【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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【5話】完成。本日より5日間、投稿致します。


第31話 夏祭り。ルンの報復計画

 夏を迎えた彩南町で毎年開かれる夏祭りは、人混みの激しい物であった。騒がしい場所を苦手とする真白は普段ならそれに参加する事無く過ごすのだが……今年は違う。夏祭りと言う物に興味を示したヤミ。そしてララ達からの誘い等が重なり、真白は夏祭りに参加することになったのだ。

 

 夏祭りは数日開催されるが、リト達が参加するのは日曜日。故に真白もその日に行くことになり、朝は御門の家へ。そして午後はヤミを連れて夏祭りの会場で合流することとなって居た。因みに本来であれば着物を着用するのだが、真白とヤミは持って居ない為に私服での参加である。

 

 会場に到着した時、目の前に見える人でごった返す道の光景に真白は怯む様に1歩後ろに下がる。声が行き交うそこは正しく真白の苦手とする空間。真白の姿を見て察したのか、「帰りますか?」とヤミが質問すれば真白は黙り込んでしまう。ヤミの表情は余り変わっていないが、楽しみにしていたのは間違い無いだろう。でなければ興味を示すことは無い。もしここで帰ってしまえば、ヤミの楽しみを奪う事になってしまうのだ。……故に真白は葛藤する。

 

「真白じゃない。それにヤミさん、だったかしら?」

 

「……唯」

 

 悩んでいた真白は突然掛けられた声に顔を上げる。するとそこに居たのは普段は降ろしている髪を纏め、着物姿で立っている唯の姿であった。ヤミは自分の名前を言われて軽く会釈するだけで返し、真白は唯が現れた事で安心した様にその名前を呼ぶ。苦手な場所で知り合いに会えた事は、間違い無く真白の心に小さな余裕を持たせた。

 

「……あぁ、そう言う事ね。まったく、そんなになるなら無理して来なければ良いじゃない」

 

 唯は人混みから離れた位置で突っ立っているだけの真白の姿を見た後、何となく理解したのだろう。1人納得すると呆れた様に言うが、その顔は何処か笑みを浮かべていた。そして真白の傍に近づくと、「一緒に回ってあげるわ」と言ってその手を掴む。突然の事に真白が一瞬驚く中、歩き始めた唯。ヤミは逸れない様に気を付け乍らその後を追い、唯に先導されながら真白は人混みの中へと入り込む。

 

「こういうのは雰囲気も楽しまなきゃ損よ。貴女が楽しめないなら、その子も詰まらないでしょ?」

 

「そうですね。私は真白と共に楽しみたいです」

 

「……頑張る」

 

 苦手な人混みの中で足を止めて唯が真白に告げる。荒療治の様な方法ではあるが、ヤミの思いも酌んだその言葉に真白は静かに頷いて答える。と、唯に捕まれている手とは反対の手を伸ばしてヤミの片手を掴んだ。人混みでは逸れる可能性がある為、その防止として。

 

 唯は1人で来ていたが、結果的に真白と共に楽しむことになって夏祭りを満喫する。そして真白も唯の先導によって屋台などを渡り歩き、ヤミも真白と共に屋台を見たり等し乍ら夏祭りを楽しむ。……そして。

 

「真白、貴女適応し過ぎよ」

 

「?」

 

 気付けば顔の側面に白猫のお面を付け、片手に林檎飴を持っている真白の姿が出来上がっていた。その隣には黒猫のお面を付けて綿菓子を食べるヤミの姿もあり、髪の色や顔は違えどまるで姉妹の様に並ぶその姿に唯は思わず顔を引き攣らせる。だが実際、真白は人混みを克服している訳では無かった。唯単に今だけ、慣れてしまったのだ。

 

 その後、そのまま唯と共に夏祭りを過ごし続けた真白とヤミはやがて空に上がった綺麗な花火に目を奪われる。ヤミも花火の事は聞いていたが、実際に目にするのは初めてだった為に瞳を僅かに輝かせる中、真白は自分の持っていた携帯が揺れ始めた事でそれを手に取る。それはリトからのメールであり、開いた真白はそこでようやく自分達がこの会場でリト達と合流する筈だった事を思い出した。

 

 既に夏祭りの醍醐味である花火も終盤、後は終息を迎えるだけになる。真白は忘れてしまっていた事にメールで謝罪すると共に、今日はそのまま帰る事を伝える。っと、花火に魅入っていた唯の傍に並んだ。

 

「……綺麗」

 

「えぇ……そうね」

 

「……唯……ありがとう」

 

「! ……どう致しまして」

 

 花火の感想を言った真白の続けて言った感謝に唯は一瞬動揺を見せる。何時もならば素直になれない彼女だが、それでもこの時だけは。真白のお礼に笑みを浮かべて答えた。

 

 その後、唯と別れて帰宅することになった真白とヤミは翌日。ララに一緒に行動できなかった事を残念がられ、美柑に忘れていた事を見透かされて怒られるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校での授業と授業の間に存在する休み時間。1年生の時はクラスが違う事から何も無かったが、ララと一緒になった今年。真白はその時間が来る度に笑顔でララに抱き着かれていた。そしてそれを同じく1年生の頃は避けていたが、今年になってからは受け止める様にもなっていた。不意打ちではない為、何とかその威力を身体で受け止める真白。だが体格差故に真白はララの身体に殆ど包まれてしまう。そんな光景は既にクラスの中で当たり前の事になっており、ララは真白を抱きしめたまま話しかけられれば会話をする。

 

「羨ましい……何でララばっかり……!」

 

 だがそんな光景を、真白を抱きしめているララを親の仇の様に見つめる存在が居た。違うクラス故に教室に入る事は出来ず、廊下の陰から教室の中を伺う少女……ルン。掴んでいた壁は宇宙人の握力によって罅が入り、しばらく睨み続けた後に授業のチャイムが鳴った事で嫌々ながらも教室へと戻る。が、その内心は穏やかでは無かった。

 

「こうなったらララに恥をかかせて真白ちゃんの前に出れなくしてやるんだから!」

 

 授業が始まる瞬間、そう決意したルンは授業中の間殆どその内容を聞く事無く作戦を考え始める。そして数時間後、昼食を取るべき昼休みになった時。ルンは大きなバスケットを両手に抱えて隣のクラスへと向かった。何時作ったかなどは気にしてはいけない。

 

「真白ちゃん! 私とお昼ご飯、食べよ!」

 

 普段、真白は唯と昼食を取っていた。が、2年生になって以降は唯も含めてララやリト。春菜に里紗や未央と言った数多くのメンバーと共に食事を取る事が多くなっていた。そしてその日も7つの机を繋げて昼食を取ろうとしていた真白たちだが、ルンが現れた事で考え始めた数人。すると里紗が「じゃ、偶には別々で食べよっか!」と提案する。ルンの感情は誰が見ても分かる為に、違うクラスである彼女だけが毎回仲間外れになっていると察したのだろう。未央はその提案に乗り、春菜を連れて。唯も別で食べると言って去っていき、残ったのはリトとララ。

 

「じゃあ4人で食べよっか!」

 

「いや、俺も猿山と食べるよ」

 

「……分かった」

 

 ララは別になるつもりが無かった様で、リトも数に含めて食べようと言う。が、リトはそれに首を横に振って答えるとそのままその場を去っていった。そうして残ったのは真白とララのみ。その光景にルンは内心、笑っていた。他のメンバーは分からないが、真白を誘えば絶対にララがついて来ると予想していたのだ。故に作戦通りにララが付いて来た事に、そして真白と食事が取れる事に2重の意味で喜ぶ。

 

 違うクラスの為に教室で食べる訳には行かず、階段で食事を取る事になった3人。真白とララが開いたお弁当の中身は殆どが一緒であり、その事に気付いたルンが質問すればララが笑顔で答える。

 

「真白と美柑が何時も作ってくれるんだよ!」

 

「ま、真白ちゃんの手作りお弁当!?」

 

「?」

 

「はっ! そ、そうだった……ララちゃん。偶には幼馴染として、お弁当の中身を替えっこしてみない?」

 

 ララの言葉に立ち上がって驚くルン。美柑と言う名前は彼女の耳に入らなかった様で、真白が作ったと言う部分に分かりやすく反応を示したその姿に真白は首を傾げる。そこで思いだした様にルンはバスケットを差し出しながら言う。ララはルンの提案に「良いよ!」と笑顔で返し、ルンは再び内心で笑みを浮かべた。実はバスケットの中身はそもそも自分用では無く、ララに食べさせるための物だったのだ。そしてそれと交換することで自然にララがバスケットの中身を食べ、自分は真白の手作りを食べられる。正に一石二鳥である。

 

「頂きま~す!」

 

「真白ちゃんの手作り……い、頂きます!」

 

 バスケットの中に入っていたサンドイッチをララに渡し、ルンはララのお弁当から卵焼きを1つ貰う。そしてお互いが一緒に口の中に入れれば、ルンは目に見えて幸せそうに頬を触って喜んだ。と同時にララの反応を伺う。……ララも美味しくサンドイッチを食べていた。

 

「スパイシーで美味しいね!」

 

「え!?」

 

 ルンがララに食べさせる為に作ったサンドイッチ。それは激辛にしてある筈であった。が、食べた本人は何食わぬ顔で笑顔を浮かべて感想を言う。その事実にルンは驚き、バスケットの中のサンドイッチを確認する。そして何処かで作り方を間違えたのかと焦る中、ララは笑顔でルンのサンドイッチを真白にも渡し始める。ルンがまさかの行動に焦る中、真白はそれを受け取ると口を開いた。

 

「だ、駄目ぇぇぇ!」

 

「!?」

 

 それが口に入る直前、自分目がけて突然飛びつき始めたルンに真白は目を開けて驚くと食べるのを中断してその身体を受け止める。階段の為、避ければ段差に身体を打ちつけてしまう事を考慮しての行動。結果的にルンの行動は真白がサンドイッチを食べると言う最悪の結果を回避することに成功する。そして飛びついた衝撃でルンの用意したバスケットも逆さまにひっくり返り、全て駄目になってしまう。

 

「あ、あはは~。駄目になっちゃった~、テヘ」

 

 ルンは地面に落ちたサンドイッチを素早く回収すると、態とらしく自分の頭を小突いてもう食べられない事をアピールする。っと、徐に真白は立ち上がってルンの前に。そして手を伸ばし……見た目綺麗な落ちたサンドイッチを1つ、その手に掴んだ。

 

「ま、真白ちゃん!?」

 

「ふー……はむっ」

 

 ルンが驚く中、真白は小さなゴミ等を考慮して少しだけ息を吹き掛けると、それを迷わず口の中へと入れた。当然焦り始めるルン。だが複数回咀嚼した後に真白はそれを飲み込むと、ルンを見る。

 

「……辛い」

 

「う、うぅ……それは」

 

「でも……食べる……勿体無い、から……あむっ」

 

「へ?」

 

 真白は我慢した様子は無い物の、その辛さをしっかりと感じていた。故に言った感想にルンが白状しようとするが、それを遮る様に真白は再びサンドイッチを口に含み始めた。その行動と真白の言葉にルンは一瞬呆けてしまうが、すぐに眼元を潤ませ始めると真白に抱き着き始める。それが食べ物への優しさなのか、作ったルンへの優しさなのか。それは定かでは無い……が、ルンは素直に嬉しかったのだ。

 

「私も食べるよ! ルンちゃん!」

 

 ララは真白の言葉を聞いてルンが持っていたバスケットのサンドイッチに手を伸ばすと、同じ様に息を吹きかけてから食べ始める。真白の優しさを受け、ララの優しさを受け、ルンはいた堪れなく思いながらも自分で作ったサンドイッチを自棄になった様に齧る。と同時に口から火が出そうになるのを必死に堪えて、改めて決意する。

 

「(絶対にララに真白ちゃんは渡さないんだから!)」

 

 結局真白とララはルンと共にサンドイッチを平らげる。そしてルンはララを真白から引き剥がす為に他の作戦を考えはする物の、その日行動を起こすことは無かった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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