【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第119話 真白、チャーム熱に掛かる

 平日の朝。美柑は何時もの様に起きて朝食を作る為の準備をしようとしていた。だが普段なら同じ様に朝早く起きて一緒に準備をする筈の真白が何時まで経っても起きて来ない事で美柑は不思議に思いながらも1人で準備を進め続ける。今まで寝坊などした事の無い真白だが、彼女も絶対では無い。故にそんな事もあると考えて。しかしリトが起床しても、ララ達が起床しても真白は起きて来なかった。一緒の部屋に居るであろうヤミも起きて来ず、流石に心配し始めた美柑は真白の部屋へ向かう。……そして、リビングへ帰って来なかった。

 

「何かあったのか?」

 

「リトさん。セリーヌをお願いします。私が見てきます」

 

「お、おい! 大丈夫なのか?」

 

「私も行く!」

 

「いえ、お姉様たちは待っていてください。もし私も戻って来なかったら、その時は対処を」

 

 モモの言葉を受け、流石に只事では無いと嫌でも理解した面々。そして彼女が階段を上がって行く姿を心配そうに眺めていた4人は……焦った様子で降りて来るモモの姿に安堵し、ララ達を見て言い放った彼女の言葉を聞いて同時に困惑した。

 

「御門先生に連絡を! シア姉様が、シア姉様が……チャーム熱に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間違い無くチャーム熱ね」

 

 まだ平日の朝早い時間だった為、御門は彩南高校へ出勤する前であった。真白が病気になったと聞いてティアーユと共に結城家へ訪れた彼女は診察を行い、リビングでその結果をリト達に報告する。現在ティアーユは真白の部屋に居り、その様子を心配そうに見守っていた。赤く染まる頬に苦しそうな呼吸。見た目普通の熱と変わらない様にも見えるが、それは宇宙人特有の病気であった。

 

「チャームってセフィさんと同じだよな? 一体どんな病気なんだ?」

 

「チャーム熱。本人自体は地球人が出す熱と変わらない症状なのですが、それに加えてチャーム人と似た様に周囲の人間の一部を魅了してしまう病気です」

 

「それで美柑とヤミは……あれ? でも確かチャーム人の効果は女性に聞かないってセフィさんが言ってた筈だけど」

 

「チャーム熱が齎すチャームの対象は少し特殊なのよ。誰彼構わず魅了するのではなく、元々好意のある相手の心を増幅させる形になるわ。だから別に好きでも無い相手であれば魅了もされない」

 

「ヤミは当然シア姉の事が好きだもんな。でも美柑もなったって事は……」

 

「美柑も真白の事が大好きって事だね!」

 

「そうなるわね」

 

 リトの質問にモモが説明を始め、湧き出た疑問に御門が答える。そしてナナとララの言葉に頷いて今現在真白の傍に居るであろう2人を思い浮かべた。

 

 心配そうに真白を見守るティアーユとは別に、真白の傍に寄り添い乍ら手を握って離さないヤミと美柑の姿が彼女の部屋にはあった。チャームに掛かった者を強引に引き剥がすのは心の崩壊に繋がる可能性があり、故に2人を部屋から連れ出す訳には行かない。今はまだ寄り添うだけの2人だが、今の状況が長く続けば何か行動する可能性もあり、ティアーユの心配はより大きくなった。

 

「取り敢えず、結城君は近づかない様に。男性の場合は恋愛感情が無くても強引に好意へ変換された上で増幅される可能性があるわ」

 

「私達はチャーム人の血を継いでいますから、耐性があります。ここは任せてください」

 

「何時もシア姉には世話になってばっかりだからな!」

 

「私達で看病してあげよう!」

 

「皆……分かった。真白の事、頼むぜ!」

 

 御門の注意を聞き、ララ達の言葉を受けて真白の看病を託したリト。彼の言葉に3人が同時に頷くが、そんな様子を見ていた御門は静かに口を開いた。

 

「意気込むのは良いけれど、貴方達はこれから学校よ?」

 

≪あ≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 保険の先生が学校に不在な事は決して珍しい事では無い。リト達が学校で過ごす間は御門が看病する事になり、彼女は真白の部屋で3人の様子を眺めていた。因みにティアーユは担任のクラスもある為休む訳に行かず、嫌がる彼女を御門は強引にリト達へ託す事で出勤させた。

 

「……」

 

「すぅ……すぅ……」

 

「ん……ましろ、さ……ん」

 

 現在真白は御門が与えた薬を飲んで眠りについており、ヤミと美柑も片側ずつ真白の腕を抱きながら眠りについていた。御門は自分がチャームによって魅了されない様に一時的な耐性を持てる薬を服用しており、魅了された2人が変な行動を起こさない様に部屋の中には不思議な香りのするお香の様なものが焚かれていた。その効果は眠気を誘うもので、自身が眠らない様に魅了と同じく対策は万全であった。

 

「この前来たって言う王妃様か、その護衛の誰かがウイルスを持って来たのかしら?」

 

 眠る3人を真白中心に眺めていた御門は1人考える。本来地球に無い病気を地球に居る者が発症する可能性は低い。確かに地球には隠れて沢山の宇宙人が住み着いているが、ここ数日の内に真白がチャーム熱を発症する為にウイルスを貰う原因として考えられるのは……先日やって来たセフィの来訪であった。当然彼女にその気も無ければ周りも自分達がウイルスを持っている等と思ってもいなかっただろう。王妃の護衛となれば、病気の対策も万全な筈。その上で真白が掛かってしまったのは不幸としか言い様が無かった。

 

「ん……りょ、う……こ」

 

「起きたのね。気分はどうかしら?」

 

「……」

 

 ふと静かに目を開けた真白は微睡みながらも自分を見る御門の姿に気付き、声を掛ける。ララが地球に現れた辺りから注意を受けて他の面々と同じ様に先生と呼んでいた真白だが、今だけは前の呼び方で彼女を呼んだ。気を付ける余裕も無いのだろう。御門は気にせずに近づいて額に手を当てると、それだけで真白の体温を計測する。

 

「まだ熱はあるわね。食欲はどう?」

 

「……無い」

 

「そう。でも食べなさい。用意して来るわ」

 

「……涼子……が……?」

 

「言っておくけど、貴女が居ない日は自分で作って食べてたのよ? 最近はお静ちゃんに頼りっきりだけれど、不味いものは作らないわ」

 

「……そう。……お願い」

 

 まだ朝食も食べていない真白だが、当然熱を出していた彼女は食欲を失っていた。だが弱った時こそ食事を取るべきとは良く言うものであり、御門は真白に言い切ると一度部屋を後にする。リトから家の中を軽く説明されており、冷蔵庫の中の物も自由に使って良いと予め了承を得ていた御門。病人が食べる食事として、彼女は無難に卵粥を作り始める。そして完成した後に真白の部屋に戻れば……そこにはとても官能的な光景が広がっていた。

 

「真白……はむっ」

 

「真白さん……ぺろっ」

 

「ん、ぁ……止め、て……」

 

「……はぁ」

 

 真白の両腕に抱き着いて居た2人が互いに片腕を抑えたまま、真白の耳や首筋を舐める。弱った真白に抵抗する力は無く、只管されるがままとなるその姿に御門は溜息をつくと、自分の大きな胸の谷間に手を突っ込んで小さな錠剤を取り出した。徐々に2人の攻めはエスカレートし続けており、御門が取り出す間に真白は上半身を脱がされて胸元に吸い付かれてしまっていた。そこで御門は取り出した錠剤を3人の上に掲げ、口と鼻を押さえ乍ら静かに告げる。

 

「真白、息を止めなさい」

 

「っ!」

 

 与えられる快感に全力で抗い、真白が息を止めると同時に御門は錠剤を指先で砕いた。途端に粉となったそれは3人の元に振りかかり、夢中で胸を堪能していた2人はそれを吸い込む。と同時にまるで事切れたかの様に静かに眠り始め、真白は目を見開きながらも御門を見る。彼女は卵粥の入った器を高い位置で持ったままベッドの脇から窓を開けると、軽く手で仰いで空気を入れ替えて始めた。

 

「……何……した、の?」

 

「安心しなさい。速攻の睡眠薬よ。嗅ぐだけで2,3時間は起きない特別製のね」

 

 少しの間を置いて呼吸を再開した真白からの質問に御門は答えると、2人に乗られて両手が動かせない真白の姿に仕方なくベッドの脇へ座る。そして片手で乱れた真白の服を軽く直すと、ようやく卵粥を食べる様に進めた。体制は横になったままの為、仕方なく真白は首だけを上げて食べるしか無かった。

 

「喉に詰まらせない様に気を付けなさい。はい、あーん」

 

「ぁ、む…………んっ。……美味しい」

 

「それは良かったわ。……後で前だけでも拭いた方が良いわね。唾液でベトベトみたいだもの」

 

「……」

 

 自分でする事が出来ない現状、真白は御門に頼るしか無かった。故に彼女の言葉に頷いて答え、それからゆっくりと卵粥を食べ続ける。その後無事に食べ終わった真白は御門に濡れた暖かいタオルで身体を拭いて貰い、再び眠りについたのだった。

 

 数時間後、まだヤミと美柑も眠る中でリト達が帰宅する。心配そうに状況を確認する彼らに御門は大丈夫である事を伝え、薬を飲ませる事や無理をさせない事を初めとした注意事項を説明した。流石に医者として放課後の診療所は空けられない為、御門はララ達へ真白をお願いして結城家を後にした。

 

「真白。気分はどう?」

 

「……少し……良く、なった」

 

「そっか。念の為明日も学校は休めよな?」

 

「皆さん、お見舞いに来たがっていました。病気が病気ですから、何とか堪えてもらいましたが」

 

「……そう」

 

 夜を迎え、御門に用意された薬を飲んで少し体調が良くなり始めた真白はララ達に学校での話を聞かされていた。幸いな事にチャーム熱は発症後、周辺へ移る心配が無い病気だった為に3人は普段通り真白と接していた。因みに御門曰く、チャーム熱でチャームに掛かった者も発症しないとの事であった。

 

「今日は寝てばかりだと思いますが、治すならそれが一番です。お休みなさい、シア姉様」

 

「お休み、シア姉」

 

「また明日ね、真白」

 

「ん……お休み」

 

 長く居続けては身体に障ると考え、モモは真白に告げて部屋を後にする。彼女に倣う様にナナも部屋を去り、ララも居なくなった後。真白の部屋には3人の寝息だけが聞こえ始めた。……そして更に数時間後、眠る真白を横に美柑が目を覚ます。御門は2,3時間眠る薬と告げていたが、それは何時も通り宇宙人相手での効果時間。地球人である美柑は半日ほど眠ってしまっていたのだ。同様にヤミも普通とは違う為、効果時間は違う様である。

 

「あれ……私……」

 

 目が覚めた美柑は余りにも長い睡眠から覚めた事で中々状況を理解出来なかった。だが冷静に考えようとし始めている事から、既にチャーム熱によるチャームの効果は消え去った様である。それはつまり、明日には真白も元気になれる証であった。

 

「確か起きて来ない真白さんを心配して……それで真白さんに襲い掛かってるヤミさんを見て……!?」

 

 徐々に理解し始めた美柑は急激に顔を赤くし始める。チャーム熱で魅了されていた時間は全て記憶に残っており、自分が真白に何をしたのかも……自分が真白をどう思っているのかも覚えていた。今はまだ眠り続ける真白だが、その姿を前に美柑は平静で居られず、飛び出す様に部屋を出て自分の部屋へ直行。ベッドに入って布団を頭から被り、籠り始める。

 

「(嘘、何で……真白さんは家族なのに。先生に言った様に、お姉ちゃんに近くて……)」

 

 顔から何から全てが熱く感じる中、美柑は必死に理解してしまった感情を否定しようとする。だが先程まで膨れ上がっていた感情は今も消える事無く燻り続けており、それが紛れも無い自分の思いである事もまた自身が一番理解出来る事であった。もう、否定のしようが無かった。

 

「私……真白さんの事、好き……なんだ……」

 

 無意識に認め、呟いたその言葉を聞く者は誰も居なかった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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