿を何も言わずに見守り続け、帰る事無く唯の準備が終わるのを待ち続けた。やがてその準備が終わった時、唯は「帰るわよ」と真白に声を掛ける。真白はそれに頷き、唯の横に足を並べて歩き始めた。

 

「こうして一緒に下校するの、何だかんだで初めてね」

 

 普段から素早く下校する真白がこうして残っているだけでも珍しい事であり、帰り道が長い間一緒と言う訳でも無い。故に唯が真白と共に帰るのは1年以上の付き合いがあっても初めての事であった。真白も同じ思いの様で、唯の言葉に頷いて返す。それから少しすれば、すぐに別れ道へと到達してしまう。

 

「また明日、学校で」

 

「ん……また、明日」

 

 真白と別れ、1人で帰路を歩く様になった唯。鞄を左手に夕焼けになっている空を見上げ乍ら右手を額に乗せて溜息を吐くと、ついさっき学校で言われた真白の言葉を思い出す。

 

「……私が大事……か」

 

 何気なしに呟いた言葉にやがて顔を赤くして足を止めてしまった唯は恥ずかしさを振り払う様に顔を左右に何度も振ると、改めて家へと帰る道を歩き始める。唯本人が気付く事は無いが、帰り道を歩く彼女の表情は何時もよりも穏やかであった。それは笑っていると言うよりは微笑んでいるに近いものではあるが、少なくとも彼女が担いでいた肩の荷が下りたのは間違いの無い事である。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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