【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第127話 殺し屋・クロ

 その日、御門の診療所には何時もの様に多数の宇宙人達が来訪していた。ティアーユやお静が忙しなく動く傍らで診察を続けていた御門は目の前に居る宇宙人の診察を終えて去って行く姿を眺めながらカルテに様々な内容を記載して行く。そして次の患者を読んだ時、現れたのは銀髪の男性だった。見た目は普通の地球人。だがここに来るなら紛れも無く宇宙人なのだろう。何も言わずに顔を俯かせながら目の前の椅子に座る男性に御門も黙り続け、やがて余りにも長い沈黙に痺れを切らしたのは彼女の方だった。

 

「来た内容は? 怪我か病気か、言ってくれないと分からないわよ」

 

「……人を……探している」

 

「?」

 

 質問に帰って来たのは全く関係の無い話。思わず目を細めながらジッと男性を見続けていた御門は、やがてゆっくりと顔を上げ始めた男性のその姿に目を見開いた。…………それは大きな波乱の前兆であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結城家にて、ララ達が居ない事でとても静かな1日を送っていた真白達は夕食を終えて順番にお風呂へ入る事にしていた。現在は美柑が入っており、真白とヤミは既に上がった後。リトはまだ入っておらず、部屋でのんびりと過ごしている事だろう。そんな時、ヤミと真白は突然感じた気配に視線を向ける。暗い夜の闇に紛れた誰かがゆっくりと近づいて来る気配。ヤミと真白は互いに見合い、頷き合うと窓を開けた。

 

「何者ですか」

 

 ヤミの言葉を受け乍ら徐々に姿が露わになって行き、見えた姿に2人は目を見開いた。それは嘗て沙姫の招待を受けて訪れた別荘で出会った殺し屋……クロ。真っ黒な服装に身を包んだ彼はヤミと真白を順番に見た後、明かりが付いているリトが居るであろう2階へ視線を向けた。

 

「何故、貴方がここに……」

 

「三夢音 真白。だな」

 

「……」

 

「お前に恨みは無いがこれが俺の仕事なんでな。……死んでもらう(・・・・・・)

 

「!」

 

 無慈悲に告げられる言葉。それと同時に響き渡る銃声。自室で寛いでいたリトも、シャワーを浴びていた美柑も。何気なく結城家へ遊びに来ようとしていたメアも、その音を耳に入れる。庭には変わらず立ち続けるクロと窓の傍に立つ真白。そしてその間で腕を刃にしたヤミが真白を守る様に立っていた。黒が放った銃弾はヤミの刃に切られて斜め後ろに2カ所の穴を開けていた。

 

「何のつもりですか……!」

 

「言った筈だ。これが俺の仕事だと」

 

「真白を殺す様に誰かが依頼した。そう言う事ですか!」

 

「そうだ」

 

 鋭い目で怒りを露わにするヤミの姿を前に無表情のまま銃口を向けて答えるクロ。リビングの閉まった扉越しにリトや美柑が走って来る足音が聞こえ始め、真白はそれに気付くと庭に向かって一歩前へ進む。

 

「……ここは……止めて」

 

「……そうだな」

 

 前回出会った時もそうだったが、クロは無関係な者を傷つけないと決めていた。故に2人の人間が近づいて来る事に気付いていた彼は銃口を降ろす。そしてリトと殆ど裸の美柑がリビングへ到着した時、そこには開いた窓から風が入る込むだけの静かで誰もいないリビングしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 河川敷にて真白とヤミはクロと対峙する。周りに人の気配はなく、既に夜遅く故に早々誰かが来る事も無いであろう場所。クロは再び真白へ銃口を向け、その間に割って入る様にヤミが腕を刃にして立ち塞がった。

 

「引く気は無い様ですね」

 

「あぁ。お前が邪魔をするのも想定済みだ」

 

「……」

 

 場所を変えたのは2人を巻き込まない為であり、決して潔く殺されよう等と考えたからでは無い。ヤミと同じ様に真白も動ける準備を始め、やがてクロは数秒目を瞑ると一気に開いた。

 

「2人纏めて、死ね」

 

 再び響き渡った銃声を合図にヤミと真白は左右へ動き出した。ヤミは右から大きく飛びあがってクロへ急接近し、その刃を振り下ろす。だが彼は軽く横へ避けるだけでその刃を躱し、反対側から来る真白の拳を片手で受け止める。僅かな光を伴ったその拳は一瞬にして光を失い、それと同時に真白の眉間に銃口が突きつけられた。が、その引き金が引かれる前にヤミが彼の持つ銃を刃で切り上げる。大きな金属のぶつかり合う不況な音が響き渡り、彼の銃は傷一つ付かずに空を待った。しかし動揺もせずにクロは真白を手を掴んだまま足払いを掛けて地面へ倒す。ゆっくりと彼の銃は元の位置へ落ちていった。

 

「くっ!」

 

「随分鈍ったみたいだな」

 

「……」

 

 彼の手元へ銃が戻った時、既に真白とヤミは彼から距離を取っていた。すると空から突然巨大な刃が彼に向かって振り下ろされる。地面が一本の線を描く様に抉れ、砂煙の中から姿を見せたのはメアであった。

 

「吃驚した。銃声が聞こえて家に行ったら焦ってるリト先輩達しか居ないし。また銃声が聞こえて来て見たら殺し屋のクロさんと戦ってるんだもん」

 

「……メア……! 駄目っ!」

 

「!?」

 

 笑顔で声を掛けるメアの姿に一瞬だけ気が緩んだものの、真白はすぐに彼女の更に後ろで銃口を向けるクロの姿を見つけた。メアはその存在に気付けずに真白の声を聞いて後ろへ振り返る。そんな彼女の胸には彼が放った弾丸が触れていた。途端にメアの身体は電撃を受けた様に痺れ始め、ゆっくりと膝を降り乍ら地面へ座り込んでしまった。

 

「し、しび、れた……」

 

「!」

 

 倒れ込むメアの元へ真白が駆け寄り、守る様にヤミが2人の前でクロと対峙する。彼への警戒を最優先にし乍らも、ヤミは僅かに振り返ってメアの状態を確認した。僅かに痙攣しながらも作り続ける笑顔は何処か痛々しく、それと同時にヤミは1つの事実を理解する。

 

「強い電撃……私達の情報は完全に把握している様ですね」

 

「あぁ。お前達変身(トランス)兵器は強力な電撃を受ける事で一時的に変身能力が麻痺して使い物にならなくなる」

 

「あ、あはは。折角、助けに来た、筈なのに……これじゃあ、足手纏いに、なっちゃうよ」

 

「……普通なら今の一撃で黒焦げだ。生身を保ったまま無事で居られるのは流石と言ったところだが、今回はそれが仇になりそうだな」

 

「……」

 

 立ち上がれないメアの姿を前に告げるクロ。それを聞いて居た真白は悔しそうにし乍ら座ったままのメアから離れると、ヤミの更に前へと立つ。

 

「……目標(ターゲット)は……私」

 

「そうだ。だが俺はもう決めた。……この世界から生物兵器は全て消す」

 

「……違う……兵器じゃ、無い」

 

「兵器だ。例え家族を作ろうと、人に成ろうとしても。そこに居るのは兵器だ」

 

違う(・・)!」

 

 普段は発さない大きな声で真白は否定すると同時に走り出した。身体全体に光を纏って近づく姿に最初は同じ様に受け止めようとしたクロだが、何かに気付いた様にその場所を跳躍して回避する。数秒後、彼が立って居た場所は巨大な丸型の穴が出来上がっていた。

 

「エンジェイドの力か。銀河最強のデビルークと互角に渡り合った力。生物兵器2体にエンジェイド。やり残した仕事を含め、本気でやってやる」

 

 クロの言葉と同時にヤミとメアはその圧力に息を飲んだ。未だ嘗て無い程の強者が今、目の前に居る。真白は静かに拳を握り、自分の周りに光を集め始める。彼には及ばないものの、それでも集まった力は相当な物だった。

 

「くっ、このままでは……」

 

『お前達と真白が同時に攻撃を放ったとしても、あの一撃は耐えられないだろうな』

 

「! ネメ、ちゃん?」

 

 突然聞こえた声にメアが弱った身体に力を入れて顔を上げる。するとそこには何時もの着物姿をしたネメシスが立っていた。クロは新しい誰かに驚くも、情報を集めていた事もあってすぐにその存在がヤミやメアと似た存在であると気付く。つまり決意した彼にとって彼女もまた、消す対象であった。

 

「奴のエネルギー。恐らく単純なものなら今のデビルーク王も上回るだろう。そんなものに勝てるとは到底思えんな」

 

「ならこのまま消されろとでも言うつもりですか!?」

 

「いや、1つだけ方法がある。……金色の闇、私を憑依させろ」

 

 他人事の様に告げるネメシスの姿にヤミが声を上げた時、続けられたその言葉に思わず放心してしまう。何を目的としてそれを言ったのかが分からずに彼女を見つめ続ける中、ネメシスはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「お前の中にはまだ破損したダークネスが残っている筈だ。壊れたままでは使い物にならないが、私が手を貸せば一時的に足りない部分を補える」

 

「!?」

 

 真白と共に破壊したダークネス。確かにヤミの中にそれが壊れた状態で残っていた。もう自らの意思で扱う事も、平穏を受け入れると言う切っ掛けがあったとしても起動しない世界を滅ぼしかねない最終兵器。ネメシスの協力を得てしても扱いこなせる確証はなく、ヤミの目は大きな決断を前に揺れ動いていた。

 

「どうする? このまま真白共々消されるか、一か八か私の手を取るか。選べ、金色の闇」

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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