【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第34話 宇宙の海でサバイバル!? 【前編】

「真白! 海に行こうよ!」

 

「?」

 

 結城家のリビングにて、寛いでいた真白は突然されたララの提案に訳も分からず首を傾げる。するとそれを見ていたリトが説明を始めた。何でもリトの友達である猿山という生徒が海に行くことを提案したらしい。臨海学校以来の海にララは賛成し、自分の発明品で移動する事を提案。参加者は提案者である猿山と移動手段提供者のララ。リトも同行し、猿山に誘われた春菜も参加。話を聞いていたレンもララが居るという事で参加を訴え、男女の海水浴という事に、監視の名目で唯も同行するとの事であった。

 

「海ですか……」

 

「ヤミさんは海、見た事無いんだっけ?」

 

「本でならありますが、実際に見た事は無いですね」

 

「……行く?」

 

「真白が行くのであれば」

 

 海という言葉に反応を示したヤミ。地球に来て気付けば長い彼女もまだ海を見た事は無いらしく、美柑の質問に頷いているのを見て真白は聞く。するとこの場に居た全員が予想していた通りの返事をした事で、全員の視線は真白へと向けられる。が、向けられた本人は次に美柑に視線を向けていた。見られている事に気付いた美柑は一度首を傾げるが、すぐに理解すると笑みを浮かべて答える。

 

「私はパスかな~。1人だけ小学生が混じってるのはちょっとね?」

 

「特に皆気にしないと思うぞ?」

 

「私が気にするんだよ」

 

 ヤミは例外とし、自分だけ年が大きく離れていると言うのにはやはり引け目を感じるのだろう。リトの言う通り参加するメンバーは一様に気にする人たちではないが、それでも美柑自身が気にしてしまうのであればどうしようも無いだろう。無理について行き、楽しめない事程苦痛な事は無い。真白は美柑を置いて行くと言う事に悩み始めるが、その姿に「ヤミさんを連れて行ってあげて?」と美柑が微笑みを浮かべて言えば、しばらくした後に真白は頷いて参加の意思を伝える。

 

 真白の参加に目に見えて喜んだララは移動手段の準備をすると言って部屋を後にする。そうして海に行く当日はすぐにやって来た。

 

「私の研究所(ラボ)へようこそ!」

 

 結城家にあるリトの部屋。そのクローゼットの向こうに広がるララの部屋へと通された参加者たちは明らかに普通では無い部屋の内装に驚愕する。春菜と猿山は純粋に驚き、唯はクローゼットの奥としては信じられない広さに「ありえないわ」と。レンは宇宙人の為、ララの部屋にある物が分かる様で「最新の設備が揃っているんだね!」と褒める様にして周りを見渡す。リトは自分のクローゼットが出入り口である為に既にその内装を見慣れており、真白とヤミも何度か入っている為に驚いてはいなかった。

 

「里紗と未央は予定が合わなかったみたい」

 

「そっか、残念だね?」

 

「いい、あなた達! 私はあなた達が風紀を乱さないか、監視する為に来たんだからね!」

 

「……浮輪」

 

「よ、余計な事は言わなくて良いのよ!」

 

 普段この様な企画には絶対に参加している里紗と未央は不在であり、それを残念がるララと春菜。そんな傍ではこの場に居る者を見て忠告する様に言う唯が居たが、その腕には空気を入れてある浮輪が存在していた。明らかに楽しむ為に用意されたそれに真白が触りながらジト目で唯を見れば、バレバレでありながらまるで誤魔化す様に強い口調で唯は言い返す。

 

「ところで、ララちゃん。どうやって海に行くんだい?」

 

 ふと、気になった様にレンがララに質問をする。海に行く方法として、今まで『ララの発明品』という説明しか受けていなかった一同はララに視線を向ける。するとララは待ってましたとばかりにそれを取り出した。ウサギの様なモチーフと乗るであろう足場が存在するその機械。それを目の前に出した時、ララは笑顔でその名前を告げる。

 

「ぴょんぴょんワープくんDX(デラックス)!」

 

「はぁ!? お、おいララ!」

 

 名前を聞いて誰よりも先に反応したのはリトであった。だがその表情は非常に焦っており、ララを呼ぶと何かを話し始める。どうやらリトは以前に似た名前の、そして似た効果のあるララの発明品で酷い目に遭っている様だ。が、今回は大丈夫だとララは自信満々に宣言する。半信半疑でありながらも、リトはそれを信じ、そしてララに乗る様に催促される全員。やがて足場に全員が乗った後、ララは何かを操作し……視界は一瞬で切り替わった。

 

 照り付ける太陽。肌に感じる暖かい風。目の前には大きな海が広がり、背後には沢山の木々が生い茂る。一瞬で切り替わった視界とその光景に固まり続ける中、一番最初に復帰した猿山が大きな声を上げる。

 

「海だぁぁぁ!」

 

 その声を合図に他の全員も我に返り、各々が感想を言う中。真白は移動せずに自分の足元を見ていた。そこにあるのは太陽に照らされ続けて温度を上昇させた熱い砂浜であり、後ろや周りを見て何かを探す様にしている真白の姿にヤミが気付く。

 

「何を探しているんですか?」

 

「……」

 

 質問して来たヤミの姿に真白は顔を上げ、何かを言おうとして……それを止める。普段感情表現が真白程では無い物の乏しいヤミが目の前の海と言う存在に僅かにソワソワしている事が目に見えて分かったからだ。教える事は問題無くとも、それがもしもその気分を邪魔してしまったら? と考えた真白は首を横に振って何でも無い事を示す。と、ヤミと共に歩き始めた。

 

 私服のままだった全員は一度、水着に着替える為にその場を離れる。当然男女は別々で、更衣室等は無い為に木陰に隠れて。

 

 ララは臨海学校の時とは違う新しい水着を着用している事から新調したのだろう。そして臨海学校の時とは何も変わらない水着を着用していた春菜と真白はあれから成長していないのかも知れない。唯も今回は泳ぐためという事で水着をしっかり持って来ていた為にそれを着用し、ヤミは海に行くと決まってから水着が無かった為に真白と美柑と共に買いに行って手に入れた、真白とは対照的な真っ黒のビキニを着用する。そして準備が整ったことで、真白たちは海へと入る事にする。

 

「お風呂……よりは冷たいですね」

 

「……えい」

 

「ひぁ! な、何を……そう言う事ですか」

 

 ヤミは目の前の広大な海を前に、恐る恐る足を付け始めて感想を言う。と、それを見ていた真白が徐に両手で水を掬ってヤミへとそれを掛けた。突然身体に触れたその水の冷たさにヤミは驚き、自分に掛けた真白を見て文句を言おうとする。だがそれを最後まで言う事無く1人納得すると、髪を変身(トランス)能力で巨大な手にし始める。そしてその巨大な手で大きく水を掬い、ヤミは口元を微かに歪めた。

 

「お返しです!」

 

「!」

 

 少量では無く大量の水が自分に迫って来る事に真白は無表情のまま、背中に大きな羽を出現させる。そして手を動かす訳でも無くそれを一度羽ばたかせれば、迫っていた水の大半が海へと帰っていく。……だがそれでも返せなかった一部が真白の身体に掛かった。

 

「……やり過ぎ」

 

「? 水で相手を沈めるのでは?」

 

「……」

 

 水遊びにしては物騒なヤミの言葉に真白が肩を落として首を横に振って説明をする。そんな2人の傍ではララと春菜が本来の水掛け合いを行っており、リトと猿山は水着姿の女子に前者は顔を真っ赤に。後者は鼻の下を伸ばしていた。レンはどうにかしてララと遊ぼうと様子を伺う中、唯はヤミとは違った理由で恐る恐る水に振れる。

 

「……な、波が高すぎるわよ……この海」

 

「……唯?」

 

「! お、泳げない訳じゃ無いわよ! ……あ」

 

 寄せて返す波の強さに1人呟いた時、ヤミに説明を終えた真白が唯が海に入っていなかった事に気付いたのだろう。声を掛ける。すると唯は何も言われていないにも関わらず強い口調で言い返し、自ら墓穴を掘った事に気付く。真白は普段通り無表情のままだが、それでも恥ずかしかった唯は自分の失敗に顔を真っ赤にしてしまう。っと、突然ヤミをその場に残して海から上がった真白はそのまま唯に近づき始める。

 

「な、何よ?」

 

「……練習……する」

 

「い、いいわよ別に! 大体人が浮くなんて事が非常識なんだから!」

 

「……泳げないまま……良い?」

 

「うっ……」

 

 唯が泳げないと分かった真白は静かに片手を出して練習に誘い始める。最初はそれに抵抗を見せた唯だが、それに返された真白の言葉に目に見えて狼狽え始めた唯。泳げない人間は世の中に沢山居るが、それでも泳げる様になればその分更に楽しめる環境が増えるのも事実である。現に唯は先程まで、自分以外が楽しそうにしている光景に羨ましさを感じて居た。だからこそ、泳げる様になれば。海の中に入れる様になれば、真白や他の人達とも遊べる様になるのだ。

 

「わ、分かったわよ。練習するわ」

 

「ん……」

 

 差し出されていた手を掴んで浮輪を砂浜に置き、覚悟を決めた唯。真白はそれに頷くと、ゆっくり後ろに下がり始める。当然海の中へと戻って行くため、手を掴んでいた唯も海の中へ。最初は問題無かったが、やがて腰近くまで水が来た時。その顔色には徐々に焦りが見え始める。そしてそれに気付いた真白は下がるのを止めて、唯の状態を確認した。

 

「……平気?」

 

「だ、だだ、大丈夫よ!」

 

 明らかに大丈夫では無い返事の仕方に真白はそれ以上下がるのを止めると、唯の両手を掴み始める。そしてそれ以上深い所に行くのではなく、何時でも足が付けられる場所でまずはバタ足の練習から始めた。唯の手を引っ張り、足を付けないで水面で足を叩かせて泳げる様になるための最初の段階から始める真白。そんな2人の光景を少し離れた場所で姿勢を低くして鼻下まで海に浸かり乍らヤミは見つめていた。っと、そんなヤミの傍に突然空気の入ったボールが落下する。

 

「ヤミちゃ~ん! 一緒にやろうよ~!」

 

 ボールを拾い上げたヤミを呼ぶララの声。真白の事が気にはなったものの、海での遊びにも興味があったヤミは結局ララの誘いに乗る事にした。春菜にボールの名前やどうやって遊ぶのかを教えて貰い、遊びを開始する中、それを見つめていたレンは未だにタイミングを伺い続けていた。が、そんな彼には不幸とも言える予兆が訪れてしまう。

 

「ま、不味い……はっくしょん!」

 

 出てしまったくしゃみと共にレンの身体は煙に包まれ、ルンへとその姿を変えてしまう。咄嗟に海の中に身体を浸ける事で胸などを隠すことに成功したルンは隠れ乍ら海の外へ。レンが着けていたブカブカのトランクス型の水着を外し、荷物の中から女性用の水着を取り出す。

 

「レンに内緒で忍ばせといて良かった。さて、真白ちゃんは~……あ、居た!」

 

 自分が出て来てしまった場合を想定してあったのだろう。用意してあった水着を着用し、真白を探し始めたルンはすぐに唯の手を引いているその姿を見つける。そして唯の姿を気にする事無く、駆け出した。やがて距離が短くなった時、その身体に一気に飛びかかる。不意打ちに近かったルンの突撃に真白は何も対処することが出来ず、唯から手は離れて海の中へ。

 

「真白ちゃん! 一緒に遊ぼうよ!」

 

「……危ない」

 

 溺れる事は無かったが、それでも真白はルンの行動に抑揚の無い声音で注意をする。両頬に手を添えて業とらしく「きゃ!」と怒られた事に喜ぶ姿を見せたルン。そんな彼女を横目に真白は自分が手を引いていた唯が大丈夫なのかを確認する為にその姿を探した。

 

「ま、真白? 何があったのよ? 真白?」

 

「……泳げてる」

 

 そこには怖さからか目を瞑って両手を前に突き出し、足をバタ足させて奇妙な形で泳いでいる唯が居た。どうやら握られていた感触が無い事に不安になりながらも、海の中故に目を開けられないらしい。そんな唯の姿に真白は静かに目を細めて呟く。

 

 その後、唯の練習やルンの相手、ララ達とのビーチバレーなどに参加した真白。やがて長時間海で遊んだことで満足したララ達が帰ろうと言いだしたことで海から上がると、何かに気付いた様に声を上げたララに全員が視線を向ける。

 

「ワープくん、据え置き型で部屋に残ったままだった……つまり、えーと……帰る方法、無いや」

 

「マジ……?」

 

 ララの言葉にリトが思わず呟く。真白が最初についた時、足元を確認していたのはそこに帰る為に必要な帰還用の『ぴょんぴょんワープくんDX』が無かったから。故にこの状況は予想が付いていた様で、何時帰れるかも分からないこの状況に、真白は結城家に1人にしてしまった美柑の事を思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~、私も真白さんたちに付いて行けば良かったぁ~」

 

 帰れなくなってしまった真白たちの状況を知らない美柑は結城家で1人、暑さにやられながら後悔しているのであった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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