「可笑しい……」
転入生ことレン・エルシ・ジュエリアは思わず呟く。彼が彩南高校に転入してきたのは嘗ての幼馴染であるララが婚約者候補である悪い男、結城 リトに騙されていると言う情報を得たからであった。自らも婚約者候補であり、ララに好意を抱くが故に助けるつもりで地球へとやって来たレン。リトと出会い戦いを挑み続ける時間を送るも、その成果は一向に出ていなかった。……そんなある日クラスメイトである2人の女子によって設けられたリトとの勝負でお互いに最悪の結果を残したレン。そこで初めて、彼はようやく気付く。
「ララちゃんは仕切りに結城 リトでは無く、『真白』と言う名前を口にしていた。そう、まるで彼の事等眼中に無いかの様に」
言葉巧みに騙されているのならば、ララが好いている者の名前は結城 リトの筈。しかし実際に過ごして居た時間の中で、ララが口にしていたのはその場に居ない『真白』と言う者の名前であった。もしも予想が当たっているのならば、結城 リトとの戦いは無意味でしか無い。何故結城 リトが騙していると言う情報が出回って居るのかは分からずも、目の前でそうでは無い現実を見たレンは考える。
「? そう言えば一度、ララちゃんが女子生徒を連れて帰宅して居た様な……確かあの子の事を真白って言って居た筈だ!」
転入した初日に一度見たララと共に居た1人の女子生徒。その姿を思いだし、その名前を思いだした時。レンは決心する。自分の中にある疑問を解決する為に、ララが呼ぶ真白と言う存在を調べて見ようと。幸い、彩南高校はAとBの2組のみ。自分の教室に居ないのであれば、その女子生徒が居る場所などすぐに予想出来ていた。
学校への登校と共に普段であればララと結城 リトを待ち構えるレン。だがその日待ったのは一度辛うじて見ただけの女子生徒。ララが話しかけるなどすれば判別は早いが、唯探すとなればそう簡単に見つかるものでは無い。そう考えていたレンは思った以上にその相手をすぐに見つけられた事に驚き、そしてその姿を見て再び驚愕する。
「そんな……あの姿は!?」
歩く度に揺れる美しい銀髪。凍り付いた様に無表情な顔。他の生徒に紛れて居ながらも、探せばその存在感は測り知れない物であった。だがそれだけが理由で驚いた訳では無い。レンはその女子生徒の姿に、嘗てララと共に遊んだ事のある1人の少女の姿を重ねたのだ。そしてその少女はもう二度と会う事の出来ない筈の存在。
「エンジェイドは滅んだ。……彼女もその筈だ……」
レンは既に校舎の中へと入って行った女子生徒の後姿を見つめ乍ら呟く。そんな彼の言葉は誰にも聞こえず、やがて現れたララがレンに友達として元気よく挨拶を行う。そしてその横で警戒するリトだが、レンはそんな2人に普段通り爽やかに「おはよう!」と言うと……それ以上変に突っかかる事は無かった。何時もと違う事に呆気に取られるリト。そしてその日以降、リトはレンから突っかかれる回数が減ったのであった。
衣替えが行われる季節。制服も半袖から長袖へと変わった日、クラスの中は授業の時間でありながらも賑わって居た。その理由は1つ。近々行われる行事、『彩南高校学園祭』に関する出し物を決める為である。リトやララ達の居るクラスの方からも大きな賑わいが聞こえる中、実行委員として前に出る生徒の先導の元で真白達の居るクラスも出し物を決める為に話し合いを行って居た。真白本人は特に興味を示しておらず、交わされる会話を聞き流しながら何もせずに時間を潰して居た。
「隣のクラスはアニマル喫茶だってよ!」
「何だよそれ? 今時流行らねぇだろ」
「でもインパクトはあるんじゃない? こっちも何かおっきなことやらなくちゃ!」
自分達のクラスがまだ決まって居ない中で隣のクラスから聞こえる話声にその内容を知り、少々焦り始める実行委員と生徒達。出される案はお化け屋敷や隣のクラスに対抗した○○喫茶等の物。だが尽くありきたりであるが故に潰される中、余りにも長く決まらない話し合いに痺れを切らした様に立ち上がったのは、クラス委員である唯であった。
唯は意見などを纏めるのが非常に上手い。そして駄目な事や認められない事はきっぱりと切り捨てる決断力も持って居た。男子の欲望のままに言った案も女子からすれば嫌な内容である場合がある。実行委員に指示を出し、黒板に書かせながらも駄目な物はきっぱりと駄目と言い切るその姿は正しくクラスを纏め上げるに相応しい物。強気な彼女の言動や行動は稀に反感を買う事はあるかも知れないが、まず間違い無く進まなかった話し合いを前へと進め始めて居た。
結局決まった出し物は言ってしまえば普通であった。だがそもそもアニマル喫茶と言う強い衝撃を受けるであろう出し物を考えて居た時点でどのクラスも勝つ事等不可能。後日、瞬く間に広がったアニマル喫茶の噂は今期の学園祭の目玉として注目され始める。違うクラスであるが故に巻き込まれないと思っていた真白だが、家に帰ったそこに待って居たのは豹をイメージさせるコスプレをしたララであった。
「真白の分も借りて来たよ!」
「……何で?」
「可愛いと思ったから! ほら、着て見ようよ!」
ララの手に握られていたのは白猫をイメージさせるコスプレ服。それはララと違ってお腹の部分は繋がって居ないが為に面積の少ない服であり、ご丁寧に白い猫耳も用意されていた。そしてそれを両手に持ったまま近づくララに1歩ずつ下がり始める真白。傍には美柑も居り、助けを求める様に視線を向ければ静かに首を横に振る。『諦めるしかないよ』と口で言わずに告げていた。
結局逃げる事等出来ずにその場で着替える事となった真白。急ぐララによって制服をリビングのソファに脱ぎ散らかす様に置き、着替え終わったその姿は真っ白な髪や綺麗な肌も相まって非常に可愛らしい物であった。コスプレ故に決して本物にはなれないが、それでもその姿は間違い無く白猫。その姿にララは「おぉ~!」と。美柑も思わず頬を赤らめながら真白の姿を見る。すると2人が真白の姿に感心して居た時、リビングの扉が開かれた。入って来たのはたった今帰って来たリトであり、リビングで豹の姿と白猫の姿をして居る真白に思わず硬直する。
「あ、お帰り~!」
「お前ら、何やって……!」
「見て見て! 真白のこれ、可愛いでしょ!」
「…………にゃぁ」
「!」
何事も無く迎えたララの言葉に顔を真っ赤にして我に返りながら聞いた質問にララは笑顔で真白を注目させる。ララに向いて居た視線がゆっくりと真白へと移動し、見られ始めた状況に真白は少し考えた後……何気なしに猫の様に鳴いた。と同時にリトは頭から煙を出してリビングを飛び出て行ってしまう。ララの服装は学校で一度見て居る為に何とか問題無かったのだろう。だが本来その様な事をする性格でない真白のまさかのコスプレ姿とそれに伴う鳴き声はリトには耐えられなかった様子である。
「初心だね~……あ、真白さん。写真撮って良い?」
「あ、じゃあ私も一緒に映る! えへへ、ツーショットって奴だよね!」
「……にゃぁ……」
逃げ出す様にしてリビングから出て行ったリトの姿に美柑は面白そうに笑みを浮かべると、何処からともなくカメラを取り出す。向けられ始めるカメラにララも同乗する様に真白の傍に近づき、徐に肩の上へ手を置いてもう片方の手でピースを作った。雰囲気的に断れないと悟ったのだろう。真白は溜息を付くかの様に、もう一度猫の鳴き真似をするのであった。
各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?
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サブタイトルの追加
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主な登場人物の表記