【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第129話 エンジェイド【前編】

「本当に行く気?」

 

「あぁ、俺はもう決めたんだ。あいつは絶対にぶっ飛ばす!」

 

 御門の診療所から外に出た場所でリトは美柑に心配されていた。ザスティンによって真白の力を奪った男性が逃げた先が判明し、すぐにでも飛び出す勢いだったヤミ。だがクロとの戦闘によって疲労している彼女が今のまま挑んでも帰り討ちに遭う可能性が高く、だが本人は止めても行く様子だった為に御門が提案したのは短くても休息を取る事だった。その間ヤミは疲労を出来る限り取る為にヒーリングカプセルへ入る事になり、メアも隣に並んで入る事となった。

 

 リトが美柑に心配される理由。それは彼がヤミ達と共に着いて行く事にしたからである。地球人である彼に彼女達程の戦闘能力は無い。故に反対されたが……彼の決意もまた固かった。家族を傷つけられた事に対する怒りは他の誰にも抑えられないものだったのだ。

 

「美柑殿。リト殿の事は私が責任を持って守り抜きます。どうか安心してください」

 

「ザスティンさん。……リトの事。お願いします」

 

「美柑は真白の事、見ててやってくれな」

 

「当然」

 

 2人が話をしていた時、デビルーク星への通信を終えたザスティンが声を掛ける。彼もまた男性を追って地球を離れる者の1人であり、先程デビルーク王であるギド直々にも命令が下されていた。そしてその連絡の途中でララ達に真白の事が伝わってしまったのは仕方の無い事である。今すぐにでも地球に帰ろうとする3人を必死で落ち着かせる同僚の姿にザスティンは胸の前で拳を握る。

 

「ふぅ。ルナティーク号の整備は問題無いわ。何時でも出発可能よ」

 

「ありがとうございます、ティアーユ先生」

 

「ううん。私に出来る事はこれくらいしか無いから。皆、お願いね」

 

 ヤミの宇宙船、ルナティーク号はここしばらく飛んでいなかった事もあってティアーユが整備を行っていた。元々高い人工知能が着いている事もあって飛ぶのに問題は無く、リト達はティアーユの言葉に頷いて答える。すると診療所から姿を現したのはヤミを筆頭に御門やメアと言った者達だった。

 

「もう平気なのか?」

 

「えぇ。問題ありません。今は一刻も早く真白の力を取り返さなければ」

 

「もう、無理しちゃ駄目だよヤミお姉ちゃん。一応船の中でもカプセルには入るんだからね?」

 

「ティア、中のヒーリングカプセルはちゃんと使えるかしら?」

 

「大丈夫よ」

 

 リトの質問に頷いて答えるヤミ。だがその隣にメアが諫める様に告げ、御門がそれに溜息を吐きながらもティアーユへ確認を取り始める。そうしてリトはヤミとメア、そしてザスティンと共にルナティーク号へ乗り込んだ。その際ザスティン以外の3人は診療所の窓、その1室へ視線を向けた。そこでは今も弱り苦しむ真白と彼女の額に出る汗を拭うお静の姿があった。

 

「必ず、取り戻します」

 

 ヤミの呟きを最後にルナティーク号の扉は閉まり、やがて宙へ浮き始める。美柑や御門達が見送る中やがてそれは宇宙の彼方へ発進し、地球から外へと飛んで行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旧エンジェイド星。嘗てエンジェイド達が住んでいたその星は既に荒廃していた。未だに風化した建物等がそのまま残っているものの、人の姿は何処にも無い。だがそんな星のとある場所。嘗てお城であったその場所だけが最近人の手が入った様に新しい技術を用いられていた。巨大な城門に守られた城は見張りや兵が居なくても突破出来そうに無く、その更に奥にある玉座に座るのは……真白から力を奪った男性であった。

 

 ルナティーク号は数時間掛けて旧エンジェイド星へ到着する。荒廃した地形を前に各々差はあれど、思う事は一つ。

 

「これが……真白の故郷?」

 

「何か、寂しいね」

 

「デビルーク王がエンジェイド王との決闘に勝利したその日、この星からエンジェイドは消えました。それ以降誰の手も付けられなかったのでしょう。この大地に足を付けるのは懐かしいです」

 

「……」

 

 リトがその当時のザスティンの年齢に若干の疑問を抱く中、ヤミは地面に手を付けて砂を掬い上げた。サラサラとした肌触りのそれは風に吹かれて飛んでしまい、ヤミはそんな光景に静かに口を開く。

 

「この光景、真白には見せられませんね」

 

「そう、だな……。? あそこ、何か目立つのが建ってるけど」

 

「あれは……お城かな?」

 

「! あの場所はエンジェイド王が住んでいた城!」

 

 ヤミの言葉にリトが同意する中、飛んで行った砂を目で追っていた彼は目立つ城を視界に納める。そしてザスティンの言葉で全員が察した。あの場所こそが嘗て幼かった真白が育った場所であると。そしてあの場所に真白の力を奪った男性は居ると。

 

「……行こう」

 

 リトの言葉に全員が頷き、足を進め始める。そんな彼らの後ろを風で舞い上がった砂とは違う黒い霧がついて行った。

 

 荒廃した大地に宇宙特有の変な生物が現れる事も無く、全員はその巨大な城の前に到着した。だが巨大な城門は押しても引いてもビクともせず、ヤミが軽く腕を変身(トランス)させてハンマーにした後に叩いて見ても壊れる様子は無かった。メアも腕を砲身にしてビームを放つが、一切傷一つ付く様子は無い。

 

「困ったな。これじゃあ入れねぇ」

 

「イマジンブレードでも切れないとは。どうやら相当固い金属で出来ている様ですね」

 

「ねぇねぇヤミお姉ちゃん。またダークネスは使えないの?」

 

「不本意ですが、あれはネメシスが居たから使えた変身です。ですから今のままの私では不可能だと思います。それに例え使えたとしても、この後の戦いに参加出来ません」

 

 頭を悩ませる4人。このままその門の前で立ち往生かと思われたその時、荒廃した砂漠に少女の声が響き渡った。軽快なリズムと共に空から突然何かが飛来し、着地する。それは何とアイドルの衣装を着たルンであった。

 

「ルン!?」

 

「真白ちゃんに酷い事した奴が居るんでしょ! だったら私の敵って事だよね!」

 

「ルン殿! どうしてここに!? ルン殿もパーティーに呼ばれていた筈では?」

 

「そんなの抜け出して来ちゃったに決まってるじゃん! 国とか政治とかそんな面倒な事よりも真白ちゃんの方が大事だもん!」

 

「流石ルン先輩、色々やばかっただけはあるね!」

 

 突然現れたルンの姿にリトが驚き、ザスティンが思い出した様に質問すればさも当然の様に帰って来る言葉にメアが思わず笑いながら呟いた。そして4人を置いてルンは目の前にある固い城門を何回かノックする様に叩いた後、笑顔で頷いて動き始める。それは先程から鳴り続けていた軽快なリズムに乗っており、ルン以外4人しかいないこの場所でルンはマイクを手に自分が乗って来たであろう飛行船へ視線を向けた。

 

「な、何する気だよ?」

 

「ちょ~っとファンの力を借りようかな? って思って。早く真白ちゃんに会いたくて最高級の転送装置を買って良かったかも♪」

 

 そう言いながら踊るルンの姿に訳が分からなかった4人。だがすぐに彼女が何をしようとしたのか4人は知る事になる。

 

「皆~! RUNに力を貸して~!」

 

「……」

 

「……」

 

「……え? ルン先輩、こんな場所で何大声なんて出して……あれ?」

 

 響き渡るルンの声は荒廃した世界に響き渡り、誰の返事も帰って来ない。余りにも長い静寂にメアが困惑し始めた時、微かに聞こえる何かの声を全員の耳が聞き取った。徐々に大きくなるそれは次第に近づき始める。

 

『……E……ん……O……E……ちゃん』

 

「何か……来ます……!」

 

『……OVE……ちゃん……LOVE RUNちゃん! LOVE RUNちゃん!』

 

「ま、まさか!?」

 

「そうそのまさか。今から来るのは……私のファン(・・・・・)!」

 

≪LOVE RUNちゃん! LOVE RUNちゃん!≫

 

 ルンの言葉と同時に1人の男性が飛行船から降りて来る。そしてそれを皮切りに1人、また1人と男性が現れ始め……徐々にその数は勢いを増し始めた。人の波が恐ろしさを感じるレベルで押し寄せ、思わずヤミもその光景を顔を引き攣らせていた。するとその中で1人、飛び抜けて目立つファン……と言う名の変質者が飛び上がる。

 

「RUNちゃんの力になれるなんて、これは滾って来ましたぞ!」

 

「あ、校長も居る」

 

「凄まじい。これがルン殿の人望とでも言うべきなのでしょうか」

 

「いや、普通に地球人を宇宙に連れて来て大丈夫なのか!? それに呼んだところで……」

 

 彩南高校の校長がパンツ1枚で飛び上がっており、その姿を確認したメアは軽く。ヤミは心底面倒そうな表情を浮かべる。ザスティンは感心し始めており、唯一リトだけがこの状況にツッコミを入れていた。が、ルンは彼の言葉に笑みを浮かべると再びマイクで拡大した声を全員へ届け始める。

 

「皆! RUNに力を貸して欲しいの! この向こうにRUNの大事な物があるんだけど、この壁が邪魔で通れないんだ!」

 

≪RUNちゃんの邪魔をするものは我々が許さない!≫

 

「もう壊しちゃっても良いから、皆の力を貸して!」

 

≪おぉぉぉぉぉ!!!≫

 

 思わず耳を塞ぎたくなる程に暑苦しいファン達の雄たけび。それと同時に巨大な城門へ一斉にファンが押し寄せ始め、最初は何も起こらなかった門が徐々に徐々に軋み始める。そして少しした頃、僅かにその門に亀裂が走れば……そこから時間は掛からなかった。ファンが門を破壊して次から次へと中へ侵入。だが完全に壊れた事を悟ったルンが三度マイクを使って声を掛ければ、ファン達に寄る暴動の様な破壊活動は瞬く間に終息した。

 

「皆、ありがとう!」

 

≪LOVE RUNちゃん! LOVE RUNちゃん!≫

 

「これが結束の力。素晴らしいです、ルン殿」

 

「えっと……取り敢えず入れる様になったな」

 

「そうですね。行きましょう」

 

「ルン先輩! ありがとね!」

 

「え? あ、ちょ! 私も行きたいのに!」

 

≪LOVE RUNちゃん! LOVE RUNちゃん!≫

 

 ファン達を纏めるのに忙しいルンを置いて城の中へ入った4人。その後ルンはファン達を地球へ送り返す為に忙しくなり、彼らに着いて行く事は出来ないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、地球は既に朝を迎えていた。御門の意向で診療所から御門の住む洋館へ場所を移された真白。そんな彼女を看病する為に美柑は付きっきりになっており、気付けばそのベッドへ上半身を乗せて眠ってしまっていた。すると突然真白の荷物にあった携帯電話が着信のメロディを流し始め、美柑は驚いて飛び起きてからそれを確認する。相手は唯であった。

 

「はい、もしもし」

 

『あれ? 貴女、美柑ちゃん? 真白の電話に掛けた筈なのだけど』

 

「その、間違って無いです。色々あって、今真白さんは電話に出れないんです」

 

『色々?』

 

 美柑は唯に話して良いか悩む。するとそこに丁度部屋を訪れたお静が美柑の後ろ姿と横になる真白の姿を前に声を掛けた。

 

「美柑さん、真白さんの容体はどうですか?」

 

「あ」

 

『容体? ねぇ、美柑ちゃん。どう言う事?』

 

 電話越しに聞こえる唯の質問に美柑は他に選択肢が無いと悟り、唯へ真白に起こった事を説明し始めるのだった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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