【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第123話 内側からの侵食

 真白が目を開いた時、その視界に映ったのは何も無い真っ白な世界だった。明らかに現実では無いその場所。最後に行ったのが眠る事だった事もあり、真白はすぐに夢の中なのだと理解した。夢の中で夢であると理解出来る事は稀であり、真白はその事に首を傾げた。すると突然真っ白な世界に生まれる黒い霧。……それで全てを彼女は理解した。

 

「……ネメシス」

 

『ここは、私には眩しすぎるな』

 

 自分をここへ導いた少女、ネメシス。真白がその名を呼べば、見慣れた姿に実体化し乍ら彼女は呟いて周りを見回し始めた。だが少ししてその目は真白へ向けられ、真白もまた目で彼女に問い掛ける。何故自分をこの場所へ呼んだのか? と。

 

「言った筈だ。光を手にする為の準備をしていた、とな。今回はその予行演習の様なものだ」

 

「?」

 

「お前の周りには金色の闇を始め、私の邪魔になる者が多い。だから外からでは無く、中から攻める事にした。こんな風にな」

 

「!?」

 

 ネメシスの言葉に再び首を傾げた真白だが、突如ネメシスが手を伸ばすと同時に自分の周りに黒い霧が纏わり付き始めた事で驚いた様に周囲を見回した。そして嘗て料理の途中で襲って来たネメシスを退けた技を使おうと手を動かした時、目の前に居たネメシスの腕だけが霧の中から飛び出す。一瞬にして片腕を掴まれ、驚く間に反対の手を掴まれた事で真白は両手を万歳する様な体制にさせられてしまった。そして今度は顔だけが真白の目の前に現れる。

 

「既に聞いているだろうが、私はメアや金色の闇とは違う。元々は実体の無いダークマターを奴らが兵器として流用しようとした事で生まれた」

 

「! ぁ……」

 

変身能力(トランス)を知る事で実体化する術を得て、メアと共にお前達を探した。金色の闇を此方に引き込み、お前と言う光を手に入れる為に」

 

「ん、ぁ」

 

 語りながらもネメシスは黒い霧の中から手を伸ばし続ける。彼女の言う通り実体を持たない身体故に、その手は2本だけでは無かった。両手を拘束する手とは別に何本もの手が真白の身体を這い回る様に動き、弄び始める。先程まで着ていた筈の服が気付けば無くなっており、晒された胸や太腿等を撫でられる度に真白は僅かな声を漏らす。語りながらも口元に笑みを浮かべるネメシスはとても楽しそうで、真白は弱りながらもネメシスと目を合わせていた。

 

「金色の闇を引き込む事には失敗した。だが私はお前を諦めるつもりは無い。……いや、諦められないと言った方が正しいか」

 

「……ネメ……シス……んぁ!」

 

「最初に私が見た光。それを求めて私はここまで来た。だからお前を手に入れるまで、私はお前の傍に居続けよう」

 

「!」

 

 突然自分を拘束していた手や襲い掛かって来た手が消え、目の前に四肢のあるネメシスが再び姿を見せる。弱った身体で座り込んでしまった真白の前に立ち、しゃがみ込んでその顎に手を添えたネメシスは真白の顔を上げさせると……笑みを浮かべると同時に口付けをする。目を見開く真白を前に数秒の間それを続け、やがて離れたネメシスは妖艶な笑みで唇を舐めた。

 

「これも言った筈だ。油断するな、とな」

 

 そう言って再び黒い霧に紛れる様にして消えて行ったネメシス。その後彼女が姿を現す事も無く、真白はそのまま倒れ込んでしまう。そして意識が徐々に薄れていき……次に目を覚ました時、そこは結城家の自室であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、何故貴女がここに居るのですか?」

 

「? 何か問題でもあるのか?」

 

 結城家のリビングにて、起床した真白が美柑と共に朝食を作っている間。リビングのテーブルではヤミが目の前で当たり前の様に居座る浴衣姿の少女、ネメシスがお茶を飲む光景に僅か乍ら蟀谷を引くつかせていた。美柑はそんな光景にどうしようかと困った様子で真白に視線を向け、真白は少し考えた後にある料理を増やす事を決断。やがてリトやララ以外の2人も起きて来る中、やはり彼女は堂々と居座り続けていた。

 

「貴女、ヤミさんの時の」

 

「メアの身体を奪った奴!」

 

「ふっ。そう言えば真白達以外には名乗って居なかったな」

 

 ネメシスと交流があるのは真白とヤミのみ。それ以外の面々は基本的に彼女を知らず、数少ない分かっている事はヤミにリトを殺させようとしていた事とメアの身体を乗っ取っていた事。何方もこの場に居る全員に取って良い事では無く、故にリビングの空気は張り詰めた重いものとなり始める。ネメシスは刺さる様な視線を特に気にした様子も無く再び湯呑のお茶を啜り、キッチンへ視線を向けた。

 

「真白。卵焼きを作れ」

 

「あなた、いい加減に!」

 

「モモ……平気」

 

「何か良く分からないけどもう作ってるんだ。はい、どうぞ」

 

 卵焼きを要求するネメシスの姿にモモが怒りを露わにするが、真白がそれを止める様に声を掛けて首を横に振る。すると卵焼きの盛られたお皿を手に美柑が現れ、ネメシスの前に置いた。真白は何となく予想していたのだろう。出て来た卵焼きに目を輝かせて「頂きます」と告げ、食べ始めるネメシスの姿にその場に居た全員は何とも言えない表情を浮かべる。真白とヤミ自身が何も言おうとしない事もそうだが、何よりも今の彼女が美味しいものを食べて喜んでいる唯の少女に見えた故に。

 

「えっと……ネメシス、で良いんだよな?」

 

「ん? あぁ、そうだ。結城 リト」

 

「その、もう真白とヤミに何かする気は無いんだよ……な?」

 

「? 何か誤解している様だが、私は諦めて等いない。三夢音 真白は何れ私の者にする」

 

「何だと!?」

 

 恐る恐るリトが声を掛けて質問すれば、ネメシスが言った答えに反応して威嚇する様に八重歯を見せながらナナが睨みつける。モモも同様に冷たい目で鋭く見つめており、ヤミは唯静かに目を細めてその姿を眺めていた。その目は語る。「させません」と。

 

「ふっ。目的も果たした。邪魔したな」

 

「!」

 

 卵焼きを完食したネメシスは箸を更に上に置いて全員を眺めた後、そう言って黒い霧となって消えてしまう。残ったのは皿だけとなり、彼女が消えた事に驚く面々を置いて響くのはキッチンのフライパンから聞こえる焼き音のみ。少しの間を置いて我に返ったモモは真白の傍へ近づいた。邪魔にならない様にキッチンへは入らず、リビングから身を乗り出す様にして。

 

「シア姉様、大丈夫なのですか? 彼女は明らかに危険です」

 

「そうだよ。あいつはメアの身体を奪って、シア姉とヤミを狙ってたんだろ!? あのままで良いのかよ!」

 

「……」

 

「……」

 

 続く様にナナも声を上げる中、真白は同じ様に黙り続けるヤミと目を合わせる。彼女の正体について知っているのは2人だけであり、メアとの関係やヤミとの関係については当然この場に居る殆どの者が知らない。少しの間見つめ合った後、ヤミは静かに頷いて口を開き始める。ネメシスと言う存在がどんな人物であり、彼女もまたメアと同じく変われると信じている事を。まだ不安を隠し切れないモモとは対照的に、ナナはそれを聞いて徐々に納得し始めていた。メアが変わるその時を知っている彼女だからこそ、その話を聞いて思う事があったのだろう。

 

「分かった。あたしは何も言わない。でもシア姉に変な事する様なら容赦しないからな!」

 

「えぇ。その時は私も同じです。真白は私の者ですから」

 

「シア姉様は皆の者ですが、それはともかく。警戒するに越した事は無さそうですね」

 

 3人が各々口にし乍ら考え始める中、2階から聞こえる足音にまだ起きていなかった1人が起きた事に気付いた面々。やがて太陽の様に明るい笑顔で現れるララの姿を切欠に、重い空気は消え去るのだった。

 

「真白、何かあるなら俺も協力する。1人で抱え込むなよ?」

 

「ん…………大丈夫」

 

 故に真白は夢の中で起きた事を明かさないと決める。それがネメシスに取って好都合な事だったと知るのは数日後の事であった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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