クラス替えが行われた事で生徒達は一様に係や役職などから一時的に解放される事になる。だがそれは短い時間。授業が始まるよりも前に再びそれぞれの生徒達が何かの役割を担う為に、改めて役職を決める事となる。
真白達のクラスの担任である高齢の先生……骨川によってまずはクラスを纏める為に必要な存在、クラス委員を決める事となった教室内。男子と女子で1人ずつ決める中、誰よりも最初に手を上げたのは去年もB組のクラス委員であった唯であった。真白はそれを予測していた様で、唯より少し離れた自分の席からそれを見守る。
この教室には1年生の時にクラス委員であった存在が2人居た。1人は唯であり、もう1人はA組のクラス委員であった春菜。故に春菜も立候補をするかと思われたが、本人は部活などに精を出すために考えている様子であった。故に他に立候補者が居ない事で決まるかと思われた時、思わぬ人物が手を上げる。その人物に唯が、リトが、春菜が一様に驚き、真白も少し目を大きく開けて微かに驚く様な表情を見せる。
「ら、ララ!? 本気かよ!」
「? うん、何か面白そうだもん! 分からない事は春菜に聞くから大丈夫!」
リトが立ち上がって驚き焦るその姿に首を傾げ乍ら笑顔で返したもう1人の立候補者、ララ。春菜は自分の名前が出た事に驚きながらも教えると言う事に関しては断らず、リトは辞める気の無いララに諦めた様に席に座る。唯は相手がララと言う事で燃え上がり、そんな光景に真白は溜息を吐いてこの先の事を不安に思うしか無かった。
2人の立候補者が出た事で、投票で決める事になったA組。しかしそれはすぐでは無く、次の時間まで。故に唯は休み時間になると、まるで選挙の演説の様にクラスの生徒達に話を始める。根っから真面目である唯のその主張は固くも間違った者では無く、数人の生徒が話に拍手を送る中。真白は休み時間を読書で過ごしていた。1年生の時から友達と言えば唯しか居なかったため、唯が居なければ本を読んで過ごしていた真白。だが今年から彼女に本を読む時間は早々訪れないだろう。……真白が1人になる事を許さない存在が居るからである。
「真白! 真白は何かこのクラスに望む事、ある?」
「……無い」
「えー! リトと同じで参考にならないよ。何か無いの? 何でも良いんだよ?」
「……ん……無い」
ララはララなりにクラスの望みを聞いて回っていたのだろう。当然同じクラスである真白を見逃す筈も無く、本を読んでいる真白のすぐ目の前に立って質問したその言葉に真白は一度首を傾げ乍らも答える。余りクラスと言う物に関心を持っていない真白は、嫌な事も良い事も特に無いのだろう。参考にならないその答えにララは文句を言いながらも深く答えを聞きだそうとする。が、結果は変わらない。それでも少し考える様にしただけ、真白なりに頑張った事であった。
真白の望みが無いと分かったララは次の人に聞くために移動し始める。離れて行くその姿を見て真白は再び本に視線を戻そうとするも、すぐ隣にまた誰かが立った事で真白は顔を上げる。そこに居たのは先程まで演説を行っていた唯であった。
「貴女の友達を悪く言うつもりなんて無い。でも、あの子に任せるのだけは絶対に駄目よ。だからこそ、私は負けられないわ」
「……」
投票することを頼むなんて事はせず、だが強い意志を示して去って行く唯の後姿を見続けた真白。休み時間は後少しで終わり、投票の時間が迫る中。真白はクラスの生徒達を見回した。リトと春菜はララに着いて行って廊下へ。唯も廊下へと出ている為、生徒達はそれぞれ誰に投票するかと話し続けていた。するとその生徒達の内、2人の女子生徒……里紗と未央が真白に近づき始める。
「ねぇねぇ、三夢音さんはどっちに入れる?」
「古手川さんだと色々厳しくなりそうだよね。かと言ってララちぃに入れるのも少し心配かな~?」
「……難しい」
里紗と未央はララと友達になり、その経緯で真白と話をする事が今までに数度あった。そんなに長い時間では無いが、人と関わる事を得意としていた2人はその時間だけで真白と言う存在の性格などをある程度理解したのだろう。何の違和感も無く話しかけ、真白の言葉に≪だよね~!≫と合わせ乍ら相槌を打つ2人。その後も真白は今まで通り最低限の言葉で、だがそれでも2人と会話を行い続ける。やがて顔を真っ赤にして逃げる様に教室へ入って来る唯に、何故かボロボロになっているリトとそれを心配そうに見る春菜。そして変わらぬ笑顔を見せ乍らララが教室に戻ってくれば、生徒達の視線はその4人に向く。
「あ……私、今良い事思いついちゃった!」
「私も!」
「?」
順番に入って来るその姿を見て2人が何かを思いついたと言う中、真白はどうして唯が真っ赤でリトがボロボロなのか。そして2人が何を思いついたのか分からず首を傾げる。と、思いついた事を説明する様に周りには聞こえない声で未央が真白に囁きながら教えた。真白はそれに最初は反応を示さない物の、やがて静かに頷いて返す。見れば周りの生徒達も誰に入れるのかもう決めている様であり、チャイムが鳴り始めた事で全員は席へ。真白も本をしまい、そして投票の時間が訪れる。
配られる投票用紙を受け取り、そこに名前を書いて順番に用意されていた投票箱の中へ。それを順番に繰り返し、やがて投票の時間は終了する。緊張が続く中、投票用紙を順番に開いて数を数える骨川の姿を息を飲んで見つめる唯。35人で形成されているクラス故に投票用紙も35枚。それを数える時間などそう長くは無く、まずは男子のクラス委員は1人だったと言う事で的目 あげるという生徒が決まったと発表され、次に女子のクラス委員が発表される。
「集計の結果ぁ……ララくんが2票」
35人中2人しか選ばれていないと言う事実に唯は勝利を確信し、笑顔を見せる。だが次に告げた骨川の言葉でその表情は一変した。
「それで、古手川くんも2票」
「……は?」
「西連寺くん、31票。と言う訳で西連寺くんにクラス委員はお願いしまふ」
「わ、私……?」
立候補した唯でもララでも無く、31人の票を受け取ったのは春菜であった。自分が選ばれた事に驚く中、里紗と未央は去年同じクラスだった事もあって慣れているからと理由を言い始める。ララは自分が選ばれなかった事に特にショックを受けた訳でも無く、自分も春菜に入れたと告げれば思わずずっこけてしまったリト。燃え尽きている唯を横目に、真白は里紗に言われた言葉を思い出していた。
『古手川さんでもララちぃでも無く、春菜に入れるのってどう?』
恐らく思い至ったのはその時教室に戻って来た4人の姿を見たからだろう。真っ赤になって走り込む様に教室に逃げ込む唯よりも、常に笑顔を浮かべているララよりも、目の前でボロボロになっているリトを心配する春菜の方がクラスを纏める存在に相応しいと。決して唯とララがそうで無いと言う訳では無いが、クラスメイトの事を気に掛ける優しさを一番に持っているのは春菜だとその時誰もが思ったのだろう。故に里紗や未央だけでなく、クラスの殆どが春菜へと投票したのだと真白は理解する。
教壇の向こうに立つ春菜の姿にショックで燃え尽きている唯を放置して、その後は様々な内容が決まって行く。次の休み時間になった時、真白は唯を慰めた方が良いかと思いながらその時間を過ごすのであった。
各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?
-
サブタイトルの追加
-
主な登場人物の表記