【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第128話 死闘の果てに奪われたもの

 クロと真白はお互いに対峙していたが、突然生まれるもう1つの力に視線を向けた。そこには嘗て真白を取り込んだ角を生やし、露出の多い服に身を包んだヤミの姿があった。両者が互いに目を見開き、戦慄する。ダークネスが再び姿を見せた事実に。

 

『制御出来るのは持って3分程だ。それまでにケリを付けろ。金色の闇』

 

「分かりました。にしてもやはりこの恰好ですか」

 

「! 意識が……まさか、制御しているのか……!?」

 

 ダークネスがどれ程危険なものか、この場に居る誰もが知っている。簡単に世界を滅ぼす事が出来る最終兵器。そんな物を抱え、剰え自分の力として制御するには恐ろしい精神力や力が必要なのだろう。だが2人の目の前でその姿になったヤミは静かに言葉を発し乍ら自らの恰好を確認して、クロと対峙する。

 

「足踏みしていては進めません。人として生きると決めたからには、覚悟も成長もして見せます」

 

 そう言って腕を刃に変えて歩き出したヤミはその途中で真白へ振り返り、告げる。

 

「メアをお願いします、真白」

 

「……分かった」

 

 理性を持つその目を見て真白は頷き、メアの傍へ移動し始める。1対1となり、クロは銃口を。ヤミは刃を互いに相手を向け合った。

 

「最後にもう1度聞きます。引く気は、無いんですね」

 

「俺は殺し屋だ。依頼を受けた以上、目標(ターゲット)を始末する。それだけだ」

 

 それがぶつかり合う前の最後の言葉だった。互いが互いに持てる全ての力を使う為に構え、そして放つ。クロから放たれたのはヤミを軽々と飲み込む程に巨大な電撃。対するヤミは腕の刃を巨大化させ、その電撃目掛けて振るう。耳を劈く程に巨大な音が響き渡り、真白はメアが吹き飛ばされない様に庇いながら頭を伏せた。近隣住民の1人残らずが目を覚ます中、静まり返った河川敷に膝を着く音が微かに鳴る。

 

「勝負あり、です」

 

「あぁ……そうらしいな……」

 

 膝を着いたのはクロであり、彼の傍には破壊された銃が落ちていた。ヤミの中に居るネメシスはそれを見て驚きの声を上げる。

 

『まさか宇宙一固い金属、オリハルコンで出来た銃を破壊するとはな。流石は世界をも滅ぼせる最終兵器だ』

 

「……もう戦いは終わりました。出て行ってください」

 

『つれない事を言うな、金色の闇。何ならこのままここに永住しても良いんだぞ? そうすれば真白の傍に居られるからな』

 

「出て行ってください」

 

『はぁ。仕方が無いな』

 

 会話の末、ヤミの身体からネメシスが出て行く。と同時にヤミは恐ろしい疲労感や倦怠感にクロと同様膝をついてしまった。今襲われれば確実に負けてしまうが、クロはそんなヤミの姿に攻撃を加えようとはしない。それどころか、そんな彼女の姿を見て不意に笑みを浮かべ始める。

 

「ふっ……はは、ははは……兵器が成長、か。確かに本気で成ろうと思えば、人間にも成れるのかも知れないな」

 

「クロ」

 

「俺の負けだ。任務は失敗。もう、使える相棒もいない」

 

「これから、どうするつもりですか?」

 

「さぁな。唯、お前が変われたんだ。俺が変われない道理はない。殺し屋からは足を洗うさ」

 

 そう言って立ち上がろうとするクロだが、放った攻撃に全てのエネルギーを使った為か立ち上がる事が出来なかった。彼に比べればまだ僅かだが力の残っていたヤミは弱った彼の元へ近づき、肩を貸し始める。そしてメアと真白の元へ移動しようとした時、その声は響いた。

 

「ったく、大口叩いといて何て様だい! こうなったらあたし自ら殺してやるよ!」

 

「貴女は……暴虐のアゼンダ……!」

 

 突然聞こえて来た声は新しい人物、過去に真白とヤミが住んでいた家を壊した宇宙人……暴虐のアゼンダであった。捕まった筈の彼女がどうやってまたこの場に居るのかは定かでないが、少なくともクロが現れた理由に彼女が関わっているのは間違い無い様子である。

 

「金色の闇の目の前で三夢音 真白を殺し、絶望する顔を見てから無様に殺してやる!」

 

『それは困るな』

 

≪!≫

 

 アゼンダが自らの目的を大声で明かしていた時、再び誰かも分からぬ声が河川敷に響き渡る。それは男性の者であり、アゼンダは何処から聞こえる声か分からずに周囲を只管見回していた。ヤミや真白も同じ様に周りを警戒する中、それは突然アゼンダの背後に立つ。そして……彼女は大きく吹き飛ばされた。

 

「なぁっ、がはっ!」

 

 地面を転がりながら鈍い声を上げるアゼンダ。そんな彼女が立って居た場所のすぐ後ろには、銀髪に白い服を身に纏った男性が立っていた。この場に居る誰もがその姿に見覚えが無く、彼は順番にヤミやメアの顔を見回してから……真白に視線を向ける。

 

「ようやく見つけた、我が同朋(・・・・)

 

 そう言って彼が背中に生やしたのは純白の大きな翼だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきのデカい音、河川敷の方だったよな!?」

 

「多分そうだと思う! 真白さん、ヤミさん! 無事で居て!」

 

 リトと美柑は結城家を飛び出して真白とヤミを探していた。何処に行ったかも分からずに手当たり次第走り回っていた2人は突然聞こえた轟音の発生源を予想して合流し、走り続ける。そして見えて来た河川敷に立つ数人の姿を前に、2人の息は止まった。

 

「奴らと過ごし穢れた身体に用は無い。我らが王より継承せし力、私が頂こう」

 

「……ぁ……ぅぁ……」

 

「真白!」

 

「真白先輩!」

 

 そこにあったのはボロボロの姿で叫ぶヤミと彼女に支えられるクロ。そしてヤミと同じ様に叫ぶメアと……胸を知らない男性に貫かれた真白の姿だった。真白の背中に男性の手は生えておらず、だがその身体の中には間違い無く入っている。そして狂気にも見える笑みを浮かべた男性が片手で真白の肩を掴むと、貫いていた腕を一気に引き抜いた。真白はそのまま男性に押されて背中から倒れ、男性の手には光の塊の様なものが残る。

 

「ま、しろ……さん……?」

 

「お、おい……真白!」

 

 思わず放心状態になる美柑の横で駆け出したリトは真白の身体を抱き起こす。真白の額には玉の様な汗が流れ、息も荒げていた。その姿は嘗て自らの力を使い切った際に見せたものと酷似している。リトは真白を抱き起こしたまま、男性を睨みつけた。

 

「お前! 真白に何しやがった!」

 

「エンジェイドの力を奪っただけさ! ジル王とセレナ王妃の間に生まれた純粋なる光の力。……デビルークの者共と仲良くする様な穢れた者には必要無い」

 

 男性はリトの質問に答えると、手に持った光を掲げ始める。するとその光は彼の身体の中へ徐々に吸い込まれ始め、やがて消えると同時に彼の身体は一瞬だけ光った。両手を握り、また開き。手に入れた力に満足気な表情を浮かべた男性は真白を抱き起こすリトへ手を向ける。

 

「素晴らしい力だ。まずは手始めに穢れた姫の肉体を浄化してやろう!」

 

「! 止めろ!」

 

「そこに居たら君も消えるだけさ、そらっ!」

 

 リトの制止も空しく無情にも彼が手を前へ突き出した時、巨大な光の弾丸が発射される。惑星ミストアでリトが見た真白の放った弾丸とそれは酷似しており、迫る光にリトは真白を抱えたまま光へ背を向けて頭を伏せた。轟音が美柑やヤミ達の声を掻き消し、リト達はそれに飲み込まれる……前にリトと光の間に立った誰かが剣を振るった。放たれた光は真っ二つに切れ、河川敷の地面へ音を立てて着弾する。

 

「間に合いましたか」

 

「! ザスティン!?」

 

「デビルーク星人!」

 

 2人を守ったのはザスティンであった。リトは驚きながら彼の名前を呼び、男性は憎々し気に彼の種族名を呼ぶ。今までの話からデビルーク星人を恨んでいるのは間違い無い様であり、彼は再びザスティンに向けて手を前へ突きだそうとした。が、先程の様な光の弾丸が現れる事は無かった。

 

「ちっ、まだ制御しきれないか。何時かお前も滅ぼしてやるよ。王室親衛隊隊長、ザスティン」

 

「くっ、お前は……待て!」

 

 ザスティンの制止を聞かずに眩い光を放ち、目暗ましをした男性。余りの強さに各々が目を覆うか背けるかしてしまい、次に見た時には何処にも男性の姿は残っていなかった。少しの警戒をした後、剣を降ろして振り返ったザスティンはリトの腕の中で苦し気な真白の姿を見る。

 

「まずはドクター・ミカドの診療所へ。話はそれからです」

 

 リトを初め殆どがその言葉に頷き、助け合いながら御門の居るであろう診療所へ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以前と同じね。消滅はしていないけれど、生きる力が殆ど空の状態よ。唯、この前と違うのは……器そのものを奪われた事で自然回復する見込みが無いって事ね」

 

「そんな、それじゃあ真白はこのままなのですか!?」

 

「……えぇ。残念だけど」

 

 御門の診療所にて、苦し気にベッドで眠る真白の姿を前に御門とヤミが会話をする。現在他の部屋にクロやメア、ついでにアゼンダも運ばれており、彼らを見ていた者達も徐々に真白の眠る部屋へ集まろうとしていた。ティアーユ等は部屋に入るや否や真白のベッドへ近づき、その手を握って心配そうに声を掛ける。が、真白がそれに返事をする余裕は無かった。

 

「ザスティン、助けてくれてありがとな。でもどうしてあそこに居たんだ?」

 

「確かララさん達はデビルーク星で大きなパーティーに出てるんでしょ? ザスティンさんも一緒じゃ無かったの?」

 

「それが……」

 

 デビルークの王と王妃。そしてその娘達が集まるパーティーに王室親衛隊隊長のザスティンが居ないのは明らかに可笑しい事であった。故に不思議がる2人にザスティンは言い難そうに頬を掻きながら答え始める。彼は普段リト達の親である才培の元で漫画のアシスタントをしており、締め切りに間に合わせる為に徹夜をした反動で眠ってしまっていたら迎えの船に乗り損ねた。との事であった。何方が本業か分からなくなりそうな程に情けない失敗だが、今回はその失敗のお蔭で助かった為にリトは何も言わない事にする。

 

「あ、あの! それで真白さんの力を奪ったっていう人は一体誰だったんでしょうか?」

 

「あの翼……間違い無くエンジェイドのものでした。つまり彼は」

 

「真白さんと同じエンジェイド……で、でもエンジェイドは真白さん以外にはもう居ないんじゃ?」

 

「そうね。確かにエンジェイドはもう居ないわ。でも……」

 

 お静を始めとしてヤミの言葉に美柑が続き、だが疑問に思った為に呟いた言葉に今度は御門が続けようとする。だがその言葉を言い切るよりも早く、ザスティンの持つ通信端末に着信が入り始める。それは彼の部下であるブワッツとマウルからの通信であり、何となくリト達は彼らもザスティンと同じ理由で地球に居る事を察した。

 

「そうか。ご苦労だった。この事は至急デビルーク王に報告する。……」

 

「何か、分かったのか?」

 

「あの男が逃げた先が判明した」

 

 彼らと連絡を取るザスティンの表情は真剣であり、恐る恐るリトが質問すれば帰って来た答えに全員が戦慄する。だが逸早く立ち上がったヤミはザスティンの前に立つと、恐ろしい程に鋭い目で口を開いた。

 

「教えてください。あの男は何処に逃げたのですか?」

 

「……旧エンジェイド星。嘗てジル王が納め、真白殿がシンシア・アンジュ・エンジェイドとして生まれた星だ」

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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