【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

123 / 139
第122話 モモの不満。ネメシス、ストーカーになる?

 放課後。学校での時間を終えて帰宅したモモはリビングで寛ぐ美柑の姿を確認した。そして普段なら居る筈の真白とヤミが居ない事に気付き、首を傾げる。

 

「美柑さん、シア姉様とヤミさんは居ないのですか?」

 

「うん。さっき醤油が切れてるのが分かって2人で買い物に行ったよ」

 

 「私もついて行きたかったけどね」と続け乍ら、美柑は窓の外を眺める。現在彩南町の空には暗雲が広がっていた。庭にはまだ干してある洗濯物が存在しており、天気予報では降らないと言いつつも心配だった美柑は家に残る事にしたのだ。真白が居ると期待してやって来たリビングに居ないと分かり、モモは残念そうに溜息をついてソファに腰掛ける。

 

「モモさん、何かあった?」

 

「え?」

 

「何か最近、元気無いみたいだけど」

 

「そう、見えますか?」

 

 突然掛けられた声に驚いた様子で顔を上げたモモは美柑の言葉に聞き返し、頷かれたのを見て何と言葉にすれば良いのか迷い始める。最近、モモが元気が無いのは事実だった。そしてその理由が真白と触れ合う時間が減った事である事は、モモ自身が良く理解出来てもいた。朝の侵入を始め、何かを仕掛ければその尽くがヤミに妨害されてしまう様になった事でモモは大事な何かが失われた様な気分に陥っていたのだ。到頭美柑にまで心配される程に自分が弱っていたと知ったモモは突然立ち上がる。

 

「少し、顔を洗って来ます」

 

 そう言ってリビングを後にするモモの姿を心配そうに眺め、美柑は再び外へ見上げる。先程まで暗かった空は更に黒くなり、それと同時に振り始めていた雨が容赦無く洗濯物を庇う様に掛けられたビニールシートに降りかかっていた。それに気付いて焦りながら庭へ出た美柑は洗濯物が濡れる前に回収して一安心。それと同時に玄関の扉が開いた音に気付いて出迎えに行けば、そこにはビショビショに濡れた真白とヤミの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり傘は持って行くべきでしたね」

 

「ん……」

 

 濡れた服を選択籠に入れながら洗面所で話す真白とヤミ。切れた醤油を買いに行くだけだった為、素早く帰って来れると傘を持って行かなかった事が失敗となって濡れてしまった2人はシャワーを浴びる事にした。美柑が買って来た買い物袋の中に醤油と鯛焼きのセットがある事に頬を掻いている頃、生まれたままの姿になった2人は浴室へ足を進め始める。……そんな自分達の姿を床から眺めている者が居る事に2人が気付く事は無かった。何故ならそれは気配すら持たない物体と成り替わっていたのだから。

 

『ま、まさかこの前お姉様が作った試作段階の発明品がそのまま置いてあるなんて……!』

 

 それはスポンジ。数日前、ララが春菜と共にケーキ作りをしようとした際に作った発明品がその元凶であった。ケーキのスポンジを作る為に作られた発明品。だが何時も通りの失敗で出来上がったのは、乗せた物を身体を洗う時に使えるスポンジへ変えてしまうものだった。その日はリトが嫌な予感を感じた事でララからそれを取り上げてお風呂掃除を始め、そんな姿に春菜と進展して貰おうと近づいたモモが揶揄った末に彼をスポンジへと変えてしまった。その後は料理に失敗した2人がお風呂へ入る事になり、スポンジのままだった彼が大変な目にあったが……それはその日の話。

 

『こ、このままではこの前のリトさんと同じ目に……。? 寧ろチャンスなのでは?』

 

 小一時間で元の身体に戻ったリトは2人の目の前で戻ってしまい、様子を伺っていたモモを気にしたナナにも気付かれて一悶着あった故に発明者のララも被害者のリトも、加害者のモモも忘れていた。その発明品を片づける事を。故に顔を洗いに来たモモは元気が無かった事で周りがしっかりと見えて居らず、ちょっとした拍子にその機械の上に乗ってしまったのだ。モモは最初焦っていたが、徐々に理解し始める。あの時リトは春菜やララが身体を洗う為にスポンジとして使われた。そして今、それと同じ様な事が起きようとしていると。

 

『真白、スポンジがありません』

 

『……洗面所。……待ってて』

 

『! 来ます!』

 

 ガラスの扉越しに聞こえる2人の声にモモは緊張しながらも興奮した様子でその扉が開く光景を眺め続けた。開き切った扉から出て来たのは生まれたままの恰好をし乍らも少し濡れた真白の姿。彼女は少しだけ視線を彷徨わせ、やがて目の無いスポンジと目が合った。

 

「……あった」

 

『来たー!』

 

 動けない身体で飛び跳ね乍ら、真白の手に包まれたモモ(スポンジ)。そのまま暖まった浴室に連れて行かれ、始まるのはモモにとっての桃源郷だった。ヤミの身体を洗う際にも真白の手に握られ、真白自身は自分で洗う為か同じくその手に握られる。常に真白の手に握られ、後者の際には鼻さえあれば(鼻血)が溢れていた事だろう。二の腕に脇の下。胸の谷間に脇腹。太腿に脹脛。臀部に大事な所。その全てを本人に寄って擦りつけられたモモは今まで失っていた何かを急速に取り戻していく。寧ろ摂取し過ぎる程に。

 

 彼女には更に幸運な事があった。それはまだスポンジになってそれ程時間が経っていない事。リトはなってから少しの時間を置いてララと春菜の元へ連れていかれた。だがモモはスポンジになって間もなくこの状況に陥っている為、恐らく2人が出た後で元の姿に戻る事だろう。雨に濡れた身体を温めるのに30分も時間は要らない。真白の身体とヤミの身体を感じたモモはやがて2人が上がる姿をフワフワとした思考で眺めていた。そして少ししてから身体が光り始め、浴室には裸のモモが現れる。

 

「ぁ、はぁ~、しぁわせぇ~……」

 

 決して人には見せられない程に蕩け切った表情のモモは元に戻っても長い間その場所から動けなかった。

 

 その日の夜、途轍もなく機嫌の良いモモの姿にナナが引く中で心配していた美柑を始めとした面々は安心する事となった。が、何故彼女の元気が無かったのかを知る者は誰もいない。

 

『今後はヤミさんに気付かれずに接触する方法を考えましょう。計画も含め、漲ってきました!』

 

 そして彼女の企みを知る者もまた、1人もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、真白先輩はネメちゃんが何処に居るか知ってる?」

 

「……知らない」

 

「私も知りません。もう前の家には居ないのですか?」

 

「うん。最後に会ったのはあの日の翌日。それ以降は会って無いんだ」

 

 彩南高校にて、昼休みにメアと共に昼食を取る事になった真白とヤミは突然の質問に首を傾げながらも答える。どうやらダークネスの一件以降、袂を分かったメアとネメシスは一緒に過ごさなくなった様である。彼女自身もネメシスが何処に居るのかは分からず、心配する姿は嘗ての主だからか。友達だからか……恐らく後者なのだろう。まだヤミはネメシスへ対しての警戒を解けずにいるが、それでも無関心ではいられない。真白と共に彼女の事を色々知った故に。

 

「今、何処で何してるんだろう?」

 

『お前達と一緒に昼飯を食べているぞ』

 

≪!≫

 

 メアの言葉に突然響き渡った声。3人が周囲を見回し始めた時、真白が2人よりも早く自分の隣に黒い霧が集まり始めた事に気付いた。やがてそれが人の形になった時、ゆっくりと伸びた手が置いてあったお弁当の卵焼きを掴む。それは真白のお弁当であり、作ったのは美柑と真白。ゆっくりと取られたそれは完全に実体化したネメシスの口へと落ちていった。

 

「ネメちゃん!」

 

「神出鬼没、ですね」

 

「呼ばれたから出て来てやっただけだ。むっ、この卵焼き……上手いな」

 

 喜ぶメアと目を細めるヤミの姿に答えながらも咀嚼したネメシスは驚いた様子で真白へ視線を向ける。彼女が今まで地球で食べていた物の中で美味しいと思えた物は複数ある。その中に真白が作ったカレー等もあるが、彼女は確信していた。あの時の料理よりも間違い無く美味しいと。

 

「腕を上げた……訳では無い様だ」

 

「……美柑と……作ったから」

 

「美柑。結城 リトの妹だったな。なるほど、そいつと一緒の料理の方が上手い訳か。……」

 

「あげませんよ」

 

 味が向上している理由を知ったネメシスに見られたヤミはお弁当を守る様に髪を変化させて守りの体勢に入り始める。何処か微笑ましくも見える光景にネメシスが僅かに笑った時、一番彼女の事を気に掛けていたメアが身を乗り出してネメシスに声を掛けた。

 

「ねぇねぇ、ネメちゃんは今まで何処で何してたの?」

 

「そうだな。光を手にする為の準備、と言ったところか」

 

「! 今度は何をするつもりですか」

 

「そう構えるな、金色の闇」

 

「……」

 

 ネメシスの答えに細めた目から鋭い目へ変えたヤミが問うも、彼女が答える事は無かった。余裕綽々と再び真白のお弁当に手を伸ばし、今度は唐揚げを手にそれを口の中へ。徐々に無くなるお弁当を前に、真白は何も言わずにジッとその姿を見つめ続けていた。

 

「少々真白の周りを眺めていただけだ。お蔭で色々分かった。普段何処へ買い物に行くかや何が好物か。他にも誰とどう過ごし、どんな道を通るか。普段の生活を色々知れたぞ」

 

「ネメちゃん、それってストーカーって奴じゃ無いの?」

 

「ストーカー? 何だそれは」

 

 話を聞いていたメアが何となく言った言葉。だがそれは大きく的を射ており、ヤミと真白も同じ事を思っていた。しかし本人は言葉の意味を知らない様で、ネメシスから説明を受ける。そして全てを理解したネメシスは……立ち上がって真白へ告げた。

 

「なるほど。私は今、真白のストーカーになった訳か」

 

「ネメちゃん、ストーカーって良い事じゃ無いよ。寧ろ悪い事」

 

「何? そうなのか?」

 

 再び説明を受け始めるネメシス。そんな彼女の姿にヤミは少し馬鹿馬鹿しくなった様子で警戒を解いて昼食を再び食べ始める。確かに相手は危険な存在ではあるが、明らかに彼女が今この時何か害を成そうとはしていないと思った故に。真白は特に気にした様子も無く同じ様に少し減ってしまったお弁当へ箸を伸ばす。その後、ヤミのお弁当へちょっかいを出すネメシスの姿も交えながら4人は時間を過ごすのだった。

 

 

「あぁ、真白。私はしばらくお前の周りに居るつもりだ。だから油断するなよ。油断したら最後、今度こそお前を闇に染めてやろう」

 

「させません。真白は、私が守ります」

 

 

「ヤミお姉ちゃんはネメちゃんに夢中……なら今がチャンスだね♪ 真白先輩、あ~ん」

 

「? あむっ」

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。