【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第27話 新田 晴子の家庭訪問

 学校も既に終わったその日、美柑は頭を悩ませていた。それは今日、小学校の担任が結城家にやって来る家庭訪問の日であり、だが父親である才培は漫画の締め切りが迫っている為に帰って来れないと言う問題が発生していたからである。家に居るのは普段と変わらずに兄であるリトと珍しくヤミと一緒では無い家族である真白。そして居候であるララのみ。親が居ない現状、別の日にして貰う事を考えはする物の既にそれは何度も繰り返していた。

 

「あ! 私に良い考えがあるよ!」

 

≪?≫

 

 美柑からの相談を受けていたリト達は突然ララが思いついたその内容に少しだけ不安に思いながらも首を傾げる。ララが思いついた事。それは才培が居ないのであれば、『リトが才培になれば良い』と言う物であった。そんな事が上手く行くとは到底思えないが、他に何か思いつく事も無かった為に行動する事にしたリト達。オレンジ色の髪を黒にする為にカツラを被り、太い眉毛を作る為に付けまつげを付け、頭に大漁と書いた白い鉢巻を付ける。メイクは全てララが行い、そうして出来上がったのは……無理のある若い才培であった。

 

 緊張した面持ちで家庭訪問の時間を待つリト。やがてインターホンが鳴り、扉を開いた向こうに居たのは眼鏡を掛けた女性教師……新田 晴子であった。リトが緊張する様に晴子も緊張した面持ちであり、リトは才培として自己紹介を行う。流石にばれると思った美柑。だが晴子はそれを疑う事無く、目を輝かせて才培として存在するリトを見ていた。

 

 普段使うリビングでは無く、応接間として畳の居間へと晴子を通したリト達。今の今まで見ているだけだった真白はその時その場から一度姿を消すと、話をしている居間へと遅れて入る。その手にはお盆があり、お盆の上には湯呑と急須が用意されていた。そして対面で座るリトと晴子の間。テーブル横側に座り、急須で湯呑にお茶を注いで静かに晴子の前へ。

 

「……どうぞ」

 

「あ、お構いなく……」

 

 差し出された湯呑を前に返しながらも真白を凝視する晴子。母親が家に居ない事を既に先生故に知っていた晴子は真白の存在とララの存在が非常に気になっていたのだ。ララは先程美柑が『親戚のお姉ちゃん』と誤魔化した事で済んでいたが、真白はまだ何の紹介もされて居ない。故にお茶を一度啜り、真白を見て「貴女も親戚の方?」と少々不安そうに質問する。と、真白は少し考える様に美柑に視線を向ける。美柑は何とか上手く誤魔化して欲しいと言った目で真白を見つめており、その目を見て真白は晴子に視線を戻す。

 

「……姉」

 

「え? あ、お姉さんでしたか」

 

 真白の答えに内心で余り似ていないと思いながらも納得した晴子。その後リトが緊張と嘘が苦手な事が重なって変な口調になりながらも先生との話は続く。学校での美柑の印象は成績優秀でクラスからの人望も厚いと聞かされ、胸を張る美柑。姉として聞いていた真白はそんな美柑の姿に静かに近づくと、徐にその頭を撫で始める。それは真白なりに姉として、妹を褒める為に行った行為。だがされた美柑は一瞬固まり、顔を赤くしながら真白に振り返る。

 

「なっ……っ! 何してるのまし……お姉ちゃん!」

 

「?」

 

「ふふ、仲が良いのね」

 

 焦る美柑に首を傾げる真白。そんな2人の姿を見て晴子が笑みを浮かべる中、リトが美柑の評価を聞いて『親父も喜びます』とボロを出してしまう。当然それを聞いて晴子が聞き返し、焦り始めるリト。そんな姿にララが何かを思いついた様に部屋を飛び出してしまう。何かをしようとしているのは確実であり、追い掛けようとする美柑。だが真白はそんな美柑の肩を掴むと、代わりにララを追って部屋を出て行く。家庭訪問は先生と親、そして生徒の3人が揃ってこそ成立する者。美柑がそこから居なくなる訳には行かないのだ。

 

 ララが向かった先は自分の部屋であり、真白はララの部屋に向かう為にまず通るべきリトの部屋を通過する。クローゼットを開けたその先に居たのは冷蔵庫の様な物を開けているララの姿。何かを探しており、真白が近づき始めた時。「あった!」と言って1本の瓶を取り出す。その中には謎の液体が入っており、真白はララの持つそれを見て首を傾げた。ララは何時の間にか入っていた真白に気付くと、その姿を見て説明を始める。

 

「デビルークのハーブが入ったドリンクだよ! これを飲めば心が落ち着くの!」

 

「……」

 

 ララの発明品はその殆どが不安を感じさせるもの。だが今現在持っているそれはララが発明した物では無い様で、真白はララの説明を受けて少し黙った後に頷いて戻り始める。ララもその背に着いて行き、2階から降りた2人の前には何故か廊下に出ているリトと美柑の姿。どうやら緊張の余り何か失態をリトがしてしまったらしく、美柑から注意を受けていた。

 

「リト! 良い物持って来たよ!」

 

「? ララさん、それ何?」

 

 話す2人の元にドリンクを手に声を掛けるララ。ララの持つそれを見て真白同様に疑問を抱き、質問した美柑に同じ様に説明をしたララはリトの答えを聞かずにそのドリンクの蓋を開けるとほぼ無理矢理それを飲ませ始める。すると瞬く間にリトの頬は上気し、まるで酔っぱらっているかの様にフラフラし始めた。どう見ても大丈夫では無いその状態で、それでもララはリトを晴子の元へと返してしまう。

 

「……変」

 

「うん。どう見てもリト、可笑しく無い?」

 

「ふむ。どうやらあのハーブは地球人が服用するとアルコールに近い作用がある様ですね」

 

 真白の言葉に美柑も頷いた時、ペケがリトの姿を見ながら言った一言に真白と美柑はお互いに顔を見合う。酔っぱらって居るかの様では無く、本当に酔っぱらっているとなれば不味い事は明らかなのだ。リトはまだ学生でアルコールを取って良い年齢では無い。嫌な予感がした時、それは目の前で現実に起きてしまう。

 

「あれ~~?」

 

「……へ?」

 

 フラフラと歩いて居たリトはやがて転倒し、その先に居た晴子の服を降ろしながら地面に伏せてしまう。肩から服を降ろされ、下着だけになってしまった時。先生が我に返るよりも早く焦った美柑が扉を開く。真白も急いで先生の服を隠す為に置いてあった『サイバイ』と書かれた服を先生に渡し、美柑と共に先生の服を掴むリトを引き剥がしに掛かる。……が、リトは徐に両手を伸ばして美柑のズボンを。そして真白のスカートを掴むとそのまま再び倒れてしまう。当然掴まれたそれは下へと下がり、美柑の柄物の下着が。真白の白い下着が曝け出される事となってしまった。

 

 先生の目の前で恥をかいてしまった現状に顔を真っ赤にして怒る美柑。その後真白が何事も無く自分のスカートを戻す傍らで、リトは美柑によってボロボロにされて家庭訪問はそこで終了。晴子は逃げる様に去って行ってしまい、目を覚ましたリトは何も覚えていないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。真白も既に帰った後、美柑は湯船に浸かりながら今日の出来事を思い出していた。ララの提案によって行われた作戦は結果だけ見れば成功に近い物。その代わり晴子にとって才培と言う人間の印象が悪くなっているのではないかと不安になる中、自分に起きた恥ずかしい現象を思い出して顔を赤くする。気付けば湯船に鼻の下辺りまで浸かり、何処を見るでも無くジト目になった美柑。思い出せば思い出す度に最悪な一日だったと思い、肩を落とす。

 

「……」

 

 思い出していた時、ふと美柑は自分の頭に触れた一時の感覚を思い出して頭の上に手を乗せた。そして焦りながらも自分が言った言葉を思い出し、再び顔を赤くし始める。普段は名前に『さん』を付けて呼んでいたにも関わらず、誤魔化す為に言った一言。

 

「お姉ちゃん……か……」

 

 呟いた言葉は誰に聞かれる事も無くお風呂場に響き、消えて行く。だがそれでも、美柑は自分の言葉に。その時の出来事を思い出して微笑むのであった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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