【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

21 / 139
第20話 仕組まれたバレンタイン

 2月14日。バレンタインデーであるこの日、朝からリトは少しソワソワしていた。そんな彼を見て真白と美柑はその理由をすぐに察し、何時も通りに朝食を作り始める。

 

「真白さんは、リトの他に渡す人とか居ないの?」

 

「……居ない」

 

 普段家族愛と言う感情の元でリトにチョコレートを作っている2人。今年も恒例故に作るつもりであるが、美柑はふと気になった様に質問する。真白もリトと同じ高校生。リトが分かりやすく春菜に好意を向ける様に、真白も一見その様子は無い物の誰かに好意を向けているのでは? そう考えたのだろう。だが帰って来たのは否定であり、美柑はそれに「そっか」とだけ返して調理を再開する。

 

 現在、リビングではテレビを見ている様に見えてボーっとして居るリト。そして真白に着いて来ているヤミと、ヤミにバレンタインについて教えているララの姿があった。何処か間違った内容なのだが、朝食を作る2人も上の空のリトもそれには気付かない。

 

「はい、出来たよ」

 

「……座る」

 

 最初は結城兄妹と真白の3人だけであった朝食も、気付けばララやヤミと人数が増えている。前の様に運ぶのでは時間が掛かってしまう為か、手や腕にまでお皿を乗せて運んで来る真白。ララが身を乗り出して話している為に、真白が一言言えば「はーい!」と元気よく返事をしてしっかりと座る。そして全員分を並べ、食事の挨拶を行って朝食を食べ始めた。

 

「あ! 真白。今日学校で皆にチョコあげるけど、真白は少し待っててね! 真白には特製のすっごいの、作るから!」

 

「?」

 

 食べていた時、突然ララは真白へそう言って笑顔を向ける。ご飯を食べていた真白は箸を加えた状態のまま、ララが言う【特性のすっごいの】と言う事に疑問を抱いたのか首を傾げた。すると真白の腕が軽く突かれ、視線を向ければヤミが真顔で真白を見つめる。

 

「真白のチョコレートが欲しいです」

 

「……分かった」

 

 ララからどの様な説明を受けたのかは分からないが、チョコレートを希望したヤミ。真白はその言葉に少し考えた後、静かに頷いて了承した。元々リトへ作るつもりでもあったため、少し量が増えたところでそこまで負担にはならないと考えたのだろう。ヤミは貰えると分かったのか、食事を再開。だが楽しみなのか、僅かに笑みを隠しきれていなかった。

 

 その後、朝食を終えた真白は美柑と共に片づけを始める。ララはヤミに配る用のチョコレートから1つを渡した後、学校の友達にも配るために早めに学校へ。リトは真白と美柑が出る時まで待とうとするが、美柑が先に行っていても良いと。真白がそれに賛同する様に頷けば、リトも先に学校へと出発する。

 

 片づけを終えて、ヤミを連れたまま美柑と共に家を出た真白。戸締りをしっかりと確認した後。真白とヤミは美柑と別れるその場所まで一緒に歩く。そして別れ道になった時、美柑は笑顔で真白たちに振り返った。

 

「材料は何時も通り帰りに買っておくから、帰って来たら一緒に作ろ。じゃ、また後で。ヤミさんもまた後でね?」

 

「ん……気を付けて」

 

 帰りに被って材料を買わない様に予め言った美柑は最後にヤミにも言って、その場から去って行く。真白は美柑に静かに告げて、ヤミは何も言わずに頷いてそれに返した後、歩き始める。が、学生で無いヤミが彩南高校に入る訳には当然行かない。故にしばらく歩いていた後、学校が近くなって来たところで「そろそろですね」とヤミは言ってその場に止まる。

 

「毎日毎日離れるのは嫌ですが……仕方ありません。学校が終わる頃、迎えに来ます」

 

「ん……」

 

 学校に通っている以上、真白と離れなければいけないのは絶対である。再会して最初の登校日は一切納得せずに学校にまで着いて来ようとしていたヤミ。だが長い説得の末、ようやく学校の時間だけは別の場所で過ごして貰う事となったのだ。何処に行っているのかは真白も分からないが、それでも学校の終わりの時間には必ず待っている事から自由に何処かで過ごしているのは間違い無いだろう。因みに説得の時間は丸1日。故に真白は学校を休むことになってしまった為、唯に心配される事となった。

 

 1人になり、彩南高校にたどり着いた時。真白の目に映ったのは廊下で何故か抱き合ったりしている生徒達であった。一様に頬を赤く染め、息も少しばかり荒い。どうしてこの様な状況になっているのか当然理解出来ない真白。その時、真白の元に駆け寄る存在がいた。……唯である。

 

「真白! 逃げなさい!」

 

「?」

 

「貴女の友達が配ってたチョコレートを食べた人が皆可笑しくなってるのよ! こんなのありえないわ! っ!」

 

 必死に説明をしていた時、唯の背後にゆらりと現れた男子生徒は唯へと襲い掛かろうとする。だが一瞬で真白は唯の手を引くと駆け出した。男子生徒の腕は空振りし、真白は唯の手を握ったまま移動。2人の存在に気付いた生徒達がゆらゆらと近づき始めるが、真白は唯の位置を考慮しながらその波を捕まらない様に走り抜ける。もしも相手が生徒で無ければ攻撃を加える事も辞さないであろう真白。だが今回この様な状況になったのは唯の説明からするにララのせいであり、故に生徒達は被害者であると分かっている為それはしない。

 

「真白! どうする気!?」

 

「……保健室」

 

 腕を引っ張られて必死に転ばない様に走る唯は真白が真っ直ぐ何処かに向かっている事に気が付くと、その場所を確認する為に質問。帰って来たのは学校に存在する御門が居るであろう場所であった。どうしてそこに逃げようとしているかは定かでないが、逃げるしかない今。真白に連れられているのはある意味で安全である事を理解した唯はそれ以上何も言わずに走る。やがてたどり着いた保健室の扉を勢いよく開いた時、デスクに座って何かの書類を書いている御門の姿があった。

 

「あら、どうし……本当にどうしたのよ?」

 

「御門先生! クラスの皆が可笑しくなってるんです!」

 

「……ララのチョコ」

 

「あぁ……そう言う事ね。良いわ、ここに居なさい」

 

 突然入って来た真白に最初は普通に返そうとするも、その手に握る唯の手や唯が息切れしながら必死な顔になっているのを見て只事では無いと感じた御門。唯が現状を、真白がその原因を説明すればそれだけで全てを理解した様に御門は立ち上がる。そして保健室に居て良いと伝えれば、真白はそれに頷いて中へ。唯は未だに焦る中、御門は「用事が出来たわ」と言って保健室を後にする。

 

「ちょっと、御門先生も危ないんじゃ」

 

「……平気」

 

「でも、ってそう言えば御門先生と随分親しそうに話してたわね」

 

 廊下へと出て行ってしまった御門を心配する唯だが、真白はそれに静かに返す。当然納得等出来ない物の、先程の会話を思い出した唯はそこで疑問を抱く。普段同じクラスの生徒を相手にしても余り会話をしない真白が、自然に御門と話していた事に。だがそれに真白が答える事は無く、走り疲れた身体を休める為に椅子へと座ろうとした時……突然保健室の窓ガラスが割れ、転がり込んで来るとある人物の姿。

 

「こ、今度は何よ! お、女の子!?」

 

「……」

 

 窓ガラスから突入したその存在に驚き焦る唯とは対象的に、真白はその姿を見つめる。しゃがむ様にして着地していたその少女はゆっくりと立ち上がり、金色の髪の隙間から真白へ視線を向ける。再会後は何度も傍に居て、何度もみているその瞳。しかし今そこに普段の彼女の姿は無い。

 

「……ここに居て」

 

「え……?」

 

 手をゆっくりと離して静かに真白が告げる。唯は突然の言葉に訳も分からず困惑し、2人を見ていた時。最初に動いたのは少女であった。髪が急速に真白へと伸びて行き、真白はそれを寸前で躱すと同時に保健室の外へ。少女は唯には目もくれずに、真白の後を追い始める。結果、保健室に取り残された唯は安全と言われたその場所から出る事も出来ずに固まっている事しか出来ないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真横から迫る髪を避けて上手く着地した真白は自分を追い続ける少女……ヤミに振り返る。どうしてヤミが襲い掛かって来るのか等、真白には既に理解出来ていた。生徒達が一様に発情でもするかの様に可笑しくなっている原因がララのチョコレートであるならば、それを朝受け取っていたヤミが食べていても不思議では無い。そしてそのせいで他の生徒達同様に可笑しくなっていても、また不思議では無い。

 

「天条院く~ん!」

 

「いやぁぁぁぁ!」

 

 真白が逃げた先では校長に抱き着かれ襲われている沙姫の姿もあり、付き人として何時も一緒に居る2人はそれを呆然と見つめる中で真白は跳躍。校長の頭を踏みつけてそこを通過すれば、ヤミもその頭を踏みつけて同じ様に通過する。……この時、真白は1つの失敗をしていた。

 

「!?」

 

「はぁ……はぁ……捕まえ……ました」

 

 飛んだが故に着地する真白。しかし追っていたヤミは髪をその真白の足首に引っかかる様にして伸ばし、着地と同時に走り出そうとした真白を転ばせる。そして目に見えぬ速さで真白の上を取り、馬乗りの状態で頬を薄く赤らめながら言い放つヤミ。真白の両手を自分の両手で抑え込み、空いた袖口の隙間や裾の下からゆっくりと髪を侵入させ始める。

 

「ん……ぁ……」

 

 ヤミのサラサラな髪が真白の肌を触り、微かに漏れる声を抑える真白。そのまま更に奥へと髪を進め、制服の中で下着によって守られている場所以外を撫でていた時、ヤミの頬の赤みが薄れ始める。他の生徒達も一斉に正気に戻り始め、慌てて着崩れた服を直す中。ヤミは自分の下に真白が居る事に気が付くとしばし呆然。すぐに髪を真白の服から元に戻し、中で動いていたが為に制服を着崩している真白を前に慌て始める。

 

「あの、これは……その」

 

「……もう……平気?」

 

「え……あ、はい。大丈夫です」

 

 嫌われたくないのか、必死にどうにか言葉を紡ごうとするも言えないヤミ。真白はそんな彼女を前に立ち上がり、少しだけ力なくではあるが普段通りに質問する。最初に来たのが怒りでも無ければ真白自身の心配でも無く、自分である事にヤミは一瞬驚きながらもすぐに返答。真白はそれに頷いた後、着崩れていた服を元に戻す。

 

「真白……怒って無いのですか?」

 

「ん……理由は……知ってる」

 

 少し不安そうな声音で質問したヤミに真白は頷いて答えると、周りを見回す。ヤミも含め、可笑しくなっていた時の記憶は無いのだろう。首を傾げたり何をしていたのかを友達に聞いて結局分からずに困惑する中、既に授業の時間が来ていた事で戻り始める生徒達。真白も授業が始まるのなら戻らなければならず、学校の中に来てしまっているヤミに視線を向けると雰囲気で察したのだろう。

 

 その後ヤミは迷惑を掛けない様に、そして誰かに見られない内に学校から外へ。ララのチョコレートが原因。しかしそのチョコレートの作り方として偽の内容を教えたのが御門であったと後に知った真白は、しばらくの間御門に冷たい視線を送る様になる。御門は真白から来るその冷たい視線と、ヤミが侵入する際に割ったガラスから入って来る冷たい風にしばらくの間寒い日々を過ごすことになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だかんだありながらも無事に学校を終えた真白は帰りの途中で待っていたヤミとも合流し、結城家へ。既に帰宅していた美柑は朝の通りに材料を購入し終わっており、料理の出来ないヤミはリビングで待機したまま2人でチョコレートを作り始める。

 

 材料は市販のチョコレートと生クリーム。まず真白がチョコレートを刻んで行き、美柑が鍋で生クリームを温め始める。2人で同時に行う調理は普段から行っている事もあって息が合っており、お互いがお互いを必要とした時。同時に準備は整っている程。最初は買えば手に入るチョコレートも、2人の力によって全く別の物へ。最後は作り上げたそれを冷蔵庫の中に入れて冷やすだけとなった所でリトとララが帰宅する。

 

「ただいま! あ、この匂い……チョコだ! 真白と美柑が作ってたの?」

 

「そうだよ。今回は今までよりも大きく作ったから、ララさんとヤミさんの分もあるよ」

 

 入って来て最初にララは挨拶すると同時に作っていたが為にリビングの中を充満する甘いチョコレートの匂いに気付き、笑顔で2人の傍にカウンター越しに駆け寄る。すぐに食べられる訳では無いが、自分の分もあると聞いて「楽しみ!」と喜ぶララ。その後ろで椅子に座るヤミもまた、ほんの僅かに笑みを浮かべていた。朝の約束が果たされる事が楽しみなのだろう。そんな2人の顔を見ていたリトはその雰囲気に笑みを浮かべる。

 

 チョコレートの調理を終えた真白と美柑はそのまま夕飯の準備に。リトとララは部屋へと向かい、ヤミは真白が帰らない限り真白が見える場所に控え続ける。そしてしばらくした後に全員で夕食を取り終わった頃には、チョコレートを作って数時間が経過していた。

 

「そろそろ良いかも」

 

「ん……」

 

 美柑の言葉に真白は頷いて立ち上がり、チョコレートが来ることに喜ぶララ。美柑はチョコレートが来るまでの間、食べた後には歯磨きをする等の注意を促していた。そして真白の手によって運ばれた美柑と真白の作ったチョコレートは世間一般で言う『生チョコ』と呼ばれる物。普段ならリトだけが食べていた為にもう二回りほど小さいが、欲しがるヤミとバレンタインは皆が皆に配ると思っているララの為に今回はかなりの大きさに。その大きさにリトが「おぉ」と驚く中、真白によって切り分けられる。

 

「あれ? 真白と美柑は?」

 

「私達は作った側で、食べるのはララさん達だよ」

 

「えぇ~、一緒に食べようよ! 皆で食べた方が美味しいよ! ね、ヤミちゃん」

 

「そうですね。真白も食べてください」

 

「結構大きいしさ、2人が食べたって問題無いって」

 

 切り分けてお皿に乗せた時、それが3人分しか無い事に気付いたララは首を傾げ乍ら2人に聞く。バレンタインはチョコレートを渡すもの。故に作った真白と美柑は3人に渡すだけで食べる気が無いと分かった時、ララは2人も食べる様に誘い始める。ヤミもララの言葉に同意し、リトも同じ様に2人を誘う中で、美柑と真白はお互いに目を合わせる。そしてお互いに考える事数秒。美柑が「食べよっか」と言った言葉に真白も頷き、お皿を2つ追加し始める。

 

「じゃ、改めて。いっただっきま~す!」

 

≪頂きます≫

 

「……頂き……ます」

 

 ララの言葉に全員が言った後、食べ始めた生チョコ。ララは幸せそうに頬に手を当て、ヤミは僅かに笑みを浮かべる。リトも美味しいのか頷いた後、真白と美柑へ視線を向けた。

 

「真白、美柑。ありがとな!」

 

「すっごく美味しい!」

 

「美味しいです。とても」

 

 3人からの来る喜びと感謝に美柑は真白に「成功だね」と言って片手を広げて見せる。それはハイタッチを待つ仕草で間違い無く、真白はそれに頷いた後に優しくその手を叩いて成功を喜び合うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真白! 真白の為に作った特製のチョコだよ! 今度は大丈夫!」

 

「…………ありがとう」

 

 帰る間際、ララから笑顔で渡されるのはハート型のチョコレート。学校での出来事もあり、真白はそれを普段よりも長い無言の後に受け取る。被害者の1人であるヤミが「大丈夫でしょうか?」と言う傍ら、それを持ち帰る真白。例えララが作ったと言えど捨てるのは選択肢に無く、真白はそれを自分の家で勇気を持って食す事に。……結果は普通に美味しいチョコレートであった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。