【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第118話 デビルーク王妃の来訪【後編】

 そこはナナの飼っている宇宙動物達が過ごす電脳サファリと呼ばれる場所。ナナ曰く温泉が好きな動物達の為にララへお願いをして作って貰った温泉がそこにはあり、リトとザスティンは当然としてセフィと真白以外の者達は湯船に浸かっていた。暖かく心地よい湯にヤミと並んで美柑が目を細めていた時、少し離れた場所でララとモモの戯れる声が聞こえ始める。美柑が視線を向けた先ではララがモモの胸を触っており、そんな光景をナナが悔しそうに眺める光景があった。

 

「ふん、デカけりゃ良いってもんじゃないからな!」

 

「あ、あはは……」

 

 僻みにも聞こえるナナの言葉に美柑は苦笑いをし乍ら、未だに温泉へ来ないセフィと真白を思い浮かべて岩場の向こうへ視線を向ける。普段から立場上、誰かにお風呂へ入る際に手伝いをして貰っていたセフィは自分だけで準備をするのが難しかった。そこでモモが手伝う為に声を上げようとしたが、それより先に動いたのは真白であった。愛娘達との時間と探していた真白との時間。何方もセフィにとっては天秤には掛けられない大事な時間であったが、真白の行動にララ達が譲った事でセフィのお願いする相手は決定。その際、ヤミは手伝われる事はあっても手伝いは出来ない為、先に入る様に言われたのである。

 

「……これで……良い?」

 

「えぇ。ありがとう、シンシア」

 

「……」

 

「そう、だったわね。貴女はもう、真白……なのよね」

 

「ん……」

 

 美柑が見つめた岩場の向こう側では、服を脱いでベールのみを付けたセフィがタオルだけを巻いた真白と話をしていた。セフィの言葉に真白は頷いて肯定すると、顔に掛かったヴェールを見つめる。セフィは女性だけになったこの状況でも顔のヴェールを外そうとはしなかった。それはこの電脳サファリにはナナの飼う宇宙動物達が住んでおり、チャーム人の効果は動物の雄にも作用する為である。

 

「……」

 

「……ふふ」

 

「?」

 

 自分を見つめる真白の姿にセフィは同じ様に見つめ返し、やがて口元を覆って上品に笑う。何に関して笑ったのかが分からなかった真白は首を傾げ、それを見てセフィは答える為に口を開いた。

 

「御免なさい。貴女が若い頃のセレナに良く似ていたものだから」

 

 その言葉に真白は目を見開いて驚いた。彼女にとってその名前は母親であり、だがそれだけの記憶しか無かった故に。幼い頃に父親を亡くした彼女だが、それより以前に母親は亡くなっていたのである。その理由が病死である、とだけ教えられた記憶があった真白。しかしそれ以上の事は幼かったシンシアには理解出来なかったのかも知れない。今なら分かる事も多いが、それを語れる人物は数少ないのである。

 

「……母は……どんな、人……だった?」

 

「そう、ね。……セレナは……彼女はとてもやんちゃな子だったわ」

 

 真白の質問に思い出すかの様に空を見上げながらセフィは答え、言葉を続ける。

 

「何時も前向きで明るくて、誰よりも早く行動して、何よりも困っている人を放って置けない優しい子だった」

 

「……」

 

「問題があれば何でも解決しようとして、出来ない事まで抱えようとしてはジルさんに心配されていたわ」

 

 懐かしむ様に語るセフィの言葉に真白は僅かに残る記憶を思い出す。白い靄が掛かった様で、母親であるセレナの顔も父親であるジルの顔も分からない。だが2人は互いにセフィとギドと一緒に笑い合っていた。ララ達3人に甘えられるセフィを前にシンシアは顔の見えないセレナの膝上に座り、ギドと肩を組んで陽気に過ごす男2人の姿に母親2人が互いの顔を見合って呆れた様に笑う。……そんな、幸せな光景。

 

「あの人は同じ星に住むデビルークの民の為、銀河最強になる事を決意した。でもその為に築いた屍の中に、エンジェイドの名とジルさんが含まれてしまった」

 

「……」

 

「私が謝ってもどうしようも無い事は分かっているわ。だけどそれでも……貴女達を巻き込んでしまって、御免なさい」

 

 そう言って頭を下げるセフィの姿に真白は無言のまま、セフィが眺めていた空へ視線を移す。最初に仇であるギドと再会した時、真白の中に湧いたのは怒りだけだった。だが以後の生活の中で理解した事実もある。……ララやセフィが今まで安全に過ごして来れたのは、デビルーク星の王が銀河最強である為。中には邪な心を持って近づく存在もおり、ララの婚約者候補の中にも紛れている事実はあるが、迂闊に手を出せる存在では無くなったのは彼のお蔭なのだろう。初めての友達とその妹達やセフィを守っていたのは間違い無く彼なのだ。そしてセフィは母親の、ギドは父親の親友でもあった。

 

「……」

 

「おーい! 母上~! シア姉! まだ入らないのか~?」

 

「流石に何時までも入っていては逆上せてしまいます!」

 

 自らの内にある感情が分からず黙り続ける真白と、そんな彼女見つめるセフィに突然掛かるナナとモモの声。そこで2人は温泉に入ろうとしていた事を思い出し、準備も殆ど終わっていた事に気付いた。真白は空から岩場の向こうを気にする様に視線を向けた後、セフィを見て静かに手を差し出す。真白の行動にセフィは心配そうにその姿を見つめ、だがララ達を余り待たせる訳にも行かない為にその手を取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セフィが合流してからの温泉は先程よりもララ達が賑やかになり、真白は美柑と並んで静かにその光景を眺めていた。普段余り見せないナナの甘える姿。何かを見透かされる様に耳打ちされ、顔を真っ赤にするモモ。そして楽しくて楽しくて仕方が無いと言った様子で笑顔を絶やさないララ。普段地球に居る為に会えない母親との再会は3人にとって1秒も無駄にしたくない大事な時間であった。

 

「楽しそうだね、ララさん達」

 

「ん……」

 

「そうですね」

 

「……お母さん、か」

 

 ララ達3人に囲まれて優しい笑みを浮かべるセフィの姿を見て美柑は静かに呟いた。現在セフィは温泉に入っている間のみヴェールを外しており、その素顔が露わになっていた。美柑の中で母親と言えば、林檎以外に居ないだろう。普段は忙しい故に中々会えないが、それでも唯1人の存在である。

 

「真白~!」

 

 セフィとの戯れを止めて眺めていた真白の元へ近づき始めたララ。泳ぐ様に勢いを付けて近づいた為、真白はその身体を自らの身体で受け止める事になった。するとララは真白の身体に正面から抱き着いて自分の胸と真白の胸をくっ付け始める。

 

「う~ん! やっぱり真白のおっぱい、気持ち良いね!」

 

「んっ……そう」

 

 見ているだけでも恥ずかしい行為を恥ずかし気も無く行うララの姿に美柑は少しだけ顔を赤くしながらも目を反らそうとはしなかった。その理由が少し擽ったそうに身を捩る真白が居るからか、何かが羨ましいからなのか……その真意は本人にも分からない。一方、ヤミはララの行動を見て状況が状況故に引き剥がす訳にも行かず、対抗する様に真白の背後にピッタリくっつき始める。

 

「ママ! ママもやってみなよ! 気持ち良いよ!」

 

「えっと……」

 

 ララの提案に困った様子で真白を見るセフィ。真白も同じ様に視線を返し、やがてセフィはゆっくりと湯の中を移動しながら真白へ近づき始める。普段ララが良くやる行為だが、それを自分達の母親がやろうとしている事に思わず生唾を飲んだナナとモモ。ララが離れ、徐にセフィは両手を伸ばして真白の身体をヤミごと正面から抱きしめた。

 

「んっ、ふぅ……これは、確かに」

 

「気持ち良いでしょ?」

 

 真白の肌や感触を感じて少し驚きながらも止めるどころか僅かに抱擁を強くするセフィにララは笑顔で同意を求めると、今度はセフィを含めた3人を両手いっぱいに広げて抱きしめ始める。そして美柑に笑顔で視線を向けた。見られた美柑は何を言われずとも察する。「一緒にやろう!」と言われていると。

 

「その……し、失礼します!」

 

「ふふ。それじゃあ、私も」

 

「あ、ならあたしもやる!」

 

 美柑が意を決して混ざろうとすれば、眺めていたモモとナナも混ざる様に3人の元へ近づき始める。気付けば真白は5人に囲まれる様に抱き締められており、結局そのまましばらくの間広い温泉で6人は固まって過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セフィ様、母船からの迎えが参りました」

 

「もう、帰っちゃうの?」

 

 温泉から出て電脳サファリからも出た6人は結城家のリビングで時間を過ごしていた。だがリビングにやって来たザスティンの一言でセフィは立ち上がり、ララが寂しそうに声を掛ける。

 

「また時間を作ってここに来るわ。……これからも娘達の事、宜しくお願いします」

 

「は、はい!」

 

 ララに優しく告げたセフィはララ達がお世話になっている結城家の2人、リトと美柑に改めて頭を下げ乍らお願いをする。リトは未だに緊張した面持ちで答え、美柑もセフィの言葉に頷いて答えた。するとセフィはその光景を眺めていた真白へ視線を向ける。

 

「真白。何時か、心が許す時が来るのなら。デビルーク星へ遊びにいらっしゃい。皆、喜ぶわ」

 

「……ん」

 

「ヤミちゃん。真白の事、守ってあげてね」

 

「言われずとも、真白は私が守ります」

 

 セフィの言葉に真白は頷いて答え、ヤミは言い切る様に答える。リトはセフィの言葉に一瞬違和感を感じて首を傾げるが、それが何なのか彼には分からなかった。そして彼が考える間にも別れの挨拶は続き、ナナとモモが並んでセフィと言葉を交わす。

 

「母上、今度は何時会える?」

 

「会おうと思えば何時でも会えるわ。私はデビルーク星に居るもの。でも、この町に残ると決めたんでしょ?」

 

「はい。友達も出来ましたし、やりたい事も沢山ありますから」

 

「そう。…………」

 

 モモの答えを聞いたセフィは徐に耳元へ口を近づけると、彼女にしか聞こえない声量で何かを告げる。モモは言われたその言葉に目を見開き、見ていた者達は全員何を言われたのか分からずに首を傾げる。やがてセフィはモモから離れると、全員にも聞こえる声で告げた。

 

「それが貴女にとって幸せと言えるなら、否定はしない。だけど本当にやる気なら、相応の覚悟をしなさい」

 

「!……はい」

 

 セフィの言葉に決意に満ちた眼差しで返事をしたモモ。それを最後にセフィはザスティンの元へ歩き始め、全員に見送られながらデビルーク星へと帰って行った。

 

 まだ終わらずともまた濃い1日を過ごした面々。リトが大きく脱力する中、モモは自室で1人考え込んでいた。

 

「あの徹底したハーレム否定派のお母様が否定しないなんて……何か目的がありそうだけど、これは大きな収穫だわ!」

 

 モモは嬉しそうに1人、部屋で言うと上機嫌で異空間の共有スペースへ足を進め始める。……こうしてデビルーク星の王妃、セフィ・ミカエラ・デビルークの来訪は無事に終わるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デビルーク星へ向かう母船にて。

 

「♪~♪」

 

「地球への来訪、実りある時間となった様ですね」

 

「えぇ。ずっと願っていたシンシアとの再会も出来て、娘達も元気そうで良かったわ。何より、新しい希望も出来たもの」

 

「希望、ですか?」

 

 上機嫌なセフィにデビルーク星へ着くまで護衛として乗って居たザスティンが声を掛ければ、嬉しそうに笑みを浮かべてセフィは答えた。そしてその答えにザスティンが聞き返した時、セフィはある人物との会話を思い出しながら窓の外に見える地球を眺めて答える。

 

 

『もし、もし私に何かあったら……シンシアの事、頼んだわよ!』

 

『不吉な事を言わないで。……ならもし私に何かあったら、娘達をお願いね』

 

『任せなさい! 1人でも4人でも、ジルとなら幸せにしてやるわ!』

 

 

「彼女との約束を果たせる希望。シンシアを。真白を改めて義娘に迎えられる希望よ」

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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